STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~   作:明治アル蜜柑

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夜 岡部自室

 

 

栗悟飯とカメハメ波が“紅莉栖”だと分かったところで、俺とまゆりはそのまま俺の自宅へと向かった。まゆりは既に両親に連絡をしてある。うちで夕飯を食べていくと。

 

おふくろと親父はとても喜んでいた。俺は親父にPOP作りの件で文句を言っておいた。今度まゆりに金一封を出すことで落ち着いたが。

 

久しぶりに楽しい食事だった。

 

おふくろはテンションが上がって、およそ食べきれない量のおかずを作っていた。まゆりはおふくろの唐揚げが大好物だからな。まゆりがほとんど1人で平らげていた。

 

俺はそれを見ているだけでお腹いっぱいだった。

 

 

 

 

夕食後、まゆりは俺の部屋に行きたいと言い出した。突然の申し出に俺は焦った。昔はよく一緒に遊んだものだが、最近ではほとんどない。親父は、ついに孫の誕生か?などとセクハラ発言をしたから割と強めに殴っておいた。

 

理由を聞くと、話がしたいと言われた。

 

断る理由もないから俺は自室に案内したのだが……。

 

「………」

 

「まゆり?」

 

まゆりは黙ったままだ。

 

「何かあったのか?フブキのことを……?」

 

そこまで言いかけて気付いた。食事中、まゆりは楽しそうにしている反面、ところどころで暗い顔になる瞬間が何度かあった。最初は分からなかったが、今ようやく分かった。

 

あの楽しい場にかがりがいない。

 

2人はもう、すっかり親子だ。血の繋がりや年齢など関係なく、どこからどう見ても親子だ。だが、その事情を誰にも説明できない。2人が親子でいられるのは秋葉原だけ。

 

まゆりの日常に、かがりが入って来られないのだ。

 

かがりは利発な子だ。そんな事情を分かっているから、何も言わない。まゆりの言う事をしっかりと聞き、無暗に介入しようとしない。そんな聞き分けの良いかがりの態度が、まゆりを苦しめているのだ。

 

あのくらいの年齢の子に我慢をさせてしまっている事。それにまゆりは心を痛めているのだ。

 

 

「今日はうちじゃなく、ラボでかがりも一緒に夕飯を食べればよかったな……」

 

そう言うと、まゆりは驚いた顔をした。

 

「オカリン…。でも、かがりちゃんのこと、説明できないよ……」

 

「親父は頑固だが、おふくろならかがりを連れてきても受け入れてくれると思うぞ?」

 

「…………うん」

 

「おばさんやおじさんだってそうだ。かがりにとってはおばあちゃんとおじいちゃんになるわけだし。適当に誤魔化せば、かがりと会わせてやることだって……」

 

「そう、だね」

 

リスクを考えれば会わせるべきではない。まゆりもそれを分かっているから反応に困っているのだろう。

 

だが、その日は近い。

 

もう、それほど一緒に居られる時間は残されていないのだ。俺でさえそう思うんだ。まゆりがそう思わないはずがない。

 

これはダルとも話したことだ。鈴羽と一緒に居られる時間はもうない。鈴羽は寂しそうな顔を見せたりしないだろうが、内心では寂しく思っているはずだ。

 

ダルにはタイムマシン関連のことをほとんど丸投げしてしまっていて、あまり時間を取れないが、出来る限りの時間を鈴羽と一緒に過ごしてほしいとお願いしている。シュタインズゲートに辿り着けば、消えてなくなってしまう世界かもしれないが、それでもそこに意味はあったのだと思いたい。

 

「ねぇ、オカリン」

 

「な、なんだ?」

 

そんなことを考えていたから、まゆりに呼ばれて声が上ずってしまった。

 

「もうすぐ、まゆしぃとスズさんは、行かなきゃいけないね」

 

「っ……」

 

俺から切り出すべき話を、まゆりから言わせてしまった。

 

「オカリンがね、ここ最近、ずっとそれを気にしてるって分かってたんだぁ。それにね、今日はフブキちゃんのこともあって、レスキネン先生とも会って……」

 

まゆりと一緒にいるのに、俺はそれらにばかり気を取られていた。

 

「すまん。お前を不安にさせてしまったな……」

 

「ううん。まゆしぃは大丈夫。でもね、オカリンやかがりちゃん、ダルくんにはそんな顔をしてほしくないのです」

 

「っ……」

 

「かがりちゃんとはね、ちょっと前にお話ししたんだよ?前にラボにお泊りした時にね」

 

「かがりは……何て?」

 

「まゆしぃとスズさんが行っちゃうのは寂しいけど、応援してるって言ってくれたよ。でも、今のオカリンとおんなじ顔をしてたんだ。そんな顔をさせちゃうくらい、まゆしぃが心配させちゃってるんだよね……」

 

「そんなこと……っ!」

 

「ううん。でも、不安なのは本当なんだぁ。あの日、もう一人のまゆしぃとお話ししたでしょ?上手く言えないんだけどね、もう一人のまゆしぃは、なんだか自信いっぱいって感じだったんだぁ。シュタインズゲートは絶対にあるんだって。それに比べて、不安でいっぱいのまゆしぃは、なんだか情けなくて……」

 

そんな顔をしないでくれ。お前は立派だ。俺のために、俺なんかのために過酷な運命に立ち向かおうとしているというのに。

 

「そんなことない。お前は……」

 

「まゆしぃが不安な理由。分かってるんだ」

 

「理由……?」

 

「ずっとね、オカリンに聞きたかったの。でも、オカリンもダルくんもスズさんも。皆がまゆしぃを傷つけないために何も言わないでいてくれてるんだって分かってた。だから言い出せなかったの」

 

「まゆ……り?」

 

「ねぇ、オカリン。もう一つの世界の……あるふぁ世界線のこと。紅莉栖さんのこと、教えてほしいな」

 

「っ………!」

 

その言葉に、胸が締め付けられた。

 

絶対にまゆりには知られてはいけないこと。知られるわけにはいかないこと。ダルにも鈴羽にも、絶対に話さないように釘を刺していたこと。

 

それをお前自身が聞いてくるなんて……。

 

「それ……は」

 

「紅莉栖さんを、助けられなくてオカリンの心が壊れそうになったのを知ってる。でも、あの日のオカリンの顔、覚えてるよ。紅莉栖さんのことだけじゃない。オカリンは強いから、オカリンなら絶対に乗り越えられる。でも、そんなオカリンでも乗り越えられない何かがあるのなら……」

 

一拍置いてまゆりは息を吸い込む。

 

「それはきっと、まゆしぃのことが関係してるって思ったんだ」

 

「………っ」

 

α世界線。何度タイムリープをしても、何度やり直しても、必ずまゆりが死んでしまう世界線。殺されてしまう世界線。

 

俺はまゆりを助けるために、紅莉栖を犠牲にしてこのβ世界線に戻って来た。

 

その真実をまゆりが知れば……まゆりはきっと自分を責める。

 

それだけは、絶対に避けたかったのだ。

 

「オカリンがどうして諦めようとしてるのか、まゆしぃがどうしなきゃいけないのか。それが分かれば、きっとまゆしぃは自信を持ってあの日に行ける。誰にも心配させないくらい、ちゃんと笑って行けると思うから……。だからね、オカリン」

 

「俺……は」

 

まゆりは俺が思うよりも、ずっとずっと強かった。不安な理由が、ここにはもう帰ってこられない事なんじゃないかと思っていた。そして、まゆりがそれを恐れているのなら、俺はまゆりを引き留めたい。そう思っていたんだ。

 

まゆりに過酷な運命を背負わせたくない。まゆりには幸せになってほしい。俺が諦めてしまった事が原因なのに、そんな身勝手な事を考えていた。

 

でも、そんな考えは、まゆりの覚悟に対する侮辱だったのだ。

 

まゆりが心配しているのは、まゆりの想いがあの日のまゆりに伝わるのかどうか。俺を……情けないこの俺を、再び立ち上がらせることが出来るかどうか。覚悟なんてとうの昔に出来ていたのだ。

 

「まゆり……全てを、話すよ」

 

 

 

 

しどろもどろになりながら話す俺の言葉を、一つたりとも聞き逃さないように、まゆりは急かしたりすることなく受け止めてくれた。

 

まゆりは泣かなかった。泣いたのは、俺の方だった。

 

こんなにも堂々としているまゆりに比べて、泣き出してしまう俺が情けなくて、また涙が溢れた。

 

「そっか……。オカリンはこんなにも苦しんでいたんだね……」

 

まゆりはそっと、俺を抱きしめてくれた。

 

「ありがとう、オカリン。全部話してくれて」

 

「そんな……俺は………」

 

「ありがとう、オカリン。オカリンが助けてくれたから、オカリンが頑張ってくれたから、まゆしぃはこうして幸せな時間を過ごせるんだね」

 

「まゆり……」

 

「だからね、今度はまゆしぃの番。皆が……オカリンが笑って過ごせる未来を、まゆしぃが掴み取って来るね」

 

まゆりは腕を伸ばし、手を天井に向けて掲げる。

 

星屑との握手(スターダストシェイクハンド)。

 

昔はまゆりが連れて行かれるんじゃないかと不安だった。でも、今のまゆりは違う。今度はまゆりが何かを掴み取るように、力強く握りしめていた。

 

 

そして気づいたんだ。

 

どうしてまゆりは、俺のためにここまでしてくれるのか。

 

どうして鈴羽が、この作戦をアークライトと名付けたのか。

 

 

 

狂気のマッドサイエンティストと、その人質ではない。

 

織姫。

 

雲の向こうに隠れてしまった彦星を呼び起こす願い星。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん。ごめんなぁ、まゆり……。俺……、俺は…………っ!」

 

溢れ出した涙は止まらなかった。

 

 

俺は、牧瀬紅莉栖を選んだ。

 

α世界線で感じた、あの無力感とは違う。自分で選べる立場にいるくせに、それでも俺はまゆりを選ばない。そんな最低な自分自身が許せなかった。

 

「大丈夫。大丈夫だから、ね?」

 

まゆりは再び俺を抱きしめてくれた。

 

泣き続ける俺を、まゆりはずっと支えてくれていた。

 

 

 

 

 

なぁ、岡部倫太郎。お前はどうして諦めてしまったんだ?

 

お前さえ諦めなければ、まゆりがこんな運命を背負わされることなんてなかったのに。

 

俺はお前が大っ嫌いだ。

 

鳳凰院凶真なんて、実体のない偽りの仮面を被って、強くなったつもりでいたのか?どこまでいってもお前は弱くて情けなくて、どうしようもない人間なんだ。

 

何がマッドサイエンティストだ。何が鳳凰院凶真だ。

 

お前なんてくたばってしまえ……。

 

 

俺は俺が大っ嫌いだ。

 

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