キヴォトス、先生大量発生中!? 作:ユメ先生
キヴォトス某所。
とある学校の自治区の都市部の片隅にある、とある孤児院。
そこは身寄りのない幼い子供たちが暮らしていた。
「エマちゃん先生!!」
「どうした?」
「あたしね、さんすうできるようになったよ!!」
「そうか、偉いな」
エマはそこに身を潜める一方で、彼女たちの世話を手伝っていた。
彼女たちを見て、自分達よりはマシか、とエマは思った。
彼女たちは孤児だが、小学生になる年齢になれば学籍を与えられる。
入学費無しを謳って生徒を集めているどこかの学校に入学して、最低限勉強のできる環境に身を置くことができる。
「ねえエマちゃん先生」
「どうした?」
「わたし、べんきょうなんていやだよ、ねえ、どうしてべんきょうなんてしないといけないの?」
そんな幼い子供に話しかけられ、エマはしゃがんでこう言った。
「大事なのは、勉強することじゃない」
「え、じゃあどうして?」
「お前は将来何をしたい?」
「うーん、れんぽうせいとかいちょう!! えらくなっておなかいっぱいたべたい」
「そうか」
エマはそんな少女に微笑みかけて、頭を撫でた。
「でも偉くなるには、勉強しないといけないんだ」
「うーん……」
「もし連邦生徒会長になれなくても、他にやりたいことができたら、それを出来るようになれるんだ。
勉強をしていれば、可能性が広がるんだ」
「かのうせい……」
「そうだ、お前達には無限の可能性があるんだ。その可能性を掴むために、勉強が必要なんだ」
エマは、かつて自分にそう教えてくれた先生の言葉を伝えた。
「うーん、わかった……。べんきょう、がんばる!!」
「ああ、そうした方がいい」
彼女はエマから離れ、他の子どもたちのところに行ってしまった。
ボランティアで保母をしている大人の住人達が、エマに会釈する。
「無限の可能性、か。……先生」
エマは思い返す、自分が先生と呼ばれるまでに至った、その経緯を。
「卒業おめでとう、みんな」
サオリ達はその日、祝福されていた。
アツコに花束を、先生から卒業証書を受け取った。
アリウス分校が生まれ変わって、二度目の卒業式。
一度目は送り出す側で、二度目は送り出される側だった。
在校生たちが、涙を流しながらサオリ達を見送った。去年は自分もそうだった。
サオリはミサキとヒヨリと共に、キヴォトスを去るまでの間自分たちの将来について話し合っていた。
しかし、ふと彼女は気づいた。
周囲が霧に包まれている。
ミサキも、ヒヨリも居ない。
二人の名前を呼ぶが、返事はない。
やがて、彼女は謎の浮遊感に襲われ、
サオリは気が付くと、警察に保護されていた。
彼らは彼女が手にしている卒業証書を見ると、病院へと運ばれることになった。
困惑する彼女に、警官は優しくこう言った。
「落ち着いて聞いてほしい。ここはキヴォトスじゃない」
「なんだと……」
「困ったなぁ、とりあえず銃刀法違反は不起訴の方向で──」
彼女は混乱した。
ここはキヴォトスではない、卒業をしたからか?
だが、そうではないようだった。
とりあえず、サオリは病院で検査入院することになった。未知の病原菌を持っていないか調べたりする為だと言う。
検査が終わると、とある大学の教授と名乗る男が病室に現れた。
「なんだ、キヴォトスの生徒と聞いて飛んできたが、既にヘイローが消えているじゃないか」
その男の言葉に、彼女は自分のヘイローが消えていることに気づいた。
「私は、どうなる」
「とりあえず、連邦生徒会に君を照会して、こちらの身分を作ることになるだろうね」
「キヴォトスには、戻れないのか」
「向こうは卒業証書を持った者は、あちらの人間ではないと認定している。君はもう、こちらの住人と言うことだ」
教授と名乗った男は肩を竦めた。
「不安なのもしょうがないだろうが、君のような人間は連邦生徒会との条約で国で保護することになっている。
その代わり、キヴォトスのことについて色々と聴取することになるだろうが。
それをするのが私だから、出来れば私の大学の方に来てくれると助かるのだがね」
「大学……大学に入学できるのか?」
「お、乗り気だね」
教授はサオリの反応に、嬉しそうに笑った。
「うむ、国連と連邦生徒会との取り決めでね。
卒業証書を持った生徒が現れたなら、可能な限り望む進路へと進ませることになっている。勿論、それは当人の能力次第で、一応特別扱いはしないことになっているが、形だけだろうね。
なにせ、生徒以外のキヴォトスの住人が墜ちてくるのは我が国では数十年振りだ」
君はその取り決めが出来て我が国初めての来訪者だ、と教授は言う。
「……大学に行けば、教師になれると聞いている」
「ほう、教師か。勿論、君が望むのなら。
分かった。それで役人と話を進めておこう。
この後、役人が来て事情聴取などもあるだろうが、適当に受け答えして構わない」
教授の言う通り、彼が帰った後も代わる代わるどこの省の役人やらが現れて、サオリの話を聞いては帰って行った。
そして、後日正式に彼女は国民として国籍が与えられた。
彼女の持っていたスマホがこちらでも使用できたので、Wi-Fiを拾って情報を集めると、彼女は驚いた。
『キヴォトスからの来訪者!? 実に数十年振りと政府が発表!!』
そんなニュースが、国中に飛び交っていた。
それらの情報を統合すると、教授が言っていたことは全て本当だったようだ。
一応、騙されているかもしれないことを前提にしていたが、それについてはホッとしたサオリだった。
一夜にして国中で有名人と化したサオリだったが、一応未成年であることとプライバシーの観点から名前は伏せられていた。
が、この時代知りたがりは幾らでも居た。
どこからかのリークもあり、サオリの容姿と名前は一瞬で国中に広がった。
その辺に無頓着だったサオリは気にしなかったが、一応保護者として名乗り出た教授は煩わしそうに関係各所に抗議を行った。
「報道関係の俗物どもに関わり合う必要はないよ。
あれは君を搾取することしか考えていない」
「……クロノスの連中みたいなものか」
「クロノス? ああ、キヴォトスの報道関係の学校だったね。
あれはそれ以上さ。自分たちの利益しか考えていない分、よりたちが悪い」
そうか、と一応の保護者の助言に、サオリは頷いた。
サオリは大学や寮に押しかける報道関係者を徹底的に無視した。
程なくして世間は興味を失ったが、サオリは困ったことになった。
「教授、最近帰り道に尾行をされている。
寮の室内に監視カメラが設置されているのを見つけた。これはもしや敵が私を探っているのだろうか?」
「……はあ」
教授は溜息を吐くと、警察に通報した。
サオリは逆にストーカーを尾行して相手の所在地を把握していたので、あえなくその犯人は逮捕された。
しかし、サオリのジェネレーションならぬ、ワールドギャップは続く。
「教授、今日は私をキヴォトスから来た天使様だと言う集団に囲まれたのだが……」
「……(イラッ」
結局サオリは、定期的に住居を変える羽目になった。
「ええーッ、サオリさん、うちの学校のミスコンに出ないの!?」
「ああ、興味無い」
何とか平穏を得られたサオリは、教授のゼミに所属し、しばらくしてその女子大生仲間からそんなことを言われた。
「サオリさんならミス大学になれるって!!
その抜群のプロポーションなら、雑誌とかに引っ張りだこだって!!」
「キヴォトスって美男美女ばかりなんでしょ?
いいなぁ、私もキヴォトスに産まれたかったよ」
「えー、あんたには無理でしょ。あっちは銃撃てないとダメなんだよ」
「そっか、そうだよね。サオリさんも銃撃てるの?」
「ああ、多分得意だと思う」
「すごーい、こっちだと海外に行かないと銃の試し撃ちとかできないしね」
平穏だと、サオリは思った。
銃火の無い島国は、彼女にとってそこまで居心地が悪いところではなかった。
その後、結局サオリは友人たちに丸め込まれ、ミスコンで優勝してしまった。
キヴォトス人は反則でしょ、と他のミスコンの参加者のSNSの投稿には大量のいいねと同情のコメントが寄せられたとか。
ある時、サオリは教授に呼び出された。
「どうした、教授」
「ひとつ、落ち着いて聞きたまえ」
彼は自分の研究室に二人きりで、こう切り出した。
世間ではセクハラ呼ばわりされかねない状況だったが、彼は珍しく真剣だった。
「連邦生徒会から資料を取り寄せた所、アリウス分校の所在が確認できなかったそうだ」
「……は?」
サオリは、その意味が理解できなかった。
「君は聴取で、向こうの出来事の数多くを語ってくれたね。
しかしながら、連邦生徒会には連邦捜査部なる組織は存在せず、アリウス分校という学校は歴史の闇に消えて久しいそうだ」
向こうの窓口も困惑していたよ、と彼は言った。
「そして、君が知る連邦生徒会のメンバーは、現行のメンバーと誰ひとりとして一致しない」
「そんな、馬鹿な!!」
「言っただろう。落ち着きたまえ、と」
取り乱すサオリに、教授は淡々と資料を取り出す。
「こちらを見たまえ。ある県に伝わる、キヴォトス関係と見られる伝承についてだ」
教授が示した資料には、こうあった。
「後光をたたえる天上の御使いが、火を噴く槍にて魔物を打倒し、人々にそれを与え去って行った……」
「その御神体が、この写真だ」
「ッ!?」
サオリは眼を見開いた。
社の中に祭られている金属の物体、それは激しい劣化をしているが、どう見ても銃器の類だった。
「この伝承は数百年前と考えられていて、その当時には我々の世界にこんな精巧な銃器は存在していない。
所謂“場違いな工芸品”……オーパーツと言う奴さ」
それを語る教授は、実に楽しそうだった。
サオリも似たような事例を知っている。目の前の男の授業で教わったからだ。
「世界各地に、キヴォトス由来とされるオーパーツが幾つも発見されている。これもその一つさ」
「つまり、どういうことですか……」
「君は私の講義を聞いていなかったのかね?
キヴォトスは数百年前から高度な銃器が存在していた。
それがこちらに偶然開いたポータルで持ち込まれた可能性は否定できない。
だが、君の存在で私はこのような考察をした」
教授は言った。
「君は我々の知るキヴォトスとよく似たパラレルワールド、或いは並行世界からこの世界へと墜ちてきたのだ、と」
サオリは、絶句するほかなかった。
「これは、大発見だよ!!
君の語るキヴォトスはッ、本物だった!! 私が保証しよう!!
君は一般人では知ることのできないキヴォトスの情報を数多く知っていた!!
君は間違いなくキヴォトスの住人だった!!
君の知る情報は、現在のキヴォトスからすれば未来の情報なのだ!!
来季の連邦生徒会のメンバーを見れば、それがハッキリするだろう!!」
教授は興奮しながら、そうサオリにまくし立てた。
「キヴォトスのことを知れば知るほど、あの世界そのものに意思があることを感じざるを得ない!!
我々の世界とキヴォトスはお互いに影響し合っている!! それはお互いの世界の文化を見れば一目瞭然だ!!
我々の世界とキヴォトスは姉妹のように近縁関係で、それは幾つも存在する可能性があるわけだ!!」
「我々とキヴォトスは近しい存在なのだッ、あ、ああッ、あへぇぇぇぇ!!」
教授はとても他人には見せられない表情で、キヴォトスの神秘に触れた彼は賢者の境地に至った。
サオリはドン引きした。
「……ふぅ。つまりだ、そう気にする必要はない。
こっちに来れたと言うことは、向こうに行けると言うことなのだ」
「そ、そうですか……」
「この事実は私の胸に秘めておこう。
世界各国のバカ共が、資源欲しさにキヴォトス以外の世界を求めているのは知っているだろう。
政治的宗教的に触れられないキヴォトス以外の、建前上の別の世界など、くれてやるものか。全てのキヴォトスは私ものだ!!」
こんなのが私の恩師か、とサオリは若干遠い目になった。
キヴォトスに関わらなければそこまで悪い人でもないのにな、と思ったが、仕事でキヴォトスに関わっている以上、ほぼ常時こんな感じだったことに気づいて現実から逃避した。
後見人としていつも世話になっているし、いつの間にかシャーレの先生に並ぶ恩師になってしまってるだけに、何も言えなかったのである。
この世界のキヴォトスが、自分の知るものではない。
その事実に、サオリは打ちのめされた。
教授は帰れるかもしれないと言ったが、そんなのは気休めであることは分かっている。
アリウスに在校生として残ったアツコは、あそこには居ないのだ。
失意のうちに、彼女は思った。
これは罰なのではないか、と。
キヴォトスに意思があるとすれば、それは愚かだった自分を罰するためなのではないか。
そう言う考えが何度も思考を巡った。
そうして、勉強が身に入らぬ時期が続いたある日だった。
梔子ユメが、墜ちてきた。
サオリがこの世界に墜ちてきて、もうすぐ一年の頃だった。
彼女はかつてサオリが受けた説明を受けると、こう言った。
「私も、大学で勉強したいです。そして、いつかキヴォトスに教師として戻りたいです」
彼女は、キヴォトスに戻るつもりだったのだ。
「私、放っておけない子が居るんです。
ずっと独りだった私に、一緒に居てくれたそんな奇跡みたいな、掛け替えのない後輩だったんです」
彼女は教授にそう言った。
「君はこちらの住人だ。
キヴォトスとの人的交流は絶無に等しい。それでも、故郷に行くと言うのかね?」
「はい。ああ、でも、大学って四年制ですよね。
流石にあっちに戻る頃には、ホシノちゃんも卒業してるよね……」
「……いや、もしや」
教授は彼女の供述から、時間軸のずれを確認した。
キヴォトスには未だ梔子ユメという生徒は在籍している上に、彼女は三年前から現れた計算になった。
そう、彼女の大学卒業は、ホシノの最高学年と同じ時期になる。
教授はキヴォトスの意思を確信し、絶頂した。
そんな変態はともかく、サオリは彼女を見て希望を抱いた。
サオリがユメと友人になるのは、三日も掛からなかったのは言うまでもない。
彼女もユメがヒヨリと雰囲気が似ていて、その上危なっかしいことこの上ないので放っておけなかったのもある。
学内からは怜悧な美人として敬遠されてもいたサオリと対照的に、ユメは学内から人気者だった。
彼女は積極的に学内のイベントに参加し、いつの間にか生徒会の役員としてサオリも巻き込まれていた。
進んで広報活動にも参加し、いつの間にか学校の顔にまでなっていた。
彼女といる時は、サオリは己の苦悩を忘れることが出来た。
お互いにあだ名で呼ぼうと言うことになり、ユメはサっちゃんと呼ぼうとしたが、サオリはかつての仲間を思い起こすので、違うのにしよう、と言った。
そして、お互いの苗字から、クゥちゃん、エマちゃんと呼び合った。
そして翌年のことだった。
連邦生徒会のメンバーが一新される日。
新しい連邦生徒会長の下に集った行政委員会の室長達は、サオリが知るものと一致した。
既に絶頂を終えた教授からそれを聞いたサオリは、理解した。
自分がなぜ、こうしてここに居るのか。それは、贖罪の為であると。
それを後押しするように、連邦生徒会長から秘密裏にキヴォトスへ赴任する先生達を募集する試みが行われた。
前代未聞の、連邦生徒会長の二年をかけた大事業。
各国は議論し、相応しい人材を送り込むことにした。
スパイを送り込むことを画策した国も居たが、キヴォトスとの連絡は連邦生徒会の敷く厳重な検閲を通さねばならない為断念したと言う。
送り込む先生達は、キヴォトスの治安の悪さを含め、骨を埋める覚悟を必要とした。
その人材として、教授を含めた元キヴォトス出身の三人は適材適所と言えた。
教授は夢にまで見たキヴォトスに行けることに昇天しかけ、サオリとユメもその提案を受け入れた。
そうして一足先に大学を卒業し、教員資格を手にしたサオリに一報が入る。
ユメが闇バイトに騙され、海外に売り飛ばされた、と。
既に卒業までの単位を取得していた彼女は、リゾートでバイトできると言う文言に見事に騙されたのである。
自分が目を離してすぐにこれだ、とサオリは思った。
そして彼女は公安のバックアップを受けて、外国の人身売買組織に秘密裏に潜入。
そこで、この世界の地獄を見た。
サオリは顔を真っ赤にして、激怒した。
彼女は組織の構成員から銃を奪い、足や腕を狙い次々に無力化していった。
そして現地のパソコンから組織の各拠点を把握すると、単独で全てを破壊して回った。
世界中は、この事実を絶賛した。『キヴォトスから天使が降臨し、神罰を下した』とまで各国に報じられた。
ユメはサオリが襲撃した最初の拠点におり、すぐに保護された。
彼女は何とか無事で、暴行された形跡はなかった。
だが、たった数日で彼女の笑顔に陰が差したのをサオリは理解した。
その事実が、サオリの逆鱗に触れた。
ユメはずっと、攫われてきた人たちを励ましていたのだと言う。
食事係をさせられて、その世話をしていたそうだ。
彼女は腐ってもキヴォトス人、腕力でモノを言わすのは難しかったのだろう。
そんな経緯もあったが、彼女たちはそうして、キヴォトスに戻ってきた。
厳密には違うとはいえ、サオリにとっては五年振りの故郷だった。
書類には、赴任先の学校が記されていた。
アリウス分校。サオリの贖罪の原点、その名前が。
:もう一人のアリウスの先生
アリウス分校という過去に囚われている側面を現す、元アリウス出身の先生。
かつて錠前サオリと呼ばれた、贖罪の為に暗躍するエージェント。
解放されたとしても、生徒達がベアトリーチェという存在に縛られている証明である。
私は言いました。アリウスの先生、彼はネタ枠だった、と。
一学校一先生制度には、各学校に一人は先生を置きましょう、と言う内容で、実は学校に先生一人まで制限なんて無いのです。
学校の数だけ存在する先生、なんて描写もした気もしますが、一人ぐらい多くても誤差でしょう(おい
よろしければ、高評価や感想を待ってます。
次回は、エマの暗躍を書くのもいいですけど、一回や二回は間を挟みたい感じですね。つまり、プロット無し!! 構想を練るので、少々お待ちください。
追記;
この話投稿して即、低評価きた……悲しみ……。www
百人目の評価は高評価であることを願います。作者のモチベーションの為にも!!
あなたはどの先生に勉強などを教わりたいですか?
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トリニティの先生
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ゲヘナの先生
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ミレニアムの先生
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アビドスの先生
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百鬼夜行の先生