キヴォトス、先生大量発生中!?   作:ユメ先生

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お待たせしました。インフルエンザが憎いです(涙



アビドスの先生:大人たちの戦い

 

 

 

 アビドス市街地での戦いが終わり、ワイルドハントの先生のライブが始まった。

 彼女は自分の連れてきた生徒とゲヘナの先生が連れてきたゲヘナの生徒と一緒に街中で大騒ぎを始める。

 

 地元の警察に一時間ぐらいは大目に見てください、とお願いして、アビドスの面々は一度校舎に戻ることになった。

 

 今後の方針について話し合っていると、シャーレの先生はアビドスの先生が居ないことに気づいた。

 廊下を見て見ると、床に怪しげな黒いカードが落ちていた。

 

 そこにはアビドスの市街地にある、とあるビルディングの住所が書かかていた。

 そこにわざわざシャーレの先生宛、と書かれていたのを見て、彼はハッとなった。

 つまり、アビドスの先生はこれを見て、この場所に向かったのではないか、と。

 

 シャーレの先生は生徒達に断わって、この住所の場所へと向かった。

 

 

 

 彼が件の住所のビルディングに到着すると、アビドスの先生は入り口の前でスマホを見ていた。

 

「“アビドスの先生!!”」

「あッ、シャーレの先生……」

「“一人で行くなんて、危険ですよ”」

「……ごめんなさい」

 

 アビドスの先生は素直に頭を下げて謝った。

 

「……でも一人で行くつもりはありませんでした」

「“え?”」

「あ、ほら」

 

 アビドスの先生が手を振ると、路地の向こう側からレザーコートを纏った大人が近づいてきた。

 

「エマちゃん!! ごめんね、何度も呼び出して」

「構わない。私も気になって、カイザーを探っていた」

「“あなたは……?”」

「エマだ、シャーレの先生」

 

 彼女はシャーレの先生から目を逸らして、そう名乗った。

 

「クゥちゃん……ユメとはあちらの大学で同じゼミだった。

 私も彼女と同じキヴォトス出身で、こちらでの経験を生かして先生達のエージェントとして活動している。

 エマとは、コードネームだ」

 

 と、エマはそう自己紹介した。

 

「“あなたも先生ですよね? 学校の方は大丈夫ですか?”」

「ああ。うちの生徒は手が掛からない上にしっかりしている。私の活動をカッコいいと喜んでくれているよ」

 

 そうなんですね、とシャーレの先生は頷き返した。

 そして、よろしくね、と挨拶をした。

 

「荒事になるなら、任せてくれ。

 クゥちゃんは危なっかしいからな」

「“ああ、アビドスの先生が攫われた時に助けてくれた友達って!!”」

「……そのことか。クゥちゃんはキヴォトス時代の友人に雰囲気が似ていてな。放っては置けないんだ」

「“なんだか分かる気がします”」

「ひぃん……」

 

 二人から頼りないと思われていて、ちょっとショックなアビドスの先生だった。

 

 

 三人がビルディングに突入し、目的の階層へと辿り着いた。

 そして、エマがドアを蹴り開け、銃を構える。

 

「私がお呼びしたのはシャーレの先生だけでしたが、まあいいでしょう」

 

 薄暗い部屋に彼女達を待ち受けていた怪人はそう独り言ちたが、すぐに気を取り直した。

 

「その物騒なモノを下ろしてください。私に争う意思はありません」

「……クゥちゃん」

「……いいだろう」

 

 エマは拳銃を下ろし、後ろに下がった。

 

「私は扉の外を警戒している」

「“うん、ありがとう”」

 

 エマは室内を見渡し、外からの増援を警戒しに扉の裏に回った。

 

「さて、貴女方のことは知っていますよ。連邦生徒会長が呼び出した不可解な存在。

 あのオーパーツ「シッテムの箱」の主たるシャーレの先生。

 そして、此度の事変でも特異な経歴を持つアビドスの先生」

 

 彼は身体の前に手を組んだまま、そう語る。

 

「あなた方を過小評価する者もいるようですが、私達は違います」

 

 二人は、目の前の異質な存在に息を飲む。

 ホシノの手紙に書いてあった、黒服と彼女が呼んでいる大人だとすぐ理解できた。

 

「先ほども申し上げましたが、私達はあなた方と敵対するつもりはありません」

 

 むしろ協力したいと思っています、と彼は言った。

 アビドスを巡る騒動において、自分達の計画で一番の障害になりうるからこそ、だと。

 

 シャーレの先生は問う、あなた達は一体何者、と。

 

 彼は言った、自分達もキヴォトスの外部の物であり、また違った領域の存在である、と。

 そして名乗った。自分たちのことは、ゲマトリア、と。

 

「ゲマトリア……数秘術?」

「ほう、よくご存じですね。ですが、こちらではその意味合いは少々違います」

 

 彼は自らを黒服と呼ぶように求めた。

 

「かつてキヴォトスに、ゲマトリアと呼ばれる集団が存在していました。我々はその名を借りているにすぎません」

 

 自分達は、観測者であり、探求者であり、研究者である、と。

 あなた方と同じ、「不可解な存在」だと。

 

「一応お聞きしますが、ゲマトリアと協力するつもりはありませんか?」

「“断る。微塵もない”」

「その通りです。……貴方がホシノが言っていた人ですよね?

 お願いです、ホシノちゃんを返してください!!」

 

 二人の対応に彼は、左様ですか、とつまらなそうに言った。

 

 彼は問う。真理と秘儀を手に入れられるこの提案を断ってまで、キヴォトスで何を追求するのか、と。

 シャーレの先生は、そんなものに興味はない、と切って捨てた。

 自分達はホシノを取り戻しに来ただけだと。

 

 黒服はそんな二人を嘲笑うようにこう言った。

 ホシノが自主的に退学した以上、二人にそれを要求する正当性は無い、と。

 

 しかし、シャーレの先生は、顧問である自分と、担任であるアビドスの先生のサインをしていないし、それを連邦生徒会に提出もしていない、だから今もホシノは私達の生徒だ、と啖呵を切った。

 

「その通りです!! ホシノちゃんの自主退学を、アビドス生徒会は認めていませんし、連邦生徒会に届け出も出していません」

 

 二人の主張に、意外にも彼は理解を示した。

 今後の対応を熟考している彼に、シャーレの先生は言った。

 

「“あなた達はあの子たちを騙し、心を踏みにじり、その苦しみを利用した”」

 

 彼は怒っていた。自分達が担当する子供たちを弄ぶ彼らに。

 

 黒服はそれを否定しなかった。他人の不幸より自分たちの利益を優先したと。

 

「私達の行動は善か悪かで言えば間違いなく悪でしょう。

 しかし、ルールの範疇です。それは誤解しないでいただきたい」

 

 アビドスの災厄は自分たちの所為ではない、と彼は語る。

 自分達がしたことは、砂漠で水を求める者にそれを法外な値段で売っただけだと。

 

 そうして、彼は富める者が搾取する社会の現実を語った。

 

「そういうことですから、アビドスから手を引いて頂けないでしょうか、シャーレの先生。

 アビドスの先生も。これまで通りあなたもあの場所で働いて貰って構いません。私が助けて差し上げましょう」

 

 カイザーの方も自分達で解決する、と彼は豪語する。

 それはホシノも望んでいることだと。

 

「“断る”」

「冗談じゃないです」

 

 だが、それを二人は断った。

 その対応を、黒服は理解できずにいた。

 

「どうしても、我々と敵対するつもりですか?」

 

 その言葉に、シャーレの先生は大人のカードを取り出した。

 遅れて、アビドスの先生も同じく大人のカードを取り出す。

 

 彼はそれを見て、二人を諫めた。

 それには、代償があると。

 

「特にアビドスの先生。あなたはこちらに戻って来る為に、既に大きな代償を支払っている筈です。

 無意味にそれを使用するのは、賢いとは言えません」

「今、これを使うことが無意味だと思いますか?」

 

 アビドスの先生は、彼に問いかけた。

 

「なぜ?」

 

 なぜなぜなぜ、と彼は心底理解できないと言うように立ち上がり、二人に詰め寄った。

 

「“あの子たちの苦しみに対して、私達しか責任を取る大人が居なかった”」

 

 シャーレの先生は悲しそうにそう言った。

 

「……何が言いたいのです?

 だからあなたが責任を取るとでも? あなた達はあの子たちの保護者でも、家族でもありません。

 シャーレの先生、あなたは偶然アビドスに呼ばれ、偶然あの子たちと会っただけの他人です。

 アビドスの先生も、偶々あの学校を卒業し、偶然あの子たちの担当になっただけの他人ではありませんか」

 

 黒服は、なぜそんな取る必要の無い責任を取ろうとするのか、二人に問いかけた。

 

「“それが、大人のやるべきことだから”」

「私が、アビドスの先生だからです」

 

 二人は、そう答えた。

 

「大人とは「責任を負う者」、そう言いたいのですか?」

 

 その考えは間違っている、と彼は言う。

 彼にとって大人とは、社会を改造し、法則を決めて、規則を決め、常識と非常識を決め、平凡と非凡とを決める者、だと。

 権力、知識、力によって、それの無い者を支配する、それが大人であると。

 

「シャーレの先生、あなたはこのキヴォトスの支配者にもなり得ました」

 

 しかしその全てを躊躇い無く手放したと、彼は糾弾する。

 その選択を、彼は理解できなかった。

 

「アビドスの先生、あなたもです。なぜキヴォトスに戻ってきたのですか?

 そんなことをする必要はあなたには無かった。

 なぜ、自らの神秘を手放し、天空から地に墜ちたのですか?」

 

 彼はそれを、理解できなかった。

 

 シャーレの先生は、アビドスの生徒達の笑顔が脳裏に過った。

 

「“……言っても理解できないと思うよ”」

 

 憐れむような、悲しむような、そんな彼の言葉だった。

 

「私がなぜ戻って来たか、そう言いましたよね」

 

 アビドスの先生は、口を開いた。

 

「私は先生として、子供たちを育て、未来の希望として、送り出す為に戻ってきました」

 

 彼女はそう言った。

 

「あなたが社会人だと言うのなら、教えてください。

 一時の水を与える為に、その相手を奴隷のように虐げる。その道義的責任はなぜ問われないと思うのですか?

 あなたは自分の行いが悪だと仰った」

 

 彼女は断固として、そう言った。

 

「その行いが世間に対してなんら恥じることが無いなら、なぜ堂々としないんですか?

 子供相手にしか、弱い者相手にしか出来ないから、そうなんじゃないんですか?」

 

 アビドスの先生は、社会人として黒服を糾弾する。

 

「まだ自らの責任を持てない子供をその対象にする意味は?

 御社は子供の将来性を奪い、未来を奪い、それでどのように社会に貢献するつもりなんですか?」

 

 淡々とそう言葉を突き付けるアビドスの先生に、シャーレの先生も少しギョッとした。

 

「貴方がやっていることは、経済活動でも何でもない。

 社会になんら還元するつもりもない利益を、自分達で独り占めしているだけでしょう?

 次世代を育むこともなく、畑に実っていると言うだけで種を巻くことも無く根こそぎ奪い取って土地を枯らせる、そんな所業です。

 違うと言うなら教えてください、あなた達は企業として、いったいどんな社会貢献をしているんですか?」

「我々の組織の、公共性を問うているのですね?」

 

 彼は臆することなく、アビドスの先生に返した。

 

「我々はキヴォトスにいずれ来るだろう災厄を予期し、それに対する対策を立てています。

 それは結果的に、キヴォトスの保全と言う多大な利益となって還元されるでしょう」

「その為に、子供を犠牲にするんですか?

 そんな社会を存続して、意味があるんですか?」

「それは間違った認識ですよ、梔子ユメさん」

 

 黒服は首を振った。

 

「社会の発展のためには、時には子供ですら犠牲にする。それが社会と言うものです。

 煙突を掃除する子供が墜落死しても、鉱山から鉱毒が垂れ流しになっても、時にはそれに目を瞑り、文明の推進に躍起になるのが社会と言うものです」

「あなたは、それを良しとするんですね」

 

 アビドスの先生は、悲しそうに目を伏せた。

 

「あなたは自身を研究者と仰った。

 大人は望む通りに社会を改造する者だとそう仰った。

 なら、なぜ子供が犠牲になる社会を変えようと、より良くしようと思わないんですか?

 自分が興味がないことは、どうでも良いんですか? だとしたらあなたは、研究者でもなんでもない!!」

「ッ!!」

「私は凡庸な人間です。貴方の語った大人の役割は、きっと正しいんだと思います。

 でも、私はそんな人間じゃありません。

 それでも、貴方の言うように何かを決めるのが、大人なのだと思います」

 

 彼が言ったように、アビドスの先生は無力だった。

 

「私は自分で決めました。アビドスの先生になる、と。

 それが、私の大人としての在り方です」

 

 彼女は堂々とそう言い放った。

 

「……クックックッ」

 

 すると、黒服は笑い始めた。

 

「そうですか、そう言うことですか。

 此度の事変、各学校が代行者を選び、それを象徴とした。

 地に墜ちたと思っていましたが、違ったのですね」

 

 彼は何やら自分で何か納得したように頷いた。

 

「此度の邂逅は、実に有意義でした」

 

 黒服はそう言うと、ホシノの居場所を伝えた。

 

 ゲマトリアは、あなた達のことはずっと見ている、と言い残して彼は去った。

 

 

「あなたは」

 

 室外の壁に寄りかかっていたエマに、黒服は言った。

 

「自分がこの世界に居場所があると思っておられるのですか?」

「……」

「そうですか。自覚はあるのですね」

 

 黒服はそうして、この場を後にした。

 

 

 二人の先生は、カイザーの動向を調べに行ったエマと別れ、ホシノの居場所をアビドスの生徒達に伝えた。

 その頃にはすっかり夜になっていたが、皆はホシノを助けると決意を新たにした。

 

 その為に、彼女たちは他の学校に助力を求めに向かうのだった。

 

 

「よう、いい顔になったな、二人共」

 

 ゲヘナ学園にて、二人はゲヘナの先生に会った。

 

「事前に話は伺ってたとおり、風紀委員会に話は通しておいた。

 後はそっちでやってくれ」

 

 彼はゲヘナの校門の前でタバコを吸っていた。

 

「えーと、ゲヘナの先生は協力してくれないんですか?」

「俺は政治には関わらないことにしてんだ。

 ガキ同士の政治ごっこなんざ興味ないからな」

「そうですか……」

 

 ちょっと期待していたアビドスの先生は肩を落とした。

 そして二人は校内の風紀委員会の本棟に向かって行った。

 

「……生徒達の為に、基地に殴り込みね。

 いいねぇ、その若さ。羨ましいよ」

 

 彼はスマホを取り出し、各方面に連絡を入れ始めた。

 

 

 

「シャーレの先生、こうして直接顔を合わせるのは初めてだね」

 

 トリニティの先生は、そう言って二人に握手を求めた。

 トリニティにまでやってきた二人は、順番にそれに応じた。

 

「そして君がアビドスの先生だね? ゲヘナのから事情は聞いているよ。

 カイザーのやり方は、時期に先生達全員に共有され、危険視されるだろう」

「ありがとうございます」

「連邦生徒会が手を出せないのなら、我々がやる他ないだろう。

 連中には、我々なりの大人のやり方を思い知らせねばなるまい」

 

 二人は目の前の老人に気圧された。

 好々爺然とした笑みを浮かべているのに、目が笑っていない。

 

「誇りある戦いに向かうものには餞別があるべきだと、私は思っている。

 シャーレの先生、この件は成否に依らずに、全ての先生に君のスタンスを知らしめることになるだろう」

 

 彼は政治家として、自分達の顔であるシャーレの先生にそう告げた。

 

「少なくとも私は、君を認めているよ」

「“ありがとうございます”」

「そしてアビドスの先生」

「は、はい」

「アビドスほどではないが、困窮している学校は幾らでもある。

 その先生達のモモトークのグループを紹介しよう。各々の学校の強みや弱みを通じて、助け合おうとしている。君の助けに成る筈だ」

「はい、ありがとうございます」

 

 老人は若者二人を見て、頷いて見せた。

 

「気にすることはない。私の生徒を助けてくれた、その小さなお礼に過ぎないのだから。

 桐藤君には話を通しておく。存分にやり遂げたまえ」

 

 

 

「なるほど、アビドス砂漠をミレニアムが開発した兵器の試験場として提供してくれる、と。

 ではそちらの行動に合わせて、うちの生徒達を向かわせよう。

 ああ勿論、我々はどこまでが君たちの土地か分からない。そういうことだね?」

 

 ミレニアムの先生が二人にそう言ってニヤリと笑う。

 

 

「身の程知らずの俗人どもが、子供を攫った、か。

 良いだろう、カンナに話を通しておく。恐らく、その俗物どもの寝床に、最悪のタイミングで捜査が入るのだろうな」

 

 ヴァルキューレの先生が眠たげに二人にそう応じた。

 

 

「報道なら任せてください、二人共!!

 カイザーどもの悪逆非道は、あること無いこと全部キヴォトス中にぶちまけてやりますから!!

 連中に思い知らせてやりましょう、正義は常に報道の光の下に照らされるのだと!!」

 

 クロノスの先生が、二人に向けて満面の笑顔でそう言った。

 

 

「へぇ、カイザーの基地にカチこむのかい!!

 いいねぇ、今度は寮監隊を引き連れてそっちでライブしてやるよ!!

 イーヒッヒッヒ!! カイザーどもをスクラップアートにしてやろうかね!!」

 

 ワイルドハントの先生が頭を下げる二人に向けて、楽しそうに高笑いをした。

 

 

 

 滅茶苦茶だった。

 

 各学校の先生が手配した戦力が、アビドス砂漠のあちらこちらで大暴れしている。

 

 違法な利子の件でヴァルキューレの生徒がカイザーローンの本社に踏み入り、アビドス砂漠ではクロノス報道部のヘリが戦いの有様を実況している。

 ミレニアムの実験部隊が思い思いの兵器を好き勝手に使用し、ワイルドハントの先生を好き勝手させられないと寮監隊が出動しカイザーPMCの部隊と交戦している。

 そこにゲヘナの風紀委員会と、トリニティの部隊まで展開している。

 

 まさにフルボッコと言わんばかりの状況だった。

 

 

 

 

 カイザー基地の実験室にて、ホシノはかつての先輩を思い返していた。

 

 自分との日々を、臆面も無く奇跡と称する満面の笑みを。

 ホシノは思っていた。奇跡とは、希少で、希薄で、そして特別なモノであると。

 

 そしてそれを失い、彼女は思い知っていた筈だった。

 仲間との当たり前の日常こそが、何よりも尊い、守るべき小さな奇跡の連続であると。

 

 それは大人になったら、失われるかもしれないものであるかもしれなかった。

 

 だが、彼女は戻ってきた。自らの奇跡を証明するために。

 自分が信じた奇跡が、他の誰にでも等しく与えらえるものであると。

 

 それは奇しくも、ホシノが守りたかったものだった。

 後輩達との日々、それがちっぽけで下らなくも、苦しい毎日だとしても。

 彼女たちの出会いこそが、特別で、何事にも代えがたい奇跡そのものだった。

 

 ホシノを閉じ込めていた実験室の扉が開く。

 

「ホシノちゃん!!」

 

 太陽さえ包み込む、大空のような抱擁が彼女を包み込んだ。

 ホシノはすぐに状況を理解できなかった。

 

「えへへッ、今日は私が助ける番だったね!!」

 

 その笑顔を見たホシノは思った。ああ、これは空の上の太陽でも形無しだ、と。

 

 

 この一連の騒動は、シャーレの先生と、他の先生達のスタンスを明らかにした。

 これに関わっていなかった先生達の多くも、その活躍に唸る他なかった。

 借金問題や砂嵐対策など、何の解決もしていない、と指摘する先生も居た。

 

 だが、キヴォトスは思い知ったのだ。

 生徒達を味方する、大人たちの存在を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、現在へと時は戻る。

 

 

「ようやく追い詰めたぞ、“エマ”」

 

 キヴォトス某所、とある港の倉庫街にて、サオリ達は闇夜の中である人物と戦っていた。

 

「……」

 

 サオリと対峙したエマは、何も語らない。

 他の三人は、支援に回っている。

 

「大人しく武器を置け、貴様は包囲されている」

 

 サオリが銃を突き付ける。

 すると、意外なことにエマは武器を捨てた。

 自動拳銃が床を滑る。

 

 彼女は手を挙げながらも、ゆっくりと胸元のポケットからスマホを取り出した。

 

「動くな!!」

 

 サオリの警告を無視し、エマはスマホを操作する。

 

 サオリは引き金を引こうとした。

 だが、スマホのか細い光が照らす事実に、硬直した。

 

「後ろがお留守だが、良いのか?」

「なに?」

 

 その直後だった、サオリの身体が崩れた。遅れて銃声がやって来る。

 狙撃だ。サオリは思った、馬鹿な、この周辺は制圧済みの筈だ、と。

 

 サオリは、スマホに照らされたエマの顔を見上げながら気を失った。

 

 程なくして、スクワッドの三人が姿を現す。

 

「ご、ごめんなさい、リーダー……。で、でも、一発だけなら誤射ですよね? ゆ、許してくれますよね?」

 

 ヒヨリは倒れたサオリに謝りながらも、介抱を始めた。

 

 エマはまだ、そこに居る。一歩も動いていない。

 ミサキは警戒心で身体を震わせながらも、彼女から顔を放せないでいた。

 

 アツコが、マスクを取った。

 

「危なかったね」

 

 彼女は、こう言った。

 

「――サっちゃん」

 

 エマがフードを下ろす。長い黒髪が、露わになる。

 そこには、目の前に倒れている少女と、同じ顔が存在していた。

 

「いつになっても、己の愚かさを直視するのは嫌になるな」

 

 エマは、かつて“サオリ”と名乗っていた女はそう呟いた。

 

 

 

 

 





ちなみに、これまで単独行動していたサオリは、全部エマでした。
ミカと話していたシーンとか、彼女が知る筈の無い某フォックスの情報を知っていたりしてたので。

彼女の設定をどう明かそうかと思っていたのですが、もうそれなりに話数があるので、今回開示しました。
エマの正体、分かった人居るでしょうか? 読者の皆さんを驚かせられたらうれしいです。
彼女は所謂、今作のシロコテラー枠と言うべきでしょうか。

そういうわけなので次回は、エマの視点をやります。

あなたはどの先生に勉強などを教わりたいですか?

  • トリニティの先生
  • ゲヘナの先生
  • ミレニアムの先生
  • アビドスの先生
  • 百鬼夜行の先生
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