キヴォトス、先生大量発生中!?   作:ユメ先生

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山海経の先生

 

 

 

 その老人が山海経高級中学校の自治区に踏み入った日を、ルミは忘れらずにいる。

 

 連邦生徒会の政策によって山海経に赴任することになったその男は、生徒会組織である玄龍門にお目通りをするのは当然の事だろう。

 だが、ほぼ門前払い同然に追い出された。

 

 玄龍門に外部の大人など不要、と構成員に一方的に怒鳴りつけられ、銃まで突きつきられたそうだ。

 

哎呀(アイヤー)……そうか。邪魔をした」

 

 しかし、彼はそれだけ言ってくるりと踵を返した。

 そんな光景を予期していたルミは、生徒会の代わりに彼を出迎え、謝罪を行った。

 

 彼女の第一印象は、老いた虎だった。

 ルミの護衛をしているレイジョをして、スゴイ功夫を感じます……カンフーそのものです、と言わしめた。

 

 とりあえず玄武商会で保護することになった彼だったのだが。

 

「ええと、先生は山海経で何をしたいのかな?」

 

 連邦生徒会曰く、先生達の活動に規定は存在しない。

 だからルミがそう尋ねるのも当然だった。

 

「ルミと言ったね」

「はい」

「私の事は師父と呼びなさい。そう呼ばれ慣れているのでね」

「はい、師父!!」

 

 カンフー映画みたいです、とレイジョはこれに大喜びしてそう答えた。

 

「分かりました、師父」

 

 自分の護衛に苦笑しながらも、ルミもそう応じた。

 

「私のやりたいこと、か。

 私に出来ることなど、料理ぐらいしかない。幸い、ここは料理が盛んだと聞いている。その一角を貸し与えて貰えればいい」

 

 と、彼は言った。

 

「わかりました。でも師父、一応念のために一品お願いして良いかな?」

 

 ルミとて商人にして料理人である。

 見ず知らずの老人の腕前を見ずして、厨房を預けることなどできない。

 

「いいだろう。焜炉を貸してほしい」

 

 そうして、ルミは彼を厨房に案内した。

 

「ここにある食材は全て使って良いです」

 

 と彼女が言うと、彼女らの先生は食材などを確かめ、調味料などを確認し始めた。

 そして、こう言った。

 

「老酒が無いな」

「……あー。それが、キヴォトスじゃあ料理酒の類も生徒が持つには厳しい制限があってさ……」

 

 ルミがそう答えると、なるほど、と先生は納得した。

 

「あ、でも、先生が調理するなら許可が下りるかもしれませんよ!!」

「そうだね。そうなったら嬉しいね!!」

 

 レイジョの言葉に、ルミも笑みを浮かべた。

 食材の為なら何でもすると言われてる彼女ららしい会話だった。

 

 そうしているうちに、先生は数少ない手荷物である中華鍋の布を解いた。

 それを見て、ルミは戦慄した。

 

 彼女にとって、鉄鍋は料理人と共に成長する物であると思っている。

 彼の取り出した中華鍋は、長年使いこまれた歴戦の古強者の風格を有していた。

 ルミのような料理の腕前を持っていても、若者であると言うだけで隔絶した何かがそこにはあった。

 

 そうして彼が二人に出した料理は、木須肉だった。ムースーロー、きくらげと豚肉と卵の炒め物である。

 彼は敢えて料理の基本にして真髄である、卵料理を出した。

 卵料理はその料理人の腕前を如実に示す。素人には簡単に見えても、難しいジャンルの一つだ。

 

「これでいいかね」

 

 二人は確信した。見た目が、匂いが美味しい。味が悪い訳が無い、と。

 そしてそれは真実だった。

 

 豚肉のジューシーさ、きくらげの食感。

 そして完璧な火加減によって齎される卵のふわふわさ。

 舌を巻くとはこのことだった。ルミをして文句を付けられない出来であった。

 

「師父、是非うちの店でその腕を振るってください!!」

 

 ルミはそう彼に頼み込んだのだが。

 

「いや。私は君たちの邪魔をするつもりはない。

 適当な空き家を貸してくれればそれでいい」

 

 と、彼はその申し出を拒否したのだった。

 それには二人も目を白黒するほかなかった。

 

 

 そして後日、彼女らの先生は中華街の片隅にひっそりと中華料理屋を始めた。

 立地は悪いが、ルミは強力なライバルが現れたと対抗心を燃やしていいたのだが……。

 

 一週間後には、彼の店は閑古鳥が鳴いていた。

 その理由は明確だった。

 

 先生を気に掛けているルミがレイジョを向かわせたところ、彼女はこう言った。

 

「なんか、不良のたまり場になってるんです……」

 

 あとついでに師父に弟子入りしようとしたところ、婦女子が荒事などに憧れるべきではない、と断られて撃沈したとのこと。

 

 ルミは毎日先生の店の売り上げを送られてくるので、ギリギリ黒字なのでちょっと疑問に思っていたのだが、不良がたむろしているとは。

 彼は一応山海経の職員扱いで、給料も用立てるつもりであった。

 だからこそ、視察のつもりでレイジョと共にルミは彼の店に出向くことになった。

 

 繁華街の片隅に、ひっそりとその店はあった。

『止戈虎飯店』と看板が掲げられた、田舎の中華料理屋のような様相だった。

 ルミとしては自分の店の厨房で働いてほしかったのだが、彼は小さくても自分の店を欲した。

 

「師父、お邪魔しまーす」

 

 ルミ達が店内に入ると、中は数名の不良生徒が大声で可笑しそう話していた。

 制服からして山海経の生徒だが、彼女らは二人を見ると、奥の厨房にこう言った。

 

「師父、お客さんだよー」

 

 その声を受けて、ゆっくりと先生が現れた。

 白髪を後ろにまとめたチャイナシャツの老人は、丸サングラスの奥から覗く鋭い眼光を二人に向けた。

 

「君たちか。賄いでよければ何か食べていくかね」

「はい、そうですね、お願いします」

 

 先生の腕前を見て味を盗むつもりでもいたので、とりあえずルミは様子見をすることにした。

 

 そうして二人が席について待っていると、また別の不良らしき二人組が入って来た。

 

「あー、お腹減った」

「ねえ、なんか食べさせてよ」

 

 二人組がそう言うと、最初から席に座っていた不良が立ち上がった。

 

「じゃあ適当にチャーハンでいい?」

「えー、あんたが作るの? 師父に作ってほしいなぁ」

「師父はお客さんの対応してんの!! 文句あるならお金払いなよ!!」

 

 と言って、彼女は厨房で先生と並んでチャーハンを作り始めた。

 

「なんか、田舎の食堂って感じですね」

「うん、そうだね」

 

 まさにゆるい空気での、利益を重視しない経営スタイルだった。

 

 そうしているうちに二人には天津飯が振舞われた。

 ルミは真剣に味を分析しながら食べているのを見て、ちょっとレイジョが引いてると。

 

「ほら、チャーハン」

「ありがと」

 

 厨房の生徒がチャーハンを持ってきて不良生徒のテーブルに置いた。

 

「皿洗いぐらいはして行ってよ」

「わかってる、わかってるって」

 

 そうして彼女達も食べ始めた。

 

「ねえ師父、私も仕事手伝うから賄い食べさせてよー」

「なに、私の料理がマズいって言いたいの?」

「うん」

「まだ師父に習い始めてすぐなんだからしょうがないでしょ!!」

「気にするな。こういうのは場数がモノを言う」

「ううぅ、わかりました、師父ぅ」

 

 どうやら不良達はここで先生の手伝いをしているようだった。

 

「心配していたほど、何か問題は無さそうですね」

「うん、そうだね」

 

 玄武商会の商人にしてこの店のオーナーとしては経営的野心が無いのは物申したいが、地元の生徒の居場所になっているのなら文句を付けづらかった。

 

 二人が天津飯に舌鼓を打っていると。

 入り口が乱暴に開かれた。

 

「なあ、ここだよな、タダで飯食えるってのは!!」

 

 ガラの悪い不良が入って来る。

 うちの生徒にこんな奴がいるなんて、とルミ達が半眼になって見ていると。

 

「客にはタダでは提供していない。

 カネを払う者だけが客だ」

 

 壁に立てかけている銃器に手を掛けた店内の不良達を片手で制し、先生は彼女にそう言った。

 

「じゃあ、ほら。カネだよ」

 

 彼女はポケットから十円を投げた。

 先生はそれを受け取ると、厨房に向かった。

 

 入店してきた不良はドカッと席に座って料理を待った。

 しかしながら、ルミの不快感は長くは持たなかった。

 

 先生の鍋捌きに釘付けになっている。

 彼は野菜炒めを作っているらしく、熱した油に生野菜を投じ、鍋を振りながら調味料を投じている。

 そこに独特な深い麹の匂い、紹興酒の香りだ。

 

 先生は特に老酒を使っているようで、燻製のような香りが特徴だ。

 

「どうぞ」

 

 先生はさっと野菜を炒めて、皿に盛り付けて不良に提供した。

 

「なんだよこれ、肉が入ってないじゃないか!!」

 

 レイジョはルミが愕然とした表情をしているのを見た。これが十円? 私なら七百円は取る、みたいな表情だった。

 

「いいから食べて見なさい」

「ふん……」

 

 如何にも野菜嫌いな子供と言った不良は、とりあえず一口だけ口にした。

 

「ん!? なんだこれッ!?

 野菜がシャキシャキしてるのに、ちゃんと火が通っているし、野菜本来の甘みが感じられる!?」

 

 不良はバクバクと野菜炒めを食べ始めた。

 

「……ごちそうさまでした。あの、実はあの十円が全財産で」

「君はうちの学校の生徒なのだろう?」

 

 先生は中華鍋を手入れしながらこう言った。

 

「腹が減ったのならまた来なさい。次は客でなくてもいい」

「う、ううッ、ありがとうございますッ、先生ッ」

「師父と呼びなさい」

 

 不良は涙を流して、店を後にした。

 

「それで、二人共。いったい何の用かね」

「師父」

 

 ルミは言った。

 

「ここのメニューにあるの全部作って。お金払うから」

「……」

 

 レイジョはそんな彼女をドン引きして見ていた。

 

 

 店内は、宴になった。

 先生の店に屯している不良達が集まり、ルミ達が食べきれなかった分を貰って大喜びしているからだ。

 

「うう、この東坡肉の味の深みは老酒無しじゃ出せない……」

 

 ルミは料理を順番に味わいながら、悔しそうにしていた。

 

「中華に紹興酒は欠かすことはできない。他の店の料理も、十分に工夫を重ねられているがこの味を出すのは難しいだろう」

 

 一仕事終えた先生は、ルミにそう言った。

 

「うちでもこの味を出したい……この味を発展させたい」

「勘弁してください……」

 

 レイジョはちょっと呆れ顔でそう言った。

 ルミの料理の腕は壮絶な試行錯誤の末に磨かれたもので、彼女の努力の結晶でもある。

 だが、創意工夫が過ぎて奇天烈な料理を産み出してしまうのが玉に瑕だった。

 そしてその実験台の第一候補が自分なので、何とかしてほしい所存であった。

 

「そうだ!! 先生、うちの店で紹興酒を使えるように連邦生徒会に許可を貰っていいですか!?

 ついでにこの味を伝授してください!!」

「この人厚かましすぎる……」

「よかろう」

「良いんだ!?」

「やはりやる気のある生徒に教えるのが楽しいからね」

 

 先生はにやりと笑って、頷いたのだった。

 

 その後、ルミ達は大人である先生を通して何とか酒類の使用許可を手にした。

 ただ、毎日使用量を大人である先生に申告し、それを毎日彼が確認すると言う徹底した手順を守るよう勧告されるほどであった。

 これが文化の違いか、とその徹底ぶりに先生は驚かずにはいられなかった。

 

 ルミは二週間かけて、先生の味をなんとかモノにした。

 この短期間でどうにか習得したのは彼女の努力のたまものだろう。

 ちなみに、彼女はモノにはしたものの、習熟度に関しては納得は行ってなかった。

 これから教わった料理を自分の味にする過程で、実験台になるだろうレイジョはうんざりする気分だった。

 

 ある時、頃合いを見計らってルミは問うた。

 鍋料理をしようとしている時、お湯が沸くまでの沈黙に耐えかねてでもあった。

 

「師父ってさ、向こうじゃ名の知れたマフィアだったって本当?」

 

 なるべく世間話のように、彼女は話題を振った。

 店のホールに屯していた喧騒が、静まり返った。

 

「もう十年以上昔の話だよ」

 

 彼は否定はしなかった。

 

「私の民族は故郷を追われてね。その子孫である私達は、言葉の違う国々を根城にせざるを得なかった。

 最初は、この店のように同胞たちが飢えぬように食事を提供して、たまり場として身を寄せ合っていたに過ぎなかったらしい。

 しかし、時の権力者は祖先達を危険視し、迫害したらしいのだ。

 それに対抗するために、武挟のような側面を帯びた自衛組織が元になったとされる」

 

 それから二百年以上の歴史がある、と先生は語った。

 

「しかし時代の流れは我々を、任侠などと言うモノを置き去りにして行った。

 そしてどんな崇高な組織でも、世代を経れば根元が腐るものだ。

 組織は武挟として頼られていたかつての面影はなく、クスリや売春斡旋などをシノギにする犯罪組織に成り果てて行った」

 

 見ていられなかったよ、と彼は言った。

 

「私は首領の座を息子達に明け渡し、その座を退いた。

 そして警察に自首をしたのだよ。だが、彼らは私に司法取引を持ち掛けてきた」

「それって……」

「華僑の組織は大抵の場合、血縁が重視される。私は息子や親戚を売れと言われたのだよ」

 

 その後組織がどうなったか、それはこうしてキヴォトスの地を彼が踏んでいることから明らかだ。

 

「組織はほぼ壊滅したが、大きな組織だった。私は残党から身を隠すことの一環として、キヴォトスに訪れたと言うわけだ。

 私は身内を裏切ったが、後悔はしていないよ。本当に、見ていられなかった」

 

 そう話す彼は、哀愁に満ちていた。

 

「……そうなんだね。でも、良かったよ。

 それなら大手振って師父を庇えるよ、玄龍門の連中がこの事を知ったらしくてね」

「ふふふ、そのような必要は無いよ。私はレイジョの好きそうなカンフー映画に出てくるような、悪の組織のトップだったのだからね」

「なるほどね、レイジョが喜びそうだ。

 でも、私が知る限り、お腹が空いた子供にお腹いっぱい食べ物を食べさせてあげるのは、ヒーローの行いだと思うよ」

 

 ふッ、と先生はルミの言葉に小さく笑った。

 

「でも、マフィアのボスだったのに、どうしてこんなに料理が上手いの?」

「組織の伝統だよ。代々続く店の味をちゃんと継いだものが、ボスの資格を得る、とね。馬鹿馬鹿しいだろう?

 そんな頓狂な伝統が幾つもあったものだよ」

「ええッ、なにそれッ」

 

 ルミは笑った。どこぞの生徒会みたいだと。

 

 だからこそ、その時が訪れるのに時間は掛からなかった。

 

 

 先生の店に入り浸っていたから、ルミはそこに居る不良生徒達の面倒を見たりしていた。

 彼女らも先生から料理の手ほどきを受けていて、厨房を任せるのはともかく、下ごしらえをする分には問題ない腕を身に着けていた。

 だから玄武商会の傘下の店に仕事を紹介などをしていたのだが。

 

「ルミ姐さん、大変だよ!!」

「もう、姐さんはやめてって言ってるじゃない」

 

 それはお昼のピーク時が終わった時だった。

 そろそろ自分の賄いでも作ろうかと思っていると、先生の店の不良が駆け込んできた。

 まだ少なからず残っている客たちも、何事かと彼女を見やった。

 

「それで、どうしたの?」

「うちの連中と、玄龍門の連中が言い争いを始めて、どっちも引かないから今にも銃を抜きそうで……」

 

 それを聞いて、ああこの時が来てしまったか、とルミは思った。

 

 山海経の生徒会組織である玄龍門は、とにかく極端に変化を拒む、完全な保守派組織だ。

 ルミが会長を務める、進歩を好む玄武商会とは折り合いが悪いのもその為である。

 

 さて、そんな連中が日に日に影響力を増し始めた先生のことをよく思わないのは自明の理である。

 最近では不良以外の生徒も先生を慕い、繁華街を歩けば話しかけられ、料理のアドバイスを求める生徒も増え始めた。

 むしろ目を付けるのが遅すぎたまである。

 

 ルミは休憩室に詰めて自己鍛錬に励んでいるレイジョを伴い、現場に赴いた。

 

 生憎と、現場は既に銃撃戦が始まっていた。

 ああ、とルミは絶望的な気分に陥った。

 

「大丈夫!?」

「ルミ姐さん、すみません……師父を馬鹿にされて、それで」

「とにかく、どうにかしてこの場を抑えないと」

 

 しかし、普段治安維持などを行っている玄龍門の構成員相手に、不良たちの旗色は悪く、ついには殆どが倒れてしまった。

 

「おい、玄武商会ども!! 貴様らがあの男を匿っているのは知っている、この連中みたいな危険な集団が幅を利かせる前に、今すぐ引き渡せ!!」

 

 玄武商会の構成員の一人が言った。

 

「色々と言いたいことはあるけど、引き渡したらどうなるの?」

「当然、よそ者は山海経にはふさわしくない。追放するに決まってるだろう!!」

 

 はあ、とルミは何度目か分からない溜息を吐いた。

 

「それは門主様の御言葉なの?」

「知れたこと。玄龍門とはそう言う組織だ、門主様も同じことを仰るだろう!!」

「……止めた方が良いと思うよ」

 

 ルミはそう言って、振り返った。

 

 繁華街の店や、路地裏から。

 ぞろぞろ、と大勢の生徒が武装したまま現れ、集結し始めた。

 その数、軽く五十人を超えていた。

 

 これには、たった数名でイキっていた玄龍門の構成員も顔が強張った。

 

「神話曰く、かつて太陽は十個もあったそうだ。しかしそれでは地上が暑くなりすぎると、とある英雄が九つを撃ち落としたそうだ」

 

 不良達は、殺気立って倒れた仲間たちの前に出た。

 

「太陽がいつまでも、地上を照らせると思うなよ」

 

 それは、明確な叛逆の意思だった。

 

「き、貴様ら、本気で玄龍門と事を構える気か!?」

「嫌なら責任者を出せよ。門主様に、私らの仲間と師父をコケにした釈明をさせろやッ!!」

「なッ、身の程を弁えろ、クズども!!」

 

 これはマズいですよ、とレイジョの額に汗が浮かぶ。

 完全に抗争一歩手前だった。

 

「双方、そこまでにしなさい」

 

 その時である。彼女らの先生が、間に入った。

 

「師父!! でもこいつら、私達の仲間を!!」

「わかっている」

 

 自分の生徒達の言葉を、彼は制した。

 

「私ひとりのことなら、素直に出て行こう。

 だが最早、この身は子供たちの為にある」

 

 彼は玄龍門の構成員たちを見た。

 

「これより門主にお目通りを願う。此度の騒動の責任の所在について確かめさせよう」

「わ、我々がそれを許すと思うか!?」

「それを決めるのは門主だけだ。無論、お前達が阻むと言うなら、押し通るのみだ」

 

 ダン、と先生は徒手空拳のまま太極拳の構えを取った。

 何と言う震脚、とレイジョは戦慄した。

 

「しかし、ここで引くなら、今回だけはこの蛮行にも目を瞑ろう。さあ、どうする?」

 

 年老いて眠る時間が増えた老虎が、目の前の敵に唸り声をあげているようだった。

 まるでカンフーだ、とレイジョは思った。

 彼の後ろに居る不良達も、虎の威を借るだけの存在ではなかった。

 

「こ、このことは、門主様に報告するからな!!」

「くそッ、覚えておけよ!!」

 

 大勢に詰め寄られ、涙目になって彼女達は退散していった。

 

「やれやれ、今回は手を引いてくれたか」

「どうせ向こうも独断専行だろうからね……」

 

 ホッとして、構えを解いた先生にルミはそう言った。

 

「あのような組織はどこにでもあるのだな。見ていられぬよ……」

 

 彼が彼女達を何に重ねて見ているのかは、明白だった。

 

「師父!! 教わった通り、舐められたら全員で立ち向かいました!!」

「生徒会だからって私らを馬鹿にして……。でもスカッとしましたね、師父!!」

 

 そう言って慕ってくる生徒達を、彼は複雑そうに見ていた。

 

 そして彼は思い当たったのだ。

 混迷とした武挟小説の世界観に、キヴォトスは打って付けなのだと言う、その事実に。

 

 

 

 

 

 

 






:山海経先生

伝統と変革が入り混じる山海経を体現する、元華僑マフィアの武挟の老人。
優れた料理人でありながらその味は伝統を重視する、山海経の二つの側面を有している。
彼の存在そのものが変革であり、伝統への回帰でもある。


今回で、ネームド生徒の存在する学校の先生が全員登場させられました。
擬人化という縛りをしていたのが悪いんですが、癖の強いオカマの先生とか出したかったですねww

それでは、高評価や感想をお待ちしております。
次は、何かのイベントをやろうかと思ってます。

あなたはどの先生に勉強などを教わりたいですか?

  • トリニティの先生
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