キヴォトス、先生大量発生中!?   作:ユメ先生

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やっと更新できました!!



ゲヘナの先生: 魔王

 

 

 

 さて、人が多いと言うのは、それだけ消耗品や食料の消費が多いと言うことである。

 古来より何よりも金食い虫と言われるのは軍事費、とりわけ人件費だ。

 

 アリウスの面々は、そう言う意味で居るだけでトリニティに消耗を強いていると言える。

 少なくとも、滞在中の彼女達はそう考えることにしていた。

 

 彼女らにとって、トリニティは敵なのだから。

 

 

「“すみません、ゲヘナの先生。安請け合いしてしまって……”」

「気にするな。今の俺はシャーレの副担任。

 あんたがしたいことが、俺達のしたいことなんだからよ」

 

 補習授業部だけでなく、アリウス百人の生徒達の面倒を見ることの見積もりがシャーレの先生は若干甘かった。

 合宿当日になって、やっぱり二人で百余名の人数の面倒を見るのは難しいと悟っていた。

 

「俺の専門は知ってるだろ? 情報将校ってのは、所謂副官ポジってやつだ。

 司令官殿の補佐は任せておけって」

 

 とりあえず、と言ってゲヘナの先生は近くの弁当屋に連絡して当面の全員分の仕出し弁当を要請。

 

 それをしている間に、生徒達は合宿場の清掃を始めることにしたようだった。

 合宿場として貸し出された場所は、百人を収容して有り余る広さで、小規模な学校として運用できるレベルだったが、当然広いと言うことはそれだけ整備が大変であると言うことだ。

 ハナコの発案でまず身の回りの清掃から始めることにしたのだ。

 

「A班は宿舎を、B班は体育館をお願いします。C班はグラウンドの整備をお願いします」

 

 アリウスの面々を統制しているのは、スバルという生徒だった。

 

「まったく、トリニティの連中はこんな立派な建物を放置してるなんて……」

「“君がアリウスのリーダーなんだね?”」

「あ、はい。シャーレの先生。

 挨拶が遅れましたね、自分は今朝こっちに合流したので。

 一応私は年長者として、まとめ役などやらせて貰っています」

 

 様子を見に来たシャーレの先生に、スバルはそう名乗った。

 

「うちの連中は人見知りなので、何かご用命ならば私が承ります」

 

 それは丁寧な対応だったが、明確な拒絶でもあった。

 彼女たちは任務の為に来ているので、余計な干渉を嫌ったのである。

 

「“うん、ありがとう”」

 

 だと言うのに、シャーレの先生はそれに気づいた風も無くにこにこしていた。

 スバルは困惑した。なんだこの大人は、と。

 

「シャーレの先生、ちょっと困ったことになった」

「“どうしました?”」

 

 すると、そこにゲヘナの先生が現れた。

 

「ここ、シャワー室はあるんだけど、大浴場は無いんだわ」

「“ああ、そうなると近くの銭湯に通うようになりますね……”」

 

 百人が一度にシャワー室でシャワーを浴びるのは効率が悪い。

 二人は近くの銭湯をスマホで検索したが、歩いて三十分ぐらいのところだ。

 これではシャワー室を使うのと大して変わらない。

 

「ああ、我々は風呂場なんて贅沢なモノはなくても大丈夫ですよ。濡れたタオルで十分ですから」

 

 スバルは控えめにそう言った。

 これには大人二人は絶句した。

 

「……あのな、人間には最低限の文化的な生活をする義務があるんだ」

「ええ、よく聞く建前ですね」

「それを現実にする責任ってのが俺らには有るわけよ」

 

 どうしたものか、と二人の大人が考えていると。

 ゲヘナの先生はきゃぴきゃぴとした声の聞こえるプールの方を見やった。

 

 そこでは補習授業部の面々がプールの清掃をしていた。

 

「これだ!!」

 

 ゲヘナの先生は、すぐにスマホを取り出し電話をした。

 

 

 その一時間後には、彼女らは到着した。

 

「ハーッハッハッハッハ!! まさか我々が大手を振ってトリニティの地を踏めるとはな!!」

 

 それは誰あろう、温泉開発部を率いるカスミとその部員達だった。

 

「ようお前ら」

 

 そんな彼女らの前に、呼び出した当人が現れた。

 

「ひうッ、せ、先生……呼ばれた通り、き、来ました」

「おう。じゃあそこのプールがあるだろ?

 あれを温泉プールに改造してくれ」

「なに!? そういうことなら任せてくれ!!」

 

 ビビりちらかしていたカスミは、ゲヘナの先生の指示ですぐに着工を開始した。

 

 彼女たちは瞬く間にボイラーを設置し、屋外のプールを覆う屋根を作り、あっという間に屋内温水プールにしてしまった。

 

 やたら数が多い温泉開発部のマンパワーありきとは言え、それを見ていたトリニティとアリウスの面々はぽかんとなった。

 

「お、終わりました……」

「よし、スタンプを押してやろう」

「はい……」

 

 カスミは更生カードと書かれたスタンプカードを取り出し、ゲヘナの先生はそのマス目に猫ちゃんマークのスタンプを押した。

 

「そ、それじゃあ我々はこれで……」

「まあ待てよ。試運転ぐらいはしてくれよ、不備があって呼び出したら二度手間だろ」

「は、はい……」

 

 カスミ達はボイラーを操作し、プールにお湯を張り始めた。

 

「わあ、スゴイです!! プールをお風呂にする発想は有りませんでした!!」

「ああ、実に効率的だ」

 

 その発想にヒフミとアズサは喜んでいた。

 

「うふふ、なんだか楽しみですね」

 

 自分達の清掃したプールがお風呂になる、その事実にハナコも笑みを浮かべた。

 

「みんなして浮かれちゃって……私達は勉強しにきたのよ」

 

 と言いつつも、ちょっとワクワクしているコハルだった。

 アリウスの面々は、あれがゲヘナの生徒、とか、なんだか変な連中、だとか遠巻きに見ていた。

 

「ほら、みんな!! 掃除の手が止まってますよ」

 

 試運転と言っても、プールにお湯を張るだけだ。

 見ていても時間の無駄なので、スバルは手を叩いてそう呼びかけた。

 その声に、アリウスの生徒だけでなく補習授業部の四人も現在の持ち場に戻り始めた。

 

 

 そうして、昼の休憩時間。

 

 概ね合宿場の掃除は完了しつつあった。

 これだけの大人数なのだから当然だろう。

 

 そんな中、プール清掃の発案者として、ハナコはプールの様子を見に行った。

 何処にでもある普通のプールは屋根と壁が設置され、中はすっかり湯気で熱気が籠っていた。

 

「うーむ、もうちょっと水圧を高めて迅速にお湯を溜められるようにするべきか……。どうせなら総合的なスーパー銭湯に改造した方が……」

 

 プールはもう半分くらいお湯で満たされていた。

 泳ぐならともかく、お風呂代わりにするにはもう十分であろう。

 カスミは自分のインスピレーションと対話していると。

 

「む、トリニティの生徒か」

「ああ、お邪魔してすみません」

「気にするな!! それより、うちの先生はどうだったか……?

 我々の仕事に満足している様子か?」

「……? ええ、そうですね」

 

 ハナコの言葉に、カスミはあからさまにホッとしたようだった。

 そして、きょろきょろ周囲を確認してから、こう言った。

 

「ひとつだけ忠告しておくが、あの人は怒らせない方がいいぞ」

「ゲヘナの先生がですか?」

「ああ、とんでもない目に遭う……」

 

 忘れもしない、カスミは彼と出会った日を忘れられない。

 

 

 

 

 最初、彼はどこからか聞きつけたのか、温泉開発部の様子を見にやって来ただけだった。

 

「お前らが温泉開発部か?」

「え、誰?」

 

 とある自治区の道路のど真ん中で工事を始めていた彼女達の前に、彼はふらりと現れた。

 

「俺は先日ゲヘナに先生と赴任した者だ」

「あ、ああ!! 知ってる、なんか動画がバズってたよね!!」

「先生も温泉好きなの!?」

「ねえねえ、先生も温泉に入りに来たの?」

 

 珍しい大人の登場に、部員たちがきゃいきゃいしていると。

 

「ハーッハッハッハッハ!!

 お初にお目にかかる、我らの先生よ!!」

「お前が鬼怒川カスミか」

 

 彼の登場に、部長であるカスミが対応した。

 

「して、我々にいったい何の用かな!!」

「いや、お前指名手配されてるだろ? どんなもんなのか見に来ただけだ」

「指名手配? それは誤解だ!!」

「誤解とは?」

「我々は温泉を、ロマンを求めているだけだ!!」

 

 カスミは満面の笑顔でそう言った。

 

 ゲヘナの先生は後ろを振り返った。

 道路のど真ん中で工事しているので、車が列を成して立ち往生していた。

 

「あそこにいる連中は? うちの生徒じゃないだろ」

「ああ、あれは我々の工事を邪魔してきたので、説得して温泉開発に協力して貰っているのだ!!」

 

 彼の示す先には、制服のまま荷運びなどに従事している生徒達が居た。

 

「何が説得だ!! このクソテロリスト!!」

「私達はこの自治区の風紀委員会だ!!」

「さっさと工事を終えて失せろ!!」

 

 どうやら、治安維持にやって来て返り討ちにあい、温泉開発部に協力させられているようだった。

 戦うより協力してさっさと帰って貰った方が早いと判断したのだろう。

 

「なるほどな。俺は用事が出来たから帰るわ」

「そうか、ではな!!」

 

 ゲヘナの先生は、最初はそれだけで帰って行った。

 ちなみに、彼が去ったのはここの自治区の学校の生徒会と担当の先生に謝りに行くためであった。

 

 

 その次に彼女らが先生と会ったのは、とあるビルを爆破し、その跡地で工事をしている時だった。

 

「お前ら、このビルの持ち主に許可取ったの?」

「ううん。でも温泉があるかもしれないし」

「かもしれない? 根拠やデータがあるのか?」

「さあ? でも部長はあるかもしれないって」

「ふーむ……」

 

 カスミが不在だった為、メグとそんなやり取りをしたと言う。

 

 

 そして、三度目。

 

 その日もまた別の場所で、温泉開発部の面々は元気に工事をしていた。

 その時彼は、説得に現れたのだ。

 

「なあ、周囲に迷惑を掛ける温泉開発はやめてくれないか?

 お前達はそれを十分にできる能力があるし、配慮できるはずじゃないか?」

「なるほど、先生、言いたいことは分かった」

 

 カスミはこの時こう答えた。

 

「だが、それでは工事に遅延が生じてしまう!!」

 

 この時、有り体に言えばカスミは自分たちの先生を舐め腐っていた。

 この男は何もできないし、自分達の障害にはならない、と。

 

「先生よ、ここから見える景色はどう思う?

 ここに温泉宿があり、ここから露天風呂に入りながらこの景色を眺めたらどうだろうか?」

「景色も何も、都市部じゃねぇか」

「ネオン街の夜景も有りだろう」

 

 カスミはそのように熱弁した。

 その横で、先生はカバンから資料を取り出し目を通す。

 

「地質的、統計的に見て、ここをいくら掘っても温泉が出る確率はゼロに等しいと思うが?」

「だが、完全なゼロではないだろう?

 温泉が有るかもしれない、というロマンを抑える理由にはならないのだ!!」

 

 それは、会話では無かった。

 お互いが相手の反応を受けて、意味をある言葉を発しているだけだった。

 

「わかった。よく、わかった」

 

 彼は目を伏せて、溜め息を吐いた。覚悟を決めたのだ。

 

「じゃあ俺もやるよ、温泉開発」

「ほう、先生もか!!」

「ああ。──やれ」

 

 先生は無線を取り出し、そう指示した。

 その直後だった。無数の羽音が聞こえ始めた。

 

「な、なにアレ!!」

「ドローンだ!!」

「でも、あれ……自爆型ドローンだ!?」

 

 そう、無数の自爆型ドローンが、温泉開発部の部員たちに殺到した。

 

「なッ、風紀委員会か!? いや、奴らはこんな戦術は使わない……まさかッ」

 

 カスミは目の前の大人を見た。

 背の高い彼は、小柄なカスミを見下ろしていた。

 

 冷酷な、無価値なゴミを見る目だった。

 直後、カスミの額にどこからともなくライフル弾が命中し、昏倒した。

 

 

 

 次に彼女が目を覚ました時、やたら数の多い温泉開発部の部員たちは全員縛られていた。

 

「いやー、大変だったね、百人以上いるんだもん」

「ホントだよ」

 

 ムツキとカヨコのぼやく声。

 

「二人共、文句言わないの。これも仕事よ」

「はい、アル様。これで全部完了です」

 

 アルとハルカが、二人に合流する。

 そして、彼女らの雇い主が、そこに居た。

 

「起きたか、クソガキ」

「むむー!!」

 

 カスミは縛られ、口にはガムテープが張られもがいていた。

 

「そういやアル、お前も指名手配されてるんだろ?

 でも、あの美食研究会って奴らは指名手配されてねぇらしいな。

 その違いってなんなんだ?」

「えッ、いや、流石に私もあの連中と一緒にされるのは……」

「多分動機じゃないかな」

 

 先生に問われ、あたふたしているアルを他所に、カヨコが答えた。

 

「先生はキヴォトスの外の人だったから分からないのかもしれないけど、キヴォトスの犯罪で重視されるのは悪意とか害意、殺意なんだ。

 それに比べれば建物を壊すとか、生徒会に楯突くとか、自治区に依るけど大したことじゃない」

「なんだ、それ……」

 

 先生は目を見開き、タブレットから生徒達の資料をまとめた情報を見比べた。

 

「あの美食研究会の連中は、これだけのことをしておいて、悪意が無いって言うのか?

 行動の結果や是非ではなく、何を以って為すかが重要だと!?」

 

 彼はカルチャーショックを受けた様子だった。

 

「……じゃあお前らはどうなんだ?

 いつも派手に騒動を起こすのは、悪意があってやってるからなのか?」

「いやぁ、アルちゃんの場合、単に見栄っ張りが足を引っ張ってるだけだと思うよ」

「うんまあ、色々と尾ひれがついているのは認めるよ」

 

 ムツキは割と真顔で、カヨコは遠い目になってそう言った。

 

「ち、違うわよ、先生!! 私達は冷酷無比なアウトロー集団!!

 指名手配とかされてた方が、箔がつくってだけで!!」

「……ああうん、そうだな」

 

 アルの主張を、先生は生暖かい目で見ていた。

 

「まあ実態はともかく、お前らは目標を持って生きている。

 うちの生徒共は将来のことなんて何にも考えてないしな。

 お前らはちゃんと収入もあるし、自立していて立派だよ。うちの学校がなんて言ってきても気にするな」

「せ、先生!!」

 

 今までそんなこと言われたことなんて無かったので、アルはちょっと感動してウルっと来ていた。

 

「なるほどな、俺らの世界で、キヴォトスが楽園なんて言われてる理由が少しわかったよ。

 子供たちの無邪気さこそ尊ばれる、か」

 

 彼はそう言って、結論を付けた。

 

「つまり、だ。カスミ、お前は──楽しんでる訳だ」

 

 悪意を持って悪を為す。汝、罪有りき。

 

「温泉開発部の組織形態を分析してみた。

 その結果は部長のお前を頂点として意思決定をする完全なワンマン体制。

 お前の手口はカルトのそれと近い。このバカどもにロマンと言う名の偶像を与えて、手足として従えている」

「むむー!!」

 

 カスミは必死に首を横に振って否定した。

 だが、先生は聞き入れなかった。

 

「温泉開発と言って破壊を繰り返し、それを楽しんでいる。他の連中と違って、お前は悪意でそれを行っている訳だ」

 

 他人に迷惑を掛け、建物を壊し、邪魔者を蹴散らすことを楽しんでいる。

 キヴォトスにおける、子供たち基準での、邪悪だった。

 

「……カスミ、俺もこれから温泉開発をしようと思うんだ」

 

 彼は猫なで声で、そう言った。

 そして、温泉宿の備品として用意されている桶に水を汲んだ。

 それをカスミの目の前に置いた

 

「温泉ってのは、足湯ってのがあるだろう?」

「む、むー」

「これが俺の考案した、“顔湯”だ」

 

 彼はおもむろにカスミの髪の毛を掴んで、水の入った桶の中に押し入れた。

 便利屋の面々や、それを見ていた温泉開発部の面々は、震えあがった。

 

「ほれ、百数えてやるよ。いーち、にーい、さーん──―」

「ごぼごぼごぼ!?」

「よーん、ごー、ろーく」

 

 先生はきっちり100まで数えてから、桶からカスミを引き上げた。

 気を失った彼女の顔を、彼はひっぱたいた。

 

「ごぼッ、ごほごほッ」

「どうだ、これが俺の温泉開発だ」

 

 口のガムテープをはがし、鬼の形相の先生がカスミの顔を覗き込んだ。

 

「俺はこれから俺の思う温泉開発をしてやる。俺の視界に入る度に、お前が温泉開発をしたって聞く度に、俺はお前を“温泉開発”してやる。

 これがお前が今までしてきたことだ、文句無いよな?」

 

 カスミに、それを非難する権利は無かった。

 

「ご、ごべんなざい……」

「……」

「ゆ、ゆるじで、ぐだざい……」

 

 聡明な彼女は理解したのだ。

 この男は本気だ。カスミを、敵として見ているのだ、と。

 

「なに? もう一回顔湯に入りたいって? 流石は温泉開発部の部長さんだ」

 

 彼はもう一度、桶の中にカスミの顔を押し込んだ。

 

「俺は優しいから、一生分の風呂に入らせてやる。……息の根が止まるまで、ゆっくり浸かりな」

「先生、それはマズいよ、死ぬ、ホントに死ぬから」

 

 震えたカヨコの声に、先生は桶からカスミを引き上げた。

 

「……そうだな。いくらこいつがクソガキでも死ぬほどじゃない」

「げほ、げほッ」

「これからお前に“課題”を出してやる。

 それをこなせば、俺は許してやるよ」

「ッ、か、かだい?」

「ああ。そうだな、レッドウインターの最北、人の居ない凍った大地で、独り温泉開発するってのはどうだ?」

 

 カスミは頬が引きつるのを感じた。

 この男は、自分を許す気など全くない。

 

「俺はあそこに温泉が出ると思うんだ。俺がそう思ったから出るんだ。出るまでやれ。出なくてもやれ。出なかったら永遠にやれ」

「そ、そんなッ」

「何が不満だ。お前がしてきたことだろ。なぜお前にされ返されて文句を言うんだ、おかしいだろ?

 それともお前のロマンとやらは嘘っぱちか? ああ?」

 

 カスミは、これまで無敵だった。天敵と言えばヒナくらいだった。

 だが、悪意を持って自分を標的にする者が現れた。延々と、執拗に。

 結局、彼女は幼稚なだけだったのだ。

 

「お前、卒業できると思うなよ。

 てめぇが更生するまで、ババアになってもキヴォトスから出さねぇ。それが学校としての、先生としての責任だ。

 それまでずっと、俺はお前と生徒として向き合ってやる」

 

 それが、彼の先生としての決意だった。

 

 

 

 そして約一か月後。

 

 メグはとある空き地に軽トラックに積まれた荷物を部員と一緒に下ろした。

 

 それは、氷塊となったカスミだった。

 メグはやかんを取り出し、温泉水を氷塊に掛けた。

 

 しゅぅ、と氷塊が溶けてカスミが息を吹き返した。

 

「はッ、ここは!? は、は、はっくしゅん!!」

 

 彼女は盛大にくしゃみをした。身体は冷え切っていた。

 そんな彼女に、メグは替えのやかんで温泉水を掛け始めた。

 くしゃみを繰り返しながら、そうやって暖をとっていると。

 

「へえ、なんだ。生きてたのか」

「ひ、ひえッ」

 

 彼女らのすぐそこで、自分達の先生が放置されていたドラム缶に腰かけていた。

 

「お前の課題だが、一旦保留にすることにした」

「な、なんで、ですか?」

 

 誰にでも不遜な態度のカスミが、子猫のように震えあがって尋ねた。

 この男はヒナよりもよっぽど恐ろしいと、彼女は学習したのだ。

 

「これだ」

 

 それは、プラスチックの貯金箱だ。

 ぎっしりと小銭やお札が詰まっている。

 

「お前らの部員たちが自主的にバイトして、これまで壊した建物や道路の補修や補填をし始めた。

 どいつもこいつも部長を許してほしいと来た。だから俺は言った、お前らがこいつを監視しろってな。お前にも人望くらいはあるらしいからな。

 だが、次にやらかしたら……わかってるな?」

「は、はいッ、ありがとうございます!!」

「だが、俺はお前をこれっぽっちも信用してない」

 

 ひぅ、とカスミが引きつった呼吸音を出した。

 

「勘違いするなよ、お前たちのやりたいことを否定してるわけじゃねぇ。

 周囲に迷惑を掛けんなって話だ。

 とりあえず、保護観察って名目で更生局に届け出してお前の指名手配は一時的に下げさせた。

 これからは毎日活動レポートを提出しろ。

 部活としての成果を出したなら、このスタンプカードにスタンプを押してやる。

 このスタンプが全部埋まった時、保護観察は解除してお前は晴れて自由の身だ」

 

 カスミに、選択肢など無かった。

 目の前の魔王の慈悲に、平伏する以外無いのだ。

 

 

 

 そんな回想を終えて、カスミは身震いをした。

 

「は、は、はーっくしょん!!」

 

 そして、寒くも無いのにくしゃみをした。

 

「あら、風邪ですか? こちらをどうぞ」

「う、うむ、ありがとう……。ちゃんと洗って返そう」

「お構いなく」

 

 カスミは上品なシルクのハンカチをハナコから受け取って、鼻水を拭う。

 

「と、とにかく、うちの先生の機嫌を損ねないでくれ!!」

「……分かりました」

 

 ハナコは若干思案してそう答えた。

 

 

 そして、当のゲヘナの先生はと言うと。

 

 彼はモモトークで他の先生へ救援を要請していた。

 

「学習の障害とは、勉強をつまらないと思うことだ」

 

 と、救援に駆け付けたミレニアムの先生が言った。

 

「と言うわけで、アリウスの諸君。──わたあめを作ろう!!」

 

 グラウンドでアリウスの生徒達は、みんなでわたあめを作ってきゃっきゃしていた。

 

「なにこれ、綿埃のデカい版? これ甘い!!」

「すごーい、なにこれ!!」

「ふわふわだー!!」

 

 子供たちは大喜びだった。

 

「おい、お前らみろよ、二刀流だぜ!!」

 

 ゲヘナの先生はそんな面々に混ざってはしゃいでいた。

 

「あー、先生ズルい!!」

「私も二刀流、いや三刀流するんだ!!」

 

「このように、加熱した砂糖を遠心力を利用し、熱が空気で冷えわた状になるんだ」

「へー」

「おもしろーい!!」

 

 ミレニアムの先生はホワイトボードを持ってきて、わたあめの原理について説明していた。

 

 それを教室から眺めて勉強中の補習授業部の面々が羨ましそうに見ていた。

 シャーレの先生はあとで彼女達の分を持って行ってあげようと、思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




しばらく体調をくずしていて、やっと更新できました。
皆さんも身体に気を付けてくださいね!!

あと、お気に入り900人突破ありがとうございます!!

あなたはどの先生に勉強などを教わりたいですか?

  • トリニティの先生
  • ゲヘナの先生
  • ミレニアムの先生
  • アビドスの先生
  • 百鬼夜行の先生
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