STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~ 作:明治アル蜜柑
フブキが入院したのは、前と同じ場所ではなく、代々木にある『AH東京総合病院付属 先端医療センター』というところだった。日本でも指折りの最新医療を誇る病院らしい。
ネットの情報によれば、最近流行している新型脳炎の患者は、今はここに集められているらしい。
だが、同時にネットでは、この病院についてのヤバそうな都市伝説エピソードが大量に書き込まれていて、いったいどんな伏魔殿かとビクビクした。
実際に来てみると、おどろおどろしい施設ではなく、高級ホテルのようなたたずまいをしていた。
「まゆりちゃん、オカリンさん!」
ロビーに入っていくと、カエデに呼ばれた。
「フブキちゃんは……?」
「大丈夫だよ」
そう言いつつ、カエデは済まなさそうに頭を下げてくる。
「驚かせちゃってすいません。私も焦っちゃって。もっとちゃんと確認してからメールすればよかったんですけど」
「……というと、あの子の容態は?」
「今病室でフブキちゃんのお母さんに会えたんですけど、以前の病気が悪化したとか、そういうのじゃないみたいです」
「じゃあ、また検査入院とか?」
「はい。そう言ってました。だから全然心配ないって」
それを聞いてまゆりは胸をなでおろす。
「な、なんだぁ。はぁぁ……よかったぁ」
まゆりはホッとしたように緊張を解いた。カエデもまゆりの顔を見て、安心した顔をしている。
新型脳炎自体は、日本国内に上陸してから半年以上になるが、いまだに患者数は増え続けているらしい。だが、死者は1人も出ていない。
あれは病気ではなく、リーディングシュタイナーなのだから死者が出る事はない。お見舞いの際にフブキ以外の人にも確かめてみたところ、あの戦争の記憶を持っている人が複数人いたから間違いない。
だが、俺はそれよりも、患者数が増えていることの方が気になっている。
リーディングシュタイナーは誰もが発現する可能性があるものだ。だからといって、誰もかれもが別の世界線のことを覚えていられるわけではない。
俺はα世界線で、あれだけ世界線変動を起こしてきた。そのたびに誰もがそれを認識していれば、大変な問題になっていたはずだ。
リーディングシュタイナーの保持者同士が、近くにいて、別世界線の記憶について話し合うことで、その記憶が明確化して定着してしまう、とかだろうか。
そう考えれば、同じ病院に集めるというのも、その是非が問われるのではないだろうか。
何か裏で陰謀が蠢いている……とか?いや、まさかな。
「フブキちゃんに会えるかな?」
「それがね、今MRI検査中だから、病室にはいないみたいなの」
「そうなんだ…」
「でも、もう少しで終わるみたいよ。ここで待っていて、ってフブキちゃんのお母さんが」
フブキの検査が終わるまで待つことになった。
2人はソファに座らせて、俺は傍らに立ったまま、ロビーを見回す。
やはり高級ホテルにしか見えない。フブキの家はお金持ちなのだろうか。と思ったところで、カエデが説明してくれた。事態を重く見た日本とアメリカの政府が、共同で新規の治療プロジェクトを立ち上げたらしい。お金も出るそうだ。
だが、俺としては複雑な思いだ。病気ではない以上、これほど無駄なことはない。この病院の悪い噂を鵜呑みにするわけではないが、やはり何か別の目的があるのではないかと勘繰ってしまう。
「お願いします。患者は全員、個室にしてください。それも、患者同士が接触しないよう、なるべく離れた部屋で」
「しかしねぇ、そんな都合よく病床は空いていませんから」
「それでもやってくれないとダメです。患者同士が会話をすることで、夢の情報を共有してしまうでしょう?」
やっぱり俺の思った通りだ。リーディングシュタイナーが軽度であっても、保持者同士で会話をすることで記憶に定着してしまう。やはりひとところに集めてしまうのはよくないのではないか。
と、聞こえてきた話に一人納得していたが、どこか聞いたことのある声だと気づく。
「ん?」
声の方に目を向けると、ロビーを横切るように、白衣を着た日本人の老医師と、それに追いすがって訴えるように話をしているスーツ姿の大きな人影が目に飛び込んできた。
「レスキネン……教授っ」
声は抑えた。だが、自分で思っているよりも大きかったようで……。
「オー!リンターロ―!」
教授は俺に気づくと、ものすごい勢いで破顔した。
だが、その声があまりにも大きく、ロビー中の人がこちらを見た。
しかし、教授は全く意に介する様子もなく、ズダダダダと駆け寄って来る。まるで屈強なアメフト選手がタッチダウンを狙っているかのような迫力であった。
だが、俺は呆然として立ち尽くしてしまっていた。
「うわぁっ⁉ストップストップ!ストップだよぉ!」
ぼーっとしている俺の代わりにまゆりが制止するが、教授は勢いそのまま俺に抱き着き、持ち上げてブルンブルンと振り回す。まるで自分が子供になってしまったような気分だ。
「いやはや済まない。あまりに驚いて、はしゃぎすぎてしまった」
教授は大きな体を縮こまらせると、周囲の人たちにペコペコと頭を下げた。
「レスキネン先生、この青年とはどういったお知り合いかな?」
教授と話していた初老の医師が、俺のことを怪訝そうに見ていた。
「あ、えっと……その…」
関係を問われても、特に師弟関係があるわけでもなく、答えに困ってしまう。
教授はあたふたしている俺を見て——。
「彼には私の研究を手伝ってもらっているのですよ。彼が望むなら、私の研究室に来てもらいたいのですがね」
「え?」
「ほほう。ヴィクトルコンドリア大学かね。これは驚いた」
どういうことかと教授に視線を送ると、わざとらしくにっこりと笑った。老医師の俺に対する目つきもあからさまに変わった。感心している様子を見て、教授は『Hahaha!』と笑っていた。
思わぬ場所での再会に、俺の頭の中で警鐘が鳴りやむことはなかった。