キヴォトス、先生大量発生中!?   作:ユメ先生

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アビドスの先生:変わり始めるキヴォトス

 

 

 

「……皆、お金を持ち逃げした犯人、捕まったって」

 

 アビドス高校の対策委員会の部室で、アビドスの先生はしょんぼりしていた。

 

「……お金、やっぱり帰って来そうにないですか?」

 

 一緒に事業になけなしのお金を出資していたセリカがしょんぼりしたまま問うた。

 いや、言っただけだった。現実は彼女も理解している。

 

「オンラインカジノに全部突っ込んでたって……」

「裁判で弁済するように命令されても、帰ってこなさそうですね」

「むしろ、裁判するお金と時間の分だけ、こっちはマイナスかもよ」

 

 先生の落ち込みように、ノノミもホシノも同情的だった。

 

「ユメ先生、今後一切資産運用には手を出さないでくださいね」

「は、はぃッ」

 

 アヤネは彼女に微笑みながら言ったが、そこに秘められている圧はここに居る全員が感じ取っていた。

 

「いやぁ、ユメ先輩もアビドスの良妻賢母ことアヤネちゃんには敵わないかぁ」

「何ですかその称号は!! とにかく、質素倹約こそが計画的な返済に必要なんです」

 

 茶化してくるホシノに、アヤネはぷりぷりと怒っていた。

 

「やっぱり、スクールアイドルになって、アイドルデビューをするしかありません!!」

「その流れで何でそうなるんですか!!」

「え、みんな可愛いし、良いんじゃないかな!!」

「ユメ先生は黙っててください!!」

 

 悪乗りするノノミ。それに乗っかる先生。二人まとめてツッコミを入れるアヤネ。

 

「ひぃん……ほら、ホシノちゃんとか、可愛いよ?

 ほら、今日は三つ編みにしてあげるね」

「あッ、良いですね、私も触らせてください☆」

「ねぇ、なんでおじさんの許可を取らないの?」

 

 先生とノノミに挟まれ、顔の殆どが大山に埋まっているホシノが不満げに言った。

 

「両手に花だね、ホシノ先輩」

「あはは、喧嘩売ってるね、シロコちゃん」

 

 自分が貧相だという自覚があるからか、左右の肉風船に挟まれたホシノはそれを挑戦と受け取った。

 

「もう、みんな、真面目にやってください……」

 

 そう言って肩を落とすアヤネの苦労が積み重なるばかりであった。

 

「こうしてると、エマちゃんの髪の毛を弄ってたのを思い出すなぁ」

「エマちゃんですか?」

 

 二人でホシノの髪の毛を三つ編みにしたりお下げにしたりサイドテールにしてギャルっぽくしたり、と弄繰り回していると、先生が懐かしそうにそんなことを言った。

 

「ああ、エマちゃんってのは、大学で同じゼミに居た友達なんだ。

 綺麗な長い髪で、他の皆も羨ましがってたなぁ」

「へえ、大学ですか。大人が行く学校ですよね?」

「うん。まあその認識で間違いじゃないかな……」

 

 先生は曖昧に説明を放棄した。彼女にとってもそんな漠然とした場所なのだ、大学とは。

 

「ええ、大学って難しい試験をしないと入れないんでしょ?

 ユメ先輩、ちゃんと試験をパスしたんですか?」

「あー。私の場合、勉強したいって言ったら入れて貰えたよ。学力を計るテストはしたけど」

「知ってる、裏口入学って奴だよね」

 

 疑わし気にしているホシノとシロコ。

 先生は、なんでそんな言葉知ってるの、と笑った。

 

「うーん、あっちだと、キヴォトスの生徒が落ちてくるのって珍しいことみたいなんだ。

 だから私は向こうの政府で保護されて、色々と協力する代わりに生活を保障されてた感じかな」

()()()()()、ですか?」

 

 アヤネがその言い回しに疑問を抱くと、うん、と先生は頷いた。

 

「キヴォトスって、今でこそあっちと交流が出来るくらい技術が発展してポータルが安定してるけど、それまではお互いにどこにどれだけの時間行き来できるかわからなかったんだって。

 だから向こうの人達は、キヴォトスそのものを色んな名前や形で信仰していたりするんだよ」

「お互いに、お互いのことが分からなかったんですね」

 

 ノノミの言葉に、先生は頷く。

 だから、向こうの住人は、キヴォトスの人間が突然現れることを、落ちてきた、と表現する。

 

「キヴォトスのどこに、向こうの世界のどこが繋がるか分からない。

 それは多くの伝説として残っていて、例えば向こうでは天女が羽衣を取られて帰れなくなったってお話は、こっちの生徒が制服に入った学生証ごと取られて帰るに帰れなくなった、って解釈があるって教授が教えてくれたんだ」

「教授? 先生のゼミの担当ですか?」

「うん、キヴォトス学の教授。少し、いやかなり変な人かなぁ」

 

 ホシノは、ユメ先輩がここまで言葉を濁すのは、相当に変人なんだろうな、と思った。

 

「私もあの人のゼミでキヴォトス学を専攻してたんだ。だからちょっとは詳しいよ!!」

「いや、キヴォトスの住人がこっちに詳しくなくてどうするんですか」

「ち、違うよ!! 向こうの人にとってのキヴォトスって言うか、そう言う学問なの!!」

 

 セリカのツッコミに、先生はあたふたとしながらそう主張した。

 

「それで、向こうの人は、キヴォトスを神聖視していたんだよ。

 天国や、或いは地獄、仙郷や天部、高天原、アトランティスとか。

 個人的には、妖精郷(ティルナノーグ)ってのが好きかな!! 常若の楽園って意味だよ」

「いや、単純にこっちの生徒は卒業するから、大人の生徒に会えないだけじゃないですか」

「ま、まあ、そう言うことなんだと思うけど、ゆ、夢が無いなぁ」

 

 ホシノの現実的な指摘に、先生は唇を尖らす。

 

「キヴォトスは向こうの人達にとっても危険なのもあるけど、そう言う歴史があるから、政治とか宗教的な理由で、これまでキヴォトスに人的交流が無かったんだ」

「じゃあ、先生達が大勢来たのは、スゴイ事なんですね」

 

 うん、とノノミの言葉に先生は頷いて見せた。

 

「前代未聞だと思う。これだけの人数が移動したのは。

 私も、二度と戻って来れないかもしれないって書類にサインしたし。あっちの世界の思想や宗教を持ち込まないって、しつこいぐらいの枚数の書類にサインしたり。……それだけお互いにお互いの世界に慎重なんだよ」

 

 へぇ、と子供たちは先生の話を興味深そうに聞いていた。

 

「そんな難しい話は良いから」

「え、えー、私すごく勉強したのに……」

「ユメ先生の大学生活について教えて」

「う、うーん、それは別に良いけど……」

 

 シロコに押し切られ、唸る先生。

 

「私知ってます、キャンパスライフって奴ですね!!」

「こっちでも専門学校の学内をキャンパスって言うけど、やっぱり大学とは違うのかしら」

 

 テンションの高いノノミに対し、セリカはその違いがわからないようだった。

 

「うーん、あんまり変わらないと思うよ。

 でも、こっちの学校と違って、すごく狭いかな。大学って言うけど、ここの分校舎の敷地ぐらいで学校の施設の全部がある感じかな」

「えッ、じゃあ自治区とかはどうなってるんですか!?」

「先輩の通ってた大学って、うちみたいに潰れ掛けの学校だったってことですか!?」

 

 アヤネとセリカは混乱している。

 それは自分も通った道だ、みたいな表情の先生。

 

「ううん、私を保護してくれた国でも、五指に入る大学だって」

「うーん。あんまり想像が出来ませんね、国家って制度は」

 

 ノノミが悩ましそうにそう言った。それはお互い様であろう。

 

「私は最低限生活費は出てたけど、すぐに無くなっちゃうからバイトととかしてたよ。

 喫茶店のバイトとかすると、私が居る日だけ売り上げが何倍にもなるって店長さんも喜んでたんだからね!!」

 

 この人はお金の使い方下手そうだしなぁ、と思っているホシノとアヤネ。他三名は彼女のスーツ越しにでも主張しているデカい風船を見やって、なるほどと頷いた。

 

「やっぱり、向こうじゃキヴォトスの人間って珍しいみたいでね。

 エマちゃんもキヴォトス出身で、私より一年早くにあっちに落ちてきたらしいんだ。

 二年連続でキヴォトスの生徒があっちに落ちてくるのは本当に珍しいみたいで、でもお陰で寂しくはなかったかな。

 お互いに生徒会の役員をしてたし、すぐ友達になれたんだ!!

 私はエマちゃんを名前をもじってそう呼んでたし、私のことをクゥちゃんって呼んでくれてたんだよ!!」

 

 先生は楽しそうにそう言った。

 

「クゥちゃん!! 可愛らしいですね、先生ッ!!」

「えへへ、みんなもそう呼んでも良いんだよ!!」

「いえ、それはちょっと」

「流石にそれは……失礼ですし」

「ん、それとこれとは別」

「……ひぃん」

 

 生徒達の線引きに、ちょっと心折れそうになった先生だった。

 

「よ、よーし、それじゃあ、私は皆をあだ名で呼んじゃおうかな!!

 良いよね、ホッシー☆!!」

「いや、本当にやめてください。何ですかそのホッシーって、先生としての自覚を持ってください」

「ひぃん……」

 

 後輩のマジレスに、涙目になる先生だった。

 

「いいもん、私達大人は先生同士で仲良くするもんね!!

 エマちゃんや、百鬼夜行の先生とか、他にも人気者の女先生と女子会するんだもんね!!」

 

 ついに拗ねてしまった先生に、生徒達はちょっと反応に困った。

 

「……あれ、エマちゃんさんって、キヴォトスに来てるんですか?」

 

 ノノミがふとした疑問を口にした。

 

「あ、うん。そうだよ。なんて言ったかな、私も知らないような小さな学校の先生になったって言ってたよ。

 あ、そう言えば、教授も念願かなって来てたんだった……」

 

 先生はなぜか遠い目になった。

 彼女は彼の思い出を振り返る。

 

 『なに!? キヴォトスから新しい生徒がやってきただと!? 貴様が新しいサンプルか!?』

 『なんだと!? ヘイローが無くなった!? 多分卒業したから!? くそ、もっと調べたかったのに、触れたかったのに、出来れば舐めたかったのに!! この行き遅れめ!!』

 

 先生は記憶の蓋を閉め、一応の恩師を頭の中からを追い出した。

 

「……エマちゃんはホシノちゃんみたく強くてね。

 私が闇バイトに騙されて海外に売り飛ばされた時も助けてくれて、ついでに海外の人身売買組織を大立ち回りして壊滅とかさせてたんだよ!!」

「ユメ先輩、あっちでもこっちと大して変わらないんですね」

 

 ノー天気な先生に、そんな感想を漏らしたホシノだった。

 

「それよりも、借金返済です!!

 皆さん、なにか案はないんですか!!」

 

 キリの良いところで、アヤネがそう切り出す。

 

「うーん、そうだ、こう言うのはどうかな」

 

 シロコがスマホを取り出し、画面を見せた。

 

「あ、これ、ニュースでやってる奴ですよね。

 なんとかって学校の先生が、断食をしてるって奴」

「もう十日もずっとこのままなんだって。

 それで、キヴォトス中から支援が集まってるって」

「うんうん、でも流石にこれは真似できませんよ。

 こう言うのは純粋な気持ちでやるから素晴らしいんですよ」

 

 そうかな、そうですよ、とシロコとノノミは頷き合った。

 

「でも、私達の窮状を周知するのは良い考えだと思います」

「……そうよね。シャーレの先生みたいな人も、他に居るかもしれないし」

 

 一年生二人はそう述べた。

 

「うん、それじゃやっぱり!!」

「アイドルをやるんだね!!」

 

 ノノミと先生が声を揃えてそう言った。

 

「何でそうなるんですか!!」

 

 アヤネのツッコミが、今日も冴え渡った。

 

 

 

 

 

 キヴォトス某所、とある廃墟の一室。

 そこで怪人達の結社、ゲマトリアの邂逅が行われていた。

 

「此度の邂逅の音頭は、この私、マエストロが取らせてもらう」

 

 不気味な木人形が、身体を軋ませ両手を広げる。

 

「さて、各々議題は持ち合わせているだろうが、まずベアトリーチェの抱える問題について消化しよう」

 

 彼は他の怪人三人に、そう語った。

 

「アリウスの先生のことを知っているか?

 彼はベアトリーチェとお互いの“崇高”に対して問答を行った。

 結果的に彼女は彼に対して、自らの“崇高”を示し、我らがそれを認めねば首を斬ると宣言した」

「あの男が私を侮辱した、という文言が抜けていますよ」

「ああ、そうだな」

 

 ベアトリーチェの指摘を、マエストロはおざなりに肯定した。

 

「そして、アリウスの先生は自らの“崇高”を示した。

 都合二十一日の断食を行い、その姿をキヴォトスに示した……」

 

 マエストロの言葉からは、感嘆が漏れ出ていた。

 

「では、諸君らの所見を聞かせて貰おう」

「まず、マエストロの所感を聞かせて貰えませんか?

 貴方はどうやら彼に肯定的なようですので」

「うむ、よかろう」

 

 黒服の言葉に、マエストロは頷いた。

 

「我々にとって“崇高”とは“神秘”と“恐怖”、その両側面を持つと定義しているわけだが、彼は自らに課していた修行によってそれを示した」

 

 マエストロは語りだす。

 

「あれはまさしく、死という“恐怖”のパレイドリアであり、同時自らの信奉する“神秘”へと近づかんとする修験そのものだった」

 

 パレイドリアとは、雲が動物に見えたり、月の模様が人や動物に見えたりする、本来ならそこに意味のない、存在しないものを想起する錯覚のことである。

 点が三つあれば人間の顔に見えるシミュラクラ現象を支持し、そこに芸術を見出すマエストロにとって対照的な概念だ。

 

 どちらにせよ、意味のない物に価値を見出す、そんな概念だ。

 

「それによって、キヴォトスの者達は自らの根源的な感情から、同様の感情を“複製(ミメシス)”された。

 それはまさしく、真の芸術を目の当たりにした時、学の無い者どもですら感動を呼び起こすことに似ている」

 

 彼は自らの語彙、表現力を用いて、アリウスの先生を絶賛した。

 

「宗教の教義とは、究極的に単純化すればどれも似たようなことを並べていることに過ぎない。

 故に、異教の筈のトリニティの生徒達ですら、彼に感銘を受けたのだ。

 それは私が解釈する“崇高”の概念として、まさしく芸術家としての在り方を問われるものであった。

 彼は自らを悟りを開いた聖者の複製となり、人々に啓蒙を行ったのだ」

 

 根源的な感情から複製される感情、それにインスピレーションを抱いたマエストロは、そのように結論付けた。

 

「わたくしも、マエストロと同様の解釈を行いました」

「そういうこった!!」

 

 ふたりでひとりの怪人、ゴルコンダとデカルコマニーが応じた。

 

「彼は「記号」としての「死」に近づくことで、アリウスの生徒達の受けた迫害や苦痛などを文脈としてその身に下ろしました」

 

 ゴルコンダが語りだす。

 

「彼が自らに課した苦行と言う「記号」、それは見る者に同様の解釈を求める「テクスト」として現したのです。

 彼の苦行を見た者は最初、こう解釈しました。黙って座っているだけで、食べ物を恵んでもらおうなんて馬鹿らしい、と。

 これはまさしく、アリウスに対する迫害、周囲の無理解という「記号」を自らに付与したのです」

 

 マエストロはゴルコンダの解釈に身体を軋ませ大きく頷いた。

 

「修行と言う孤独に、彼はそれを放送し大衆に訴えると言う大衆性を示しました。

 ふふふ、彼の教義において、歌劇を見てはいけない、とある筈なのですが、彼の価値観において、教義と言うのはアップデートされるべきであると、そのような「テクスト」を感じざるを得ません」

「まあ、そういうこった!!」

 

 ゴルコンダは非常に文学的な言い回しで、とんだ生臭坊主め、と冗談めかして揶揄したのである。勿論、大人のウィットに富んだジョークである。

 

「私はお二人のように芸術に詳しいわけではありませんが、彼の成した影響力は評価せざるを得ないと判断します」

 

 黒服はより現実的な視点で語った。

 

「贅沢を贅沢とも思っていなかったトリニティの生徒達が、シスターフッドを中心に清貧を美徳として考えるように行動を始めました。

 大人として、社会に一石を投じたのです。

 彼の成し得た“崇高”は、私の求める解釈とは違いますが、偉業としては認められるべきでしょう。

 生徒達とは違う、神秘も宿さぬ身であれほどの苦行を成したのですから。

 ただ、シャーレの先生とは全く異なるスタンス、考え方、行動は興味深いと言わざるをえません」

 

 黒服にとって“崇高”とは研究し、解明するもの。

 芸術家肌の二人とは、スタンスが異なる。

 

「マダムはどのように考えていますか?」

「あんなもの、ただ三週間座っていただけではありませんか」

「……」

「……」

 

 ベアトリーチェの発言に、沈黙が降りた。

 彼女は無意味なことを無意味と言い、無意味に価値を見出す二人とは全く立場や解釈が異なった。

 

「ええ、それもまた肯定されるべき解釈でしょう」

 

 黒服は比較的中立の立場から、そう言った。

 

「ですが我々は大人です。お互いに偉業を成したのなら、認め合い、称え合うべきではありませんか」

「それは自らが何も成し得ていないことから目を逸らす、低俗な物言いですよ。黒服、貴方にとっても成果こそが全てでしょう?」

「……」

 

 黒服は押し黙った。

 

「とは言え、あれに利用価値が出来たのもまた事実。

 あの男が我が領地に留まるつもりが無いようですし、始末はいつでもできます。注目を浴びている間は見逃してあげましょう」

「……」

「……」

「……」

「私の計画にはなんら支障はありません。

 では、私はあの男が集めた物資の回収や配分を指示しますので、今日はこれにて失礼します」

 

 ベアトリーチェは廃墟から去ろうと踵を返す。

 

「マダム、今はあまり派手な行動は控えるのが賢明かと。

 キヴォトス出身の、凄腕なエージェントの先生が水面下で動いているそうですよ」

 

 しかし、黒服の忠告に返事は帰ってこなかった。

 ベアトリーチェが廃墟を去る。

 

「……私とて、世俗や芸術に理解の無い者達などの言葉などどうでも良いが、あれと同類と思われるのだけは遺憾であるな」

 

 マエストロがそう吐き捨てた。

 他の二人は無言だった。それが答えだった。

 

「では、遅れてしまったのですが、私から皆に新たな議題を。

 我々の活動に理解を示した、先生の一人を紹介しましょう」

 

 黒服の言葉に、ほう、とゴルコンダが呟いた。

 

「これ以上メンバーを増やすつもりはなかったのではないのですか?」

「ええ、そのつもりでした。

 彼はあちらの領域で、キヴォトスについて探求をしていたようで、大学で教鞭を振るっていたそうです」

「なるほど、我々の新たな同士になりうると」

 

 マエストロはその事実に喜びを感じていた。

 探求者としての同志が増えるのは、この場の誰にとっても喜ばしいことだ。

 

「それでは、彼を呼びましょう」

 

 黒服がスマホで連絡を入れると、程なくして彼は現れた。

 

「おお、まさに!! 悪の秘密結社の幹部会と言ったところか!!」

 

 その白髪の老人は、スラックスとシャツだけの、どこにでも居そうな知的で清潔な大学教授と言った風貌だった。

 

「私もこれから君たちと志を同じくするにあたり、仮装などをするべきだろうか!!」

「……黒服、彼がか」

「……ええ」

 

 マエストロも黒服も、テンションの高い彼にちょっと引いていた。

 

「おっと、申し遅れたな。私は向こうの世界でキヴォトス学について研究し教えていた、しがない大学教授だよ。

 ふふふ、私も普段は先生として教鞭を振るっている身なので、あえてこの場では教授(プロフェッサー)とでも名乗ろうか!!」

「ええ、今後ともよろしくお願いします。プロフェッサー」

 

 最初にゴルコンダ、デカルコマニーが彼と握手をした。

 他の面々も順番に握手をする。大人の対応である。

 

「教えて欲しい、プロフェッサーよ。

 貴方にとって、“崇高”とは何だ?」

「それは勿論、キヴォトスそのものだ」

 

 プロフェッサーと名乗った老教授は、即答した。

 

「我々にとって、キヴォトスとはかねてより上位の世界と考えられてきた。研究すればするほど、心惹かれる……。

 私達とは違うルールの世界……なんと甘美な響きだろうか。あんなつまらない世界、頼まれても二度と帰るものか!!

 私はこの世界に来るのを、子供の頃からずっと憧れていたのだ!!」

 

 彼は急に地面にうつ伏せになって、キヴォトスそのものを撫でまわし始めた。

 ドン引きする三人。

 

「ああ、叶うのなら生徒達のヘイローに触れたい、舐めたいどんな味がするんだろうか、触感は!!」

「まあ、探求の方法は各々異なる。それもまた自由だろう」

 

 マエストロは彼の奇行に対し、大人の対応をした。

 

「ところで、諸君」

 

 彼はスタッと立ち上がり、三人に言った。

 

「とりあえず、君たちに触れても構わないか? 私にとっては君たちもまた、憧れた愛おしいキヴォトスの一部なのだよ」

「……舐めるのだけはよしてくれ」

 

 怪人と変人の会合は、まだしばらく続いた。

 

 

 

 

 水面下で、表側で、少しづつ、少しづつキヴォトスが変わろうとしていた。

 

 そして、彼女もまたその一人だった。

 

「ねえサオリ」

「なんだ」

 

 トリニティの宿舎の屋根裏部屋で、ミカはある人物と密会していた。

 

「もしかしたら、本当にアリウスと和解できるかもしれない。そう思うことって、おかしいことかな」

「……不可能では無い筈だ」

 

 月明りから隠れるように、暗がりに立つサオリはそう言った。

 

「アリウスの先生は、私に新しい希望を見出してくれた。

 彼の頑張りを無駄にしてはならない。

 ミカ、私もマダムの目を盗んでここに来ている。話は手早くしてくれ」

「もう、相変わらず融通が利かないね」

 

 しかし、ミカは微笑んだ。

 

「私、ナギちゃんを説得する。エデン条約の調印式に、アリウスの生徒も出席させる」

「では、私の方からも、なるべくそれが叶うように手を回してみよう」

「うん、お願い」

「次からの連絡方法は、後程指示する」

 

 サオリは屋根裏部屋の窓を開け、周囲を確認してから夜の闇に消える。

 

「セイアちゃん……」

 

 ミカは月光を浴びながら、祈りの姿勢を取った。

 彼女は先ほどのサオリの言葉を思い返す。

 

 セイアは生きている。その言葉が彼女にとっての分水嶺だった。

 

 彼女に会って贖罪を果たさなければならない、ミカはその決意をもって、動き始めた。

 

 

 

 





外の世界からのキヴォトス考察、楽しすぎます。
後程、ユメ先生が言及した、エマちゃん先生の話も書く予定です。

プロフェッサー? なんで学校の擬人化でも何でもない、ゲマトリア側に追加人員が必要かって?
だって、補充の必要があるでしょう?(にっこり

あなたはどの先生に勉強などを教わりたいですか?

  • トリニティの先生
  • ゲヘナの先生
  • ミレニアムの先生
  • アビドスの先生
  • 百鬼夜行の先生
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