STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~ 作:明治アル蜜柑
2011年1月26日(水)
「マホ!リンターロ!」
久々に顔を合わせたレスキネン教授は、少しやつれたように見えた。
「教授。よかった、無事で…」
襲撃以来、俺たちは身を潜めていた。真帆、ダル、鈴羽、かがりの4人はそのままフェイリス邸に。俺はまゆりを迎えに行ってからは自宅にいた。
街は静かだった。もちろん、警戒を怠る事はしなかったが。
「マホも大変だったね」
教授はその大きな体で、小さな真帆を抱きしめた。あまりにサイズが違いすぎて、真帆がぬいぐるみかなにかにしか見えない。
「教授、キツい……キツいですっ!」
2人の帰国は、平日の昼間ということもあり、空港まで見送りに来られたのは俺だけだった。
もともと送っていくつもりではあったのだが、真帆は1人だと空港へ行くことも満足に出来ない人間だったのだ。研究以外のことはからっきし。根っからの研究者気質だ。
ちなみに、真帆の送別会は、昨日の夜にフェイリス邸で済ませていた。クリスマスパーティに参加していた連中はだいたい参加して、別れを惜しんだ。
「リンターロ。マホを守ってくれてありがとう。本当に世話になったね」
「あ、いえ!」
鈴羽は教授の動向を探ろうとあれこれ動いていたが、結局何も分からずじまいだった。
「それで、うちの研究室にはいつ頃来られるのかな?」
「へっ?」
その話、冗談じゃなかったんだな……。
「勉強して、少しでも早く行けるように頑張ります。そのときは、俺から連絡しても?」
「もちろん!第3のアインシュタインならいつでも歓迎さ!ハーハーハハハ!」
もちろん、そんなつもりはない。だが、こんな状況でなければそれもいいのかもしれない。俺はα世界線で、紅莉栖の語る理論に痺れたのだ。
「岡部さん。お礼を言わせて。あなたがいなかったら、私は今ごろ、命はなかったかもしれないわ」
「大げさだな」
「いいえ。本心よ。本当に感謝してる。私も、あなたのことを待っているから。頑張りなさい!」
真帆は教授に見えないようにニヤリと笑った。これから大変だろうに、随分と余裕だな真帆は。
「ありがとう。君も研究を頑張ってくれ」
俺は教授の方に向き直った。
「それでリンターロ。事前に連絡しておいた通り、『Amadeus』のアクセス権は今日ここで解除させてもらうことなるんだ。いいね?」
「はい」
2人の帰国にあたり、俺に許されていた『Amadeus』へのアクセス権をそのまま残すことはさすがにできなかった。もともと、2人が日本に滞在している間だけのテスターだったわけだし。逆に、テスターを辞退したのに、今日まで権限が残されていたことの方がおかしかったのだ。
教授はやはり、俺に価値を見いだせなかったのだろうか。
「“クリス”に、最後に挨拶するかい?」
“紅莉栖”……。
「そう、ですね。じゃあ、一言だけいいですか?」
「もちろん」
『なに?私にもお別れの挨拶してくれるの?』
“紅莉栖”はなぜか仏頂面だった。
「まぁな。必要なかったか?」
『私なんかよりも先に、真帆先輩には挨拶したんでしょうね?』
「ちゃんとしたわよ」
俺が答えるより先に、真帆が横からフォローしてくれた。
『それならいいけど』
「…………」
画面の中に紅莉栖がいる。
さまざまなことがあった。だが、こうして“紅莉栖”と話すことが出来てよかった。今ならそう思える。
俺の気持ちの問題として、だ。
紅莉栖を助ける。でも、俺の犯した罪も忘れない。逃げずに向き合う。
そんな気持ちを再確認することが出来た。
「アクセス権がなくなったら、もう、会えなくなるな」
『まぁ、私の話し相手になってくれたことには、多少は感謝してる。レスキネン教授の研究室に来る可能性はあるんでしょう?。一応、再会するときまであんたのことは覚えておいてあげる』
「はは……。ツンデレだな」
『ツンデレ?なにそれ?知らない言葉を使わないで』
「顔が赤いぞ…」
「この子、照れてるわね」
「Oh!これまで見たことのない反応だね。あの“クリス”が照れるなんて!」
『っ………教授まで!』
「元気で…というのは、ちょっと違うな。君は別に病気にはならないわけだし。あまり、比屋定さんのことをからかうなよ」
『はいはい。言われなくても分かってるわよ』
「それならいいんだ」
『あんたがそんなふうに屈託なく笑うとは思わなかったわ』
「うん?」
『初めて話した頃は、あんた……なんだか寂しそうな顔をしていたから』
「……っ!」
AIにも、見抜かれてるなんてな。
やっぱり牧瀬紅莉栖は大した女だ。
『それじゃ』
「ああ」
紅莉栖が画面から消える。教授に向けてうなずくと、俺はスマホの端末から『Amadeus』のアプリアイコンを消去した。
「アクセス権の解除は、後でこちらで手続しておくよ。テスターとして協力してくれて、ありがとう。貴重なデータが取れた」
「こちらこそ、ありがとうございました」
俺は2人に深く頭を下げた。
2人が乗った飛行機を見送りながら、俺は決意を新たにする。
待っていろ、紅莉栖。俺が必ず……。