STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~   作:明治アル蜜柑

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6月26日(日)

 

 

気が付くと朝になっていた。

 

俺とまゆりは寄り添うようにして、ベッドにもたれかかって眠っていた。

 

俺は目が真っ赤に腫れていた。あんなにも泣いたのはいつぶりだろうか。一方まゆりは穏やかな表情をしていた。昨日の話をしっかりと受け止めたのだ。俺と違ってまゆりは……いや、やめておこう。これ以上、自分のことを嫌いになっても意味はない。不毛なだけだ。

 

まゆりの覚悟を無駄にしないために、俺は前に進まなければならない。

 

 

おふくろには怒られてしまった。まゆりが帰ってこないと椎名のおばさんから電話があったらしい。あわてておふくろが俺の部屋に様子を見に来たら、2人して寝ていたのだ。恥ずかしいところを見られてしまった。

 

朝食を取ってから、2人で椎名家まで行った。俺は必死に謝ったが、おばさんは笑ってくれていた。

 

まゆりに礼を言ってから、俺はラボに向かった。

 

 

ダルたちに報告すべきことがある。これ以上、立ち止まってはいられないのだから。

 

 

 

 

『連絡が遅くなってごめんなさい。教授はいきなり日本に飛んだのよ。ちょっと出張に出ると言われていたのだけれど、まさか日本に行っているなんて……』

 

レスキネン教授と病院で会ったことを報告すると、真帆が一番驚いていた。

 

教授が日本に来る事は、真帆にも知らされていなかった。数日間の出張に行くと言われていたらしい。それでまさか日本に来ているとは……。

 

『今さっそく教授にメールを送ったわ。もちろん、岡部さん達と通じていることは伏せた上でね』

 

上司がいなくなったのだ。連絡をするのは当然だ。怪しまれることはない。

 

「それにしても、レスキネンはどうして日本に……?目的は何なんだろう」

 

タイムマシンの燃料のリミットがあと数週間に迫る中、鈴羽は焦りを隠せていない。

 

「真帆。教授が『Amadeus』をこじ開けた、ということは?」

 

1月末、アメリカに帰国する予定を変えなかったのは、日本では得られるものがもうないと判断しての事だと俺たちは考えていた。テスターを終了し、俺のスマホからアプリをアンインストールさせたのも、俺からは情報を引き出せないからだと。

 

つまり、教授はアメリカで『Amadeus』に専念するのだと。

 

『私の権限の限りで確認してみたけれど、そんな痕跡は残されていないわ。あの子たちがそんな話をしてきたこともないし』

 

「でも、レスキネンは日本の病院でリーディングシュタイナー……新型脳炎の対応をしてたんっしょ?その研究のためってことなんじゃね?」

 

望んだ通りに過去を改変するにはリーディングシュタイナーが必須だ。あれがなければ、過去を改変したとしても、改変前の記憶を引き継ぐことが出来ない。

 

「それってつまり、タイムマシン論文を手に入れる算段がついたってことじゃない?実際に過去に干渉する術を手にしたから、次の段階に移ったって……」

 

それは十分に考えられる。

 

Xデーはすぐそこまで来ているのかもしれない。

 

「真帆。日本に来る許可は下りそうか?」

 

画面の向こうの真帆は首を横に振る。

 

『何度も申請しているのだけど、まったく許可は下りないわ。まるで私が日本に行くのを拒んでいるみたいに』

 

鈴羽の言うように、教授が次の段階に移行しようとしているのならば、そこに真帆が加わる事で予定が崩れてしまうことを危惧しているのかもしれない。

 

このタイミングで来たことからも、教授が俺たちを疑っているのは確実だ。そう考えなければ負ける。

 

「おじさん。これってもう……」

 

「そうだな。鈴羽とまゆりはいつでも行けるように準備をしておいたほうがいいかもしれない」

 

『私も、すぐに日本へ行くわ』

 

「来られるのか?許可が下りないんだろう?」

 

『溜めに溜めていた有給をここで全て消化してやるわよ。ここ一番にいられないなんて……意味がないもの』

 

「……そうだな」

 

この先のことは全く予想出来てない。

 

俺の予想通り、タイムマシンが狙われる事態になったのなら、それは第三次世界大戦の幕開けとも言えるだろう。

 

教授、もしくはその他勢力がタイムマシンを狙うとして、出来ることならそのまま奪取したいはず。だが、他勢力の手に渡ることを考えれば、武力行使も辞さないような気がする。……タイムマシンが破壊される可能性は低くない。

 

『オペレーション・アークライト』を発動させるほどの有事。それはタイムマシンの破壊……そこに乗る鈴羽とまゆりの死である可能性だってある。

 

真帆の今後についてもそうだ。

 

教授が表立った行動に出た場合、これ以上脳科学研究所にはいられなくなる。そのまま日本で俺たちと合流し、もうアメリカには戻らないという選択をしなければならないかもしれない。

 

「……真帆」

 

『大丈夫。もう準備はとっくに出来ているわ。何があったって私は全力で立ち向かうだけよ』

 

「比屋定さん……」

 

『鈴羽さんは余計な事を考えないで。最も大変なのはあなたたちなのだから』

 

「……うん」

 

この5か月で鈴羽と真帆の関係もだいぶ深まった。鈴羽は未来の真帆を知っている。

 

『とにかく、目途が立ったらまた連絡するわ』

 

そう言って真帆はビデオチャットを終わらせようとした。

 

「ちょっと待ってくれ!今日はもう一つ、話しておきたいことがあるんだ」

 

話しておきたいのは“紅莉栖”のことだ。

 

「昨日、何気なく@ちゃんねるを見ていたんだが……」

 

「オカリンさぁ、真面目な話してるところで@ちゃんとか。空気読めって」

 

「うるさい。真面目な話だ。真帆。栗悟飯とカメハメ波、という名前に聞き覚えはないか?」

 

『はい?栗悟飯……?』

 

まぁ、真帆には絶対に隠しているだろうな。

 

「紅莉栖が@ちゃんねるで使っているハンドルネームなんだ。真帆には絶対に知られなくないだろうから、必死で隠していたんだろうが……」

 

「ほえー。牧瀬氏も@ちゃんとかやるんだ。もしや重度のねらーだったりとか?」

 

こういうふうに掘られるのが嫌だから黙っていたんだろうがな。

 

「『Amadeus』の“紅莉栖”も、そのハンドルネームで@ちゃんに投稿してるんだ」

 

『はい?』

 

「まじで!?」

 

反応はそれぞれだった。真帆はよく分かっていないようだし、ダルはテンションが上がってる。

 

俺はそれが判明した経緯を説明した。

 

「おふぅ。見事な一本釣りが成功しとる罠。つーかこれって研究倫理的に大丈夫なん?」

 

『そ、そんなの全く知らなかったわ……。教授も絶対に気付いてないはずよ』

 

これは俺たちにとってプラスだ。教授を出し抜く一歩と言えるかもしれない。

 

「秘密の日記がこじ開けられたとして、その瞬間に俺たちがそれを知る術はない。教授もその対策はするだろうしな。だが……」

 

@ちゃんねるという抜け道が、光明となるかもしれない。

 

「今すぐ何かが出来るというわけではないが、頭の片隅にでも留めておいてくれ」

 

 

それからはダルと真帆によるタイムリープマシンの話し合いとなった。

 

 

 

 

 

「おじさん。まゆねえさんはどう?」

 

やることのなくなった俺と鈴羽は、チャットから離れてソファに腰掛けた。

 

どう、とは『オペレーション・アークライト』のことだろう。

 

「昨日、まゆりと話したよ」

 

結局、情けない姿を見せてしまっただけだったが。

 

「まゆりは覚悟を決めていたよ」

 

「そっか……」

 

リーディングシュタイナーで移動してきた俺に上書きされるという話はしなかった。α世界線のことだけで精一杯だったというのもあるが、まゆりに少しでも心配をかけたくないからだ。これ以上、俺のことに時間を割いてほしくない。

 

「改めて話すつもりだが、これから時間がある時はラジ館に足を運ぶと言っていた」

 

平日は学校がある。さすがにこれからずっとサボるというわけにもいかないため、時間を見つけては、という話になった。考えが甘いと言われるかもしれないが、俺は出来る限りまゆりには日常生活を謳歌してほしいのだ。

 

少なくともあと1か月ほどしか時間は残されていないのだから。

 

「今日さ、タイムマシンの燃料を計算してたんだ。2010年8月21日まで安全に跳べる限界をさ」

 

およそ7月という目算でここまでやってきた。実際には8月21日まで跳べるだけでは不十分で、そこからもう一度跳ぶ必要がある。

 

『オペレーション・アークライト』は俺と鈴羽が紅莉栖の救出に向かっていた空白の1分目掛けてタイムトラベルする作戦だ。だが、二台のタイムマシンが同時に存在してしまうと深刻なタイムパラドックスが起こるため、まゆりたちが滞在できるのは1分間だけということになる。

 

つまり、その場から離れるために、もう一度跳ばなければならないということだ。

 

その分の燃料も必要だ。鈴羽の計算はそれを含めて、ということになる。

 

「限界は7月7日」

 

「っ……!」

 

「それ以上はタイムトラベルに支障をきたす。もし、Dメールがその日までに届かなければ……」

 

「Dメールなしでも跳ぶ、というわけだな」

 

予想よりも早い……。未来の俺たちは、そのタイミングを知っているはず。だからDメールが届かない、という事態にはならないはずだ。だが、そのタイミングを今時点の俺たちが予想することは不可能。結局は備えておくしか出来ない、ということだ。

 

7月7日がリミットとはいえ、Xデーは早いに越したことはない。限界がその日というだけで、早ければ早いほどタイムトラベルには余裕が出来る。より安全に跳べる。

 

だが、こういう時の予感というのは悪い方に働くものだ。

 

何の根拠もない勘だが、Dメールが届くのは7月7日である。そんな予感がするのだ。

 

最も長くてあと12日。鈴羽がこの時代に留まれる時間はそれだけしか残されていない。

 

「鈴羽。ダルとはしっかり話をしておけよ」

 

「え?」

 

「お前たちのことは必ず迎えに行く。だが、会えるのは随分と先の事になるからな」

 

ダルは鈴羽の前では決して何も言わないだろう。だが、昨日の俺のように、まゆりのように、複雑な想いを抱えている。

 

「俺も、まゆりともっと話すつもりだ。後悔なんてしたくないからな……」

 

「……うん。ありがとう、おじさん」

 

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