キヴォトス、先生大量発生中!?   作:ユメ先生

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シャーレの先生:補習授業部、始動

 

 

 

 シャーレの先生がトリニティを訪れた。

 

 彼はトリニティの先生を伴い、生徒会室へと赴き補習授業部の顧問を引き受けた。

 それまではナギサの想定通りだった。

 

「ところで」

 

 ナギサは想定外の存在を言及した。

 

「なぜゲヘナの先生と一緒にいらしたのですか?」

 

 そう、シャーレの先生は単独で来たわけでは無かった。

 偶々副担任として勤務していたゲヘナの先生と一緒に来ていたのだ。

 

「それについては、私から聴取しておいたよ」

 

 同席していたトリニティの先生がやれやれと肩を竦めて言った。

 

「以前、シャーレの先生はとあるゲヘナの生徒がエデン条約関連で身柄を抑えようと行動を起こしたらしいのだ。

 事前に補習授業部の顧問を要請する件について書類で知っていたので、誠意を示す為に同行してきたのだとか」

「……なるほど、自らの誠実さを示す為ですか」

 

 彼の説明に、ナギサは一応納得して見せた。

 ちなみにゲヘナの先生は今、生徒会室の外で待っている最中である。

 

「ねえねえ、シャーレの先生。

 せっかくだからさ、ゲヘナの先生みたいに副担任の先生も補習授業部の子たちに勉強を教えてあげたら良いんじゃない?

 こっちで色んな学校の先生に会えるのって、何だか面白そうだし!!」

「“うん、良い考えだと思うよ”」

 

 ミカの言葉に、シャーレの先生は頷いた。

 

 シャーレの先生の副担任は毎日違う。

 色んな視点や経験を持つ先生達と触れるのは、生徒達にとっても気晴らしになるだろう、と彼は思ったのだ。

 

「全くもう、ミカさんったら……。大人の仕事の邪魔をするものではありませんよ」

「ああッ、邪魔って言った!! ねえ先生、酷くない!?」

「まあまあ桐藤君。ユニークで柔軟な発想が聖園君の長所だよ」

「型破りで突拍子も無いだけですよ」

 

 自分達の先生と幼馴染の評価に、ミカはいじけだした。

 

「なにそのオブラートに包んだような言い方……。もっともっと褒めてくれても良いのに……」

 

 ちら、っとミカがナギサを見やると、うわめんどくさッ、みたいな表情をしていた。

 

「……それではシャーレの先生、我が校の生徒をお願いします」

「スルーされた!?」

「シャーレの先生、引き受けて本当に助かるよ。私もこれで校内のいざこざに集中できる」

「こっちも!?」

「“いざこざ……?”」

 

 シャーレの先生はトリニティの先生の物言いに疑問を抱いたが、それは自分の仕事に関係ないので言及しなかった。

 

 そんな訳で補習授業部の顧問を引き受けた彼は生徒会室を後にした。

 

「いやぁ、トリニティの生徒ってみんな品があっていいねぇ。

 廊下を通り過ぎる時、みんな挨拶してくれるんだわ。廊下ですれ違ってもうちのガキどもは大抵はしゃぎまわってるから俺に気づかねぇのよ」

 

 廊下ではゲヘナの先生が先生二人が生徒会室から出てくると、そんな嘆きを口にしていた。

 

「元気があっては良いではないか。子供はそれくらいの方がいい」

「“ええ、その通りですよ”」

 

 元気があり余り過ぎてるんだよ、と肯定する二人にゲヘナの先生は溜め息と共に言った。

 

「それにしても補習授業部か。きっとうちのガキどもだったら誰ひとりとして集まらないぜ。

 トリニティみたいに教育が行き届いてる学校でも、落ちこぼれは出るもんなんだな」

「誰しも向き不向きはあるものだよ。だが君は自らの監督不行き届きを猛省するべきだろうね」

「ああ爺さんの言う通りだ。あんたもガキどもの政治ごっこに付き合って、四人も落ちこぼれを出したんだからな」

 

 交錯する、二つの学校の先生の視線。

 まあまあ、とシャーレの先生は間に入って二人を宥めた。

 彼は致命的にまで馬が合わない二人の間を取り持つのが常であった。

 

「……シャーレの先生、私の生徒をお願いします。あとついでにそちらの小僧も」

「“は、はい……”」

 

 トリニティの先生はシャーレの先生に一礼すると、忙しそうに去って行った。

 

「とりあえず、対象の生徒に会いに行こうぜ」

「“ええ、そうですね……”」

 

 しかしナギサから受け取った名簿には、見覚えのある名前があって嫌な予感がするシャーレの先生だった。

 

 

 

「うちのガキどももよ、テストをしたくねぇからバックレるなんて珍しくねえんだわ。

 でもそうすっと不良になって転げ落ちるしかない。それを繰り返してると勉強に意欲が無いとみなされて、除籍される可能性があるからだ。

 だから何とか名前だけは書いてテストの日には出席しろって説得したりするわけよ」

 

 ゲヘナの先生は窓から遠い自分の学校の生徒に想いを馳せた。

 その姿は哀愁に満ちていた。

 

「あ、あうぅ……すみません」

「“あはは……”」

 

 二人が阿慈谷ヒフミと合流し、なぜ彼女が補習授業部に入部する羽目になったのかを聞いて、ゲヘナの先生は黄昏ていた。

 

「出来が悪いのはしかたがない。不正さえしなければ、幾らでも挽回することは出来るんだ……。でも自分の好きな事を優先させて、テストを棒に振るのはいかんともしがたい」

「仰る通りです……」

「あのな、ヒフミって言ったか? お前がテストをバックレた結果は、成績表に乗るんだぞ? お前の学業の汚点になるんだ。

 好きなモノに真っ直ぐなのは良いが、それで我が身を滅ぼす結果になったら今度はそれを楽しむ時間さえ無くなるんだからな?」

 

 ガチの説教だった。トリニティの先生でも同じことを言うだろう。

 ヒフミは自覚があるのかペコペコと頭を下げている。

 シャーレの先生は何だかんだで正反対の先生達が生徒に対しては真っ直ぐなのを微笑ましく思った。

 

 その後、残り三人のメンバー。ハナコ、アズサ、コハルの三人に直面した先生二人は顔を引きつらせながらもとりあえず、現場を取り仕切るヒフミの言葉を聞いて、ゲヘナの先生は首を傾げた。

 

「なあ、なんで全員で学力試験に合格が必須なんだ?

 個人の成績が集団に連結してるなんて、聞いたことも無い」

 

 少なくとも学業では、とゲヘナの先生は言った。

 確かに、とシャーレの先生も言われてから違和感を抱いた。

 

 自分が100点を取っても、隣の席の生徒が0点なら不合格であると言っているようなモノである。

 

「ええと、私も書類を読んだだけなので詳しくは聞いていませんが、恐らくはお互いに刺激し合い助け合う為だと思われます。

 やはり、個々人だと勉強は孤独になりやすいですから」

「ああ、そう言うのはあるよな……」

 

 ヒフミの言葉に、ゲヘナの先生は違和感を抱かなかった。

 キヴォトスの生徒は、周囲から孤立して勉強に遅れ始めた瞬間、不良への道が開くようなものだからだ。

 そんな例を彼は嫌と言うほど見て来た。

 

「勉強に付いて行けずに、勉強するのが嫌になって、学校から逃げ出すなんてガキどもはうちの学校には掃いて捨てるほど居るからなぁ……」

 

 そう言う意味では、勉強する部活動内での助け合いは、補習授業部が終わっても続くので結果的に学業にプラスになるのだと、彼はそう理解した。

 

「なるほど、お互いの利益の為になるのだな」

 

 と、それにアズサも納得したようだった。

 

 そして各々自己紹介をしながら、エリート意識が高いコハルがキャンキャン鳴いているのを、ゲヘナの先生は微笑ましそうにしていた。

 

「なんつーか、みんなゲヘナには居ないタイプの問題児って感じで腕が鳴るなぁ」

「ところで、ゲヘナの先生は御自分の学校に居なくて大丈夫なのですか?」

 

 すると、ハナコがゲヘナの先生に向けてそう言った。

 

「俺が居ても居なくても、うちの学校には問題なんて起きねぇよ。

 むしろいつも問題だらけって言うか……。それにトリニティにシャーレの先生が長期滞在するわけだから、シャーレの活動の透明性の為に俺が来るのは当然だろう?」

「なるほど……」

「だからって、なんでよりにもよってゲヘナの先生が来るのよ……」

 

 人見知りのコハルは、背丈も肩幅も広いゲヘナの先生を警戒して見ている。

 

「まあまあ、ガキンチョよ。そう怯える必要はないぜ。

 俺も実家はエリート軍人の家系でよ、親父は上級将校で親戚もみんな軍人だ。俺もそう望まれて軍に入った。つまり、俺とお前は同じエリートってわけよ」

「だ、誰がガキンチョよ!! 他の3人と1年しか年が違わないんだけど!!」

「えッ」

 

 ゲヘナの先生はそっとハナコの方を見てから、コハルに視線を戻し、残念そうな表情になった。

 

「ああ、うん、そっか。発育の良さはエリートでもどうしようもないよな……」

「どこ見て言ってるのよ!! 大人だからって、エッチなのはダメなんだからね!!」

「ほう、ゲヘナの先生はエリートなのか。しかしそれならなぜ、キヴォトスに?」

「ちょっと、アズサ、話を進めないで!!」

「それは勿論、上官からの気に入らない縁談を蹴ったからだ!!」

 

 シャーレの先生は思った。スゴイもう生徒達と打ち解けてる、と。

 自分も見習わなくては、と彼が思っていると。

 

「それでは補習授業部、始動ですね!!」

 

 ヒフミがそう宣言した。

 

 そして彼女達が第一次試験に惨敗し、合宿行きが決定するのはもう少し後のことだった。

 

 

 

 

 その日、ナギサは一仕事終えて一人ティータイムをしていた。

 

 校内に存在するだろう裏切り者を視野に入れて、補習授業部と言う箱庭を作った。

 当初それは裏切り者候補の隔離と監視の為の箱ものだったが、なぜか現在ナギサと水面下で対立しているミカが口出しをしてきた。

 どうせならシャーレの先生に顧問をお願いしたら良いんじゃない、と。

 

 ナギサはそれを自分たちの先生の入れ知恵だと悟った。

 シャーレの先生という第三者を置くことで、要するにナギサへの牽制である、と。

 しかしその場でナギサは議会で表向きには柔和に賛成し、その裏で彼を利用しようと考えたのである。

 

 連邦捜査部シャーレには超法規的な権限がある。

 そんな彼に指導された生徒が、合格基準を満たさねばどうか?

 しかしそれは連邦生徒会という最高機関において、その指導によってトリニティの在学には不適格であると判断せざるを得ない。

 

 だが、その試験用紙、合格基準はトリニティが用意する。

 それによって、ティーパーティーが手綱を握りながら、シャーレの権限によって連邦生徒会に業務を処理させる。

 シャーレの先生は、自らの手で補習授業部の退学を決定させることになるわけである。

 

 そんな訳で、自分の周りのゴミを捨てるゴミ箱を作ることに成功したナギサは、清々しい気分でお茶の味を楽しめる程度には気分が良かった。

 

 のだが……。

 

 

「ナギサ様、大変です!!」

 

 そんな時であった。

 トリニティの生徒会室に、行政官の一人が飛び込んできた。

 

「どうしましたか? またミカさんが何か突拍子もないことをしましたか? それとも、もしかして武装蜂起してクーデターでも始めましたか?」

 

 ナギサはミカにしてやった直後なので、そんな冗談が言える余裕があった。

 

「……ある意味、そうかもしれません」

「なんですって?」

「アリウス分校の生徒です。彼女達を数十人も、ミカ様がトリニティの客人として校内に招き入れたのです!」

 

 ナギサは手に持っていたティーカップをソーサーに落とした。

 

 

 

「こちらがトリニティが誇る大聖堂だよ!!」

 

 数十人、いや百人近いアリウスの生徒がぞろぞろとまるで観光に来たかのようにミカに引率されて、大聖堂前に来ていた。

 

「シスターフッドには話を通しておいたから!!

 それと、今夜は皆で歓迎パーティーをするからね!!」

 

 アリウスの生徒達は困惑していた。

 彼女たちは作戦行動の一環としてトリニティのど真ん中にまで来ていた。

 

 それもこれも、ミカの唐突な思い付きである。

 アリウスの生徒を沢山招待して、交流会をしようと言うものだった。

 

 しかしミカはスクワッドの面々にこう伝えた。

 

「交流会って名目で、アリウスの戦力を校内に置いておくの。

 ナギちゃんはそれを断れない。だって、彼女たちの排除なんて今の世論が許さないから。

 そして頃合いを見て蜂起して、ナギちゃんを排除しようと思うんだ☆」

 

 あくまでミカが政権を奪取する為の布石である、と。

 スクワッドの面々はこれをそのままベアトリーチェに伝えた。

 

「最初は馬鹿馬鹿しい子供だと思っていましたが、中々に使える駒のようですね。

 こちらの準備に合わせて、あちらで行動できる人員を用意しましょう」

 

 ミカの獅子身中の虫を迎え入れる作戦を、ベアトリーチェは承認した。

 彼女にとってアリウスの生徒など潰しの利く駒に過ぎない。

 トリニティの動向も些末事であり、アリウスの生徒達さえも、本質的には消耗品なのだ。

 ミカを利用し、彼女をせせら笑っているのである。

 

 しかし、聖園ミカには狙いがあった。

 

 

「み、ミカさんッ!! ミカッ!!」

「あッ、ナギちゃん!! 見て見て、アリウスの生徒をゲストとして招待したんだ!!」

 

 翼をバッサバッサさせながら走って来たナギサを見て、ミカは笑顔でそう言った。

 まるで政治的に衝突してるとは思えない光景だった。

 

「私もッ、他の行政官もこんなこと聞いてませんよ!!」

「……あッ、ごめーん☆ 言うの忘れちゃった!!」

 

 てへッ、と自分の頭をコツンとするミカ。

 彼女のビジュアルだと絵になるが、そんなのはナギサの神経を逆撫でするだけのものであるのは明白だった。

 

「でもでも、ナギちゃんも真似していいんだよ?

 だってゲヘナと条約を組むんでしょう?

 だったらゲヘナの生徒達がどんな子たちか分かり合わないとだしね!!」

 

 ミカにとって、トリニティとは自分の世界の全てだった。

 それはアリウスの生徒にとってのアリウスも同じことだった。

 だからこれは何の嫌味も無い助言でもあった。

 

「そんなこと、出来る筈ないでしょう……」

「え、出来ないの? なんだ、その程度の条約だったんだ……」

 

 ミカのチクチク言葉に、ナギサの怒りのボルテージが一段階上昇した。

 そして彼女は、アリウスの生徒達を見やる。

 

 不信、敵愾心、侮蔑。

 彼女たちは任務で来ている。だが、どうしようもなく彼女達は子供だった。

 そんな感情を隠すことが出来ないでいた。

 

 トリニティの生徒と仲良くする振りをして、時期が来れば攻撃する。

 そんな風に命令されている彼女たちが、敵に良い感情を向けられるはずがなかった。

 

 だからこそ、彼女らについて何も知らないナギサは困惑した。

 

「そう言えばナギちゃん。この間の、補習授業部の子たちが一次試験に合格できなかったら合宿をするんだよね?

 この子たちも、まともに勉強なんて出来ない環境に居たんだって」

 

 ミカはナギサを見やり、目を細めた。

 

「ついでにこの子たちの面倒も、シャーレの先生に見て貰おうよ」

 

 それは挑発だった。ナギサの補習授業部(ゴミばこ)に、どれだけ入るのか、と。

 

「こんなことをして、何の意味が……」

「みんなー、こっちが今私と同じ生徒会長のナギちゃんだよー!!

 紅茶とロールケーキ中毒で頭が硬いけど、私の大切な幼馴染なんだ!!」

 

 ミカのテンションと反比例して、アリウスの生徒達は無言でナギサを見ていた。

 

「……我々を受け入れてくれますよね」

 

 素っ気ない、ぶっきらぼうな、アリウスの生徒の言葉。

 誰がどう見ても、嫌々命令だから来ている、そんな態度だった。

 

 だがミカの言った通り、ナギサに拒否する選択肢は無かった。

 アリウスの生徒達を、周囲の生徒達は何事かと見ている。

 

 公衆の面前で、彼女らを受け入れるか拒否するか、ナギサは迫られた。

 

「……いいでしょう。ですが、ミカさん。

 何度も横車を押すような真似をすれば、自分の立場を危うくしますよ」

「うーん、その時はナギちゃん、一緒に堕ちてくれるよね?」

「冗談じゃありません!!」

 

 ナギサはぷりぷりと怒りながら踵を返した。

 

「……そうなんだ、ざーんねん」

 

 そうなれば昔に戻れるなんて、そんな幻想をミカは打ち払った。

 自分達の計画は、すべて順調なのだから。

 

 

 

 ……そんなアリウスの生徒達を、双眼鏡でエマはジッと遠くの建物の上から見ていた。

 そう、自分達の計画は順調だった。

 

 

 

 

 




本格的にエデン条約編が始動しました。
これまで遅々として動かなかった水面の上が、川の流れのように変わっていきます。

感想や高評価があると、作者も執筆のモチベーションになるので、ぜひお願いしますね!!

あなたはどの先生に勉強などを教わりたいですか?

  • トリニティの先生
  • ゲヘナの先生
  • ミレニアムの先生
  • アビドスの先生
  • 百鬼夜行の先生
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