STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~ 作:明治アル蜜柑
2011年7月3日(日)
成田空港の国際線ターミナル到着ロビーは、来日した外国人や帰国した日本人乗客であふれかえっていた。
「すごい人だね~。どんどん増えてるかも」
「日曜日の空港を侮ってたニャ」
「見逃すなよ、まゆり、フェイリス。なんせ相手はとにかくちっちゃいからな」
俺たち三人はここで人を待っているのだ。
ルカ子からは行けなくて申し訳ないというラインが届いていた。律義なヤツだ。
「オカリン、今の問題発言は、まほニャンに言いつけざるをえニャいぞ~」
「冗談だ、やめてくれ…」
肩を震わせて怒ること間違いなしだ。
「でも、なかなか来ないね~」
真帆は出迎えはいらないと、本気で迷惑そうに言っていた。目立たないためにも、本当は出迎えには来ない方がいいのだが……。
真帆は絶対に一人でラボまでやって来れない。研究以外は何も出来ないダメ人間なのだ。
俺たちがあまりにしつこいから、真帆はついには折れた。到着時間を教えてもらい、俺たちはそれより少し早い時間に空港に来た。のだが……。
「道に迷っているか入国審査に時間がかかっているかのどちらかだ」
「1人で飛行機に乗ってると、絶対に迷子だと思われるのニャ。ま、それが可愛いんニャけど」
「うん。真帆さん可愛いよねぇ。まゆしぃのコス、着てもらいたいなぁ」
乗客たちがどんどん目の前を通過していくが、目当ての人物はいっこうに現れない。やはり小さすぎて見落としてしまったのだろうかと不安になる。
と、ひとりでに動くスーツケースがよろよろと向かって来た。スーツケースの上には山ほどの荷物が積まれており、今にも倒れそうだ。
「す、スーツケースが勝手に動いてるのニャっ‼」
「お、オカリン…もしかして、幽霊かな……」
幽霊がスーツケースを押すのか…?
「いやいや、あれは———」
2人が謎のスーツケースに震えていると、その影から聞き覚えのある声がした。
「まったくもうっ!パスポートの偽造なんかしてないわっ!なんなのよっ!毎回毎回毎回毎回、どの国へ行ってもいちいち調べられて、時間がかかって仕方ないわっ!」
「は、はは、ははは…」
彼女の見た目と年齢のギャップに驚かない人はいないだろう。入国審査の係りの人は真っ当な仕事をしたと思う。
俺は苦笑いしながらスーツケースに近づき、ポンポンとそれを叩いた。
「真帆」
「………へ?」
前傾姿勢で一生懸命キャスターを押していた真帆が、俺を見てポカンとした。
「ふぁ⁉」
「久しぶり。無事、入国出来てよかったな」
俺が突然現れたのに驚いて、スーツケースごと倒れそうになる。
「はわわ!」
「危ないのニャ!」
まゆりとフェイリスがとっさに支え、事なきを得た。
「あ、ありがとう。おかげで助かったわ……」
「それにしても荷物が多いな。どれだけ詰め込んできたんだ?」
他の客に比べて圧倒的に荷物が多い。目立たないように、とは何だったのか。空港内で一番目立っているじゃないか。
「必要なものを、と考えているうちにあれもこれも、となってしまって…………」
「こんな大荷物じゃラボまで来るのは到底無理だろう……。どうするつもりだったんだ?」
「見くびらないでちょうだい!誰も彼も私のことを子ども扱いして!秋葉原までは1人で行けるわよ!」
いや、無理だろう。電車の乗り換えもそうだが、それ以上にこのスーツケースをどうやって運ぶというのか。
「真帆さ~ん♪トゥットゥルー♪」
と、我慢できなくなったまゆりが真帆に飛びついた。
「トゥットゥ……うわっ!?」
「トゥットゥルー♪」
「会いたかったニャ~♪まほニャ~ン!」
フェイリスも負けじと抱き着く。
「ま、まゆりさんも、フェイリスさんも、お久しぶりね……。2人もわざわざ迎えに来てくれてありがとう」
だが、真帆の顔は引きつっている。
「ちなみに、こんな場所で、大声で“まほニャン”と呼ぶのはやめてくれないかしら……?」
「ニャンで?可愛いのに~!」
「まわりを見なさい。みんなが笑っているでしょう?恥ずかしいのよっ!」
「うニャー?そうかニャー?」
フェイリスは目立つからな。待っている間も外国人に“NEKOMIMI!!”と注目され、写真を撮らせてくれと頼まれたりしていた。
冬のもこもこの着ぐるみのような服は着ていないが、相変わらずネコミミは健在だ。
メイクイーンだけでなく、普段から装着しているような奴だ。面構えが違う。
「荷物、俺が持とう」
「あ、ええ。ありがとう…」
「でも、よく日本に来れたな」
なかなか来日の許可が下りないから、溜まっていた有給を全て消化すると言っていたが。
「これまで一度も有給を使ったことがなかったから、簡単に申請は通ったわ」
そんなものだろうか。あいにく、社会経験がまだない俺には分からないが。
「秋葉原にいる間のホテルとかは、決めてあるのかニャ?」
「まだよ。これから安いビジネスホテルでも探すつもり」
「だったら、このままフェイリスのおウチに来るといいニャ!この前のお部屋、自由に使ってもらって構わないニャン」
「え、でもそんなの悪いわ」
「またそうやって遠慮するんニャから。フェイリスは大歓迎だニャン」
「だけど、そんなに甘えてばっかり……」
「うーん。だったらお部屋を無償で貸し出す代わりに、フェイリスのお店でほんのちょっとだけお手伝いしてもらうのニャ」
「…お店?」
「メイクイーン+ニャン2だね~」
「まさかそれって、あのネコミミのお店?あのお店、フェイリスさんのものだったのっ⁉」
高校生にしてメイドカフェのオーナーであることが信じられないのだろう。フェイリスは言われるのを嫌がるが、この秋葉原の大地主なのだ。
苗字も秋葉。まゆりきっかけで知り合ったとはいえ、ものすごい人と出会ってるんだよなぁ。
「そうなのニャ!この時期は、ネコミミメイドのみんなはコミマの準備でいろいろ忙しいのニャ。お休み取りたいって泣きついて来るんだニャ。つまり、深刻なネコミミメイド不足なのニャァ‼」
「なのニャァ‼」
「というわけで、まほニャン、どうかニャン?」
「どうかニャン?」
「……お断りします」
「え~‼」
「ニャンで~⁉」
「なんでって…当たり前でしょう!私に似合うわけないわっ」
「似合うよ~!」
「間違いないニャ!オカリンもそう思うニャ?」
俺に振ってくるか…。
「あ、ああ。きっとファンがつくんじゃないか?」
真帆には悪いが、嫌がる彼女を見てみたいという気持ちもないではない。
それからも真帆はいじられつづけた。といっても、まゆりとフェイリスは本気で可愛い可愛いとはやし立てていた。真帆は珍しく照れていたが。
「リムジンを用意してあるのニャ!乗っていくニャ!」
「り、リムジン⁉」
真っ白のリムジンを、この日のためにレンタルしたらしい。まったく、大げさにもほどがある。乗り心地は…まぁ、最高だ。ここに来るまでに乗せてもらったが、ふかふかのシートを堪能させてもらった。
「まほニャン、疲れてるみたいニャから、寝ていくといいニャ。フェイリスが膝枕してあげるのニャン♪それとも、マユシィの膝枕がいいのかニャ?」
「そ、そんな…子供じゃないんだから……!」
結局、真帆は疲れていたようで2人の膝枕で寝ていた。
これで役者は揃った。
あとはその日を待つのみ。
もう焦りはない。後悔はあるが、そんなものにはもう構っていられない。やれる限りのことをやると、そう決めたのだから。