STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~ 作:明治アル蜜柑
「…………」
懐かしさと寂寥感で胸が詰まる。ブラウザを閉じようかと思った。だが、次に目についた書き込みにハッとさせられた。その投稿日時を何度も確認する。
(2010年12月1日…だって?)
これが紅莉栖本人による書き込みということはあり得ない。“紅莉栖”か、それとも他の誰かのなりすましか。
トリップがついていないから判断は難しいところだ。この日付は俺が“紅莉栖”と対面した頃でもある。
それ以降も『栗悟飯とカメハメ波』は週に一度くらいの割合で書き込みをしている。一番最後の書き込みは……。
(って、昨日の夜じゃないかっ!)
内容は相対性理論に関することだった。
409:栗悟飯とカメハメ波
2011/6/24(金) 21:45
〉〉401
あなたはマイケルソン&モーリーの実験をベースに相対性理論が導かれたとか言っちゃう一派でしたか
どうにも話が合わないと思いました
初歩から出直せwww
話にならんわwww
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相変わらず口が悪い…。
これがなりすましではなく“紅莉栖”だとしたら。なんてバカバカしくて奇跡的な話だろう。
真帆や教授はこの事を知っているのだろうか。
…知らないだろうな。あいつは絶対に言わないから。
…確かめてみたい。
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名前 サリエリの隣人
ほほう、香ばしいのがまぎれこんでいるな
確かにあの実験はエーテルの存在を
確かめるためのものでしかなかったが
アインシュタインの一助となったのは否定できまい
結果的に見れば同理論の元と解釈してもいいのだ
そっちこそ出直すがいい
書き込みをする
このハンドルネームは真帆のIDにかけたものだ。
もし『栗悟飯とカメハメ波』の中の人があの“紅莉栖”なら、これを見てそれなりに反応するんじゃないだろうか。
「フフフ……あっさり釣られるはずだ、紅莉栖ならな……」
書き込みに夢中になっているとまゆりが来た。
移動した先は東京ハンズだった。
「それで、いったい何を買うつもりなんだ?」
「えっとねえ、商品宣伝用のPOPを作るんだ~。だから、それ用のカードとか蛍光ペンとか」
「同人誌でも出す気か?」
「違うよ~。岡部青果店で使うんだよ~」
「は?なんだって……?」
俺の実家で?
「さっきオカリンの家に行ったときに、おじさんとそんな話になって。じゃあまゆしぃが作ります、って立候補したの」
「おいおい…」
親父のやつ、なんて図々しいんだ。
「お前がそんなこと、する必要ないんだぞ?」
「でもでも、まゆしぃがやりたいからやっているのです」
「……本当にいいのか?」
「オカリンやおじさんおばさんには、いつもお世話になってるから」
お世話になるというには、もう今さらな間柄だ。
お互いの家に行けば、晩御飯を食べていけ、と必ず言われる。
家族のような付き合いだ。とはいえ、まゆりにそんなことをさせる親父はいただけない。
あとで文句の一つでも言ってやろう。
「だったら、今度何かプレゼントするよ」
「ホントー?嬉しいな~」
それからまゆりは結構時間をかけてPOP用の材料を吟味していた。俺はまゆりのセンスに任せている。俺にはこういうのは無理だからな。
それからしばらくして、戻ってきたまゆりの持つカゴにはかなりの量の商品が入れられていた。
「これだけあればかなり持つだろうな」
まゆりも満足、という表情だ。
「じゃあ俺が買ってくるから、まゆりは適当に見てていいぞ?」
俺1人に会計を任せるのを気遣っていたが、雷ネット関連のグッズのコーナーを見つけると、嬉しそうに走って行った。
帰り道。
まゆりは嬉しそうに顔をとろけさせ、手に持っているキーホルダーを眺めている。
『雷ネット翔』に登場するマスコットキャラの“うーぱ”だ。
POP作りのお礼に、と言うと、これを持ってきたのだ。
……何がいいのか分からん。ただ、普通のうーぱと違うということは何となく分かる。何やら冠を被っていて、羽も生えている。
とはいえ、レアものではなさそうだ。レアなのは確か、メタルうーぱだったはずだ。
「メタルのやつじゃないけど、それでよかったのか?」
「ちっちっち!違うんだな~」
なぜか得意げな顔をするまゆり。
「これも緑のうーぱさんなんだけど、普通のとは違うのです。この前やってた映画に登場した、“緑の妖精さんうーぱ”なんだよ」
そういえば春ごろに映画が公開されていたな。子供たちに紛れてまゆりも見に行ったのだろうか。対象年齢はかなり低いはず。ずいぶん大きなお友達だ。
「緑の妖精さん?」
「映画のネタバレ、してもいいかな?」
「ああ。いいぞ。どうせ見ないし」
曰く、ばーちゃる世界で悪のスーパーハッカ―さんたちとバトルをするらしい。バーチャルではなくばーちゃる。ここはこだわりのようだ。
そしてそのばーちゃる世界こそが妖精たちの住む森なのだそうだ。スーパーハッカーがあまりにも強く、主人公である翔もうーぱもピンチに追い込まれるが、そのタイミングで妖精たちが助けに来てくれるらしい。
実はその妖精たちは、翔が普段お世話していた、学校の花壇のお花だったのだ。そして妖精たちはばーちゃる世界でうーぱと合体するらしい。
………こいつ、高校生だよな?
女児向けアニメでヒロインに萌える大きなお友達とも違って、純粋にストーリーを楽しんでいる。
本当に大丈夫だろうか?
「このキーホルダーね、けっこうあちこち探してたんだ♪すっごく人気があってね、どこも売り切れだったんだよ~。まさか、ハンズに残ってるなんて思わなかったなあ」
「ラッキーだったな…」
「うん。しかもこれが最後の一個だったんだよ!」
まゆりは自宅の鍵を取り出し、そこに慎重に取り付けた。
「ね、オカリン?まゆしいね、これ、ずっとずっと大切にするね」
「ああ。そうしてくれ」
そこまで喜んでもらえるなら、プレゼントした甲斐がある。まぁ、もっと高校生らしいものを買ってやりたかったが…。
「くれぐれも、買って5分でなくしたりしないようにな」
まゆりには前科がある。ラジ館で俺が当ててやったメタルうーぱ。それを手に入れてからものの5分でなくしてしまったのだ。
「うん!もう絶対に、ぜ~ったいに、なくさないのです!」
……あれがβ世界線の根幹に関わっていると言うのだから笑えないが。
「あ、でも……これはずっと持っていられないかもしれないのです」
と、まゆりが少し寂しそうな顔でそう言った。
「うん?もう失くす心配か?」
「ううん。そうじゃなくてね……。これはきっと、かがりちゃんにあげることになると思うから」
「あ……」
かがり。
そう言えば、かがりはこれと同じようなうーぱを持っている。肌身離さず、大切に。
「未来でまゆしぃがかがりちゃんにあげたんだって。大切なものだからって。だからかがりちゃん、うーぱのこと、とっても大切にしてくれてるんだぁ」
「そう、か……」
まゆりが『オペレーション・アークライト』のことを考えているのがすぐに分かった。そして、迷いがあるわけではない事も。
まゆりは躊躇うことなくあの日へと跳ぶだろう。一度決めたら決して曲げない。まゆりはそういう奴だ。
ただ、唯一の心残りがかがり、ということなのだろう。
そんなことを考えていて、俺は何も言えなかった。
「オカリンのお店のPOP、張り切って作るね!」
「あー適当でいいぞ?どうせしけた八百屋なんだし」
そんなことないよ~とまゆりは笑っていたが、よくあんなボロボロの八百屋が続いているのが不思議でならない。それで育ててもらったとはいえ、スーパーが乱立するこの時代に、よく商店街の八百屋が生き残っているものだ。
「あ、お母さんにメールしなきゃ。晩御飯までには帰ります、って」
「ん?なんなら、ウチで食べていってもいいぞ。どうせ親父もおふくろが引き留めるだろうし」
「うーん。どうしよっかなぁ。オカリンは今日この後、ずっと家にいるの?合コンとか、行かない?」
「む。行ったのは数回だけだ!それも浮気な考えではなく、未来ガジェット研究所の将来のためにだ。そこのところを勘違いされては困るぞ」
未来のワルキューレのメンバーは、電機大学出身の者が多いそうだ。鈴羽にそう聞かされていたから、去年の秋くらいは何度か合コンに顔を出した。だが、やはり俺にはどうしても無理だった。性格的にああいうのは合わない。
無理をしない方がいい。
何度合コンの雰囲気を悪くしてしまったことか。
だというのに、まゆりは何度もそのネタを擦ってくるのだ。その度に必死で否定するのだが……。
「そっかぁ。じゃあ、ごちそうになっていこうかな~」
まゆりは少し迷った様子でスマホを取り出し、メールを打とうとしたところで——。
「………っ」
その表情が突然曇った。その場に立ち止まってしまう。
「どうした?」
「う、うん……。ついさっきね、カエデさんからメールが来てて。気づかなったよ……」
まゆりは今にも泣きだしそうになっている。
「どうしよう…オカリン…」
「何かあったのか?」
「ねぇ、オカリン。前に言ってたよね。フブキちゃんは病気なんかじゃないって」
「フブキ?あ、ああ。あれは病気じゃないぞ」
フブキはリーディングシュタイナー保持者だ。だが、世間では新型脳炎だと言われている。白昼夢を見たり、現実との区別が付かなくなったり。リーディングシュタイナーを知らない者にとっては、集団幻覚のような病気だと勘違いするのも無理はない。
ロシア世界線から戻って来た翌日。俺たちはフブキの入院する病院にお見舞いに行った。フブキと同じくして倒れた俺が入院していないことにフブキは文句を言っていた。俺はロシア世界線に行ってしまっていたために記憶にはないが、この世界線の俺がうまく切り抜けたのだ。
そんなフブキも、割と早く退院できたのだが。
「でも……」
まゆりはスマホのメール画面を俺の方へと差し出してきた。
「また入院した……だって?」
俺は信じられない思いで、画面に表示された文章を見つめていた。