STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~   作:明治アル蜜柑

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2011年6月25日(土)

 

 

季節はもうすぐ7月を迎えようとしている。

 

「夏、か……」

 

つまり、あの出来事があってから、もう1年になろうとしている。

 

 

家にいると親父が手伝えとうるさいので、俺は近くのカフェで数時間居座り、勉強をするのが日課になっている。勉強とは言っても大学の勉強というわけではない。俺が学んでいるのは脳科学だ。

 

タイムリープマシンは完成間近となっている。専門家2人による開発ペースはすさまじくダルが1人でやっていた頃と比べて飛躍的にペースが上がった。VR技術や脳波マッピングについても、真帆からプログラムをもらい着々と形になってきている。後は真帆にしか分からない部分の調整をすれば完成するのだが……。

 

 

なかなか真帆の来日許可が下りないのだ。だからまだ完成には至っていない。俺からすれば、ダルにもさっぱり理解出来ない部分があると言うのは信じ難い話なのだが。

 

そして、まだ未完成ながらも既に改善の余地がある。問題は時を遡れるのが48時間までであるということだ。

 

かつてα世界線で、タイムリープ前後の記憶のギャップが脳にダメージを与えると紅莉栖は言った。タイムリープをしたときに感じる脳の痛み。リーディングシュタイナーに似たそれは、筆舌に尽くしがたい苦痛だ。

 

俺が研究しているのはそれを軽減し、遡行時間を伸ばす方法だ。真帆とのビデオチャットの中で、脳波マッピングのサンプリング数の問題であると分かったのだ。紅莉栖の研究のおかげで、脳波のシミュレートは出来ているが、やはりデータ化する段階でどうしてもロスが出てしまう。100パーセントの効率で神経パルスをデータに変換することは出来ていないのだ。

 

開発において全く役に立っていない俺としては、ここが頑張りどころだと思い、脳科学について勉強をしているといったところだ。付け焼刃で何ができるとも思えないが、今後の事を考えれば学んでおいて損はない。

 

 

 

あれからレスキネン教授に動きはない。ロシアやSERNも静観している。俺たちは常に備えているが、待つばかりというのはじれったい。もちろん、このまま何も起きないでくれるのが一番いいのだが。

 

 

『トゥットゥルー♪今どこ~?』

 

まゆりからのラインにカフェのスタンプを返す。

 

『ああ、いつものカフェだね。今オカリンの家に行ったらいなかったから』

 

『行ったのか?親父がまた迷惑かけてないか?』

 

『大丈夫だよ。麦茶ご馳走になったし。ちょっと買い物しなくちゃいけなくなったんだけど、つきあってくれる?』

 

これまたOKのスタンプを返す。

 

『じゃ、これから行くからそこで待っててね』

 

 

 

あいつ。俺の家に行ったのか。俺の実家である『岡部青果店』は古い商店街の中にあるボロい店だ。そろそろ築40年になる。本当にボロい。いい加減、建て替えてほしいところだ。

 

そこで俺は勉強の手を止めた。最近の自分の真面目さには、我ながら少し驚く。目標があることで、やる気が湧いてきているのを実感する。

 

(ヴィクトルコンドリア大学、か……)

 

こんなことなら電機大学ではなく、脳科学を専攻していればよかった。俺にもっと時間があれば、ヴィクトルコンドリア大学への留学も考えたところではあるのだが。

 

真帆の後輩になるのは癪だが、それはそれで楽しいのだろうな。

 

 

 

メールでも確認しようとスマホの画面を見る。

 

俺はいつものくせで、ついついとあるアイコンを探してしまう。

 

『Amadeus』。

 

半年前に自分で消去したアプリ。“紅莉栖”は元気でやっているんだろうか。…あいつの事だから、どうせ小難しい理論を振りかざしたり、真帆をからかったりしているのだろう。真帆に隠れてこっそり@ちゃんねるを見ているのかもしれない。

 

(@ちゃん…か)

 

“紅莉栖”はネットの情報を見ることも出来る。だから見ていてもおかしくはない。

 

(『Amadeus』って、ネット掲示板に書き込んだりすることもできるんだろうか?)

 

紅莉栖も、去年の夏にジョン・タイターを論破しようと、@ちゃんねるに必死な様子で書き込んでいた。あれはα世界線の話ではあるが……。

 

“紅莉栖”はその分身。同じように書き込んでいる可能性……というか絶対に書き込んでる。システム上可能なら絶対に……。

 

俺はウェブブラウザを開くと、あまり期待はせずに、忘れることのできないハンドルネーム名で検索してみた。

 

『栗悟飯とカメハメ波』。

 

そのコテハンを。

 

 

 

「うぉっ!」

 

思わず声が出てしまった。冷たい視線を向けてくる他の客に軽く頭を下げ、すぐにスマホ画面に目を戻す。

 

驚いたことに、検索してみたら何百件も引っかかったのだ。どれも@ちゃんねるの書き込みのようだ。日付を確認すると、古いものでは2008年のものもあった。

 

これは生前の紅莉栖の遺したものだ。こんなところでも紅莉栖の足跡を見つけるなんてな。

 

(それにしても、投稿しすぎだろ…)

 

ここまでヘビーな@ちゃんねらーだとは思わなかった。改めてだが、このクソコテハン…気持ち悪いな……。

 

紅莉栖が主に投稿していたのは、物理学と数学、サイエンスフィクション。そしてもちろんオカルト板だ。

 

SF関連のスレッドでは、タイムマシンについてかなり熱い議論をしていた。『タイムマシンは実現可能か?』なんて紅莉栖が開いたスレッドもある。よっぽどジョン・タイターに対抗意識を燃やしていたらしい。

 

β世界線の紅莉栖はタイムマシンに肯定的だ。2010年にジョン・タイターが現れたα世界線と違い、β世界線では2000年に現れている。その10年の差がタイムマシンへの想いを変えたのだ。

 

(いくらなんでも大人気なさすぎだろ……)

 

目にする投稿のどれもが、他の人を完全に論破し、追い詰めるような内容ばかり。少しでも理屈が通っていないものは完膚なきまでに叩き潰していた。@ちゃんねるでマジレスするなよ…。

 

 

 

そうした『栗悟飯とカメハメ波』の書き込みも、ある時期を境にして途切れてしまっていた。

 

2010年7月27日。

 

紅莉栖が亡くなる前日だ。

 

それは翌日に控えた中鉢博士のタイムマシン発表会を嘲笑するような書き込みに対して、少しムキになって反論している内容だった。

 

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