STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~ 作:明治アル蜜柑
屋上の扉を開けた俺の視界に飛び込んできたのは、文字通りの地獄絵図だった。血で赤く染まり、何人もの死体が転がっていた。
「うっ……す、鈴羽……っ!」
吐きそうになるのを必死に堪えて鈴羽を探す。
死体の脇で、小さい少女を抱く鈴羽の姿を見つけた。
「鈴羽!無事か!?」
「おじさん!大丈夫。あたしもかがりも無事だよ。まゆねえさんも傷は浅い」
タイムマシンの方を見ると、うずくまっているまゆりがいた。まゆりの顔からは血が流れていた。
「まゆりっ!」
急いでまゆりのところまで駆け寄る。
「まゆり、大丈夫か!?」
「お、オカリン。うん。大丈夫。ちょっと当たっただけだから……」
まゆりの意識ははっきりとしていた。傷を見ると浅かった。どうやら銃弾がかすめた程度らしい。
「………だいじょうぶ?ママ……っ」
と、聞き覚えのある声がした。
「な、かがり!?どうしてお前がここに……」
鈴羽の腕から飛び出してきたのはかがりだった。
「かがりちゃん!」
飛び込んできたかがりを、まゆりはしっかりと受け止めた。
「ごめんなさい。どうしてもママとおねーちゃんをお見送りしたくて……」
かがりはまゆりに抱きしめられながら泣きわめいている。
ひとまず無事は確認できた。
「おじさん!」
鈴羽が駆け寄ってくる。
「状況は!?」
と、鈴羽はスマホの画面をこちらに向けてくる。
「これは……」
「『オペレーション・アークライト』。未来からDメールが届いたんだ!」
少しノイズのかかった動画が一時停止状態で映っている。
「そ、そうか。Dメールは間に合ったんだな」
電波障害は間違いなくレスキネンの仕業だろう。だが、そうなるまえにDメールが届いたのだ。
「鈴羽。動画は確認したのか?」
「うん。一応ね。もう、すぐにでも跳べるよ」
アークライトはこのタイミングで間違っていなかったということだ。
「レスキネンは秘密の日記をこじ開けた。タイムマシンのことも、俺たちのこともバレてしまっている」
「……このまま跳ぶのは危険かな?」
どうなんだろうか。
こうして悩んでいる時間さえ惜しい。俺は一度戻ってタイムリープをするべきだろうか?
「分からないが時間が惜しい。他の勢力もタイムマシンを狙っているはずだ。鈴羽、まゆり。今すぐに準備を!」
レスキネンを撃退した今、他の勢力はタイムマシンの確保ではなく破壊に向かうかもしれない。
「オカリンは!?」
「俺はかがりを連れてラボへと戻る!結果はどうあれ、俺が観測しない方がいいかもしれない」
タイムマシンの起動には多少時間がかかる。その間に狙われでもしたら……。
俺が観測して、それが確定してしまった場合、取り返しのつかないことになる。
「かがり。これで最後だ。言いたいことがあるなら言っておくんだ」
鈴羽はタイムマシンに向かって走り出した。
「ママ……」
「かがりちゃん。そんな寂しそうな顔しないで?」
「でも……」
「大丈夫。ママはきっと戻って来るよ。どこにいたって、オカリンがきっと連れ戻しに来てくれるのです」
「………うん」
「だから、行ってくるね?かがりちゃんには笑ってお見送りしてほしいなぁ」
その言葉に、かがりは溢れる涙を拭う。拳をぎゅっと握りしめ、精一杯の笑顔を作る。
「ママ、行ってらっしゃい!かがり、ママのこと信じてるから!ママなら絶対に出来るって!」
と、街にサイレンが鳴り響いた。聞いているだけで不安になってくる、そんな音。今までに訊いた事のないようなサイレンだ。
「なんだ?これ……」
『ゲリラ攻撃情報。ゲリラ攻撃情報。当地域にゲリラ攻撃の可能性があります。屋内に避難し、テレビ・ラジオをつけてください』
街頭スピーカーから、そんなアナウンスが流れる。
ゲリラ攻撃……?
いつの間にか上空には、何機ものヘリコプターの旋回する音がしていた。
それは、報道用の民間ヘリなどとは明らかに違う、獰猛なエンジン音を響かせて飛行していた。
かつて、悪夢のような戦時中の背愛泉で聞いた戦闘ヘリと同じ音だった。
「もう遅いよ」
「な……っ」
鉄扉の隙間から、レスキネンがヌッと現れた。
「もうロシアもアメリカも動き出した。戻れないところまで来たんだ……」
「クソっ!」
これが第三次世界大戦の始まりなのか。
「まさかこの街の住民も、自分たちの都市の中心から戦争が始まるとは、夢にも思っていないだろうね……」
そしてレスキネンはそのまま壁にもたれかかるようにして地面に座り込み、動かなくなった。だが、その安否を確かめている余裕はなかった。
「鈴羽!急げ!まゆりも行け!」
別れを惜しむかがりを抱きかかえ、俺はまゆりを促す。
「オカリン……」
「頼んだぞ、まゆり。必ず迎えに行く!」
「うんっ!」
まゆりはタイムマシンの方に走り出した。
「おじさん!」
まゆりがタイムマシンに乗り込もうとしたところで、鈴羽が俺に向かって何かを投げた。
「これは……」
飛んできたものを何とかキャッチする。
「あたしのスマホ!アークライトのムービーメールが入ってる!」
俺に見ろ、ということだ。
「後の事は頼んだよ!」
「っ……任せろ!」
「オカリンおじさん……」
「行くぞ、かがり。ここでお前が死んでしまっては、まゆりたちの行動が無駄になる」
「……うん!」
2人の成功を信じて鉄扉の方へと向かう。走り始めようとしたその時。
鉄扉を蹴破るようにして、武装した一団が殺到してきた。それは完全に訓練を受けた軍隊だった。
「なっ……」
さらにそれとは別に、空から一機の武装ヘリが近づいてくる。
兵士たちがそのヘリに向けて銃撃を始める。戦闘ヘリはその攻撃をまったく意に介している様子はなく、空中でゆらゆらとホバリングしていた。
機体の左右に装備された物々しいロケットランチャーが、まっすぐ俺を——いや、タイムマシンを狙っているのに気づいた。
ま、まさか……⁉
「よせ……やめろ……」
しかし、俺の最悪の予感は的中してしまった。
ヘリがロケットランチャーを撃ち放った。タイムマシンへとまるで吸い込まれるかのように向かっていく。
いまだタイムマシンは光に包まれたままそこにあり——。
「やめろぉぉぉ!」