キヴォトス、先生大量発生中!?   作:ユメ先生

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 この作品の先生達は、その学校の特徴や校風、所属生徒や元ネタなどをミックスした存在となっています。
 つまりゲヘナ学園とトリニティ学園の擬人化は、男性と作者は解釈しました。それに対して、ミレニアムは三大学校で唯一女性であると解釈しました。その解釈の証明、本編をどうぞ。



ミレニアムの先生

 

 

 

「先生、先生ッ、まったく、どこですか!!」

 

 ミレニアムサイエンススクールのキャンパス内を、ユウカは走り回っていた。

 

 彼女の目的は明確だ。

 自分の学校に赴任した先生を探し回っている。

 

「あ、ユウカちゃん。先生なら外の広場に居たよ」

「わかったわ、ありがとう!!」

 

 通りすがりの生徒達の情報を元に、彼女は行き先を修正した。

 

 かくして、目的の人物を発見した。

 

「先生……何をしているんですか?」

 

 ユウカの頬が引きつる。

 

「やあユウカ、見てわからないのかい?」

 

 ミレニアムの先生は、バーベキューグリルで串に刺した肉や野菜を焼いていた。

 学内の生徒達も大勢、一緒にバーベキューグリルの前で肉と野菜を焼いている。

 

「バーベキューだよ」

「それは見ればわかります!!」

「HAHAHA!!」

 

 ユウカの反応に、先生──彼女は可笑しそうに笑った。

 

「なんでバーベキューなんてしているんですか!?」

「スーパーフード研究部が、効率的に栄養価を摂取するには粉末状にしてスムージーに混ぜるのが合理的だなんていうもんだからね。

 しかし、それでは味気ない!! スーパーフードの粉末に味を付けて串焼きに振りかけ、バーベキューをしながらみんなでワイワイ楽しみながら摂取する。これが栄養価と満足度、幸福度の最大化だよ」

「ただバーベキューをしたいだけじゃないですか!!」

「Excellent!! やはりユウカ、君は物事の言語化が上手だな!!」

「誰が見ても同じ結論に辿り着きますよ!!」

 

 ユウカは律儀にツッコみを入れた。

 

「まあまあ、ちょうどほら、焼けたから君も食べたまえ」

「……まあ、そう仰るのなら」

「塩味、BBQソース味、エナドリ味があるぞ」

「いやエナドリ味って何なんですか……」

 

 無難に塩味のスーパーフード粉末を掛けた串焼きを受け取り、ユウカは串焼きを頬張った。

 

「あ、美味しいですね!!」

「見たか、みんな!!」

 

 が、その時先生はバーベキューに参加している他の生徒達に言った。

 

「ユウカが食べたぞ、彼女も共犯だ!!

 今回のバーベキューはセミナー持ちだ!!」

「え、えッ」

「先生、今すぐ高級和牛を買ってきます!!」

「お菓子もエナドリもだ、買い出しにゴーです!!」

「ありがとうございます、ユウカさん!!」

 

 生徒達はどたどたと笑顔で買い出しに向かった。

 

「ちゃんと領収書を貰ってくるんだぞ!!」

「貰ってきても経費は出しませんからね!!」

 

 はあ、とユウカは溜息を吐いた。

 彼女は目の前の破天荒な先生に、手を焼いていた。

 

 ビジネススーツの上に白衣を纏い、長いブロンドを適当にまとめたアメリカンなこの女が、ミレニアムに赴任した先生だった。

 最低限の身だしなみ以外は興味など無いと言わんばかりの、典型的な研究肌の二十代後半ぐらいの女性である。

 

 そして、ミレニアムに赴任するだけあって、キヴォトスに来た数多の先生達の中でも随一の、天才だった。

 

 ユウカは思った。モモイが増えた、と。

 

「……先生、セミナーでの会議の時間です」

 

 色々な感情を押し殺して、ユウカはそう言った。

 

「なんだ、もうそんな時間か」

 

 政治とは距離を取る他の三大学校、ゲヘナやトリニティの先生と明確に彼女は違った。

 即ち、生徒会の活動に直接参加し、口を出すのだ。

 

 勿論彼女には何の権限も無い。ただ先生と呼ばれるだけで、他の大人の職員と同じ扱いだ。

 だが、既にセミナーは、生徒会は彼女を無視できなくなっている。

 こうして実質的なセミナーのナンバー2、ユウカが直接呼びに来る程度には。

 

 

 

 ミレニアムサイエンススクールは、三十年程度の歴史しかない、キヴォトスにおいては新興に部類される専門学校である。

 

 その理念は、千年問題と称される命題を解明すべく、あらゆる科学技術を是とし、解となるべき星の粒を探査すること。

 要するに、無駄な鉄砲も数撃ちゃ当たる、そんな理念なのである。

 

 とは言え、馬鹿馬鹿しい研究には予算を出せない。

 それを引き締めるのが、セミナー会計のユウカの役目だった。

 ハッキリ言って嫌われ役だが、ユウカは必要なことだと自認していた。それが合理的である、と。

 

 この学校が台頭してきたのは、本当にここ数年の話である。

 ゲヘナやトリニティと言う超マンモス学校と比べれば、敷地も生徒数も足元にも及ばない。

 だが、この学校に集う天才たちは、今やキヴォトスの科学の最先端を牽引していると言っても過言ではなかった。

 

 ある生徒が発明した機械が普及したり、天才的なハッカー達が画期的なプログラムを編み出しどの電子機器にも搭載されたりと、ブレイクスルーが起こるのを何度もユウカはその眼で見てきた。

 彼女の幼い頃と、今のキヴォトスは別世界と言えるほど発展を遂げていた。

 

 その類稀なる科学技術の中枢、それがミレニアムサイエンススクールなのだ。

 今や、この学校はゲヘナやトリニティと言った歴史のある学校と肩を並べると誰もが認めるほどに。

 

 そんな学校の実質的に財布を握るユウカは、自分を天才であるとは思っていなかった。

 他の生徒達が聞けばいやいやそんなことはない、と言うかもしれないが、彼女は自分の地位を努力で勝ち取ったものだと思っている。

 

 事実として、彼女の周囲には自分を上回る類稀なる天才たちがひしめいていた。

 だからユウカはその日、この学校に新たな天才が加わるのを目の当たりにしたのだ。

 

 連邦生徒会の政策により、各学校に先生が赴任することになった。

 ユウカは憤った。その人員の給料、つまりその政策の運用コストは各学校持ちだからだった。

 シャーレの先生の給料は連邦生徒会から出ているのに、と。

 

 とは言え、流石の連邦生徒会と言えど、数千人の大人を急に雇用なんて出来ない。

 負担の分散は自明の理と言えた。それに、ミレニアムが連邦生徒会に収めている分担金からすれば微々たる出費だ。

 

 ミレニアムの先生、そう呼ばれるようになる女性を出迎えたのは彼女だった。

 

「初めまして、先生。私は早瀬ユウカです。この学校の生徒会、セミナーの会計をしています」

 

 校門前で、タクシーに乗せられやってきた彼女にユウカはそう名乗った。

 

「あー、うん、よろしく」

 

 タクシーから降りた彼女は、気だるげに領収書を貰い、名乗りもせずにそう言った。

 

「えーと、とりあえず、学内を案内しますね!!」

「まあ、手短にね」

 

 ユウカは思った。シャーレの先生とは違うな、と。

 自分が彼女面している男性を思い浮かべ、彼女はそう比較してしまった。

 

「先生は我が校で、どのようなことをなさりたいですか?」

 

 ユウカは彼女にそのように問うた。

 各学校に赴任する先生達は、その活動を一任されている。

 シャーレの先生が所属する連邦捜査部のように、その活動目的は設定されていない。

 

「適当に」

「え?」

「やりたいと思ったことを適当にやるよ」

 

 まさか白紙の回答だった。

 セミナーのしている試験の答案の採点であれば、ゼロ点は間違いない返答である。

 

「えーと、先生のプロフィールは読ませて頂きました。

 会社経営……研究機関などの下請けをしていらっしゃるそうですね」

「殆ど部下に秘書に任せっきりだったけどね。お金を稼がないと食べ物を食べられないし」

「ぐ、具体的にはどのようなことをしていらしたんですか?」

 

 研究機関の下請け、要するに受託研究のことである。

 企業などがお金を出して、この研究をやっておいてください、と指示して成果を報告する業務のことを言う。

 

「うーん、子供向け玩具の電子回路とか、病気とプログラムのウイルスのワクチンを作ったり、あとはミサイルの設計図を引いたり、色々かな」

「……え、冗談ですよね?」

 

 どれも分野が違う。一人の専門家が生涯かけて追及する分野を、幾つも掛け持ちしていると言うのだ。

 

「ある天才物理学者は言ったわ。

 必要な時に必要な知識を引き出せるのなら、それは覚えておく必要はない、とね。

 つまり、頼まれた研究のタスクを実行するのに、その都度学べば良いだけってこと。簡単だよ」

「……多分、その人はそう言う意味で言ったんじゃないと思いますけど」

 

 ミレニアムには多くの天才が居る。

 セミナーの頂点、学内からビックシスターと揶揄される生徒会長のリオもこんな風に周囲から理解されないタイプの天才だ。

 

 ユウカは思った。会長が増えた、と。

 その時、学内を歩く彼女の足が止まった。

 

「……ええと、ユーカリだったっけ?」

「ユウカです」

「あのドローンはこちらで、キヴォトスで開発されたものなのかな!?」

「え、ええ、うちのエンジニア部が開発したドローンのテスト飛行かと」

 

 ユウカは脳内スケジュールを引っ張り出し、校内の制空権内での申請を洗いなおしそう言った。

 

「私の知らないタイプだ!! キヴォトスは実質的に鎖国状態で、独自の科学技術が発展していると言うのは本当だったんだね!!

 実にUnbelievable!! 正直気乗りしなかったけど、来てよかったかもしれない!!」

「え、ええ……」

「是非ともあのドローンの開発者と合わせてくれ!! あのタイプのドローンは私も考えたが、構想段階で実用化の可能性を排除したんだッ、だって余りにも用途が限定され、予想されるコストも結果に見合わない!! なんてRomantic!!」

 

 ユウカは思った。ウタハ先輩が増えた、と。

 

 それから程なくしてぶつぶつと呟きながら、自分の世界に入り込んでしまった。ユウカは困惑した。

 

「えーと、先生は航空力学についてもお詳しいんですね!!」

「……ああ、勿論だよ!! 私は万能の天才だからね、私より優れた頭脳は他には無いと自負しているよ!!」

 

 ユウカは思った。ヒマリ先輩も増えたかも、と。

 

「さあ、行こうかユーカリ!!」

「ユウカですって!!」

 

 その後、ユウカは放課後になっても彼女に引きずり回された。

 彼女は好奇心の塊だったので、キヴォトス独自の科学技術に興味津々だったのだ。

 

 

 最初こそ、子供になんて興味の無さそうな彼女だったが、ユウカは彼女に会う度にその傾向が改善?されているのを目の当たりにした。

 

「先生、またどこかの部室に入り浸ってたんですか?」

「……ああ、古代史研究会と、現代キヴォトスの科学技術と古代文明の遺跡から産出されるロボット技術の差異について討論をしていてね」

 

 まただ、とユウカは思った。

 学内の部活を総なめする勢いで、毎日いろんな生徒達と彼女は夜な夜な消灯時間まで激論を交わしている。

 

 そして、ユウカは感じていた。

 彼女は恐ろしい勢いでキヴォトスの独自発展した科学技術を自分の脳内にアップデートしている。

 

「いやはや、こうして選りすぐりの頭脳を持つ生徒達と日々接していると、彼女達の独創性や感受性が羨ましくなるよ。

 自分の脳が硬くなったのを実感せざるを得ない。これが若さと言うものか」

「そ、そうですか、先生も十分お若いですけど……」

 

 などと言ったりしている自分のところの先生に、ユウカは苦笑いするほかなかった。

 

「うむ、まさに若返るような気分だよ。

 私の学生時代には、こんな刺激は無かったからねぇ。

 学生生活がこんなに素晴らしいのなら、さっさと博士号なんて取らずに一年ぐらい居ればよかったね!!」

「……先生がうちの学校を好きになって下さって、良かったです」

 

 ユウカは本心からそう言った。

 彼女は本当に楽しそうにしていたからだ。

 

 そうして一か月ほど経った頃、突然彼女はレポートをセミナーの会議の最中に提出した。

 

「ユウカ、セミナーの各部活における予算配分に関しての意見書を提出するよ」

 

 彼女はユウカが思う以上に子供っぽかったが、ちゃんとした大人であった。

 

「私が各部活を観察した結果、その81%の部活がインドアだ!!

 これはいけない!! いけないとも!!」

「え、ええと、先生。何がいけないのでしょうか?」

 

 会議の最中に突然乱入してきた先生に、困惑しているノアが言った。

 

「研究者とは、ある程度の社交性が問われるものなのだよ。

 スポンサーへのプレゼン能力など最たるものだ。

 私も昔はナードを極めていて、共同研究者に成果を奪われたこともある。部室に引きこもって日がな研究ばかりに打ち込むばかりではノーセンキューなのだよ!!」

 

 セミナーの生徒達は、先生のエネルギッシュな笑顔に気圧されていた。

 

「今のセミナーの予算配分は実績などに依るようだが、私はより将来を見据えたプレゼン能力を養う方針に転換すべきだと主張する!!

 成果主義は理解できるが、ここは学校だ。研究とは必ずしも成果が出るモノではない、成果とは水物なのだ。失敗やスランプも容認すべきだと私は考える!!

 学校の本質とは、実利ではなく、生徒を送り出すことだと、私は思うのだ!!」

 

 先生、と誰かが呟いた。

 そう、彼女はこの数週間で、“先生”になっていた。

 

 彼女が自ら言ったように、自らを先生へとアップデートしたのだ。

 

「どうかね、Bigsister?」

 

 彼女はホログラムで会議に参加している、リオに自らの主張を投げかけた。

 

「……生徒の能力設計に、先生の案は合理的であると判断できるわ。

 貴女の視点は、我々には無いものだと理解できる。

 でもまずは試験的に、実績のある部活から試してみるべきだと思うわ」

「なら、そのように意見書を調整しよう」

 

 ユウカは思った。やっぱりリオ会長が増えた、と。

 リオは数々の改革でミレニアムの体制を変え、実績を残してきた天才だった。今のミレニアムがあるのは、彼女のお陰でもある。

 

 他の人の意見など聞かずに、最適解を選ぶ怪物。

 彼女達の先生もまた、そんなタイプだった。

 

「諸君、私はこの学校の理念に感銘を受けたよ。

 ここに居る皆は、チームだ。同じ命題を共有する研究チームなのだ」

 

 彼女は、先生は生徒達に言葉を投げかける。

 

「共に才能を補い合い、疲れれば助け合い、支え合い、科学技術の発展と社会への貢献の為に、そしてこの学校に所属する生徒の為に一丸となって進もうではないか!!」

 

 ユウカを始めとしたセミナーの生徒達は、拍手をもってして自分たちの先生を受け入れた。

 

 

「なるほど、興味深いですね。果たして彼女が、我々の先生がどのような変数として作用するのか……」

 

 薄暗いサーバールームとしか思えない部屋で、彼女の動向を監視していたヒマリは監視カメラのモニターを見つめながらそう言った。

 

 彼女の視線が、ホログラムのリオと交錯する。

 ハッキングが途切れ、画面の電源が落ちる。

 

「楽しみですね、リオ」

 

 薄幸に見える美少女は、小さく微笑んでそう呟いた。

 

 

 

 





:ミレニアム先生
ミレニアムに集う天才性を象徴する破天荒な女性研究者。
短期的に各分野の天才生徒達に匹敵する能力を発揮するが、非常に飽きっぽく長続きしない。自分に興味あることと好奇心に忠実なタイプ。
今は自分を先生としてマインドセットして、生徒達と一緒に自分が学生時代に出来なかった青春を謳歌している。
或いは、生徒と共に成長するからこそ、先生と言えるのかもしれない。


ミレニアムの生徒は理系ばかりなのに、情に左右される生徒ばかりなので、ミレニアムの擬人化は女性であると解釈しました。
ミレニアム先生はインドア派が多い生徒という設定の中、あえて行動派にしてみました。
リオを自分に重ねるタイプの先生なので、色々と彼女を諭したりするでしょう。

次回は、度々匂わせおいたアビドスの先生にしようかと思います。ひぃん……。
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