STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~ 作:明治アル蜜柑
電波の復旧は少なくとも1日以上かかるとのことだった。だから俺たちはその間に、タイムリープ後の動きについて検証していた。
「秘密の日記がこじ開けられるのが17時11分。それから1時間程度経ってから俺たちは“紅莉栖”の警告に気付いた。そこからラジ館に向かったが、屋上は襲撃され、俺はレスキネンと鉢合わせた」
「時間にすると18時半くらい、というところね」
「レスキネンが秘密の日記をこじ開けたとしても、すぐにデータを解析できるわけじゃないってことか。オカリンがタイムリープすれば、先回り出来るってことだね」
ラジ館という場所の特定には多少の時間がかかるということだ。
「つーかそもそもどうやってレスキネンはタイムマシンのことを知ったんだろ?」
「岡部さんの言う通り、別の世界線の紅莉栖がリーディングシュタイナーを?」
「そうだな。『Amadeus』に別世界線の紅莉栖の記憶データが追加されたのは間違いないだろう。でなければ、@ちゃんねるで俺に警告して来る事は出来ないはずだ」
サリエリの隣人というハンドルネームから、真帆関連だと気づき、岡部倫太郎に繋がるのは分かる。だが、それらと鳳凰院凶真を繋げることは不可能だ。俺は“紅莉栖”の前で鳳凰院凶真を名乗った事はない。
β世界線で俺と紅莉栖は知り合っていない。中鉢の記者会見時にわずかに話したが、所詮はその程度だ。α世界線の紅莉栖がリーディングシュタイナーしてきたと考える方が自然だろう。
それに、β世界線では紅莉栖は2010年7月28日に死んでいる。リーディングシュタイナーは世界線を移動できる能力だが、時間軸は同一だ。少なくとも俺の経験上はそうだった。
一方、α世界線の紅莉栖は2034年まで生きていることは確定している。α世界線で鈴羽がそう言っていたからな。ラボで過ごした記憶のある紅莉栖がリーディングシュタイナーして来たと考えるべきだ。
「でもさ、秘密の日記をこじ開けた瞬間に軍隊を用意するなんて無理じゃね?事前に準備してなくちゃ、この日に合わせて襲撃なんて……」
最も理解出来ないのはそこだ。
「レスキネンは秘密の日記とは別軸で、秋葉原にタイムマシンがあると判断していたはずだ。レスキネンが自分で、集められた兵は少ないと言っていた。少ないながらも集められたのなら、事前にタイムマシンの存在を想定していなければおかしい」
どうやってそう判断したのかは分からない。
だが、ロシアやSERNといった連中も秋葉原に戦力を集めている。タイムマシンを狙ったヘリは、少なくともレスキネンが用意したものではないように思う。
「他の勢力の動きを見て、タイムマシンがあることを確信していたのかもしれないな。そこに秘密の日記の情報で裏付けをして、襲撃に踏み切った……というところかもしれない」
ここから導けるのは、タイムマシンが狙われることそのものを防ぐことは出来ない、ということだ。
「タイムリープをしてもタイムマシンは必ず狙われる。だが、時間を稼ぐことは出来る」
鈴羽がストラトフォーの連中と交戦していなければ、ヘリがやって来る前にタイムトラベルすることが出来る。
「ダル。ストラトフォーのサーバーのクラッキングにはどれくらいかかる?」
結局、ヴィクトルコンドリア大学のサーバーには『Amadeus』は存在していなかった。レスキネンの手でストラトフォーに移されていたのだ。ダルがクラックして消してしまったが、すでに手遅れ。レスキネンがデータを見てからでは遅いのだ。
「ほぼ最深部まで踏み込んでる状態だから……そうだな。15分もあれば完全にデータを消去できる」
「それなら、俺は17時よりも前にタイムリープしたいところだな」
タイムリープの制限時間は48時間。電波の復旧が遅れればどんどん余裕がなくなってしまう。
「そう言えばかがりちゃんって、ラジ館に行ってたの?」
「……ごめんなさい。ママとおねーちゃんの邪魔をしちゃった」
自分勝手な行動をしたことを相当悔いているらしい。結果として無事だったのだから構わないのだが。タイムマシンが破壊されてしまったショックからは立ち直れていない。
「かがり。気にするなとは言わん。だが、お前のおかげでまゆりたちが助かったのも事実だ」
ラボへの帰り道、かがりはラジ館の屋上で鈴羽と共に戦ったという話を聞いた。まだ幼いとはいえ、未来で鈴羽に鍛えられていたのだ。俺やダルなんかよりはずっと強いのかもしれない。
「17時時点でかがりはもうラボにはいなかった。その前後にタイムリープしたとしても、かがりを捕まえておくことは出来ないな」
「でも、かがりちゃんの目的はラジ館でしょう?それなら岡部さんが回収できるんじゃない?」
そう言われればそうか。
タイムリープ後、ダルと真帆にストラトフォーへのハッキングを頼み、俺がすぐにラジ館へ駆けつければ、そこでかがりを回収出来る。ダルのクラッキングが間に合えば、屋上で戦闘は起きなくなるはずだから、かがりが巻き込まれることもない。
「ごめんなさい……」
「もう謝るな。お前の気持は痛いほど理解出来る」
悠長だと言われるかもしれないが、かがりには最後の時をまゆりと鈴羽と一緒にいさせてやりたい。
これから2036年まで俺たちの闘いは続く。その最後に、母と姉との時間があってもいいはずだ。
俺にはもう一つ懸念がある。
無事に2人を送り出した瞬間に、別の世界線の俺がリーディングシュタイナーで移動して来ることになる。……俺は上書きされてしまうわけだ。
その覚悟については今さらだ。躊躇いはない。
だが、移動してきた俺の方が問題だ。
変動前後では状況があまりにも違う。俺たちは1年かけて『オペレーション・アークライト』を想定してきたが、移動して来る俺にとってはつい今しがた聞いた話となるだろう。
2人を送り出したとしても、ストラトフォーやSERN、ロシアがタイムマシンを狙うという状況そのものは変わらない。多少の猶予があるだけで、ラジ館の屋上が危険であるのは同じだ。
そこに、状況を知っているかがりがいれば、俺を誘導してもらえるかもしれない。
その意味でも、かがりがラジ館にいるのは好都合だ。
「かがりについては俺がどうにかする。それよりも、タイムリープ後に何か伝えておかなければならない事は無いか?」
「手間じゃなければ、タイムリープしたらすぐにフェイリスたちにも知らせてほしいのニャ。大した戦力にはならないかもしれないけど、秋葉原には顔が利くのニャ。自警団を手配することも出来るニャ」
「それは助かる。街は混乱するだろうし、フェイリスが動いてくれれば……」
「あの、僕の方も、檀家の方々にお話を通せると思います」
「ああ。ルカ子も頼む」
それから俺たちは、電波状況が復旧するまで議論を尽くした。
そして……。
「電波、安定してきた。オカリン。いけるぞ!」
7月9日 17時
結局、このタイミングまで電波は復旧しなかった。
「キョーマ」
「凶真さん」
「岡部さん」
全員が俺の方を見る。
「任せろ!俺は……絶対に諦めない!」
ヘッドセットを頭に装着し、旅立ちの瞬間に備える。
「鈴羽を……頼む!」
放電現象が始まる。そして……。