STEINS; GATE ~存在証明のレジスタンス~ 作:明治アル蜜柑
2011/07/09 17:00 → 2011/07/07 17:00
「………っ」
タイムリープを敢行してふと気付くと、俺は秋葉原の路地の真ん中に立っていた。手にはスマホを握りしめている。
ちょうど偏頭痛の発作が起きた時のように頭の片側が痛み、目の前がチカチカして視界がはっきりしない。
咄嗟に周囲を見回す。秋葉原の路地はまだ平穏なままだ。爆発音も銃撃戦の音も聞こえない。
男女問わずオタクたちが買い物を楽しみ、メイド服を着た女の子たちが呼び込みをしている。
俺はかがりを捜索しているタイミングだ。
スマホの時間を確かめる。7月7日17時00分。戦争開始まであと1時間半ほどの猶予があった。
これならいける!
まずは真帆に電話だ。
『もしもし、見つかった⁉』
「いや。だが場所は分かった。急いでラボに戻って来てくれ」
真帆の返事まで聞かずに電話を切り、俺もラボへと引き返した。
ラボに戻ると、既に真帆も到着していた。
「かがりちゃん、見つかったのよね。どこにいるの?」
「………」
これから話すべきことを頭の中で整理し、息を吸い込む。
「ダル、真帆。時間がない。俺の指示に従ってくれ」
「…はい?」
真帆もダルも状況をつかめていないようで、困惑顔をしている。
「俺は、48時間後の未来からタイムリープしてきたんだ!」
「え?」
「マジっ⁉」
「いいか、時間がない。よく聞いてくれ!何人もの命がかかっている」
タイムリープしたことを証明するのは難しい。だが、ノータイムで信じてくれる仲間がいるのはこんなにもありがたいのか。
「今から15分以内に『Amadeus』をバックアップごと全部消去しろ!レスキネンは秘密の日記をこじ開ける!」
「っ!?」
「ヴィクコンのサーバーには『Amadeus』はない!あるのはストラトフォー。レスキネンはストラトフォーの人間だったんだ!」
「そんな……」
「あと一時間程度で秋葉原が戦場になるんだ!タイムマシンが狙われる!秘密の日記がこじ開けられれば、α世界線から紅莉栖がリーディングシュタイナーしてきて、タイムマシンの場所がバレるんだ。阻止しないと、鈴羽もまゆりも死ぬ!」
その瞬間、2人の表情が変わった。
「未来のダルは15分あればクラッキング出来ると言った!」
「うお。任せろ!真帆たん。手伝ってくれ!」
「ええ!」
「俺はラジ館に行く。かがりもそこにいるからな。ここは任せたぞ!」
「オカリン!鈴羽を、頼む……!」
「ああ!——任せろ!」
PCを見たままそう声をかけてきたダルに、俺は力強く応えを返した。
17時30分。
俺はラジ館に到着した。
ここに来るまでにフェイリスとルカ子には連絡済みだ。2人も力になってくれる。
そして、@ちゃんねるにもアクセスしてみた。だが、“紅莉栖”の投稿はなかった。これはつまり、ダルがやってくれたということだ。レスキネンは中鉢論文も、タイムマシンの場所も分からないままだ。
間に合う。これなら……。
「鈴羽!まゆり!」
屋上の鉄扉を開けると、タイムマシンの前でスマホの画面を見つめる2人が目に入った。ムービーメールを見ているらしい。
「オカリン?」
「どうしておじさんがここに!」
説明しようとする前に、鈴羽はハッとした。
「何か……あったんだね?」
「そうだ。俺はタイムリープして来た」
簡単にこれまでの経緯を説明する。
本来なら、レスキネンの兵隊が襲撃してきている時間だ。だが、それもまだない。悠長にはしていられないが、2人を送り出すには十分、ということだ。
「今すぐ跳ぶんだ!今なら安全に跳べる!」
返事をするよりも先に、鈴羽は準備に取り掛かる。
「おじさん。これで……」
鈴羽が言いたいことが分かった。
これで、シュタインズゲートに辿り着けるのか。8月21日の俺は、ムービーメールを見る事が出来るようになるのか。それが鈴羽の問いだった。そして俺は……。
「ああ。これでいけるはずだ」
俺たちがシュタインズゲートに到達する条件。それを満たさなければムービーメールを見ることは出来ない。
その条件とは、ロシアに持ち込まれた原本以外の、全ての中鉢論文が誰の手にも渡らない事。
紅莉栖のノートPCとHDD。そして『Amadeus』。ノートPCは破壊され、『Amadeus』もダルが消去した。そして……。
「おじさん。これを!」
鈴羽がコクピット内から何かを投げ渡してきた。
「HDD……」
タイムマシンの中に保管してあったHDDだ。その存在はすっかり忘れていた
「これで俺たち以外の連中の手に、中鉢論文が渡る事はなくなった。鳳凰院凶真が復活することも確定している。これなら……」
ノイズまみれのムービーメールが見られるようになるはずだ。
後は中鉢論文の本体さえなんとかしてしまえば、第三次世界大戦の火種は完全に消える。
「ママ!おねーちゃん!」
そこに、かがりがやって来た。
「かがり!お前、どうして……」
マシンの中から鈴羽が顔を覗かせる。
「かがりちゃん……」
「ごめんなさい。ママ。どうしても、最後にお話したくて……」
まゆりはかがりをそっと抱きしめる。
「ごめんね、かがりちゃん。ママはどうしても行かなきゃいけないんだぁ」
「うん……」
「でもね、大丈夫。ママは絶対に帰って来るから。だってね、オカリンが必ず迎えに来てくれるから。だから大丈夫なんだよ?」
「うん。分かってる……」
「後の事は全部、オカリンに任せておけばいいんだよ。だから、泣かないで。かがりちゃん」
「……うん」
ここまで言われては責任重大だ。
「ほら、かがり。最後に笑顔を見せてやれ。泣いてお別れするためにここへ来たんじゃないだろ?」
俺が促すと、かがりはまゆりの腕から離れ、しっかりと自分の足で立った。そして拳を握りしめ……。
「ママ、行ってらっしゃい!かがり、ママのこと信じてるから!ママなら絶対に出来るって!」
「うん。ありがとう。かがりちゃん」
かがりに見送られて、まゆりはタイムマシンの方へと走っていく。
「鈴羽!」
最後に伝えておかねばならないことがある。
「俺は不死鳥だ!何度だって蘇る。どの世界線の俺であってもそれは変わらない!ダルが……真帆が、みんなが俺を導いてくれる!だからお前は何も心配せずに行け!俺は俺だ!」
「おじさん……」
「まゆりのことを頼んだぞ!」
「うん!任せて!『オペレーション・アークライト』、必ず完遂してみせる!」
俺とかがりが笑顔で見送る中、ハッチが完全に閉まった。タイムマシンが徐々にうなり出す。
遠くから、ヘリコプターらしきローター音が聞こえてくる気がする。
『Amadeus』に関係なく事態は進行する。SERNやロシア。その他勢力がタイムマシンを狙っているのだ。
だが、もう遅い。
お前たちは俺たちによって出し抜かれたのだ。
「ママ!おねーちゃん!頑張って!」
かがりの精一杯の叫びが響く中……。
タイムマシンは、まばゆい光に包まれて、この時空間から完全に消滅した。