STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~ 作:明治アル蜜柑
夕方 ラボ
「かがり、どうかしたのか?」
鈴羽との話も一段落し、日も傾いてきた頃になってまゆりたちが帰ってきた。ソファに座って楽しそうに今日の出来事を話していたかがりが、俺の顔をじっと見つめてきたのだ。
「えっとね、オカリンおじさんってママとかおねーちゃんのお話で聞いてただけだから、不思議だなぁって」
そう言えば、俺は未来でかがりと会ったことはないんだったな。俺が死ぬのが2025年で、かがりが養子として迎え入れられるのが2032年。
「おじさんが鳳凰院凶真なんだよね?」
「む?そ、それはそうだが……」
面と向かってそんなことを聞かれると恥ずかしさがこみ上げてくる。鳳凰院モードはノリとテンションだけで一方的に話すから成立するのであって、真顔で話されると困ってしまうのだ。
「えへへ~。かがりちゃん。オカリンはまっどさいえんてぃすとさんなんだよ~」
すっかり打ち解けた様子のまゆりがかがりにそう言う。
「そっか~。でも、おじさんっていうほどおじさんじゃないよね。お兄さんって感じ。それにママもダルおじさんも若いし」
俺とまゆりとダルを見比べて、しみじみと感想を漏らす。
「そもそも、俺はどうしておじさんなんだ?ダルは鈴羽の父親だからともかく、俺がおじさんというのは……」
「え?鈴羽おねーちゃんがそう呼んでたからかがりもそう呼んでるんだよ?」
鈴羽はフェイリスのことはルミねえさん、ルカ子のことはルカにいさん。まゆりのこともまゆねえさん。姉か兄と呼んでいると言うのに。
「……だっておじさんはおじさんじゃないか」
「まゆしぃは?」
「え?まゆねえさんはまゆねえさんだよ」
「えへへ~。スズさんの方がお姉さんなのに、まゆしぃがお姉さんって変な感じだね」
そう言えばまゆりの方が今は年下なのだったな。鈴羽は俺やダルと同い年。ダルからすれば、突然自分の娘と名乗る同い年の女の子が現れたというわけだ。
「オカリン。話はまとまったん?す、鈴羽……と話してたんっしょ?」
まだ鈴羽と気安く呼ぶことに抵抗があるようだ。
「父さん。別に無理に呼ばなくてもいいよ。そんなすぐに受け入れてもらえるとは思ってないし」
「そ、そそそ、そういうわけではござらんでござる!」
これはダメだ。
鈴羽はかなり美形だし、キモオタのダルにはハードルが高いだろう。
「大方の話はまとまった。お前たちにもいくつか話しておきたいことがある」
俺が寝ていた間に、鈴羽からある程度は説明されているようだ。アトラクタフィールド理論やα世界線、そしてβ世界線のこと。……まゆりはこれっぽっちも理解していないだろうが。
これから話すのは、具体的にどうしていくかについてだ。
「ダルには電話レンジ(仮)の製作を頼みたい。Dメール……というよりもタイムリープマシンの方だが」
「はい?つい昨日オカリンがぶっ壊したばっかじゃん!壊してまたすぐに作れとか戦時中の拷問かよ!鬼畜過ぎるお!」
ダルが憤慨するのも無理はない。8月17日にβ世界線に戻って来て4日。まゆりの安全を確かめた後に俺は電話レンジ(仮)とIBN5100を破棄した。世界線に干渉しないために。それをまた作れと言うのだから、こうなるのも当然だ。
「それにタイムリープマシンってなんぞ?そんなもん作った覚えはないっつーの」
「落ち着けダル。お前が怒るのも当然だが、お前にはやってもらはなければならない。お前は将来、タイムマシンを開発しなければならんからな」
鈴羽の話では、タイムマシンは電話レンジやタイムリープマシンの延長線上にあるのだという。ダルがタイムマシンを階へつする上で、避けては通れないのだ。
「タイムリープマシンについては、紅莉栖がα世界線で作り上げたものだ。仕組みは俺が把握している」
基本的にはDメールと同じ原理だが、過去に送るのはメールではなくデータ化した記憶そのもの。
「はぁ……。牧瀬氏がラボにいたってほんとなん?ネイチャーに論文が掲載されるほどの天才っしょ?オカリンごときが仲良くなれるはずないと思われ……」
改めて考えると、α世界線での2週間はあり得ない光景だった。天才、牧瀬紅莉栖をラボメンとし、俺の助手としてこき使っていたのだから。
「紅莉栖さんかぁ。まゆしぃも会ってみたかったなぁ。女の子のラボメンなんて、まゆしぃ以外にはいないのです」
α世界線では萌郁やフェイリス、ルカ子……は男だが。ちゃんとラボメンに任命していたが……。萌郁はともかくとして、フェイリスやルカ子に関しては改めて任命する必要があるな。
「ママ!かがりと鈴羽おねーちゃんがいるよ!かがりたちもらぼめん!だよ!」
「え?あ、あたしも……?」
「そうだよ。ね?オカリンおじさん」
「ん?あ、ああ。そうだな。お前たちも立派なラボメンだ。今後は俺の手足となって努めるがいい」
「さらっとそんなセリフが出てくるオカリンはんぱねっす」
β世界線に来たばかりの時は、紅莉栖を失った絶望でいっぱいだったが、こうしてシュタインズゲートを目指す基盤が整ってくると、希望が見えるような気がする。精神的な安定がいかに大事かを実感させられる。無邪気なかがりの存在には随分救われているように思う。
それから、鈴羽はまゆりとかがりにこれからの心構えについて説明していた。基本的に鈴羽とかがりはラボで暮らすことになる。かがりはまゆりと共に暮らすことを希望していたが、さすがにまゆりの家に住むわけにもいかない。両親に、未来の孫ですとは説明できないからな。かといって、まゆりがラボで四六時中寝泊まりするというのも難しい。門限には厳しい家だ。そのあたりを鈴羽はかがりに厳しく言いつけていた。
「一気にラボが華やかになったお。やっぱ研究所なんてのは男臭いとダメだお」
俺とダルは開発室で話すことになった。
「お前がその臭さの一番の原因だろうが」
「あ、それ言う?それ言っちゃう?これからボクに頼みごとをする立場のくせに?」
「うっ……」
それを言われると弱い。
「ま、別にいいお。オカリンがやる気になったのなら構わんのだぜ。それよりも、詳しい話を教えてクレメンス。できればα世界線のことからヨロ」
「鈴羽から聞いたんじゃないのか?」
「うーん。ある程度は聞いたけど、あの子、α世界線のことはあんまり知らないみたいなんだよね」
それもそうか。鈴羽のミッションにおいて、α世界線のことはさほど重要ではない。SERNのことも知らないようだったし、未来ではあまり説明されていないらしい。
「ことの発端は、俺たちが偶然開発した電話レンジ(仮)だ」
7月28日。ドクター中鉢のタイムマシン記者会見を見に行った俺は、紅莉栖が倒れているのを見てダルにメールを送った。その際、ダルが偶然ケータイを電話レンジ(仮)に接続しており、そのメールはDメールとなった。それがSERNのエシュロンに捕捉されたことで全てが始まった。
SERNは俺たちの存在に気付いてラボを襲撃。それはおそらく8月17日以降のことだが、SERNは晴れて人類史上初のタイムマシン……電話レンジ(仮)を手に入れる。それを研究し、タイムマシン開発の足かけとし、過去に干渉する術を確立。小さな過去改変を繰り返す中で、2034年にタイムマシンを完成させ、ディストピアの形成に至る。
「電話レンジ(仮)がタイムマシンの完成に関係あるん?そりゃあ確かにDメールは過去にメールを送れるタイムマシンなわけだけど……」
もちろん関係する。
そもそも、電話レンジ(仮)は、レンジ内でミニ・ブラックホールを生成するガジェットだ。そこに適切な量の電子を注入することで、ミニ・ブラックホールは回転し、カー・ブラックホールとなる。
そもそも、時空を過去へと繋げるためには、ブラックホール内にある特異点を通過する必要がある。だが、普通のブラックホールではそこを通過できる余裕がない。まず、超重力によって素粒子レベルまで分解されてしまうからな。
だが、カー・ブラックホールが回転することで、点であった特異点がリング状に変化する。そしてそのリング状の特異点を裸にすることで、超重力の網をすり抜けて特異点を通過し、過去へと情報を送る事が出来る。電話レンジ(仮)はそんな夢のような状況を作り上げる装置であるのだ。
「偶然出来たのがそんなすごいことに……。でも、どうやって注入する電子量を調節してるん?」
「階下のブラウン管工房にある42型ブラウン管がリフターの役割を果たしているんだ。あれはSERNの指示で適切な位置に設置されてある。俺たちが電話レンジ(仮)で過去に干渉出来るようにするためにな」
「……?それだとSERNがボクらに協力してるみたいじゃん。SERNにはブラウン管を設置する理由がないんじゃね?」
「いや、理由はある。SERNは電話レンジ(仮)を調べ尽くして、カー・ブラックホールの生成が不安定なことに気付いたはずだ。SERNにとって、電話レンジ(仮)はタイムマシン開発の生命線だ。SERNが完成させるためには、俺たちが電話レンジ(仮)を完成させていなければならない。だから動作が安定するように42型を設置したんだ」
SERNが支配する未来を形成するために必要な因果として、ブラウン管テレビの設置が残った。だが、それはSERNの弱みでもあった。
「SERNよりも先に俺たちが過去に干渉する術を確立出来てしまうからな。俺たちはその隙を突いてβ世界線へと戻って来た、というわけだ」
α世界線の形成と共に、紅莉栖が死ななかったのは、鈴羽がタイムマシンでラジ館に突っ込んだからだ。その結果、中鉢の記者会見は中止となり、紅莉栖が死ぬ因果が崩れた。だから紅莉栖は生存が確保され、ラボメンとなった。
だが、逆にSERNが紅莉栖の頭脳を手に入れるチャンスを手に入れたということでもある。α世界線では紅莉栖はタイムマシンの母だ。どちらをとっても上手くいかないのは、この世界の運命を呪うしかないがな。
「うーん。何とも言えんけど、そういう因果が残ってるってのは良かったんかな……?」
「そうだな」
ここまで話していて、ダルの理解力の高さには驚かされる。俺は理解するまでに随分と時間を要したからな。α世界線で鈴羽から説明を受けてようやくといったところだ。紅莉栖の解説もあったのが大きかった。
「それじゃ、これからはタイムリープマシンを作っていくってことでいいんかな?」
「ああ。2025年ではエシュロンに捕捉されずにDメールを送信する方法が確立されているようだが、今の俺たちではまだ無理だからな。まずはタイムリープマシンを完成させることが優先される」
「じゃあタイムリープマシンの詳細ヨロ」
「うむ」
どこから話したものか。
「そもそも、タイムリープとは言っても、時間を巻き戻すというようなものではない。正確にはデータ化した記憶を過去に送る、というものだ」
「データ化した記憶?」
「紅莉栖が所属するヴィクトルコンドリア大学ではアナログな人の記憶をデータに変換するVR(ヴィジュアル・リヴィルディング)技術が確立されている。それを使って記憶をデータ化するんだ」
紅莉栖の研究である、脳波マッピングも使うことになるが。
「これについては俺がなんとかするつもりだ」
「なんとかって、オカリン。なんかツテとかあるん?」
「まだ何もない……」
ダルがヴィクトルコンドリア大学をハッキングすれば問題なくその技術を使えるようになるだろう。だが、まだリスクを犯すべきではない。
「おk。そっちについてはオカリンに任せるお。ボクはそっちよりレンジの方か」
「ああ。さっきも言った通り、電子レンジ内でブラックホールを生成することが必須だ。42型を点灯させることで電子注入をし、カー・ブラックホールを生み出すことで過去へと時空を繋げることが可能になる。解体させておいて悪いが、お前にはあの状況を再現してもらわなければならない」
「ある程度は図面に残してるから、なんとかやってみるわ」
「頼む。問題はそれよりも……」
記憶の超圧縮、だ。
「無事に記憶のデータが出来たとして、そのままでは過去に送れない」
人の記憶は3.24TBとも言われている。電話レンジ(仮)で過去に送れるデータ量は36バイト程度。とてもじゃないがそのままでは不可能だ。
「どうやって圧縮するん?」
「SERNのLHCを利用する」
「はい?」
「ラージ・ハドロン・コライダー。あれは粒子加速装置だが、SERNはあれを使ってブラックホールの生成に成功している」
「それは知ってるけど……」
そう言えば、β世界線でもダルにはSERNをハッキングしてもらっていたんだったな。Zプログラムなども見ているというわけだ。
「お前にはLHCを遠隔操作出来るようにしてもらいたい。自由にブラックホールを生成することが出来るようになれば、それを使って記憶データを36バイトまで超圧縮することが出来る」
「お、おう……。で、でもさ、記憶データって3.24TBもあるんだよね?SERNってフランスっしょ?そんなとこまでデータを送るとなると、膨大な時間がかかるわけだが……」
「それについては問題ない。ここ、ラボからSERNまでは直通の光ケーブルが通っている」
「……はい?」
ダルが驚くのも無理はない。
「これもまた、α世界線からの因果だが、先ほどと同じ理由でSERNは直通回線を引かざるを得ないんだ」
俺たちがタイムリープマシンを開発するためには直通回線が必須。それがなければSERNはタイムマシンを完成させられないからだ。まだ確かめたわけではないが、β世界線においても直通回線は引かれているはず。
今俺たちがいるこの世界線は、直通回線が引かれているα世界線から分岐したものだ。歴史のつじつま合わせとして、なければおかしい。
「α世界線では1分未満でデータのやり取りは出来ていた。圧縮できれば帰りの時間はさらに短くなるからな」
「信じられないことばっかだお……」