キヴォトス、先生大量発生中!?   作:ユメ先生

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ふと、各学校の特徴をひとりの先生として擬人化する妄想が浮かび、形にしてみました。
何番煎じかもしれませんが、よければ暇つぶしにどうぞ!!



ゲヘナの先生

 

 

 

「俺ぁ、何してんだろうなぁ」

 

 泣く子も黙る無秩序の権化、ゲヘナ学園の校舎裏でその男は煙草を吸いながら黄昏ていた。

 

 遠くから銃声やら爆音やら、奇怪なパンケーキ状の生物の鳴き声が聞こえる。

 

 彼はゲヘナの生徒から、()()()()()など呼ばれている。

 それ以外の生徒からは、“ゲヘナの先生”と呼ばれる。

 

 

 連邦生徒会長が失踪し、連邦捜査部シャーレに先生が赴任してすぐのこと。

 その失踪した当人は、新たな政策を遺しており、施行された。

 

 即ち、一学校一先生制度である。

 

 これまで数千もの学校の集合体でありながら、教職員なんて時代遅れで人件費ばかり掛かる人員をカットしていたキヴォトスが、ここに来て時代を逆行する政策を実施した。

 

 つまり、一つの学校に一人は大人の先生を配置しましょう、と言うことである。

 

 そんな訳で、キヴォトスと交流のある外の世界から、大勢の大人がやってきて、各学校に赴任することになった。

 

 教師として普通に勉強を教えている先生も居れば、勉学そっちのけで生徒達と遊び惚けている先生もいる。

 ゲヘナの先生、と呼ばれる彼は後者だった。

 

 三十代後半のゲルマン系のこの男は、祖国のイメージとは真逆の不良軍人のような様相だった。

 機能美に溢れたコートはくたびれており、しばらく洗濯されていないような有様だ。

 

 出世街道から脇道にスキップしていたら、いつの間にかこんなイカレた学校に出向を命じられた。

 彼は馬鹿馬鹿しくて真面目に勤務などしていなかった。

 

 自由と混沌を校風と謳うこのゲヘナ学園は、まさしく混沌の坩堝。

 生徒達は自由気ままに振舞い、多くは授業にも出ずに遊び惚けている。

 

 それだけならまだしも、この学校はキヴォトスでも三大学校の一つと称されるほどの超マンモス学校。

 一人一人生徒と向き合って説教などしていては、何百年掛かっても仕事が終わらない。

 

 その不真面目な態度から、生徒会たる万魔殿からも捨て置かれ、風紀委員会から白い目で見られる始末。

 とっくに居ない者として扱われている。

 

 

「あ!! 先生だ!!」

「また煙草吸ってたの?」

「学校では禁煙ですよ!!」

 

 彼がグラウンド側に出ると、姦しいギャル達が彼を見つけて話しかけてきた。

 

「うるせぇなぁ。

 ここの校則で喫煙を禁じてるのは生徒だけだっての」

「あー、また屁理屈だ!!」

「先生は仕事しなくて良いの?」

「シャーレの先生とか、スゴイ活躍してるって話だよね!!」

「あー、あの若いのね」

 

 定期的にシャーレの大会議室で各学校の先生はミーティングを行うことになっていた。

 実質、連邦生徒会担当のシャーレの先生が進行役となって。

 彼は生真面目で若くて苦労を背負いこむ憐れな奴と思っていた。

 

 最近では廃校寸前だったアビドス高校を、そのOGだと言うアビドス担当の女先生と一緒に救ったのだと、風紀委員会が話していた。

 

「風紀委員会の友達も、うちの先生もこうならなぁって言ってたよ!!」

「そうそう。トリニティの先生も赴任してすぐ人気者だって話だし!!」

「あのいけ好かないジジイなぁ。まあ、所詮お嬢様学校の箱入り娘どもには男の良し悪しなんざ分からんよ」

 

 彼は自分が赴任したゲヘナ学園と長らく敵対していると言う、トリニティ総合学園に赴任した老紳士の顔を思い返した。

 

「あっちの先生はお爺ちゃんなんだから、そんな風に言うもんじゃないですよ!!」

「ははは!! お前らに年上を敬うなんて殊勝な感情があるとは思わなかったな!!」

「あー、言ったなー!!」

「それより先生、どうせ暇なんでしょ? うちらとカラオケ行かない?」

「あ、そうだった、先生のせいで忘れてた!!」

「サービス券、期限切れ間近だから使い切らないとねッ」

「うーむ、今日はカラオケで時間を潰すのも悪かないな」

 

 ゲヘナの先生は無精ヒゲを撫でながらニヤリと笑った。

 

「じゃ行こ行こ!!」

「先生の奢りねッ!!」

「あ、てめぇら、それが狙いか!!」

 

 彼と生徒達は、そんな風に笑いながら校門を出た。

 

「ねえ先生、就任の時言ってたよね。相談に乗ってくれるって」

 

 ふと、カラオケ屋までの道中で生徒の一人が言った。

 

「え、何か悩みでもあるの?」

「うちらに相談しなよー」

「ええー、でもあんたら、将来のこと何も考えてないじゃん!!」

「そりゃあね!!」

「私、頭悪いし!!」

 

 彼女達はそんな風に笑っていた。

 

「私勉強とかダメダメだけどさ、将来の不安ってか、自分が何がしたいのか分からないって言うか」

「なんだ、お前趣味とかあるのか?」

「無い!!」

「うーん、今時のガキだな、お前ら」

 

 笑顔で言う生徒に、彼は苦笑した。

 

「自分の部屋ですることと言えば動画でも見てばかりなんだろ?」

「うわ、先生エスパー?」

「ほらやっぱりな。なあ、大人と子供の違いって何だと思う?」

 

 彼は子供たちに、そんな問いを投げかけた。

 

「……先生言ってたよね。子供は失敗しても良いって」

「そうだ。よく覚えてたな。

 大人のミスは取り返しがつかない。だが子供の失敗は笑って済まされる。ダメそうでも、俺が一緒に頭下げてやれる。

 だから興味のあることをどんどん試せ。それでピンとくる奴を将来の仕事に見据えて勉強してみろ」

 

 彼は素直に自分を見上げてくる子供たちにそう言った。

 

「才能が無くて、壁にぶつかっても良い。

 挫折ってのは成長だ。自分が楽しいと思える仕事が、得意なものとは限らない。

 お前らが好きな動画配信者は楽しそうに見えるだろうが、その業界も若くして引退者が後を絶たない。楽な仕事なんて無いんだよ」

「じゃあ、どうしようもない壁にぶつかったらどうすればいいの?」

「立ち向かわなきゃいい。自分が壊れないラインで働いて、身の程を知り、徐々にステップアップするんだ。

 最初から天辺を目指すな。まず体と心を大事にするんだ」

「なんか、適当ですね……」

「当たり前だろ!! もっと具体的な目標を見つけてからまた相談に来いっての!!」

 

 よくわかっていなそうな若者たちに、先生は笑って言った。

 

「まずは何でも試せ。やらかしても、ヤク以外なら多めに見てやる。

 彼氏作っても避妊だけはしろよ?」

「もう、先生のエッチ!!」

「そうだぜぇ、男は狼なんだ。絶対油断すんなよ!!」

 

 そうして談笑しながらゲヘナでも数少ない比較的安全な市街地に出ると。

 今日も元気に生徒達が銃撃戦を繰り広げていた。

 

「あ、先生、危ないですよ」

「流れ弾に当たったらマズいってば」

 

 同行していた生徒が、携帯していたシールドを前に構えた。

 他の二人の生徒も、先生を守るように左右を固め、背負っていた銃に手を掛ける。

 

「おう、悪いな。

 ……風紀委員会がやり合ってるのは、うちの生徒か?」

「いやー、多分最近こっちに来た不良じゃないかな」

「先生の就任演説のお陰で、最近うちの生徒は大人しいし」

「……あれで大人しいのか」

 

 今日食堂で撃ち合いがあったんだが、と独り言ちる彼だった。

 

「お、戦車が出てきたぞ。

 最近の不良はあんなもんまで持ってるのか。戦争でもおっぱじめるのか?」

「なんか連邦生徒会長が失踪してからあんな感じだよねー」

 

 政治に興味なんて無いゲヘナの生徒でも、その事件は知っているらしい。

 生徒のカバンから出てきた双眼鏡を受け取って、状況を確認している彼は鼻で笑う。

 

「風紀委員会は練度は良いんだが、運用の仕方が教科書通りでつまんないんだよな。

 不良共も、戦車の運転やら銃をぶっ放す前に、勉強やらバイトやらしてた方がマシだってのに」

 

 バカだからわかんねぇのか、と彼は双眼鏡を下ろして呟いた。

 

「あ、終わったみたいですね」

「そうみたいだな。どれどれ、ちょっかいでもかけてやるか」

 

 彼はニヤニヤ笑いながら、戦後処理をしている風紀委員会に近づいた。

 

「よう、前線指揮官はイオリか」

「……どうも、先生」

 

 イオリは部下たちに指示を飛ばしていたが、彼が視界に入ると急に態度を硬化させた。

 

「こちらに何か用でしょうか」

「いいや、あの子たちとこれからカラオケに行くんだ。

 お前らも来るか? 楽しいぜ」

「まだ仕事がありますのでこれで」

 

 イオリはそう言って、退却の手伝いに向かい背を向けた。

 

「イオリ、お前はもっと自分の突破力を生かす戦術にした方が良いと思うぜ。

 指揮に徹するのも良いが、お前は歩兵として運用した方が能力を十全に発揮できるだろうな。あと注意力を維持するのが課題だな」

「あれ、先生。ちゃんとアドバイスできるんですね」

「だからお前らももっと具体的に目標を定めないとこっちも助言できねぇんだって」

 

 生徒達とわいわい話しながら去って行く面々。

 イオリは、そんな彼の背を睨みつけていた。

 

 

 

 §§§

 

 

 D.U.某所。

 

 繁華街の一角に屋台を出しているおでん屋に、彼は足を運んでいた。

 

「ふう、仕事の後の酒は堪んねえな!!

 大将!! もう一杯!!」

「あいよ」

 

 犬の店主は熱燗を彼に差し出した。

 そうしておでんをつまみに酒を飲んでいると、新しい客が暖簾をくぐってきた。

 

「“あ、ゲヘナの先生。お疲れ様です”」

「おお、シャーレの先生か。あんたもいっぱい引っ掛けるおつもりで?」

「“ええ。良ければ一緒に呑みましょう”」

 

 とりあえずナマで、とシャーレの先生は注文をした。

 よく冷えたビールがすぐに差し出される。

 

「冷えたビールですか。ビールを冷やして飲むとキレがよくなると知ったのは、こっちに来てからですな」

「“なるほど。是非とも乾杯しましょう”」

 

 二人はお互いの器を合わせ、乾杯をした。

 

「聞きましたよ。ご活躍のようで」

「“私は何も。生徒達が頑張っているだけですよ”」

「その頑張りを促すのが、貴方の役目ですよ」

 

 そうして、二人は酒を飲んでいく。

 

「“……聞きましたよ。就任演説のこと”」

「おたくの教育方針とは合わないでしょうな」

「“私達、先生は生徒の将来に責任があるはずです”」

 

 彼は、ゲヘナの先生は学校に着任早々、ゲヘナ学園がどういう学校かを調査し、ある動画を撮って生徒達に己の存在感を示した。

 

 それは、こんな内容だった。

 

『ゲヘナの生徒の諸君。本日より本校に先生として着任した者だ。

 お前らは新しく教員が来て、何かが変わるかもしれないと思っているが安心しろ!!

 俺はお前達の生き方に口を出したりしない!!

 その代わり、俺はお前達の将来に一切の責任を負わない!!』

 

 動画の彼は身振り手振りを交え、薄暗い部屋で蠟燭の火だけが彼を照らすという演出をした。

 

『お前達が俺に隠れて、酒を飲もうが煙草を吸おうが、叱ったりはしない。風紀委員会はどうだか知らないがな。

 ゲヘナ学園の校風は自由と混沌とのことだが、お前たちは自由の対価である責任について考えたことはあるか?』

 

 彼は、この動画を見る己の生徒達に問いかけた。

 

『ああ、説教をしたいわけじゃない。だが先生として、事実を教えてやらないといけない。これはちょっとした授業さ。

 お前達生徒は子供だ。大抵のことは取り返しがつく。それが大人との違いって奴さ。

 じゃあ、取り返しのつかない失敗について話そう』

 

 これが、彼の最初で最後の講義だった。

 

『お前達も年頃だ。彼氏を作って、デートしたり乳繰り合ったり、ラブホに行ったりして、ゴムも無しに後先考えずにヤっちまうこともあるだろう。

 その時に、ガキをこさえてしまうこともある筈だ。

 そうして俺に泣き付いたとしよう。お願いします何とかしてくださいってな。

 だが、俺にとってその状況に陥ったら、子供とはお前らではない。お前らの腹の中のガキこそが、子供なんだ。お前らは親になり、その時点でお前たちは子供ではなくなる』

 

 彼はおもむろに、煙草を取り出して火をつけ、一服し始めた。

 

『勿論その時もそれなりに対応はしてやるさ。

 だが子供みたいに泣きわめくのは許さん。ガキを作ったって責任が生じるからだ。それが自由の対価だ。

 くくく、生々しい話で悪かったな。

 だが安心しろ、ゲヘナ学園の生徒ってのは不良ばかりなんだろう?』

 

 彼は意地悪な表情で、そう言った。

 

『俺や真っ当な他の男どもは、社会はお前らみたいなバカは相手にしない。

 お前らの将来は、行きずりの男相手に外路地に立って日銭を稼いで、そのまま若さを浪費して、三十過ぎたら自分たちは買われただの何だの言って社会を目の敵にして、老いさらばえて誰からも相手にされなくなる。そんな分かり切った未来だ』

 

 彼はにっこりと笑った。

 

『なので、ゲヘナ学園の生徒諸君!!

 今のうちに自由を謳歌したまえ!!

 ゲヘナ学園はお前達の将来を保証しない、素晴らしい学校だからな!!

 俺からの最初で最後の授業は以上だ!!

 もしそんな末路が嫌なら、俺で良ければ相談に乗ってやる。他の学校の先生達や、なんなら身近な大人でも良い。

 我が身を振り返って、よく考えて行動しろよな。俺からは以上だ』

 

 そんな数分程度の動画が、短期間で数百万再生された。

 

 

「シャーレの先生、あんたはいつからあいつらの親になったんだ?」

 

 ゲヘナの先生は、煙草に火を点けて白煙を吐く。

 

「生徒共が可愛いのは分かるけどよ、仕事と私情を一緒くたにするのはよくないぜ。

 勿論助けを求められたら手を差し伸べる。それが先生の役目だ。

 だが、自分の価値を浪費するマヌケに時間を取られ、真面目に勉強してる生徒が困ってたらどうするよ。お前の身体は一つなんだぜ、どっちを優先するんだ」

「“私は、生徒を平等に扱いますよ”」

「なるほど、早い者勝ちか。或いは、運ってわけだな」

「“……”」

「悪い。意地悪を言いたいわけじゃねぇんだ。

 お前はお前の持ち味を生かせ。他のどうでもいいことは、俺達に投げりゃ良いんだ」

「“なんだか、私は他の先生達のトップみたいに扱われていますけど、それで良いんでしょうか……”」

「……そりゃあ仕方ないだろ」

 

 連邦捜査部シャーレは超法規的権限が幾つもある。

 他の学校の先生達とは、明確に立場が異なっていた。

 

「まあ、いざとなったらトリニティやミレニアムの先生も手を貸してくれるさ。

 今は仕事の嫌な事なんざ忘れて飲もうや」

「“……ええ、そうですね”」

「愚痴とかあったら吐き出せよ。あ、そうだ、どの生徒が好みだ? 教えろよ!!」

「“それはッ、勘弁してくださいよッ”」

 

 この日も、なんてことの無い先生達の夜は更けていく。

 

 これはそんな、特異な分岐路のレールを進むキヴォトスのお話である。

 

 

 

 

 





:ゲヘナ先生
ゲヘナの校風を体現した、不真面目な自由人。
おちゃらけた昼行灯だが、助けを求める生徒には真面目に向き合う。
ゲヘナの元ネタのドイツ系の容姿に軍服コートを纏う、アウトロー系の現役軍人。戦闘力も指揮能力あるが、基本生徒達が有能揃いなので普段は発揮されない。

こんな感じの学校擬人化系先生ネタを書いてみました。某マンガみたいに国を擬人化したみたいな?

とりあえず書いてみただけなので、見切り発車の書き捨てなのです。
需要があれば続きを書くかもですが、期待しないでください。
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