キヴォトス、先生大量発生中!? 作:ユメ先生
思った以上に反響があって、びっくりしました。
どうせ100人も見られないかもと。
とりあえず、各主要な学校の先生は書いてみようと思います。
トリニティ総合学園。
キヴォトスでも格式高い名門学校。
その歴史は数百年前にまで遡り、当時今の学園に統合される前の状態からゲヘナ学園とは敵対し、バチバチにやりあっていたとされている。
とは言え、そんな暴力で争い合うのはずっと昔の話。
そんなことは誰も忘れて学内政争に明け暮れている。
浦和ハナコにとって学生生活とはそれが真実であった。
多くの派閥によって構成されるトリニティは、派閥同士の牽制や同盟、離反や造反によって彩られている。
勿論派閥闘争とは関係のない生徒の方が大半で、その多くが真面目で正義感に厚い者ばかりである。
同時に、それが他の学校に晒される光の当たる部分でしかないと彼女は知っていた。
陰湿な派閥のやり取りは、クラス内カーストを形成し、いじめの温床となっている。
家柄や成績は自縄自縛の拘束具であり、各派閥は成績上位者を取り込むことに躍起になっている。
派閥の拡張、或いは他派閥の工作から身を守るために。
裏切り、騙し合い、化かし合い、蹴落とし合い。
表面上は優雅にお茶会をしていても、その足元では陰湿な蹴り合いがなされているのだ。
そんな現状に嫌気が差すのは、繊細な感性を持つ彼女には当然のことだった。
トリニティには毎日、授業の終わりにアフタヌーンティーの時間を推奨している。
多くの生徒にとっては友人同士でお菓子を持ち寄ってお喋りをする程度だが、政治に明け暮れる生徒にとっては政争の時間である。
この日のハナコも、そそくさと逃げるように学内から寮へと帰ろうとしていた。
「おや、ハナコさんではありませんか」
大聖堂の近くの庭園、そこに聞き覚えのある声がした。
「これは、サクラコさん。ごきげんよう」
そこに居たのは、白いテーブルを運び出して、お茶を嗜んでいるサクラコの姿だった。
彼女一人ではない。一人の老人、最近トリニティの話題を独り占めしている者が対面に座っていた。
「丁度あなたのお話をしていたのです。ご一緒にお茶でもいかがですか?」
「まあ、よろしいのですか?」
ハナコの外面、長年染みついた淑女の所作がそのように応じてしまった。
「先生も、よろしいですよね?」
「ええ、麗しいレディ。この老体の話し相手になってくれませんか?」
そのようなキザなセリフも、彼が言えば様になっていた。
オーダーメイドの三つ揃えのスーツを着こなし、それ以外の服装も高級そうであるが長年愛用されているのか手入れが行き届き、校内の生徒達には出せない上品さがあふれ出ていた。
胸にハンカチを差し、老齢故に足が悪いのかステッキを携え、ティーテーブルの上には小粋な山高帽が置かれていた。
ジェントルマン、と検索エンジンで画像を探せばそのまま出てくるであろう、テンプレートなまでの理想的な老紳士がそこに居た。
一学校一先生制度。
失踪した連邦生徒会長の置き土産が巻き起こした、キヴォトスの時代を逆行した政策。
そのトリニティ担当が、彼であった。
彼がトリニティ総合学園に赴任し、学内で彼の話を聞かない日は無い。
毎日どの派閥とお茶をしたとか、どこの派閥が彼を味方に出来るのか、そんな下世話な話ばかりだが。
女子高であるトリニティではまず見ない大人に、この時はハナコも好奇心に負けた。
「では、ご一緒させて頂きますわ」
まだギリギリ、淑女として体裁を保っていたこの頃のハナコはカーテシーを披露して一礼をしたのだった。
「まあ、先生は外交官をしておられたのですね」
サクラコが上品に驚いて見せた。
「ええ。と言っても、そう大層なモノではありませんでしたな。
ただ外国のご友人たちと、日がな一日お茶を飲むばかりでしたよ」
と言うだけあって、彼は非常にお茶の入れ方にこだわりが見て取れた。
お茶にうるさい生徒は多いが、二人が付け入る隙が微塵も無いと言うのは初めてであった。
「先生はどうして、キヴォトスへ?」
「私の友人がキヴォトスにおける武器製造のロイヤリティについて、こちらの連邦生徒会と協議などする仲でしてね。
彼からキヴォトスに先生として赴任しないか、と誘いを受けたのです。
見ての通り、息子たちは一人立ちして長く、妻にも先立たれた身。また子供たちの姿を近くで見てみたかったのですよ」
それがこのような天国のように麗しい子ばかりだとは、うふふ先生ったらお上手ですね、と言ったやり取りをする二人をハナコは淑女の仮面の下で観察していた。
「先生のような外から来た方に、このキヴォトスはどのように映りますか?」
ハナコは彼に問うた。
「ふむ。そうですな。これは君たちを軽く見ていたと言うわけではないのですが、意外だと感じましたな」
「意外、ですか?」
「ある論文によると、男女を年齢別にグループを分けて生活させてみたところ、若い十代の女性グループが最も残酷な社会を形成したと結果が出たそうです」
彼は軽妙に語りだした。
「我々の世界では、多くの国で女性の参政権は近代まで認められない歴史がありました。
先人たちは経験則で、女性に政治は向かないと理解していたのでしょう。勿論、我が祖国の女王陛下を始めとした偉大な政治家が、努力などでその地位に就いたことは賞賛されるべきことです。
しかし女性だけの街、女性だけの政党、女性グループが起こした政治形態は幾つも失敗例が確認されていました。
おっと、当然ながら男性だけの政治形態の方が遥かに失敗例が多いのですがね!!」
彼の小粋なブラックジョークに、二人も思わず笑みを零した。
「そう言った事例を鑑みて、私はキヴォトスに来て、その歴史を見て衝撃を受けました。
主要な学校が女子校ばかりで、各学校を統治する機関は女子で統一されている。
我々の政治の世界は50歳でもまだ若いと言われるようなものなのです。
貴女方は非常に年若くありながら、とても理性的に統治をしておられる。
これは非常に興味深く、また誇るべきことだと愚考する次第ですな」
なるほど興味深いです、とサクラコは感じ入ったように頷いていた。
ハナコも同様に頷いた。
「先生は、一学校一先生制度についてどう思われるでしょうか。
口さがのない方々は、連邦生徒会は大人たちを呼び寄せて、大人にキヴォトスを売ろうとしているなどと言われているそうですね」
「そ、そうなのですか……そんなことを言う人がいらっしゃるのですね」
ハナコの問いかけに、サクラコはショックを受けた様子だった。
「ふふ、的外れな意見ですな」
「私もそう思います」
「レディ、浦和君はこの政策についてどう思うかな?」
そう言って、彼はティーカップを口に運び、ハナコの意見を聞く構えを見せる。
「私は、視点の多角化を必要としたのだと思います」
「ほう。その心は?」
「ゲヘナの先生の演説は御存じですよね」
「ええ、彼は品の無い男ではあるが、先生としての役割を理解している。あの動画がまさにそれだった」
彼はこう続けた。
「キヴォトスの生徒は一定の年齢で、この世界を去るそうだね。
つまり明確に人生経験が限られるわけだ。
ふふ、この老体が君たちに勝てるモノは、その人生経験ぐらいなものだからね。
私が思うに、このキヴォトスにあれほど不良達が溢れているのは、その一定の年齢以降についての経験について語るものが居なかったからだと思うのだよ」
キヴォトスにも大人は数多くいる。
トリニティの学内にも、大人の職員が大勢出入りしている。
だが、その誰もが生徒達の将来を気に掛けてなどいなかった。
当然だろう。この世界、キヴォトスは子供の世界。子供たちこそが支配者であり、自分達の支配者の将来を気にする被支配者はいない。
「だからこそ、私達の経験が君たちの人生の指標のひとつとなれば、と願わずにはいられない」
だから大人が子供たちを支配するなど的外れ、と彼は言ったのだ。
「つまり、先生はトリニティの校内政治には関わり合いを持つつもりは無い、と?」
「うむ。私達先生は、あくまで各学校の象徴としてあるべきだと思うかな。
ティーパーティーの面々が意見を違えたりした場合に仲裁などを行い、外交の際には同行し、向こうの先生と一緒に子供たちが自分の学校に不利益になる行動をした時に軌道修正をしたり……。
私は生徒達の自主性を正しく重んじるべきだと思うかな。その辺りはシャーレの先生も同意見のようだ」
ハナコは思った。彼は正しく、自分の経歴を生かして、生徒達に寄り添う立場として中立であり、中庸を貫くつもりなのだ、と。
「だからこそ、ゲヘナの先生のやり方には苦言を呈したいがね。
学校とは生徒に付加価値を付ける場所だ。
彼のやり方は学校の価値を貶める方法だった。例えそれが一番手っ取り早くとも」
ハナコは、紳士として振舞う彼の中の本心を少しだけ垣間見た気がした。
子供たちを愛し、責任を以って立ち振る舞う彼の、冷徹な部分を。
「そうですね。私達が聞いたところによると、不良を辞めようという子たちが相当数現れたそうです。効果はあったようですが、私ももっとうまいやり方があったのではないか、そう思わずにはいられません」
サクラコは彼の言葉に、やり直しを願う子供たちを憂いた。
「まあ、時間に余裕のある小規模な学校の先生達が、現状を憂いてそんな彼女達に手を差し伸べられないかと方法を模索しているようだし、各学校に先生を配置すると言う政策が成功か失敗かは後世が判断するだろうね」
彼はそのように、この話題を締めくくった。
「……貴重なお話をありがとうございます。
おや、もうお祈りの時間ですね」
「ふむ。宗派は違うが、私も神に仕える身。ご一緒してもよろしいかな」
「うふふ、こちらこそお願い致しますわ」
こうして、このお茶会はお開きになった。
サクラコと共にコートを羽織った後姿を見て、ハナコは底知れない御仁だと思った。
誇り高く、子供たちを愛し、ユーモアがあり、されど何処か冷たい目を持つその老人を。
後日、シャーレの大会議室。
数百人を余裕で収容できるこの大会議室も、キヴォトスの学校の数だけ存在する先生達全員を収容するには物足りない。
ある程度問題を抱える学校の先生がこのミーティングに参加するが、主要な学校の先生は毎回参加することになっていた。
「ゲヘナの。少々よろしいかな」
「なんだよ爺さん」
当然、ゲヘナ担当の先生と、トリニティ担当の老人先生も顔を合わせる。
「先日、例の条約の件で羽川君と共にそちらの生徒会と会談を行ったのだが……」
「ああ、そうなのか。知らなかったわ」
「会談自体は、上手く行った。
羽川君は御立腹だったがね」
「そりゃあよかった」
ゲヘナの先生は興味無さげにそう言った。
「内容自体は皆無だったが、会談とは人脈を構築できただけでも最低限成功したと言える。
一度で全て決める必要はない。あとは回数を重ねて交流を深めればいい。向こうの生徒会のメンバーの好みなどあれば教えて欲しいのだが」
「あー、なるほど。それとなく生徒会のメンバーに友人がいる生徒に聞いてみるわ」
「万魔殿に直接聞くことは出来ないのか?」
「無理」
ゲヘナの先生は軽薄な動作で肩を竦めた。
「あんたも聞いてるだろ。ゲヘナにはちょっと前に怖い怖い生徒会長様が居たんだ。
まるであんたん所の児童小説の悪役みたいに、名前を呼んではいけないあの人ってな具合にな。
マコトはバカでマヌケだが、いざと言う時はヤる奴だと見てる。
政治の中枢には近づけねえし、風紀委員会に近づいても両方から警戒されるだけだ」
「そうか。そちらも無理はするな」
「まさか。毎日遊び惚けてるっての」
トリニティの先生は、目の前の若者を見据えている。
「精々、流れ弾には気を付けることだ」
「そりゃあ、ここに居る全員が覚悟してることだ。
キヴォトスなんてアメ公も真っ青な超銃社会なんだぜ?
ガキの為に命張れねぇ奴が、このキヴォトスに来るわけねえだろ」
「だからと言って、若者が命を失って良いわけではない」
ふん、とゲヘナの先生は鼻を鳴らした。
「あんたがぽっくり逝くのが先だっての」
「いずれにせよ、例の条約はキヴォトスのパワーバランスに関わる。
そちらも慎重に動くことだ」
「よく言うぜ」
ゲヘナの先生は目を細めて、こう言った。
「あんな条約、成立するなんてこれっぽっちも思ってないくせによ」
彼は心の底で子供たちの努力を冷徹に俯瞰して勘定に入れているこの老人が心底気に入らなかった。
「だが次なる和平の布石にはなる。
キヴォトスはこれまで通りで十分に安定していた。
ならば新たな関係よりも、既存の関係に肉付けしていった方が遥かに容易く、御しやすい。なにより、邪魔が入りずらい」
「まったく、つまらねぇジジイだ」
「博打をして失敗し、割を食うのは子供たちだ」
子供たちの前では見せない鷹のような視線に、へいへいとゲヘナの先生は再び肩を竦めた。
「まあ、その辺は後でシャーレの先生も交えてモモトークでな」
「やれやれ。今時の電子機器は老眼にはつらいのだがな」
トリニティの先生がそう言って彼を見やると、その視線は明後日の方に向いていた。
「ひぃん……セリカちゃんと共同出資した事業、お金を持ち逃げされちゃいましたぁ。百鬼夜行先生ぇ、どうしましょう」
「あんたなぁ、そないな美味い話があるわけないやろ。
あそこにおるんヴァルキューレの先生に相談しときぃ」
その視線の先には、安っぽいリクルートスーツを着た緑色の髪の年若い先生と、派手な着物を着こなす黒髪に狐耳を備えた美女の先生が話していた。
「おッ、百鬼夜行の先生だ。相変わらず色っぽいねぇ、アビドスの先生もぜひお近づきになりたいもんだ」
「……」
はあ、とトリニティの先生は溜息を吐いた。
老人の気苦労はまだまだ絶えない。
:トリニティ先生
トリニティの性質を体現した、誇り高い老紳士。
普段は子供たちに人当たりがよく好々爺として接しているが、その内心は冷徹な計算によって人脈を構築し、人心の制御に長けている。
典型的な英国紳士であり、元外交官の政治特化タイプ。
多分トリニティを擬人化したらこんな感じの先生になると思いました。
次回は、ミレニアム辺りにしようかな。とりあえず三大学校の先生は出しておこうかなと。