キヴォトス、先生大量発生中!? 作:ユメ先生
「社長、次の休みの日は出かけるから」
あくる日、便利屋68の事務所でカヨコがアルにそう言った。
「え、それは構わないけど、どうしてわざわざそんなことを?」
アルは不思議そうにそう返した。
彼女たちはゲヘナ学園を絶賛停学中。
アルに至っては指名手配まで受けて、資金繰りも困難で、四人は現在事務所に寝泊まりしている。
そんな感じで共同生活をしているとは言え、各々のプライベートにまで口を出したりはしない。
「実はね、マッドモルガン様のライブがゲヘナで行われるんだって」
「ま、マッドモルガン様って言うと、ワイルドハントの先生のことよね……」
カヨコの言葉に、アルは思い返す。
それはつい先日、ブラックマーケットの闇銀行に融資を頼みに行っている最中だった。
突然ワイルドハントの先生が銀行のロビーにロケットランチャーをぶっ放し、銃を乱射し始めたのである。
「……あれ、完全にテロリストじゃない」
「まあゲヘナの生徒が言うことじゃないけどね」
暇そうにソファーに寝転んでいたムツキが突っ込みを入れた。
「あの後、闇銀行は完全に潰れてしまいましたよね……」
ハルカが会話に加わる為におずおずとそう言った。
「らしいわね。それで悪党どもから相当に恨みを買ったって聞いているわ」
「いいじゃん、社長の好きなアウトローだよ」
「いや、あれはちょっと方向性が違うと言うか……」
割と肯定的なカヨコに、ちょっとドン引きしてるアルがそうぼやいた。
「くふふッ、しかも、その後テレビの前で公開SMプレイしてたもんね!!」
「マッドモルガン様はどうせ悪党は捕まっても保釈されるって分かっていたから、公衆の面前であんなことをしたんだよ」
「へ、へぇ、大人の人って、そこまで考えてるんですね」
ハルカはカヨコの解説に感心したように頷いた。
「社長もどうせアウトローを目指すなら、マッドモルガン様を参考にしてみれば良いんじゃない?」
「え、遠慮しておくわ……」
「くふふ、私はどっちでも面白そうだと思うけれどね!!」
完全にファンと化したカヨコの布教に、押されるアルだった。
「こ、この間のアビドスでのライブでも、ちゃんとライブを聞けませんでしたよね。
ワイルドハントの先生は、やっぱりすごいんでしょうか」
「うーん、どちらかと言うと、技術よりパッションを重視しているタイプだよ。当人曰く、デスメタルは五十超えてから始めたらしいし」
ハルカは、カヨコの批評に意外に思った。
彼女が評価しているのだから、演奏や歌詞、歌声が素晴らしいのだと思ったからだ。
「それまでは絵画とか彫刻とか、色々なジャンルに手を出してたらしいんだ。そっちはあんまり評価されなかったらしいけど」
「へぇ、まさにワイルドハントの先生って感じなのね」
「あんまりにも自分の作品が評価されないから、キレてデスメタルを始めたんだって」
「えぇ……」
パッション重視すぎる、アルはそう思った。
「バンドの方はそのパフォーマンスが過激さもあって評価されたんだけど、そのテーマは一貫してるんだ。
そんな人が先生としてワイルドハントに来たってことで、こっちでも話題になってたんだ。
彼女は自分のライブで子供からお金を取らないって公言していて、観客が集まり過ぎても困るから、ゲリラライブが中心みたいだね」
「それでお金を稼げるのかしら……。グッズ販売とかしてるのかしらね」
一応経営者として、ちょっと心配になるアルだった。
「だから、マッドモルガン様のライブはワイルドハントの生徒からのリークを待つしかない。
彼女らの連絡網に、信頼できるファンのみを対象に情報が発信されているんだ」
「へぇ、そうなんだ。ねえ、アルちゃん。タダなら私達も行ってみない?」
「え、別に構わないけど……」
「じゃあ決まりだね!!」
「アル様、私ライブなんて初めてです!!」
乗り気なムツキとハルカを見て、やっぱりちょっと早まったかも、と思うアルだった。
「ところでカヨコっち、それでそのテーマってなんなの?」
「ああ、それはね──」
一学校一先生制度が発され、ワイルドハント芸術学院にも先生が訪れた。
が、彼女たち生徒会に当たる芸術評議会は、彼女の扱いに頭を悩ませていた。
それはと言うと。
「先生!! 学内でお酒を飲まないでください!!」
「うるさいねぇ、大人が酒を飲んじゃいけないって校則のどこにかいてあんだい!!」
彼女は度々、寮監隊と衝突していた。
学校の敷地内には職員や学生向けの店などで大人も生活しているが、ここまでの分からず屋はまず居なかった。
ただ、彼女は他の大人達とは違って、学校の顔として来ていた。
芸術と言う分野は、ただ技術を教えればいいだけではない。
感性、センス、美的感覚、歴史への造形。それを供えていなければ、芸術は語れない。
その点で言えば、経験豊富な芸術家を迎えられたのは幸運だった。
ただ、当人はどうしようもなく、──ロックだった。
「そんなにあたしが気に入らないなら、いつでも辞めてやるよ!! ああん!!」
「いや、先生、流石にそれは……」
「評議会の頭でっかちどもにそう言ってやりな!!
あたしはキヴォトスに来れただけで十分なんだよ!! イーヒッヒッヒ!!」
流石に初っ端から先生を辞められては、ワイルドハントも面目が丸つぶれである。
彼女が多少突飛な人物でも、辞めさせるわけにはいかなかったのだ。
そして、何より厄介だったのが。
「今日はここいらでライブをやるよ!!」
「はい、先生!!」
学内のメインストリートで、彼女はライブを始めた。
最初は彼女のギターだけだったが、次第に生徒達がベースやキーボード、ドラムの担当を志願し、そこら中でライブをするようになった。
最初は数人、数十人、それ以上と彼女のライブの観客は数を増やしていった。
彼女の曲のテーマは、一貫していたからだ。
「今日は“零点答案”って曲をやるよ!!」
仮装した先生の宣言に、ドラム担当がリズムを取る。
アンプから爆音が鳴り響き、しわがれた老人の声とは思えないデスボイスが周囲を薙ぎ払う。
「今日は地獄のテスト当日、みんながいろんな作品持ち寄って、欲深な豚どもがそれを見にやって来る!!♪」
観客の生徒達が、黄色い歓声を上げる。
「批評家気取りの素人が言った、これは良い作品だけど自己顕示欲が強過ぎる!? 知るかクソボケ、ぶっ殺すぞ、てめぇに何がわかんだ!!
あたしがてめぇの下らねぇ批評に点数付けてやる!! 零点、零点、零点だ!! 次はもっとそのカスな語彙力を磨いて答えましょう!!♪」
彼女の歌のテーマはたったひとつ。
──芸術に対する苦悩、孤独、そして大衆の無理解への怒りだった。
「ここは地獄の妖精郷!! あたしは絶対無二の採点者!!♪」
間奏の間に、生徒達が持ち寄った絵画や彫刻、それをハンマーで先生はぶっ壊す。
「百点!!」
絵画が額縁ごとぶち破られる。
「百点!!」
苦労して作られた筈の彫刻が、粉々に破壊される。
「百点満点!!」
文学作品の山が、手榴弾で爆破される。
遠巻きに見ていた芸術の守護者である、寮監隊の面々が悲鳴を上げる。
「あたしら地獄の落伍者!! 馬から落ちて、死んで置いてきぼり!!♪
芸術なんてクソだ、アートなんてゴミだ、寒いポエムなんざ誰も聞いていねぇ!!♪
それが世間の本性さ、誰も彼もが正気なら、あたしは狂ったままでいい!!♪」
曲が終わる。生徒達が熱狂する。
「あたしの可愛いマッドフェアリーども!! てめぇらに教えてやる!!」
先生のマイクパフォーマンスを行う、彼女は生徒達をゆっくりと全員を指を差す。
「てめぇらの作品の価値は、ワイルドハントの生徒って下駄の上にあんだよ!!」
先生がハンマーを振り上げる。
生徒達の作品が破壊される。
「これも、これも、これも!!
てめぇらの努力なんて、誰も見ちゃいねぇ!!
キヴォトスのガキどもはこう言う、ワイルドハントの生徒だからすごいんだろう、ワイルドハントの生徒の作品だから素晴らしいんだろう!! ──全部クソったれだ!!」
彼女のパフォーマンスに、生徒達は歓喜する。
歓喜しながら、涙していた。
「そんなバカ共にも分かるように、あたしが“価値”を与えてやる!!
そうとも、二度と見れねぇって“価値”をだ!!」
生徒達の作品が、破壊される。
「伝統的な技法!! 歴史的な意味のある手法!! 豊富な語彙のある文芸!! そんなの誰も理解しやしねぇ!!」
先生の機関銃が、持ち寄られた作品群を薙ぎ払う。
生徒達は全員、こうなると分かっていて彼女に差し出したのだ。
彼女たちは皆、芸術と言う孤独に苛まれていた。
自分の芸術に向き合うと言う苦悩、周囲に置いて行かれるかもしれないという恐怖。
先生は、そんな彼女らの代弁者だった。
「てめぇら!! あたしの可愛いマッドフェアリーども!!
後世に名を残そうとすんじゃねぇ!!
死んだ後に、世間に食い物にされる為にあんたらの芸術があるわけじゃねぇんだよ!!
有名になるんなら、生きてる間に成り上がりやがれ!! その為に手段を選ぶな、ロックンロール!!」
彼女はギターを鳴らしながら、そう叫んだ。
「あたしはババアになるまでそれに気づかなかったぜ!!
芸術家なんざ、みんな貧乏なもんさ!! それに甘んじるんじゃねえ!!
今を生きる人生を謳歌してこそが、アートなんだよ!! イーヒッヒッヒッ!!」
多くの生徒が、自分達の先生の主張に賛同した。
寮監隊も、評議会の生徒達も、苦悩の末に芸術を生み出している。
天才なんて数少ない。そんな天才すら悩み、苦しむのだ。
最終的に評議会は、生徒達の息抜きになるなら、と先生の活動を容認するほかなかった。
徹底した規則を重視するこの学校に、彼女は罅を入れたのだ。
「きゃー、マッドモルガン様あぁぁ!!」
ライブ会場で、大勢のゲヘナの生徒に交じってワイルドハントの先生に黄色い声を送るアル。
一緒になってペンライトを振るハルカ。
過激なパフォーマンスとライブの一体感を楽しんでいるムツキ。
そして、後方で壁に背を預け、うんうんと頷きながらカヨコはライブを聞いている。
「意外と楽しいわね、カヨコ!!」
「意外とってレベルの楽しみ方じゃ無さそうだけど」
「マッドモルガン様の孤高の苦悩にシンパシーを感じたわ……。こういう休日の過ごし方もいいわね!!」
「社長に分かって貰えて嬉しいよ」
二人が曲の合間にそんなことを話していると。
どかん、とライブ会場の壁に穴が開いた。
「あんたがここ最近この辺りで鳴らしてるっていう、マッドモルガンってババアか」
すると、そこから数名のヘルメット団が現れたではないか。
「な、なに、何なの急に!!」
「いや、あいつらはッ」
「知ってるの? カヨコっち」
うん、と突然の乱入に驚く便利屋たち。
「うちら、デスデスヘルメット団のデッドヘルメット様が、てめぇをぶち殺しにきたぜ!!」
「面白れぇ!! やれるもんならやってみな!!」
挑発に先生が彼女らを挑発し返すと、ヘルメット団は得物を取り出した。
即ち、ギターを始めとした楽器の数々を。
リーダーらしき不良が、ヘルメットごしとは思えないデスボイスを披露する。
「対バンだぁぁあ!!
「デスデスヘルメット団が、マッドモルガン様に喧嘩を売ったぞ!!」
ゲヘナのバンギャ達は歓声を上げた。
「奴らはデスデスヘルメット団……元は音楽学校の生徒だったらしいんだけど、音楽性の違いで退学届けを突き付けたロックな奴らだよ」
「な、何だか親近感がありますね!!」
「そ、そうかしら……」
カヨコの解説を聞いて、ハルカが笑顔でそう言った。
なお、アルはちょっと一緒にされるを不服そうにしていた。
「まあ、面白ければなんでもいいじゃん♪」
結局、ムツキの言葉が全てだった。
ライブはその後も大盛り上がりをした。
その後も会場に穴を開けたヘルメット団達と一緒にワイルドハントの先生が、激怒する支配人に頭を下げる光景が目撃されたり、彼女は何かと話題に事欠かない人であった。
:ワイルドハント先生
ワイルドハント芸術学院の閉塞性と反骨心を示す、デスメタルを嗜むロックな老婆。
ワイルドハントとは西欧版の百鬼夜行であり、両者は見た物を死に至らせると言う性質がある。なので百鬼夜行の先生とは仲がいい。
最大の違いは、ワイルドハントにはそれを主導する存在が居ることで、アーサー王であったり、北欧神話のオーディンであったりする。彼女はそれらの要素が衣装として随所にちりばめられている。
少なくとも、彼女を縛り付けるグレイプニルはどこにもないと言えよう。
前回並べた予定とは違いましたが、今回はワイルドハントの先生でした。
次回は、ミレニアムでゲーム開発部の面々にしようと思っています。
あなたはどの先生に勉強などを教わりたいですか?
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