キヴォトス、先生大量発生中!?   作:ユメ先生

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今回はほのぼの日常回です!!



ミレニアムの先生:命の教育

 

 

 

 ミレニアムの一大コンテスト「ミレニアムプライス」が間近にせまり、準備でセミナーは大忙しだった。

 

 ミレニアムの先生は当然、審査員として出席する予定である。

 他にも審査員として招く知識人たちや、会場の確保。

 

 会長のリオを中心に、効率的に合理的に準備は進んでいく。

 普段は生徒達の部室に入り浸ったり、生徒達と一緒に発明品を試して爆発させて大笑いしたりしている先生だったが、流石にこの時期は中立を保つためにそう言うのは控えていた。

 

「……先生、聞いてください」

「どうしたね、ユウカ」

 

 セミナーで事務仕事を手伝っていると、何やら疲れ切ったユウカが先生に話しかけてきた。

 

「コユキがまたやらかしたようで。知ってますか、コユキ」

「勿論。ミレニアムの生徒は全員顔と名前を簡単なプロフィールを把握しているよ。

 黒崎コユキ。元セミナー所属、その才能からほぼ監視目的で起用されるも、問題行動を繰り返し既にセミナーを除名されている」

「ええ、流石です」

 

 先生の言葉に、ユウカは頷いた。

 

「入学当初からその能力を買われてセミナーに入ったのですが、先生がこちらにいらしてすぐにクビになりました。

 問題行動をするたびに叱ってはいるのですが、当人は全く反省するつもりもないようで」

「なるほど。聞いていた以上だね」

「こんなことで先生に煩わせるなんてどうかと思ったんですが、この時期は忙しいのにまたやらかしたようで……どうにか矯正できないでしょうか」

「ふーむ」

 

 ユウカはコユキを想って、厳しく接しているのにそれが伝わっていないようだった。

 先生は顎に手を当て、考える。

 

「他人の痛みに共感できない潜在的なサイコパスなのか、それとも才能があり過ぎる故に周囲と価値観がそぐわないタイプなのか」

「サイコパスって、そんな」

「別に珍しいことでは無いよ。

 あくまで向こうの話だが、人間はおよそ100人に2人の割合で、他人に暴力を振るったり殺害をすることに、躊躇いを持たない特性を持ったまま産まれるという論文がある。

 およそ全体の2%、少ないとは言えるが、珍しいわけでもない」

「それは、怖いですね」

 

 キヴォトスでは銃が当たり前のように、日用品として存在している。

 暴力の敷居が低く、住人達も頑丈だ。その2%がどれだけキヴォトスでは数を広げているか分からないだろう。

 

「ふむふむ、彼女の犯罪履歴を今ざっと洗ったが、これはスゴイな」

 

 先生はセミナーのパソコンで、コユキのやらかしを観覧する。

 

「私も先生としてはまだ未熟だ。

 他の先生と相談して、対応を考えさせてもらおう」

「……お願いします、頼りにしていますので」

 

 ユウカは頭を下げて、先生にそう言った。

 

 

 ミレニアムの先生は、主要な学校の先生達のモモトークのグループにて、相談をしてみた。

 

『これは忠告だが、無人島辺りに隔離した方がいい』

 

 と、ゲヘナの先生は言った。

 

『電子的な暗号をモノともしないと言うことは、どこの機密情報にも簡単にアクセスできるということだ。

 俺だったらそんな奴が存在するのは、世界のリスクと捉える。抹殺を含めた対処をされない理由が無い』

『ゲヘナの先生に賛同するわけではないが、私もその黒崎君に電子機器を近づけるのはよした方がいいだろうと考えるね』

 

 トリニティの先生も、そう答えた。

 

『彼女の人権を守りたいなら、その問題行動を矯正するほかない』

『まあ、どうしようもない時は俺に言えよ。黒崎コユキの能力や問題行動は俺も要監視対象として見ている』

 

 SRTの先生が、そう述べる。

 

『俺はキヴォトスでハイテクは信用していない。ミレニアムにもハッカーどもがいるだろう? ほかに強力なハッキングの技能を持つ生徒なんて幾らでも居る。それは非常に高いリスクだ。

 だから俺の可愛い生徒達に秘匿性の非常に高い独自のアプリを開発させ、連絡はそれを使うように義務付けている』

『男どもは血の気多くてイヤなるわ』

 

 百鬼夜行の先生が反応する。

 

『まだ15のガキやろ? 男は三日会わずば刮目して見よや言うやん。女はもっと早熟や、やりたいこと見つかれば自然と落ち着くようになるわ』

 

 彼女以降も、多くの先生達が反応する。

 

『しかし、彼女の頭脳は不安定な核爆弾に等しい。そのスイッチを15歳の多感な少女が握っているのだよ』

『でも排除を前提に語るのはおかしいです!!』

『勿論、その通りだ。

 だが、その生徒が自らの危険性を理解していないのが問題なのだ』

 

 論議は進んでいく。

 誰もがコユキの危険性を論じながら、彼女の身を案じている。

 

『ではこれまでの議論をまとめて、このように対処しよう。

 1、なるべく電子機器に触れさせない。

 2、彼女に常識を含めた情緒を育む教育を行う。

 3、自らの危険性を自覚させる。

 そのような方針で良いだろうか?』

 

 ミレニアムの先生がそう結論付ける。

 他の先生達も、異議はないようだった。誰も可愛い生徒達を害したいわけではないのだ。

 

 そして、幾つかの教育方法について、提案があった。

 その一つを、彼女は採用することにした。

 

 

 

「えー、課題ですかぁ?」

 

 反省部屋にぶち込まれているコユキは、うんざりしたようにそう言った。

 

「そうよ、先生があなたの為に、特別な課題を用意してくれたのよ」

 

 それを告げるユウカは、にっこりと笑っていた。

 壮絶にイヤな予感がするコユキだったが。

 

「君がコユキだね?」

 

 彼女たちの先生が、銀行にある厳重な金庫の扉みたいな反省部屋のドアを開けて入ってきた。

 

「は、はい、先生……」

 

 きっと怒られると思ったのだろう、コユキはちょっと顔を俯かせた。

 

「まず私の考えたクイズをやって貰おう。これをやってみたまえ」

「えぇ、クイズですかぁ」

 

 テーブルの上に、答案用紙を置く先生。

 そこに書かれた問題を見たユウカは、うわッとなった。

 

 素数に関する数字の問題が、ずらりと並んでいる。

 算術使いなどと称されるユウカでさえ、電卓が欲しい内容である。

 

「……はい、終わりました」

 

 それを、コユキは事も無げに解いて、提出した。

 何でこんな簡単な問題を出すんだろう、と不思議そうに先生達を見ている。

 

「……なるほど、驚いたよ。君なら素数にまつわる幾つもの謎さえも、解いてしまえるかもしれないね」

 

 素数と暗号は密接に関わっている。

 ネット上のメッセージの暗号などは、素数によって構築されている。

 人類の情報とは、素数で守られていると言っても過言ではない。

 

 そんな厳重な金庫の扉を、あれなんで開いてるんだろう、と言わんばかりに開けていくのがコユキだった。

 彼女に悪気も、自覚も無いのだ。自分がどれほど恐ろしいことをしているのか、無数の殺意や憎悪を向けられるようなことをしているのか。

 

 セミナーが彼女を囲い込もうとしたのも当然であった。

 そして、先生は彼女の頭脳を惜しいと思った。

 

「クイズは合格だよ」

「え、じゃあ、もう出ても良いんですか!?」

「いいや、次の課題を与えよう」

「ええ、またですか?」

 

 嫌そうにしているコユキを他所に、先生は外に出る。

 そして、ケージを抱えて入ってきた。

 

「あ、ワンちゃんです!!」

 

 そう、その中には子犬、黒毛のチワワが入っていた。

 

「コユキ、今日から君がこの子の世話をし、その観察日記をつけて提出するんだ」

「……え、それだけですか?」

「That's right。餌代やその他諸々の諸経費はセミナーに請求して構わない。いいね、ユウカ」

「そうですね。でも水増し請求したら、すぐに飛んでくるからね!!」

「は、はーい」

 

 先生は子犬をケージから出して、コユキに差し出す。

 子犬はコユキの顔を舐め始めた。

 

「わ、わあ、人懐っこいです、くすぐったい!! ありがとうございます、先生!!」

「気にする必要は無いよ。()()が私からの“課題”だからね」

 

 その先生の言い回しに、これが課題なのかと疑問に思っていたユウカがハッとなった。

 そして、その真意を察したユウカは畏怖を持って先生を見やる。

 

「それでは、ちゃんと世話をするんだよ」

 

 そう言って、先生は反省部屋を出て行った。

 ユウカも、それに続く。

 

「にははッ、可愛いです、名前は何にしましょうか!!」

 

 その日から、コユキと子犬の生活が始まった。

 

 

 

「にはははは!! こっちです、ノワール!!」

「ワンワン!!」

 

 ミレニアムのキャンパス内を、コユキと子犬が駆け回っている。

 コユキは子犬にノワールと名付け、その様は学内にすぐ周知された。

 

「わあ、チワワだ、可愛い!!」

「いいなぁ、コユキちゃんだけ!!」

「ねえねえ触ってもいい?」

 

 一人と一匹を見た生徒達が、近づいてそう言った。

 

「えへへ、良いですよ!!」

 

 コユキは笑顔でノワールを抱き上げ、彼女たちに触らせてあげた。

 

 

「コユキ!! ノワールを授業中の教室に連れてきちゃダメでしょ!!」

「えー、でもユウカ先輩、みんなノワールのこと、大好きなんですよ? 別にいいじゃないですか」

「そう言う問題じゃないでしょ!!」

「ワンワン!!」

「にははははッ、逃げろー!!」

 

 ユウカはお説教から逃げ出すコユキとノワールを見て、溜め息を吐いてから少しだけ微笑んだ。

 

「コユキちゃん、楽しそうですね。問題行動が減ったと聞きます」

「まあ、別の問題が増えたような気もするけど……」

 

 ノアが微笑み、ユウカは苦笑しながらそう言った。

 先生がコユキに出した“課題”は効果覿面だった。

 

 犬の世話をすることで、コユキが電子機器に触れる時間を物理的に減らすことに成功した。

 その代わり、コユキはノワールを可愛がる余り、高級な餌をセミナー名義で買おうとしたり、やたら高級なペットサロンにノワールを預けてその代金を請求してユウカをキレさせたりしていた。

 

 とは言え、コユキの問題行動は矮小化したのも事実だった。

 

「先生の課題の成果、このまま順調に行くと良いですね」

「……そうね」

 

 ユウカは少し躊躇いがちに頷いた。

 ノアはそんな彼女の表情を記憶し、その意味を理解するのはもう少し後だった。

 

 

 

「ワンワン!!」

 

「未知の生物を確認。あの生物は?」

「あ、アリス、あれはノワールだよ。セミナーが飼ってる犬なんだって」

「あれが犬。しかし、テイルズ・サガ・クロニクルでは言葉を話したはず、なぜあのように吠えているのですか?」

「それはお姉ちゃんのシナリオが……」

 

 才羽姉妹が最近廃墟で拾ってきたアリスと共に、キャンパスを駆けまわるノワールを見ていた。

 

「でも、あれ? なんか、元気なくない?」

 

 いつも元気に走り回っているノワールが、モモイの目には少しいつもと違って見えた。

 

 

 

「ユウカ先輩、大変なんです!!」

 

 その翌日だった、コユキがセミナーの本棟に駆けこんだのは。

 

「ど、どうしたの、コユキ!?」

「ノワールが、ノワールが元気がないんです!!」

 

 コユキが抱えているノワールは、彼女の言う通りぐったりとしていて、元気が無いようだった。

 

「生物系の部室を回って検査して貰ったんですけど、原因が分からなくて……」

「わかったわ。とりあえず、落ち着きましょう」

 

 泣きそうになっているコユキを、ユウカは宥める。

 

「おやおや、これは困ったね」

「先生、ノワールが!!」

「ああ安心したまえ。このままでは課題が継続できなくなってしまうのだろう?」

「……え?」

 

 コユキには、自分達の先生が何を言っているのかわからなかった。

 

「安心したまえコユキ。

 仮に()()が死んでしまっても、代わりの犬を用意しよう」

 

 その言葉に、周囲の生徒達も絶句した。

 

「せ、先生、何を言っているんですか!? ノワールに代わりなんていません!!」

「そうだね。その子の代わりなんて居ない」

 

 だけどね、と先生はこう続けた。

 

「他の人のお金も、同じだと思わないかい?」

「えッ」

「君がその子を大切に育てたように、他の人のお金もまた汗水垂らして頑張って得た物だ。

 だとしたら、仕方ないと思わないかい? 君はそうした努力の結晶を、奪ってきたのだから」

 

 だから自分の大切な存在が、理不尽に奪われる。

 それが自然の摂理だと、彼女は教えたのだ。

 

「ご、ごめ、ごめんなさいッ、も、もう、しませんッ!!

 だから、先生ッ、他の子なんて嫌ですッ、ノワールを助けてください!!」

 

 コユキはノワールを抱きしめて、わんわんと泣き始めた。

 

「もう、お金を盗ったりしませんからぁ!!」

「わかったよ、コユキ。私も手を尽くそう」

 

 先生はそう言って、慰めるようにコユキの頭を撫でた。

 ユウカが彼女を連れて、セミナーのオフィスから出て行った。

 

「……先生」

「やはり、犬は便利な生き物だ」

 

 今のやり取りで、彼女の真意を悟ったノアは自分たちの先生を見た。

 

「子供に生物の世話の大変さを通じて生命の大切さを教え、共に絆を育むことで情緒を育み、そして寿命の違いから最期に──死を教える」

 

 セミナーの生徒達は、先生を見ていた。

 

「私もモルモットを何千体と殺している。

 科学とは結局のところ、犠牲の果てに成り立っている。

 それは勿論、私や君たちも同じだ。私達の屍が礎となり、新たな科学の発展が築かれるのだ」

 

 ノワールもまた、教材の一つに過ぎなかったのだ。人類が大量に消費している動物の命の、そのひとつに。

 先生はスマホを取り出し、ノワールに投与し免疫機能を阻害していたナノマシンに停止命令を送った。しばらくすれば、あの子犬は元気を取り戻すだろう。

 

「……先生、でも」

「なにかな。リオ」

 

 デスクの奥に座っていたリオが、難しそうな顔をしてこう言った。

 

「取り返しのつかない物を犠牲にすることを前提にするのは、合理的とは思わないわ……」

「……そうだね。だからこそ、科学の発展が必要なんだ。

 科学は人々の幸福のためにあるのだからね」

 

 はい先生、とセミナーの生徒達は頷いた。

 

 

 

 それから数日、すっかりノワールは元気を取り戻した。

 

「にははッ、ノワール、取ってこーい!!」

「キャンキャン!!」

「凄いです!! 次はアリスもやります!!」

 

 アリスの投じたボールが遥か彼方まで飛んでいき、コユキとノワールは唖然となってボールが消えた方を見ていた。

 

「ああ、素晴らしいなぁ、アリス。あのような感情豊かなアンドロイドが実在するとは……」

 

 そんなアリスを遠くの木陰から眺める先生。

 アリスとそんな彼女、ゲーム開発部とシャーレの先生が取り巻く騒動については、また別の機会に語るとしよう。

 

 

 

 

「ミレニアムの先生だな? 頼みがある」

 

 木陰の背後、木々の隙間から黒づくめの人影が現れる。

 

「……ああ、君は、最近噂になっている、確かコードネームは、『エマ』だったかな」

 

 ミレニアムの先生は振り返らず、そう答えた。

 

「そうだ。同じ先生として、内密に協力してほしいことがある」

「ふむ、まあ話だけは聞こうか。

 まず場所を変えよう。ここは、優秀なハウスキーパー達の庭だからねぇ」

 

 ミレニアムでも、少しづつ、水面下で物語は進んでいた。

 

 

 





作者も小学生の頃家に迷い込んだ雑種犬を家族で飼ってたのですが、二十年くらい長生きしました。
最後は夏の暑さにやられて旅立ちました。大往生だったでしょう。

次回以降の構想はまだ決まってないので、少し時間がかかるかもしれません。
それでも高評価や感想は待ってますので、皆さん喝采を。更新と言う崇高を証明した喝采をお願いします。

あなたはどの先生に勉強などを教わりたいですか?

  • トリニティの先生
  • ゲヘナの先生
  • ミレニアムの先生
  • アビドスの先生
  • 百鬼夜行の先生
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