STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~ 作:明治アル蜜柑
鈴羽はとっさに周囲の様子を再度確認した。
そこでギクリとした。
いつのまにか、男たちの中心に、幼い少女がたたずんでいた。
(あ、あいつ……かがりっ!)
鈴羽は咄嗟にまゆりの口を押える。まゆりがかがりの名を呼べば、かがりは殺される。
そもそも絶望的な状況に、かがりまでもが加わった。
(あたしが生き残るのは……諦めざるを得ないな……)
何人道連れにすれば、まゆりとかがりに逃げるだけのチャンスを与えらえるのか。まゆりを岡部の元に帰す事だけに考えを絞る。
そんな計算を始めたとき——。
かがりがこちらをじっと見ていることに気付いた。
いや、違う。見ているのはまゆりだ。
まゆりの額から滴り落ちている血だ。
「……ママに、なにをした?」
かがりが予想外の行動に出た。
「ママになにをしたアアアァァァァっ!」
絶叫。いや、それはもはや獣の咆哮だった。
「貴様は誰だ……ぐあっ!」
一番近くにいた男がかがりの方を振り返ったが、その瞬間に男の足元まで来ていたかがりは、おそろしくキレイなフォームで男の膝を蹴りぬいた。
あの小さな体のどこにそんな力が隠されていたのかと思う程、見事に男を蹴り飛ばした。
「おねーちゃん!」
かがりの合図に鈴羽は即座に対応する。
「かがり、下がってろ!」
全員の注目がかがりに集まったところを、一気に撃ち抜く。
「かがりちゃん!」
「動くな!ねえさんはそこにいろ!」
かがりの元へ駆けつけようとするまゆりに向けて叫ぶ。
今ので2人はやった。残るは3人。
サブリーダーらしき男がかがりに自動小銃を向ける。
「このガキっ!」
だが、かがりは臆することなく身を翻す。
照準を合わせるのにもたついた隙を突いて、鈴羽はサブリーダーのところまで一気に走る。その間に残る二人の兵隊への牽制も忘れない。
「はぁっ!!」
勢いそのままに、男の頭に跳び蹴りを叩きこんだ。
「て、て、撤退だっ!撤退ッ!」
残った2人の男たちは恐怖にかられ、ついに逃亡を始めた。
「はぁ……はぁ……」
まだ時間はある。焦るな。鈴羽もまゆりも無事だ。かがりもひょっこりとラボに戻って来る。自分に何度もそう言い聞かせながら、なんとかラジ館に着いた。
そこで俺は通行人が携帯電話をかざしたまま、空を見上げている人がかなりいる事に気付いた。駅前でも電波は繋がらないらしい。息を整えながら、ラジ館を見上げる。
その時、炸裂音のようなものが遠くで聞こえた。しかも1発じゃない。音は連続で鳴り響く。聞きなれない異様な音に、周囲の人たちも何事かと不安げに辺りを見回している。
俺はそこで気づいてしまった。
これは、銃撃戦だ。
以前、SERNのラウンダーとロシアの部隊との間で交わされた激しい音を思い出す。
音の出どころはラジ館の屋上から。
間に合わなかったのか⁉
「鈴羽……っ!」
俺はラジ館の中に飛び込んだ。
エレベーターはなぜか点検中になっていて止まっていた。
やむを得ず階段を駆け上がる。心臓が破裂しそうなほどにバクバクと鼓動を早め、焦りのために足がもつれる。
俺はいったい、何度こんな気持ちでこの階段を駆け上がっただろう?
まるで呪縛のようだと感じながら、自分の体力の無さを呪いつつ、上階を目指す。
銃撃戦を繰り広げているのは、レスキネンだ。
だが、どうやってタイムマシンの場所がバレたのか。秘密の日記をこじ開けたところで、タイムマシンの場所自体は分からない。それに、こじ開けた瞬間に兵隊を用意できるとは思えない。
「もしかすると、違う勢力か?」
レスキネンがタイムマシン確保のために兵隊を事前に用意していたのなら、秘密の日記をこじ開ける前からタイムマシンが存在していることを知っていたということになる。俺と真帆を怪しいと思っていたとしても、そこまでは辿り着けないはずだ。
答えが出ないまま、俺は7階まで辿りついた。
そして——。
「レスキネン……“教授”……!」
やはりこいつだった。
「やぁ、リンターロ。まさか、こんなに早く君が来るとは思わなかったよ」
俺の顔を見るなり、困ったような顔をした。
「はぁ……はぁ……どうして、ここに……っ⁉」
「少し落ち着きなさい。そんなに息が切れていたのでは、話も出来ないよ?」
「……どうして、ここにいるんですっ!『Amadeus』はどうなったんです⁉」
「……この状況で『Amadeus』が気になるのか。君は何を知っているんだ?」
予想とは違う反応に俺は戸惑う。
秘密の日記をこじ開けた事を、俺が知っていると気づいていないのか?
「君は何かしら『Amadeus』の状況を知っているようだ。まぁいい。君の想像通り、秘密の日記をこじ開けたんだ」
「中鉢論文を……っ!」
「ふむ。やはり、“クリス”と“マホ”の記憶にあったα世界線というのは実在したようだね。リンターロ。君は全てを知っているわけだ。そして……新型脳炎。いや、君に倣ってリーディングシュタイナー、と呼ぼうか。君はその力を持っているね?」
「っ!」
「君がクリスと知り合ったのは、別の世界線でのことだったわけだ。ハハハ。すっかり騙されたよ。だが、君は私にとって宝の山でもあった。セミナーで君に偶然出会えたのは、私にとっては幸運だったよ」
俺の事を、事前に知っていたわけではない……?
「あんたはいったい……」
「科学者だよ。だが、科学者も慈善事業ではないのでね。君は“STRATEGIC・FOCUS”社という、アメリカの民間情報機関を知っているかな?」
「…………ストラトフォー」
米軍ではなく、ストラトフォー。
「世界から、“影のCIA”などと呼ばれているのが私たちだよ」
特急のエージェントが大学に潜り込んでいたというわけだ。
「もうすでに銃撃戦が始まった。悪いが、タイムマシンは私たちが確保させてもらう。集められた兵は少ないが、タイムトラベラーの少女1人相手なら問題ない」
少ないとはいえ兵は集めた。それはつまり、秘密の日記をこじ開ける前からタイムマシンの存在を確信していたということ。
……どうやってそれを知った?事前に俺の存在を掴めていなかったのに、タイムマシンのことだけ把握しているのはおかしい。
「……あんただけが、タイムマシンを狙っているとは思うなよ」
「うん?」
「あれだけ派手な銃撃戦だ。他の連中が気づかないわけがない。俺たちの持つタイムマシンは、どの勢力も喉から手が出るほど欲しい代物だ。国家レベルの組織が手にすれば、それこそ世界を意のままに出来るからな」
SERNかロシア。それらの勢力が何かを勘づいたのだ。そしてレスキネンはその情報を掴んだ。だから事前に兵隊を集め、今日この日にタイムマシンの確保に踏み切る事が出来た。
幸いにも兵は少ない。鈴羽ならきっと……。
「他の連中はあんたにタイムマシンを奪われるくらいなら、いっそのこと破壊するだろうな。こんなところでもたもたとしている暇があるのか?」
「プロを相手に隙を作ろうとしても無駄だよ。その程度で私は動じな……」
『て、て、撤退だっ!撤退ッ!』
扉の向こうから声が聞こえた。
「なに?何が起って……」
間違いない。鈴羽は勝ったんだ。
「うおおおお!」
俺はその一瞬の隙を見逃さなかった。
「——⁉」
階段の途中だったことが幸いした。レスキネンの両足にぶつかるようにして、思いきりタックルをする。バランスを崩したレスキネンは勢いよく転倒した。
「ぐっ……!」
段差に後頭部を激しくぶつけたらしく、一瞬だけうめいた後、ピクリとも動かなくなった。
……死んだ、かもしれない。
だが、もう悔いたりはしない。俺はすでに、過去に何度も、人殺しになっているんだから。