キヴォトス、先生大量発生中!? 作:ユメ先生
今回はアリス編です。
事の発端は、いつだってユウカである。
「先生、ゲーム開発部のことは御存じですよね」
「勿論知っているとも、キャシーとグリフィーと、まだ見ぬ子猫が居る部活だろう?」
「誰ですか、その二人は!!」
ミレニアムの先生の独特なあだ名のセンスに、ユウカはツッコみを入れた。
「モモイとミドリだよ。モモイはティンクかピンキーか迷ったのだけどね、気難しい妖精か、直球に色味か。最終的に猫っぽいからキャシーにしたんだ。
ミドリは私も頭を悩ませた。そこで彼女はグラフィック担当なのを思い出して、グリフィーと呼ぶことにした。グリーンとも掛っていていい感じだろう?」
「誰もそんなあだ名の説明なんて求めてません!!」
「HAHAHA!!」
先生は笑って誤魔化した。
ユウカはジト目で先生を見た。
そう、この女先生、モモイと気が合うのか、あだ名で呼ぶくらい仲が良いのをユウカは知っていた。
確率論の検証だと言ってモモイと一緒にギャンブルを始めるし、一緒に学内でエンジニア部の開発したセグウェイの実地試験と言って校内を二人で爆走したり、モーションセンサーでレトロゲームを動かす為に素材を倉庫から勝手に拝借したり、色々とやらかしている。
「それで、あの狂った茶会の住人達がどうしたって?」
「……もうツッコミませんよ。
あの子たちがシャーレの先生を巻き込んで、何かを始めたのを知っていますか?」
「いいや、最近はミレニアムプライスの打ち合わせに終始していたからね、校内の変化には目を向けてられなかったね」
あなたもその一人でしょ、というユウカの視線を無視しつつ、先生はそう答えた。
「彼女達のゲーム開発部が廃部寸前なのは知っているでしょう?」
「ユウカ。その発言は正しくない。
まず彼女達は部活として正式に認められていないじゃないか。君が正式に部活動として成立するまで猶予をあげて、部室を貸与しているだけだ」
「そうですね。正確には部室から退去して貰わなければなりません。いずれにせよ廃部という表現でも間違っては無い筈です」
そんな細かいことはどうでもいいので、そうだね、先生も頷いた。
「その彼女達が、新入部員を連れて改めて部活動として申請をしてきたんですが」
「おお、それはよかったじゃないか」
「実はその新入部員なんですけど、この時期に編入なんて私も聞いていなくて。記録は間違いなく存在しているんですけど」
「なるほど、キャシーは“子猫”を拾ってきた、と」
先生はセミナーのパソコンで、件の新入部員の情報を参照する。
「天童アリス……私は聞いていないね。私はミレニアムの生徒の経歴と顔を全員覚えている」
「ですよね? 私も念のために先生に確認をと……」
「全く、彼女たちもとんだオイタをしたものだ」
先生はデスクに備え付けの電話の受話器を取った。
「保安部かい? 私だよ。今すぐにヴェリタスの面々を拘束しなさい」
ユウカはそれを聞いて、ああやっぱり、と言う表情になった。
「聞こえてるだろう? ヴェリタスの諸君。学校のシステムの改竄、および学籍データの捏造は学校運営そのものに反旗を翻すに等しい。なあなあで前例を作るわけにはいかない。君たちの理念は理解しているが、先生としてこれを笑って許すことはできない」
かちゃん、と先生は受話器を置いた。
「さあ、行こうかユウカ」
「……わかりました」
ユウカは深い溜息を吐いて頷いた。
この事実をセミナーとして、彼女も許す訳にはいかないからだ。
そして、セミナーのキャンパスで大捕り物が始まった。
それを察知し、危機感を抱いた者がいた。
勿論、モモイだった。
「マズいよ!! ヴェリタスの皆がセミナーに捕まっちゃったって!!」
「……え、それマズくない?」
「このままじゃ、アリスの件がバレる!!」
ミドリとモモイの反応を見て、ああやっぱりダメだったんだ、とシャーレの先生は遠い目になった。
あの時はサラッと流された上に今の今まで忘れていたが、完全にアウトだよね、と彼はそう思った。
「……ど、どうしよう」
「……? アリスがどうしたのですか?」
ユズはその事実に顔を真っ青にしているし、アリスは状況を理解できずに小首を傾げる。
その時である。
「やあ、諸君!!」
ミレニアムの先生が、ゲーム開発部の部室に現れたのだ。
「やあ、キャシー!!」
「あ、先生!!」
いえーい、と先生とモモイ二人はハイタッチした。
「やあグリフィー、それにまだ見ぬ子猫ちゃんも」
「先生……」
「……」
ミドリは彼女の登場にバツが悪そうに目を逸らし、初対面のユズは委縮した。
「それにこの間ぶりだね、シャーレの先生」
「“こんにちは、ミレニアムの先生”」
大人二人が挨拶をした後、彼女はアリスに視線を向けた。
「君が、アリスだね? ユウカから聞いているよ」
「あなたも、先生なのですか?」
「ああ。この学校限定ではあるけどね」
「わかりました、先生」
アリスは素直に頷いた。
「あ、あのー、先生。実はその、アリスの件なんだけど……」
「キャシー」
人差し指の先を合わせて遠慮がちに言うモモイに、ミレニアムの先生は笑顔でこう言った。
「ハートの女王がお待ちかねだよ」
「ぴぃぃ」
ぐにゃぁ、と涙目になって悲鳴を上げるモモイ。
「……ごめんね、悪いようにはしないから」
「ユウカ!! さっきは安心させておいて、上げて落とすなんて酷いよ!!」
「わ、私は順当な対応をしただけよ!!」
ユウカは先ほどの質疑応答でアリスを部員として認めただけに、バツが悪そうだった。
「“ミレニアムの先生、彼女たちに悪気はなかったので……”」
「悪気があろうとなかろうと、学籍の改竄は学校の自治権に関わる重大な問題だよ。
実行犯は既に拘束済みだ。彼女達の処遇は、この子たち次第だ」
「“そうですよね、申し訳ありません。私が止める間もなく……”」
「シャーレの先生、君の責任かどうかは事情を聴取してからだ」
はい、と論理的に詰めてくるミレニアムの先生に、シャーレの先生もたじたじだった。
「……アリスはどうなるのですか? モモイ達と一緒に居られないのですか?」
「大丈夫、私やそこのシャーレの先生は、君の味方だ。ただ、話を聞かないと何も始められない、それだけのことだよ」
不安そうなアリスに目線を合わせ、彼女の頭を撫でながらミレニアムの先生はそう言った。
だが、アリスに触れた彼女の表情が一瞬眉をひそめたのは、誰も気づかなかった。
シャーレの先生とゲーム開発部の面々は、セミナーの本棟の会議室へと連行された。
中は会議室の最奥に、ぽつんとリオが居るだけ。
彼女はタブレットを操作しながら、彼女らを待っていた。
リオは彼女達を一瞥すると、こう言った。
「貴女がアリスね?」
「は、はい」
「正直に答えれば、ヴェリタスやそこに居る彼女達の責任は問わないと約束するわ」
この時点で、おや、とミレニアムの先生はシャーレの先生と顔を見合わせた。
「私は、貴女が連邦生徒会が管理している廃墟から現れ、それ以前の経歴が無いことを把握している。
あなたは我が校の生徒に、危険な存在ではないと証明できるかしら?」
「わ、分かりません……アリスに、記憶はありません……」
リオの質疑に、ゲーム開発部の面々は真っ青になる。
彼女はシャーレの先生に視線を向けると、彼は頷いた。
「“事実だよ。彼女を見つけた当初は、赤ん坊同然だった”」
「ちょっと待ってくれ。私は聞いていないよ」
ミレニアムの先生が声を挙げる。
「状況を察するに、まるでアリスは人工生命体或いは人型ロボットと言わんばかりじゃないか」
「先生、恐らく彼女は人工物で構成されたアンドロイドよ。エンジニア部に検査させても同じ回答が出るでしょうね」
それを聞いたミレニアムの先生は。
「Eccentric!!」
と叫んだ。
ギョッとするリオ以外の面々。
「キヴォトスには高度に発達した先史文明が存在することは知っていた!!
彼女はその生き残りであると!?」
「現在、私の持つ資料と照合中です」
「リオ!! 私は特例として彼女を生徒としてミレニアムの編入を認めるよ!!」
「先生。落ち着いてください」
エキサイトしている先生を、リオは諫める。
周りは目を白黒している。
「それに、特例や前例を設けるのは問題だと言ったのは、貴女ではありませんか」
「逆に聞くけど、リオ。彼女以上の特例や前例は存在しうるのかい?」
「……」
「勿論、編入試験を課して、道理は通すべきだろう。
リオ、君は古代のロマンを感じないのか? 古代の人型ロボットとか、アニメみたいじゃないか!!
ああやはり、キヴォトスは飽きないな!!」
「先生、私はミレニアム全体の利益と安全を守る義務があります。そう簡単に是と言えません」
ミレニアムの先生がいくら主張したところで、彼女の立場は一職員でしかない。
リオはこうして事態が表面化した以上、そう簡単に頷けない。
「なるほど、アリスに立場が必要だと。
わかった。彼女を私の養子にすると言うのはどうだ?」
「ッ!? 先生!!」
「君の危惧は理解できる。だが私にも譲れない一線があるのだよ」
「理解できません。先生は彼女と初対面でしょう?
まさか彼女を人間として扱うとでも?」
リオの問いに、彼女は首を振った。
「まさか。身体構造が異なる存在を、人間同様として扱うのはそれこそ差別だろう」
「そう言う意味では……」
「重要なのは、アリスの意思ではないか?」
ミレニアムの先生は笑顔で言った。
「“私も同意見だよ”」
「シャーレの先生……」
「“アリスはゲームを通じて、学ぶ喜びを知ったんだ。
ゲーム開発部の皆と一緒に学びを望む者に、私はそれを与えるべきだと思うな”」
シャーレの先生は多くの不良と呼ばれる生徒達と接し、彼女らは勉強をしたくないと語る。
それ自体は仕方がないことだ。勉強とは意欲の無い者に労力を掛けることはできない。
だからこそ、彼は学びの光を求める者に手を差し伸べるべきだと思っている。
そう、彼はアリスを自分が守るべき“子供”だと思っているのだ。
「“必要なら、私もアリスをシャーレの部員にして立場を保障するよ”」
「……」
リオは脳内で目まぐるしく政治的な損得と安全と危険のバランスを計算し始めた。
その時である。
『もう結果は出ているでしょう、リオ』
「ヒマリ」
会議室のモニターに、ヒマリの姿が映し出される。
『やはり大人たちは私達とは違いますね。我々の想像を上回る。
私はアリスの人格と、尊厳を尊重したいと考えます』
「……いいわ。まだお互いに結論は出ていないもの」
『そうですね。これは後で我々の先生を交えて討論すべきです』
「先生を巻き込むつもり?」
『おやおや、彼女はその為に居るのでしょう?
それに、私は先生を巻き込まないパターンの方が面倒になると予測していますが』
「それもそうね」
リオは溜息を吐いた。
「いいでしょう。アリスを特例で、仮の学生証を発行するわ」
その言葉に、わー、と双子が歓喜の声を挙げた。
「編入試験も後程受けて貰うけど、赤ん坊同然から数日でここまで会話ができるようになっているのを見ると、形式だけになりそうね」
不合理的だわ、とリオはそうぼやいた。
「よかったじゃないか、アリス!! ハートの女王様は君を認めたぞ!!」
「はい、ありがとうございます、ハートの女王様」
「私はハートの女王ではないわ」
笑顔のアリスに、リオは真顔でそう言った。
「ふう、タイムトリガーみたいに理不尽な裁判になるかと思ったよ……」
「あれはお姉ちゃんの行動が悪いんじゃ」
モモイの呟きに妹がツッコみを入れた。
ユズとシャーレの先生はホッとしたようだった。
その後、部室に戻ると、ミレニアムの先生はアリスをぺたぺた触りだした。
「私は以前仕事で洗髪料を作ってね、数百人の髪質を直接触れて確かめたんだ。道理で違和感があったわけだ」
「あの、先生、くすぐったいです」
「ほほう、そのように繊細な感度センサーがあるのか!?
アリス、やっぱり私の養子にならないかい?」
「モモイ、先生も妖怪かもしれません……」
うーん、と否定できないモモイだった。
「あの、先生……」
「どうしたのかな、ユズ」
「どうして先生は、アリスを擁護したんですか?」
おずおず、といった感じにユズが自分たちの先生に問うた。
「君のことはモモイから聞いているよ。
自分の作品を貶され、それ以来ずっと部室に引きこもっていると」
「……はい」
「私は以前は研究以外に興味のない、ナードでね。
理解者だと思っていた相手に、研究成果を奪われたことがある。
憎み、恨み、周囲に当たり散らした。ステルス性の高いミサイルの設計図を世界中にバラまこうとしたこともある」
ユズとアリス以外はドン引きしていたが、ユズは自分たちの先生の言葉を黙って聞いていた。
「世界など滅べばいい。まあ、若い時の発作と言う奴さ。
そんな画策しているうちに、私は思い止まることになった。恋をしたからだ」
「恋、ですか? 多くの主人公も、ヒロインに恋していました」
「そうだ。その恋だよ」
アリスの呟きに、ミレニアムの先生は頷いて見せた。
「え、ええぇ!! 先生、どんな人を好きになったの!!」
「気になる……」
「ふふふ、いいよ、教えてあげる。君たちも知っている人物さ」
期待している双子に、彼女はこう答えた。
「アルバート・ワインリー博士だ」
数秒の沈黙ののちに、モモイが言った。
「いや、ロックオンガンの悪役じゃん!!」
ミレニアムの先生が口に出した名前は、レトロゲームの悪役の名前だった。
「しかもよぼよぼのお爺ちゃんじゃん!!」
「何を言う、彼は非常にユニークな悪役じゃないか!!
何度打ち倒されても不屈の精神で再び世界を支配しようと企む、最高のヴィランだ!!
まあ、子供には彼の作るユニークなロボの数々が理解できないのも仕方がないことだとは思うよ」
「“わかります、彼のロボはロマンと実用性が溢れていますよね”」
「おお、やはりシャーレの先生には分かるか」
ミレニアムの先生の主張に、うんうん、と頷いているシャーレの先生。
大人の世界ってよくわからない、そう思う子供たちだった。
「そんな悪役の彼も、最終的には自らの良心に従った。
そして私はいつか、人に恋できるロボットを作りたいと思うようになった。キヴォトスに来たのも、その一環と言うわけさ」
「先生、恋とはいったいなんでしょうか?
ファイファン7のクラッドとティフィのような関係のようにひた向きで、ドラテスの主人公とビアンキのように一緒に過ごす為ですか?」
「うーん、その選択は一部物議を醸しだしそうだね」
ちなみに私はエアリーとフローリア派だよ、と余計な一言を言うミレニアムの先生。
「アリス、今はまだ分からなくても良いんだ。
君がいずれ自然と分かることなんだ。それが私が先生として君に課す生涯の課題だよ」
「課題……わかりました」
「それではまずユニークな君たちがミレニアムプライスでどんな作品を見せてくれるのか、楽しみにしているよ」
ユズのあだ名はペッパーが良いかな、なんて言いながらミレニアムの先生は部室を出て行った。
ミレニアムプライス、その期限が迫ってることを思い出した子供たちは、大慌てになるのだった。
「ヴェリタスの面々は釈放したわ。アリスを正式にミレニアムの生徒とするなら、彼女たちの行いは無意味になるもの」
「へぇ。甘いね、リオ。これを機に反政府組織を追い出したりはしないんだね」
「彼女達を在野に放り出す方が危険だもの。学内に留めた方が合理的だわ」
「ヒマリとの取り決めかい? まあいいさ。そんなどうでも良いことは」
ミレニアムの先生は笑った。
「それで、二人はどんな内緒話をしていたんだい?」
「……もしかしたら、アリスは危険な大量破壊兵器かもしれないわ。私とヒマリが今、検証を行っている」
「なるほど。それで、仮にアリスが危険な兵器だとしたら、どうするのかな?」
「…………」
「君は分かりやすいね、リオ。昔の私みたいで見てられないよ」
先生は自分と容姿も全く異なるリオを本当の妹のように優しい眼差しで見ていた。
「私はそれで失敗した。君は優秀だから、私の失敗から学ぶと信じているよ」
「先生、でも」
「リオ、ミレニアムの生徒は君が思うほど弱くはないよ」
私達はチームなんだから、と先生は微笑んだ。
「それに私はアリスを信じているよ。
ゲームの台詞にもこうあるだろう? 魔王など、どこにも居なかった、と」
私もそう願います、とリオはそう答えた。
ミレニアムの先生はアリス周りの登場人物を、不思議の国のアリスの登場人物になぞらえたあだ名をつけています。
モモイ=チャシャネコ
ミドリ=グリフォン
ユズ=コック
リオ=ハートの女王
この場合ですとミレニアムの先生は役割は公爵夫人、シャーレの先生は時計ウサギと言ったところでしょうか、公園にウサギを四匹飼ってますし(おい
となるとユウカは、ドードー鳥になるのかしら。
次回は、今回の続きになります。
あなたはどの先生に勉強などを教わりたいですか?
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ゲヘナの先生
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