キヴォトス、先生大量発生中!?   作:ユメ先生

24 / 43
アリウスの先生:自問自答

 

 

 

「……ッは!?」

 

 サオリは、暗い倉庫街にあるどこかの倉庫の中で目を覚ました。

 

「起きたか」

 

 唯一の光源から、声が聞こえた。

 自分が産まれた時から知っている声だ。

 

「……お前は、何者だ!?」

 

 サオリはすぐに愛銃の所在を探ったが、武装は当然解除されていた。

 スマホを弄るエマは、サオリに興味を向けていなかった。

 

「私はお前だよ。

 ただお前より五年先の、異なるキヴォトスからやってきた、と言えば良いのか……」

「意味が分からないッ」

「意味が分からないのは私も同じだ」

 

 未来の自分自身との対面。

 サオリは困惑しつつも、冷静に状況を把握しようとしていた。

 

「これから二年以内に起こる出来事を、私は知っている。私はこちらに来てから、私の知る通りに歴史が動いているかをずっと調べていた」

 

 ある意味では、これは自問自答だった。

 

「直近で大きな出来事は幾つかあるが、お前にとって決定的な出来事を伝えよう。

 ──マダムは、アツコを生け贄にしようとするよ」

「ッ!!」

「何を驚いている。初めから知っていただろう?

 彼女をそうさせない為にお前はスクワッドを結成した。

 だが分かっていた筈だ。マダムは我々にとって絶対。お前の浅知恵など、時間稼ぎに過ぎないと」

「それをお前は黙って見ていたと言うのか?」

「まさか。この世で最も惨めで恥知らずな姿を晒して、彼の助けを求める羽目になった」

「彼……?」

 

 サオリのオウム返しに、エマは答えなかった。

 

「この世界のアツコも、マダムは放っておかないだろう」

「だから先手を打って、ミサキ達に接触していたのか」

 

 サオリはエマの行動を理解した。なにせ自分なのだから。

 

「私を撃ったのはヒヨリだな、あいつめ……」

「最初は夜警をしていたアツコ、次にミサキとヒヨリと順番に私の存在を明かした。

 ミサキのあの狼狽えようを見れなかったのは残念だったな」

 

 悪態をつくサオリに、エマは淡々とそう語った。

 

「みんなを味方にしたのだから、お前のスマホに、私を追うようにマダムから指令と言う形で仕向けたのも容易いことだった。

 マダムは私のことなど、気づいてすら居ないはずだ。

 それもアリウスの先生のお陰だがね……。彼の存在がマダムから私の存在を覆い隠す、隠れ蓑になってくれた」

 

 つまりサオリは、最初から罠に誘い込まれていたのだ。

 

「道理で。あの物臭なヒヨリが自分から定期報告をやります、なんて言うからどうしたんだと思ったが……」

「私は大人として世間を知り、マダムの底知れなさを知った。

 彼女の力は計り知れない。針を通すような慎重さで、私は行動を起こす為に関係者に接触を図った」

 

 エマは全く、微塵も、かつての主人に対し油断していなかった。

 

「……関係者?」

「私がキヴォトスに戻って来て、始めに確認したのはセイアの安否だった。

 私の記憶通り、彼女はヘイローを破壊された振りをして身を隠していた」

「なにッ……?」

 

 地上での作戦は、スクワッドが主導している。

 当然、ミカの手引きでアズサのセイア襲撃を主導したのも彼女達だ。

 

「それを阻止できれば良かったのだが、結果的にアズサは彼女を見逃した。あいつは相変わらずで安心したよ」

「アズサめ……」

 

 その事実は、サオリにとって複雑な心境を抱かせた。

 アズサに和解の象徴になって欲しいと言う気持ちと、マダムからの命令と言う二律背反。

 エマからすれば、ファインプレーだった。前回も、今回も。

 

「セイアと言う知恵者と、同時に救護騎士団のミネ団長の協力を得られたのは行幸だった。

 ミネ団長は私の痕跡を消すのに、団員たちに指示をすることで手伝ってくれた。

 それ故に、ミカと接触するのも容易かった」

「聖園ミカ……」

「以前の彼女とは……まあ、殴り合ってお互いの気持ちを確かめていたからな。アリウスとの真の和解をする為に、協力を取り付けるのは容易だった」

 

 まさに暗躍。キヴォトスの影に潜み、水面下で己の存在を消しながら行動していた。

 

「そして、今お前の前に居る。

 マダムをアリウスから排除するには、もう一人の私であるお前の協力が必要不可欠だからだ。

 彼女を倒すには、奇襲にて一気に事を運ぶ必要がある」

「……マダムに本気で勝てると思っているのか?」

「私は彼女の敗北を、この眼で見ている」

 

 サオリは最早、目の前の存在を疑ってはいなかった。

 だが、それと同時に、ベアトリーチェの絶対性にも疑問を持てなかった。

 

「なら、なぜ以前勝利した方法を取らない」

「……」

 

 エマの瞳が、サオリに向けられた。

 知らないと言うのは幸せなのだな、という憐みの視線だった。

 

「私の目的を話そう。アツコの安否の保証は勿論だが、私が以前マダムに勝利した状況に持ち込ませない為だ」

「この世で最も惨めで恥知らず、だったか。己のプライドの為か?」

「ああそうだ!! あの時の自分が目の前に存在するなら、この手で縊り殺してしまいたいくらいだ!!」

 

 エマは初めて、感情を乗せて声を発した。

 激情だった。

 

「あの時の私は、全裸になって媚びへつらい、足を舐めた後に肥溜めを泳げと言われても従っただろう!!

 そんなウジ虫にすら劣る過去の自分を消し去りたいと思うのは、そんなに可笑しいことか!!」

「……ッ」

 

 するだろう、サオリは思った。アツコの為なら、自分の尊厳を売り渡すくらい、自分はしてしまうだろうと思った。

 

「もう一度あの人に頼るなんて、あの人の優しさに縋りもう一度危険に巻き込むなんて、ああ出来るものか!!

 そんなことをするぐらいならわざわざキヴォトスなんて来ていない!! もう二度と私の知るアツコ達に会えないと分かった時に首をくくっている!!」

 

 エマは両目から涙を流しながらそう叫んだ。

 笑えなかった。そんな有様で、ミサキに何て言葉を掛ければいいのか。

 

「……それに、私はもう大人なんだ。

 彼の生徒でもないし、彼は子供の味方だ。頼るわけにはいかない、彼の労力は子供たちの為に費やされるべきだ」

 

 より正確には。

 自分を知らないシャーレの先生に会うのが、辛いだけだった。

 

「……お前の選択肢は二つに一つだ。

 これまでのように見て見ぬ振りをして生きるか、私に協力するか、だ」

「……私はッ」

「知っているよ、私は土壇場まで決断できなかった。そう言う人間だ」

 

 エマは懐から何かを取り出し、サオリの前に投げ渡した。

 

「これは……大人のカード!?」

「お前に渡しておく、好きに使え。尤も、大して残高は無いが」

「…………」

「覚悟を決めたら、連絡をしろ」

 

 エマはスマホをしまい、倉庫から去って行った。

 

「……リーダー」

「その、一発だけなら誤射なので、ご、ごめんなさい……」

 

 すると、スクワッドの三人が現れる。

 アツコは無言でサオリの手首の拘束を解いた。

 

「いや、いい。皆には、要らぬ心配をかけた」

「リーダーはあいつを……」

 

 ミサキは口ごもった。

 

「……あんな荒唐無稽な話を信じるの?」

「私達に残された時間は、あまり多くはなかった。それが可視化された。ただそれだけのことだろう」

 

 エマは、どうしようもないほどサオリだった。

 

「……分かっていた筈だ。

 マダムが我々の前に現れた時から」

「あのう、リーダー」

 

 ヒヨリが控えめに自己主張した。

 

「私達はただ漠然と、大人だからとマダムに従ってきましたけど……こうして大人になったリーダーが現れた場合、どちらに従えば良いんでしょうか……」

 

 彼女らしい主体性の無い言葉だった。

 子供のサオリ、大人のサオリ。彼女は大人のサオリの指示を優先して、子供のサオリを撃った。

 それが正しい判断なのか、一応当人に確認しているのだ。

 

「知ってるだろう。大人はいつも身勝手だ」

 

 自分がいずれああなると分かって、サオリは虚しさを感じながら言った。

 

「我々に、選択肢など無い。いつもそうだった」

「……そうだよね」

 

 無意味な問いかけだった、とミサキは溜息を吐いた。

 

「……サオリ」

「姫……」

「最初に大人のサっちゃんに会った時、いろんなことを話してくれたよ」

 

 アツコはマスクを外して、サオリに話しかけた。

 

「マダムが居なくなった後のアリウスを……。

 下らなくて、中身のない、辛くて虚しいけど、楽しい毎日だったって……」

「……」

「そ、そんなこと、あるんでしょうか?」

「私もトリニティに友達が出来て、自治区の復興に色々と手を貸して貰ったって。アズサも、友達の為に命を賭して私達と戦ったんだって」

 

 四人は分からなくなっていた。

 トリニティを憎むように教育されてきた。

 だが、トリニティの誰が憎いか、彼女たちは考えたことも無かった。

 

「友達か……」

 

 サオリはアツコをまじまじと見た。

 彼女もまた、和解の象徴になれるのだと知った。

 

「私にも友人が出来るのだろうか」

「うん、きっとできるよ」

 

 サオリには家族しかいなかった。

 友達ができるとはどんな感覚なのだろうか、そう彼女は思った。

 

 

 

 

 

 

 エマが彼の存在を知ったのは、先生達の合同ミーティングでのことだった。

 

 この世界の自分の存在を確認し、セイアの無事をその眼で見て、自分の知る歴史通り動いているのか、調べまわっている時だった。

 合同ミーティングがあると知り、シャーレの先生の顔を見て安心したかったのもある。

 

 そこで彼女は、もう一人のアリウスの先生の存在を知った。

 

「ふむ、奇妙なめぐりあわせがあったものだ」

 

 虚無僧の格好をした男は、諸行無常なり、と呟いた。

 ミーティングが終わった後、エマと名乗るようになったサオリは彼に接触した。

 

「たしかに同じ学校に一人だけしか配属されないとは聞いてはおらぬな」

「アリウス自治区には行かない方がいい。

 今のあそこは、よそ者を受け付けないだろう」

 

 エマは最初、彼を警戒して断片的な情報しか与えなかった。

 自分がアリウス出身であること、アリウス自治区は他人を受け入れる余地は無い、と。

 

「されど、仮にも先生としてこの地に来た以上、その現状を目にする以外はありえぬよ」

 

 彼はそう言って、笑った。

 

「なぜ、そこまで出来るのですか?」

 

 シャーレの先生もそうだった、とエマも思った。彼もまた、子供の為に行動しようとしていた。

 

「あなたは偶々アリウスに配属されることになっただけの、他人ではありませんか」

「他人で良いではないか」

 

 しかし、彼はこう答えた。

 

「親しいからこそ、或いは絆があるからこそ、胸の内を打ち明けられぬこともある。

 拙僧のような他人だからこそ、出来ることもあろう」

 

 エマは思った。この人を死地に送るわけにはいかない、と。

 だが彼は自力でスクワッドに接触した。エマはあえて何も関わらなかったのに。

 

 だから、ベアトリーチェの許可を貰ったアツコ達から連絡を受けて、先んじて忠告をしたりもした。

 

 それでも彼の行動は変わらなかった。

 アリウス自治区に赴き、ベアトリーチェの怒りを買ったと聞いた時は血の気が引いた。

 

 そして彼は、アリウスの為に三週間もの断食を成し遂げた。

 

 その間、エマは彼に注目が集まっているのを好機と見て、水面下で工作を始めた。

 セイアとミネのバックアップを受けて、準備を行ってきた。

 

 キヴォトス各地から喜捨が届き、自らの命を賭した彼を見て、エマは希望を抱いた。

 

「不思議なことに、宗教の教義と言うのはどこでも似通った部分が存在するんだ」

 

 夢見の中で、セイアがエマに語り掛けてくる。

 彼女の心象風景なのか、トリニティの生徒会室のテラスから見える夜景が美しい。

 

「アリウスの先生……ああ、勿論君では無いよ。彼の方だ。

 例えば我々の教義を布教することは、相手が神を信じて幸福になるように為ではない。

 自らが布教によって善行を積み、天国に迎えられるためさ。

 彼の宗教の喜捨もまた、それに通ずる概念と言えないかい?」

「生憎と大学で神学の単位は取っては居ない。

 私のゼミの教授なら詳しいのだろうが」

 

 エマはセイアが何を言いたいのかよくわからなかった。

 彼女がやたら遠回しの表現を好むのはどの世界でも変わらないらしい。

 

「私が興味深いと思ったのは、君が異教の教えに救いを見出したことだよ。

 君はこう考えたのだろう? また全てが終わったら、もう一度このキヴォトスの、より正確に言うなればアリウスの姿が記憶の中のそれに巻き戻るのではないか、と。

 君の贖罪は、何の意味も無いのではないか、とね」

「……」

 

 一度起こったことだ。二度目が無いと誰が言えるだろうか。

 

「仏道曰く、人は輪廻に囚われているそうだね。

 それはもしかしたら、キヴォトスもそうなのかもしれない。

 我々と異なるキヴォトス、そんなところからの来訪者である君もまた、この世界に居場所は無いのかもしれない。

 君の贖罪は、永劫に終わらないのかもしれない」

「ならばセイア。お前はどうなんだ」

 

 エマにとって、セイアとは見た目にそぐわずやたらアグレッシブで周囲を冷や冷やさせている印象しかない。

 

「今のお前は、どの様な未来を見ている?」

「……」

「私は以前のお前から、下着か水着がどうのこうので、未来の可能性に目を向けるようになったと聞いている」

「は? 下着? 水着?」

「パラレルワールドの概念からすれば、お前の予知が阻止できたとしても、それは阻止できなかった世界の分岐が同時に生じると言うことだ。

 片方が希望をつかみ取り、片方が絶望に墜ちる」

 

 セイアは目を伏せる。

 

「かつて、シャーレの先生は私に無限の可能性を語ってくれた。

 大人になった今、額面通りにその言葉を信じるほど幼くはないが、その無限の可能性の中には、確実に先細りが存在するのだ。

 勿論、そんな言葉尻を捕らえるようなことで、シャーレの先生を揶揄したいわけでは無い。

 彼は諦めずに前を見て歩くことを、無限の可能性と表現したに過ぎない」

「私達の前に、幾つもの道はある、と言うことだね」

「私も大人になって分かったことがある。

 結局のところ、私もマダムと同じなのだ。誰かを利用し、どこかの誰かを搾取し生きている。それの先が、私のもう一つの可能性なのかもしれない」

「或いは君もまた、そんな可能性の連鎖から逃れるために、解脱が必要だと言うのかい?」

「さてな。

 私はお前のように、目に見えないものを理解しようと思うほど時間に余裕があるわけでは無い」

 

 では目に見える話をしようじゃないか、とセイアは微笑んだ。

 

「ミカは学内を巻き込んで、ナギサと衝突を辞さない構えだ。

 まったく、彼女の成長を喜ぶべきか、相変わらず行き当たりばったりなのを嘆くべきか……」

「そんな物言いをしているから、聖園ミカに刺客を差し向けられるんだ」

 

 セイアの襲撃はあくまでミカの発案である。スクワッドはそれに乗っかっただけに過ぎない。

 彼女にすれば気に入らない相手を銃で撃つぐらいの感覚だったのだろう。キヴォトスではそんなことは有り触れている。

 しかし、ミカの計算違いは、アリウスに依頼した所為で予想外に大事になってしまったことだろう。

 

 セイアは、そうかもしれないね、と淡く微笑んだ。

 

「では、水面下の話は終わりにして、水面の上の出来事に目を向けるとしようか」

 

 そう。事態は、表面で既に動き出しているのだ。

 

 

 

 

 




ちなみにエマの大人のカードに残高が無いのは、原作でベアおばにアツコの代わりに生贄になると言ったからですね。

次回は、ミカ回りをトリニティの先生でやると思います。
この寒さを乗り越えるために、高評価や感想をお願いします。さむさむ。

あなたはどの先生に勉強などを教わりたいですか?

  • トリニティの先生
  • ゲヘナの先生
  • ミレニアムの先生
  • アビドスの先生
  • 百鬼夜行の先生
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。