STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~   作:明治アル蜜柑

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第5章 弾性限界のイグノア
(1)


2011年6月 

 

 

 

真帆がアメリカに帰って5か月。ダルは真帆とビデオチャットで何度もやりとりしていた。俺や鈴羽も同席する事もあるが、話の中心はタイムリープマシンだ。専門家の話にはついていけない。

 

鈴羽はタイムトラベラーだし、タイムマシンの扱いにもたけているため、技術的な話も出来るのかと思っていたが、タイムマシンの操作と簡単な整備以外はからっきしだったようだ。まぁ、フィジカル最強だからな。全てをフィジカルで解決出来ると考えている節があるし、これまでの問題は全て筋肉で解決してきたんだろう。

 

軽くからかってみると、笑いながら絞め技で落とされかけた。俺はフィジカル最弱だからな。これからはからかわないよう肝に銘じた。

 

 

俺と鈴羽はもっぱら、『オペレーション・アークライト』について話していた。

 

いつかやってくるその日。俺、鳳凰院凶真を立ち上がらせるために、鈴羽とまゆりがタイムトラベルする日。

タイムマシンの燃料の問題から考えて、7月くらいまでのことだとは分かっている。

 

確証はないが、レスキネン教授が『Amadeus』の秘密の日記をこじ開けるタイミングで、未来からDメールが届くはずだ。

 

「おじさん」

 

今日も今日とて俺と鈴羽は円卓会議だ。

 

「あたしとまゆねえさんがタイムトラベルするのはいいとして、『Amadeus』の問題は解決出来るわけ?おじさんの予想だと、Dメールを受け取るのはあたしなんでしょ?」

 

Dメールだが、それは俺ではなく鈴羽に向けて送られるはずだ。アークライトに関して俺と鈴羽は世界線をABCと分けたが、まず、Dメールを受信するのはBとなる。その世界線の俺は紅莉栖を救うことを諦めてい仕舞っているわけで、俺にDメールを送ったところでそれを実行する可能性は低い。だから鈴羽に送る、というわけだ。

 

それはこの世界線Cでも同じだ。

 

「Dメールを受け取ったら、あたしはすぐにでもまゆねえさんとタイムトラベルする。おじさんにそのタイミングを伝えられないんじゃない?」

 

「そうだな。だが、それもおそらく問題ない」

 

「具体的な解決策があるってこと?」

 

「ああ……間違いなく、タイムリープマシンを利用することになるだろう」

 

「タイムリープマシンを?」

 

「鈴羽の予想の通り、レスキネン教授が『Amadeus』をこじ開ける。そのタイミングを読めないが、教授は中鉢論文を手に入れる、というわけだ」

 

「それってマズいんじゃない?」

 

「いや、おそらく重要なのは中鉢論文じゃないはずだ」

 

「どういうこと?」

 

「中鉢論文は手に入れてもすぐにタイムマシンを完成させられるわけじゃない。それよりも、タイムマシンそのものを狙った方がいい」

 

「え?でもこの世界線だとあたしたちのことって知られてないんでしょ?レスキネン……というか、他のどの勢力もタイムマシンがある事自体知らないんじゃない?」

 

それは確かにそうだ。俺たちの存在は誰にもバレていない……はずだ。だが。

 

「俺はアークライトのためにお前たちが跳び立つ瞬間、タイムマシンが狙われると考えている」

 

「それはどういう……?」

 

「世界線Bの話だ。腰の重たい俺が、何も起こらない状況で、2人のタイムトラベルを許すと思うか?非常事態にでもならない限り、諦めてしまっている俺がそれを許すとは思えない」

 

「それが……タイムマシンが狙われるってこと?」

 

「もちろん、教授が秘密の日記をこじ開けることも十分に非常事態だが、もっと差し迫った危機に直面しない限り、俺は静観すると思うんだ」

 

「でも、どうやってタイムマシンの場所を……?」

 

「おそらく、世界線Bでも今と同じように、1月23日に襲撃され、真帆に全てを打ち明けたはずだ。そして、その時にタイムマシンの場所もな。だが、Bの俺は教授のことを疑っていなかったんだと思う。俺があの人を疑うようになったのは、紅莉栖を救うために能動的に動いたからこそだ」

 

「それは……そうだね」

 

「真帆にタイムマシンの場所を教えたことで、それが『Amadeus』に記録される。真帆は研究のために記憶を更新するだろうからな。教授が秘密の日記をこじ開けた場合、タイムマシンの場所がバレることになる」

 

「それによってあたしとまゆねえさんが乗るタイムマシンが狙われる……と」

 

「そんな事態になれば、さすがの俺でも腰を上げるはずだ。やり直すためにタイムリープマシンを完成させる。時間を遡った俺は、おそらく、『Amadeus』の消去をダルに頼むはずだ」

 

それでタイムマシンの場所がバレるのを防げる。ついでに教授が中鉢論文を手に入れる事も。

 

「そうやって時間を稼いで、2人を過去に送り出す。そうして俺たちのいる世界線Cに、鈴羽とまゆりがやって来た……という流れだ」

 

『オペレーション・アークライト』が成功するという結果が先にある以上、世界線Bの俺も最終的には立ち上がることになる。

 

「そんな流れだった場合、世界線Cにおいても、タイムマシンの存在と場所はバレることになるはずだ」

 

それがβ世界線の因果なのかは分からないが。真帆にタイムマシンの場所を教えたかどうかはこの際関係ないだろう。最終的にはバレる。そう考えるべきだ。

 

「俺たちは確実に後手に回ることになる」

 

向こうの出方を見てからでなければ、こちらから行動を起こすことは出来ないだろう。

 

「先回りして父さんに『Amadeus』を消去させればいいんじゃない?そうしたらレスキネンが情報を手に入れる可能性は潰せる」

 

「……それはおそらく無理なはずだ」

 

世界線Bでは、レスキネン教授が秘密の日記をこじ開けた事を原因として、俺がタイムリープをし、2人を過去に送り出すという結果が生じている。アークライトが成功するためには、一度『Amadeus』がこじ開けられることが必要となるはずだ。

 

そしてそれは世界線Cでも同じ。世界線Cはアークライトの成功によって形作られた世界線だ。教授が秘密の日記をこじ開けるその瞬間まで、『Amadeus』を消し去る事は出来ないだろう。

 

「だからこそ、俺たちは後手に回るしかないんだ。……もどかしいがな」

 

最も歯がゆいのは鈴羽だろう。『オペレーション・アークライト』こそ、鈴羽の任務の集大成なのだ。

 

 

「世界線Aからリーディングシュタイナーで移動してきたおじさんが、今のおじさんに上書きされるんだよね……」

 

これについても何度も話した。何度も気にするなと言ってきたが、鈴羽は納得いかないようだ。俺としては、その覚悟は出来ている。問題なのは、この世界線の俺の記憶を引き継ぐことが出来ないという事だ。

 

リーディングシュタイナーは便利な能力だが、欠点もある。変動前の世界線の記憶を引き継ぐ代わりに、変動後の世界線の本来の記憶は全て消えることになる。

 

世界線を移動した瞬間こそが一番のピンチになるわけだ。周囲との記憶の齟齬が発生してしまうのだから。

 

そして、そのタイミングで鈴羽とまゆりはいなくなる。移動して来る俺にこの世界線の記憶を引き継ぐためには、俺の知り得る全てをダルか他の誰かに話しておかなければならない。

 

「まゆねえさんはそのことを……?」

 

「いや、まゆりには言ってない」

 

そしてこれから言うつもりもない。

 

2025年以降、『オペレーション・アークライト』に旅立った鈴羽とまゆりを俺たちは迎えに行くことになる。未来の鈴羽とかがりがまゆりのことを知っている以上、まゆりがアークライトから帰還するのは確定している。……もちろん、予想外の状況になる可能性は十分あるが。

 

その時点で俺はもうこの世界にはいない。俺は2025年に死ぬ事が確定している。

 

消え行く俺が別世界線の俺によって上書きされるなどという情報は、まゆりには不要だ。あいつの不安を増大させるだけで、何のメリットもない。

 

この5か月の間に、まゆりにはすでに『オペレーション・アークライト』のことは説明してある。

 

あいつは迷うことなく行くと言った。かがりはそれに納得していないようだったが、それもまゆりが言い聞かせると言ってくれた。

 

もう、この流れを止めることは出来ないのだ。

 

「鈴羽。お前はアークライトを成功させることだけを考えていればいい。余計な心配は不要だ」

 

鈴羽が迷うことは絶対に許されない。まゆりをあの日に導けるのは鈴羽だけなのだ。

 

「でも……」

 

「今お前がするべきは、シュタインズゲートに到達後のことを考えることだけだ。タイムトラベラーとしての使命など背負わず、幸せに暮らす自分を想像しろ。お前はそれを手に入れるためにこの時代にやって来たんだからな」

 

「……卑怯だよ」

 

何とでも言うがいいさ。

 

シュタインズゲートを目指すということは、紅莉栖を救うことだけではない。誰もが幸せな未来を生きること。それが目的なのだから。

 

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