キヴォトス、先生大量発生中!?   作:ユメ先生

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遅ればせながら、明けましておめでとうございます!!

今回は満を持して、あの男が登場します。



トリニティの先生:責務と覚悟

 

 

 

「それではミカ様、ごきげんよう」

「うん、ごきげんよう」

 

 ミカはある派閥の構成員とのお茶会を終え、席を立った。

 

 日を追うごとに、ミカは実感している。

 そう、ナギサとの対立を。

 

 先日、彼女と決別して以来、ミカは派閥の大小問わず声を掛け、お茶会を通して自分に同調を求めた。

 その成果は三割と言ったところだった。

 

 日に日に、ミカとのお茶会を断られる回数が増えている。

 ナギサが周囲に手を回す方が早い、そう思わざるを得ない。

 

「やあ、聖園君」

「あ、先生!!」

 

 そうして次の一手を考えていると、トリニティの先生が彼女の前に現れた。

 

「どうやら苦戦しているようだね」

「うん……やっぱりナギちゃんは強敵だね」

 

 ミカは少しだけ弱音を吐いた。

 先生はミカの苦戦を中々手助けできずにいた。

 

 ミカが首長を務めるパテル派の旗色はあまり良くない。

 エデン条約を控えた今、アリウスなんて過去の遺物に労力を割くのは現実的ではないと言う意見が強い。

 実際、その意見は正論でもある。ナギサがアリウスなどに構っていられないと考えているのと同じだ。

 

 ほぼ孤軍奮闘。しかし、ミカの賛同者は居ないわけでは無い。

 シスターフッドやミネを首長とするヨハネ分派からはいい返事を貰えている。

 しかしながら現状は、2:1でミカが不利と言うところだった。

 

「しかし、世論は君の味方だ。一般生徒達は君の言葉に感銘を受けている」

 

 先生はそう慰めた。

 一般生徒達は今の機会にアリウスの過去を清算すべきだ、と言う考えが広まっていた。

 それはミカの行動の成果でもあるし、生徒たち自身が望んでいることでもあった。

 

 或いは、ゲヘナのような明確な敵と仲良くするより、姿形も考え方も似ているかつての同胞の方が受け入れやすい、と無意識に思っているのかもしれなかった。

 

「ううん、でもティーパーティー全体を動かすにはまだまだだよ」

「そうだね。もっと賛同者を増やすしかない。

 しかし、桐藤君もなかなかにやるものだね」

「……先生、何だか楽しそうだね」

「ふふ、そう見えるかね?」

 

 老紳士は不敵に笑ってそう返した。

 

「これでも若い頃は野党として与党とバチバチに論争を繰り広げていたからね。政権を得ることこそが政治家の華だが、私はそれと相対する方が燃える性質でね。

 お陰でキヴォトスに来るまでは、外交官でもやって大人しくしてろ、と控えめに罵倒されたくらいさ」

「うわぁ、ちょっとドン引き」

 

 ドン引きしているミカに、まあ天職だったがね、と彼は肩を竦めた。

 

「……ねえ、先生。ちょっと相談があるんだけど、良いかな」

「ふむ。ではたまには学外で食事でもどうかな。

 ここの食堂は大変素晴らしいのだが、大勢の前では話しにくいこともあるだろう」

「わーお、ではエスコートをお願いしますね」

 

 ミカが手を差し出すと、先生はその手を恭しく取り、校内の敷地から歩き去った。

 

 

 

 トリニティ自治区にあるオシャレな商店街の、カフェに二人はやって来た。

 スイーツが有名なのか、ケーキを始めとした洋菓子がカウンターに並んでいて、それを買い求めに来た客が並んでいる。

 

「それで、相談とは何かな?」

 

 二人は軽食を頼み、店内の奥のテーブル席に座ってから、トリニティの先生が話を切り出した。

 

「この間、先生はシャーレの先生を招致することを提案してくれたでしょう?」

「うむ、確かにそう言ったね」

「それなんだけどね、ナギちゃんのやり方に横やりを入れるのに使おうかなって思うんだ」

「ほう、具体的には?」

 

 先生の表情に好奇が浮かぶ。

 

「先生は聞いてるかもしれないけど、この間のテストで落第点を取った生徒がいるでしょ? ナギちゃんはそれを補習授業って名目で、ひとまとめにするつもりみたい」

「ああ、確かそんな話を聞いた覚えがあるね」

「でもそれって、ナギちゃんが疑ってる生徒を監視して隔離する為の措置みたいなの」

「やはり彼女も、学内の裏切り者を警戒しているのか……」

 

 先生も顎に手を当てて悩む。

 生徒達を疑いたくはないが、彼の思考は内部犯を示していた。

 

「私、それにシャーレの先生をねじ込んでみようと思うの。

 そうすればほら、ちゃんと勉強も出来るし、ナギちゃんへの牽制にもなると思うの」

「なるほど、それは良い考えだね。彼の存在は未知数だ、否が応でも警戒をせざるを得ない。そして勉強と言う名目なら、それを否定するのも難しい」

「でも、先生。うちの先生が教えるんじゃダメなの、って言われるかもしれないよ」

 

 ミカの懸念はそれだった。

 

「なに。名目など幾らでも作れるさ。見ての通り、私は老体だからね」

「……先生は」

 

 ミカは躊躇いがちに、こう言った。

 

「もし、セイアちゃんを、その、襲ったのがうちの生徒だったら、どう思う?」

 

 彼女の言葉を選ぶような物言いに、先生は答えた。

 

「文脈に依るね」

「……文脈?」

「その行いの前後の文脈に依って、その意味が変わると言っているんだよ」

 

 先生はミカにそう言った。

 

「私は向こうの新聞を数日分をまとめて定期的に取り寄せているんだが、最近面白い出来事が起こったのだ。

 そうだな、キヴォトスで例えるならば、だが」

 

 彼は少し思案して、こんな例題を出した。

 

「とあるA学校があるとしよう。そこの生徒会長は学校の自治権を笠に着て、所属する生徒や自治区に圧政を強いていた。

 それどころか、悪質な不良集団と繋がり、武器の密輸などを通じてトリニティの治安悪化などの影響が問題となったとしよう。

 ここで、桐藤君は思い切った行動に出た。なんとそのA学校の生徒会長を、正義実現委員会に命じて、相手の学校を襲撃し拘束し、我が自治区内に連行し、トリニティの校則で罰しようとしたのだ」

 

 ミカは目を丸くした。絶対にトリニティではあり得ない想定だったからだ。

 

「この場合、どのような問題が考えられるかね?」

「ナギちゃんはまず、自治権の侵害をしたとして、周りから突き上げられると思う。連邦生徒会もなんて言うか……」

「しかしA学校は、独裁政治から解放され、生徒達や住人も大喜びをした。桐藤君を英雄とまで言う者も現れたのだ。さて、これは正義か、悪かね?」

「……」

 

 ミカはすぐには答えられなかった。

 むしろ、これに類することがキヴォトスの外で実際に起こったと言うことに驚いていた。

 

「この決断には、トリニティの治安を守ると言う正義があった。

 しかし、同時にトリニティは場合によっては他の学校の自治権を侵害すると言う悪評も獲得しただろう。

 だが、世間の評価はこうだ。政治の世界では、善悪では測れない出来事も起こりうる、と肯定的だ」

「善悪じゃない……」

「聖園君のような百合園君の友人に言うべきではないが、もし仮に百合園君を襲撃し、亡き者にすることでそれがトリニティに貢献したと言うのならば、私は善悪を脇に置いて、一定の評価はするだろうね」

 

 先生は手を組んで、真剣な表情でそう口にした。

 

「正義の為……」

 

 彼の言葉は、ミカを肯定する言葉ではなかった。

 武力で現政権を追いやるなんて、キヴォトスでは有り触れている。

 しかしそれでも、自治権を脅かすのはたとえゲヘナでも簡単には出来ない。

 連邦生徒会からどんなペナルティを言い渡されるか分からないし、周辺の学校が結託して抗議を行うなど重大な政治的な問題に発展しかねない。

 それ程までに各学校の自治権とは、神聖かつ不可侵の領域なのだ。

 

 それを犯してまで、行う正義とは?

 

「先生、私は──」

 

 

「闘争の匂いがする」

 

 その時であった。

 二人の座るボックス席の後ろから、にゅうと顔を出す男が居た。

 

「ええ!?」

「あなたは、レッドウインターの先生……」

 

 それはだれあろう、レッドウインターに赴任した先生だった。

 

「済まない。盗み聞きするつもりはなかったのだが、聞こえてしまってな。なに、口外はしないとも」

「なぜ、貴方がここに?」

 

 ギョッとしてるミカを他所に、トリニティの先生が目を細めてそう問うた。

 

「山海経の先生と少しばかり会談を行ってね。その帰りにここのプリンを買いに来たのだ。生徒達が普段食べている安プリンばかりでは不憫だと思ってね」

「山海経の……あの元華僑マフィアの……」

「ああ、かつてはそれなりに腕を鳴らした達人だそうだな。今は中華飯店を経営しながら生徒達の相談に乗っているらしい」

 

 レッドウインターの先生はそう答えた。

 

 目の前の男に限らず、キヴォトスにやってきた先生達には何名か要注意人物が存在するとして、主要学校の先生は事前にその顔と赴任先、そして経歴などのリストをモモトークのグループに乗せていた。

 その代表格がこの男と、山海経の先生だった。

 

 この自称活動家は、紛争地域を練り歩いてはレジスタンスを始めとした武装勢力に加担し、幾つもの政権を破滅に導いては去ると言う、国際指名手配のほぼテロリスト。

 しかもそうして政権を得た勢力の大半は数年で破綻していると言うオマケ付きだった。

 

 そして、山海経の先生は歴史のある武闘派で鳴らした華僑系マフィアの元ボス。引退して司法取引をした後、中華料理屋をして余生を過ごしていた老人なのだが。どういう訳だかキヴォトスにやってきて、山海経高級中学校に赴任した。

 

 その屈指の危険人物二人が会合をしていたなどと、トリニティの先生には見過ごせない事実であった。

 

「そう怖い顔をするな、トリニティの先生。山海経は外部との交流が乏しい為、私の生徒達と交流をしないかと言う打診を受けて話し合いをしただけだよ。私はどちらの学校の政策には口を出さないつもりだからな」

 

 彼の席の前には、大量のプリンが置かれている。

 彼の発言は嘘ではないようだった。

 

「私には分かるよ、少女よ」

「な、なにがですか?」

「特に事情は知らないが、同志を排除したのは、君なのだろう?」

 

 レッドウインターの先生は微笑ましい物を見るように、ミカにそう言った。

 

「え、なんで、そんな」

「私も同じだからだ。君は私と同じ闘争に身を委ねているね?」

 

 ミカの目の前の狂人は、彼女にそう語り掛けた。

 

「私もキヴォトスに来るまでは、数多の同志をこの手に掛けた。

 妥協や交渉が必要だとか、私は狂っているだとか、軟弱な物言いで銃を向けて来たからだ。

 実に愚かな発想だ!! 真に優れた政権は、誰よりも強く堅固でなければならない!! 外敵や内憂をモノともしない、そんな政治の在り方をね!!」

 

 目が逝っちゃっている男は、矢継ぎ早に言った。周囲の視線が彼らに向いている。

 

「だがね、私は後悔しているのだよ。私の生徒達の在り方を見て、彼らの銃弾に、本当に銃弾を返さねばならなかったのか?

 もしかしたら私が撃ち殺した者達にも、優れた政権を産み出せる可能性があったのではないか!?」

 

 彼は涙を流していた。勝手にエキサイトしていた。

 

「そうとも、便所掃除程度で良かったのだ。私は生徒達に教えられたのだ。たとえ現政権から蹴落としても、殺すのではなく便所掃除でもさせて、次なる闘争へ奮起させればよかったのだ!!

 ああ、天国の同志たちよ、私を赦してくれ!! その代わり私は、キヴォトスの未来を担う子供たちを育てよう!!」

 

 コワい。ミカは純粋にそう思った。

 永久的狂気を発症したSAN値ゼロの狂人を目の当たりにすれば、そうもなろう。

 

「私が思うに、トリニティは上品すぎるのだ!!

 私にはわかっているぞ、本当は目の前の連中を暴力でねじ伏せたいのだと!!

 どれだけ品位と気品で覆い隠そうとも、隠せるものではない!!」

 

 そして彼はミカに、彼なりのエールを送った。

 

「君が現政権とどのように戦いを繰り広げるのか、私は楽しみにしているとも!!」

 

 レッドウインターの先生は言いたいことを言い終えると、スプーンでジャムを含み、紅茶を飲みほした。

 そして、そのまま大量のプリンの袋を抱えて去って行った。

 

「あんな気狂いの言葉など、耳を貸さなくてもいい」

 

 トリニティの先生は、呆然としているミカにそう言って、紅茶を口にした。

 

「レッドウインターの生徒も可哀想に。あんな男を先生として仰がなければならないとはな」

「……そうだね」

 

 だが、ミカはあの狂人ゆえの洞察力に戦慄もしていた。

 

「……私はエデン条約そのものを、額面通りには受け止めてはいない」

「え?」

「お互いの文化に無理解で、友好条約など難しいだろう。

 勿論、交流の無い学校同士で敵対を避けられるのはそれだけで意味はあるのだろうが、私には何か別の意図があるのではないかと」

 

 しかし、先生の胸の内に答えは出ない。

 

「先生。……実は私、去年に一人でアリウスの自治区に一人で乗り込んだことがあるの」

「聖園君?」

「アリウスの先生の言う通りの場所だった。アリウス自治区は廃墟同然で、まともな建物なんて一つも無い。建物を補修する技術も無いし、生徒達は当たり前のように泥水同然の水を啜って、残飯を奪い合ってた」

「……」

「だからみんなに黙ってこっそり支援もしてたの。

 悪いことだって分かってた。ナギちゃんもセイアちゃんも、まともに取り合ってくれなかったし」

 

 トリニティは手続きを重んじる。

 ミカの行動は軽率であるし、危険でもあった。

 

「アリウスの生徒はね、トリニティやゲヘナを憎んでる。

 先生はその上で、和解が出来ると思う?」

 

 先生はミカの告白を、黙って聞き届けた。

 

「まず、本当にアリウスの生徒達を救いたいのなら、トリニティの制度として支援すべきであっただろうね」

「はい……」

「その為に周囲を説得するべきだった。聖園君がそれを諦めたと言うことは、その程度の想いだったと思われても仕方がないと思わないかね?」

 

 ナギサとセイアも、その周囲も説き伏せることなどできずに、どうして完全に心を閉ざしているアリウスの生徒に向き合えると言うのか、と彼女達の先生はミカに指摘したのだ。

 

「だから、先生に教わった通りに、今のやり方に変えたんだよ。

 でも、難しいね。本当に難しい……」

「だがアリウスの生徒達と向き合うのは、もっと困難だよ。

 しかし、アリウスをその眼で見た君にしかできないことだ」

 

 これがトリニティという学校の責務であり、重さなのだと、先生は語った。

 

「トリニティという学校は、その政治力はキヴォトスを変えることができる。

 それにはそれ相応の責任と義務が生じるのだよ。本気で彼女達に手を差し伸べたいのなら、我々の覚悟を示さなければならない」

「はい、先生」

 

 ミカはもう、迷わなかった。

 自分がしでかしたことを償う為だけでなく、自分の成すべきことをする為に。

 

「微力ながら、私も手伝おう。きっとシャーレの先生も、この行き詰った状況を変える力になってくれるに違いないからね」

 

 トリニティの先生は、子供たちや若いあの先生に、希望を見出していた。

 自分にはできないことを、彼らは為すであろうと、そんな予感がしていた。

 

 政治とは先人たちの礎の上に成り立っている。

 彼らの為ならば、自身がその礎になることを、トリニティの先生は厭わないつもりだった。

 

 そして、トリニティにシャーレの先生が訪れ、閉塞した事態が動くまで、もう少し時間が必要だった。

 

 

 

 

 





レッドウインターの先生再登場と、現在判明している最後の学校の、山海経の先生の情報が明らかに。
山海経の先生は多分丸サングラスを付けた、チャイナ服の白髪の老人みたいな外見を予定してます。あと、当然のように武術の達人です。

時事ネタを使用する辺り、そろそろ拙作のネタ切れが見えてきましたが、補習授業編は二回ぐらい日常回を挟んでから突入したいと思います。

あなたはどの先生に勉強などを教わりたいですか?

  • トリニティの先生
  • ゲヘナの先生
  • ミレニアムの先生
  • アビドスの先生
  • 百鬼夜行の先生
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