キヴォトス、先生大量発生中!? 作:ユメ先生
合宿初日の夜。
アリウスの生徒達はわたあめの次はパンケーキを作るなどして、大喜びだった。
食べ過ぎて夕飯のお弁当が食べられないと言う生徒まで現れてしまった。
そんな彼女たちにも、プールを改造した大浴場で入浴する時間が訪れた。
「わぁ、すごい広い!!」
「こんなの初めて!!」
彼女たちは水着なんて持参していなかったので、普通にタオル一枚で我先にとプールに突入していった。
「あははッ、なにこれ熱い!!」
「すごい、冷たくない!!」
プールでのマナーなんて知る由も無い彼女達は、温水に浸かりながらはしゃぎまわった。
誰かがお湯を掛け合えば、もう止まらない。瞬く間に子供たちの歓声と水しぶきで戦場と化した。
「わあッ、なにするんだよ!!」
「えへへへッ、それ!!」
子供たちはまるで昼間のプールのように、バシャバシャお湯を掛け合ったりして、アリウスの生徒からただの普通の子供と化していた。
「総員、整列!!」
しかし、プールサイドに立っているスバルがそう号令を掛けると、彼女たちは慌てて並んだ。
「みんな、お風呂は静かに入るものですよ」
スバルがそう諫めると、はーい、と彼女達は渋々歓声を沈静化させた。
彼女もそれを見届けるとゆっくりと湯船に入った。
入浴時間は一時間と決まっているが、彼女たちは初めての大浴場を時間いっぱい堪能しようとしていた。
「お風呂ってこんなに気持ちいんだね……」
「やっぱりトリニティの奴らって、毎日お風呂に入ってるのかな」
「きっとそうだよ!!」
そして、そんな会話がなされていた。
「昨日のパーティーで、あいつらを見ただろ?
やっぱりあいつらは私達を見下してるんだ!!」
「そうだよね!! 私達を変なモノを見る目でさ!!」
「この間の食料とか物資が届けられた時も、きっとあんな感じだったんだよ!!」
それは彼女達の不満や鬱憤だった。
トリニティのど真ん中に来て、初めて抱く疎外感。
それは彼女達の共通認識だった。
「それは、いけませんよ」
「スバル先輩?」
「……私もトリニティの奴らが気に食わないのはわかりますよ。
しかし、相手の慈悲を否定するのは良くありませんよ。例えそれが偽善であっても、何もしない連中より悪く言うのは道理が通らないでしょう」
その言葉に、不平不満を言っていた生徒達は黙りこんだ。
「今回の任務が終われば、我々は彼女たちと対等になれる筈です。
不満があるなら、その時に見返せばいいのです」
スバルの言葉に、彼女たちも頷いた。
彼女たちは皆、ミカの画策するクーデターの布石として来ている。
トリニティの生徒達が油断しているところを突く作戦として。
そして話題は次に移った。
「そう言えばさ、ゲヘナの先生って、私達の敵でいいんだよね?」
おずおず、とアリウスの生徒の一人が尋ねた。
「でも、大人だよ? それに、見たでしょ、あのカスミって奴の表情……」
子供たちは、存外によく見ているものだ。
──あれは、罰を与える存在だ、と。
「ゲヘナと言っても、元々は外から来た大人じゃない。
最近来たばかりの筈だし、私達には関係無いんじゃないの?」
「そうだね……」
それは控えめな容認の言葉だった。
彼女たちにとって、大人とは上位者。
任務でもないのに敵対するなんて、恐ろしいのだ。
それに、怒らせてどんな罰を与えられるか分からない。
現時点で、それを言い渡されて拒否することはできないのだ、彼女たちは。
「そう言えば、明日はまた別の自治区の先生が来るらしいよ」
「そう言ってたね。今日のパンケーキ、美味しかったなぁ」
「私、わたあめ残して取っといたのにしおしおになっちゃった……」
「あははッ、欲張るからだよ!!」
そんな風に彼女達は笑い合っていたが。
「明日来る先生は、ミレニアムの先生みたいなヒトだといいなぁ」
それが、彼女たちの本音だった。
「……ん? あれ?」
その時、スバルは異変に気づいた。
「これはまさか!!」
一方、その頃。合宿場の宿舎。
「そろそろ、アリウスの皆さんの入浴時間が終わる頃ですね」
彼女たちの入浴が終わるのを待っていた補習授業部の四人。
ヒフミが時計を見てそう言った。
「まったく、なんで私達が後からなのよ」
「おや、コハルちゃんは彼女達の裸に興味があるんですか?♡」
「あんたは何を言ってるのよ!!」
ハナコの物言いに、コハルは憤った。
「あはは、別に一緒に入ってもいいんでしょうけどね……」
「えッ、それはちょっと……」
人見知りのコハルは流石に顔見知りでもない集団と一緒にお風呂に入るのは遠慮したい様子だった。
「……仕方がないだろう。彼女達は、警戒心が強いようだ」
どこか寂しそうに、アズサはそう言った。
「昨日もそうだが、彼女たちは宿舎ではなく体育館で雑魚寝をするそうだ」
昨日、パーティが終わってアリウスの生徒達はトリニティの体育館の一つを借りて眠った。
ホテルを用意すると打診されたのだが、彼女たちは分断を警戒してまとまって眠ることを選んだのだ。
無防備になることを嫌って、浴場にさえ近づかなかったそうだ。
「……まあ、彼女たちの警戒心は当然でしょうね。
我々トリニティに対して、過去の不信感が拭えないのでしょう」
「でも、だからこそミカ様はこうして交流する機会を設けたんじゃないでしょうか」
ハナコの言葉に、ヒフミはそう答えた。
「そうかもしれませんね。こう言ったことは地道に続けていくほかありませんから」
「なによ、何か言いたげじゃない」
しかし、ハナコの表情は明るくはなかった。
それこそ、コハルに指摘される程度には、彼女らしくないと言っても良かった。
「いえ、お互いの過去を清算する為とはいえ、彼女たちが政治に利用されていると思うと、なんだか……」
「ああ、最近そう言う活動ばかりだな」
ハナコの言いたいことは、アズサも感じていた。
「校内政治に興味が無い私でも、二つの派閥がお互いに牽制し合いながら勢力の拡大に腐心しているのが分かるほどだ。
それ程までに、彼女たちは憐れなのだろうか……」
「一応私もフィリウス分派に居ますので、正直複雑な気分です」
エデン条約推進派のナギサと、アリウス融和派のミカの政治的冷戦状態は一般生徒にも感じられるほどであった。
「なに言ってるのよあんた達。アリウスとの和解は正しいことじゃない。エデン条約もそう。それだけのことじゃない」
それは正義実現委員会に所属しているコハルらしい意見だった。
ティーパーティーの下部組織として、上の意向に従うだけなのだ。
それはそれとして、彼女の個人的意見はそうだった。
「アリウスもゲヘナも、今のとっかかりが無くなったら先送りになるだけでしょ。あんた達、そんなこともわからないの? こっちは何でもいいから早く面倒は終わらせてほしいわ」
「……そうだな」
アズサはコハルの頭に手を乗せてよしよしと撫でた。
「な、何するのよ!!」
「ふふふ、私もやらせてください」
「何なのあんた達!! 年下だからって子ども扱いなの!?」
アズサとハナコにもみくちゃにされているコハルの三人を、ヒフミは微笑ましそうに見ていた。
「あ、入浴時間が減っちゃいます、そろそろ行きましょう!!」
「ああ、そうだな」
部長のヒフミの号令に従い、何だか納得いかなそうなコハルを解放した二人は共にプールへ向かった。
若干遅れてコハルも追従する。
四人がプールの入り口に到着すると。
「止まれ!!」
その入り口で警備していた二人のアリウスの生徒が、銃口を突き付けた。
「ええッ、どうしたんですか、皆さん!?」
「大浴場は現在封鎖中だ、今日は使用できない。以上だ!!」
「いやいや、何よそれ!!」
急な展開に取り乱すヒフミ。
温水プールを楽しみにしていたコハルが声を挙げた。
「何か問題でもあったのですか?」
ハナコは冷静に警備の二人に尋ねた。
「そ、そうだ!! 設備が故障中なんだ!!」
「そう、壊れてるのよ!!」
「そうなんですね。では、すぐに修理の業者を手配しないと」
「それには及ばない!!」
「そうそう、こっちで対応するから、お前達は今日はシャワーを使ってくれ!!」
あからさまに怪しい所作に、四人は顔を見合わせる。
「そちらのリーダーに会わせてくれ」
「なんだって?」
「みんな、私が話を付けてくる。プールは私達も楽しみにしていたんだ、説明を求める」
アズサの言葉に、補習授業部の面々はそれならばと頷いた。
「見ての通り、私は丸腰だ。本当かどうか確認したいだけだ」
「……良いだろう、こっちに来い」
アズサは警備の一人に付き従い、建物の中に入って行った。
「……なんだか心配です。いったい、なにが……」
「一応、先生達に報告した方がいいかもしれません」
プールから距離を取り、ヒフミの言葉にハナコはそう提案した。
「……そうね。アズサも心配だし」
コハルもそう呟いて、その提案に賛成した。
そうして三人は、先生達の部屋へと向かうのだった。
合宿場の宿舎、先生達の部屋。
そこで先生達は会議をしていた。
「“今日は急なことなのにありがとうございました。ミレニアムの先生”」
「いや、今日の副担任は私だったからね」
ベッドに座ったミレニアムの先生はそう答えた。
「以前から提案していた、シャーレの業務のAIによる効率化を図っていたんだ。
AIによる業務の効率化は向こうの世界のトレンドだからね。あとは学習次第で、シャーレの先生の負担も軽減できるだろう」
「“本当に、助かります……!!”」
書類仕事が苦手なシャーレの先生は、手を合わせて感謝していた。
「連邦生徒会も、いくら不正防止の為とはいえアナログを重視し過ぎている。余りにも非効率すぎると言わざるを得ないね」
「うーん、俺も資料やデータの保管とかアナログ派だから耳が痛い」
「いやいや、物理的なデータの管理を否定してるわけじゃないよ」
ゲヘナの先生に、彼女はそう言った。
「私は今日だけだが、明日はまた別の先生達が来るだろう。こっちの人手不足も解消されるだろう」
ゲヘナの先生がシャーレに入り浸ってるように、副担任に人数制限は無い。
それどころか、当番の生徒のように給金も発生していない。完全なボランティアも同然だった。
ただそれに加え、シャーレの先生を補佐する為に一時的に彼と同等の権限を委任できたりするが、今のところそれが使われたことは無かった。
「いやぁ、お忙しいところ悪いですなぁ。
何でも今、大変画期的な研究の最中なんでしたっけ?」
「おや、流石に耳が早いね、ゲヘナの先生」
ミレニアムの先生は胸を張った。
「アリスの妹を作ろう大作戦が最終段階なんだ。
最終的に実験の過程を検証し、科学的に再現する手段を模索し、場合によってはそれを他所に委託するつもりだけど」
「“アリスに妹、ですか……”」
「ああ、彼女はあの双子を見て情緒を育んだ。姉妹を欲しがってもおかしくはないだろう?」
「“ええ、素晴らしい考えだと思います”」
そうだろうそうだろう、とミレニアムの先生は鼻高々だった。
「いずれ機械は人間の道具ではなく、我々人類の友人となる時が来るだろう。
神秘を暴き、人の業に落とし込むのが、私達科学者の使命だからね」
彼女がそう語っている時だった。
ドアのノックの音が聞こえたのだ。
「先生方、ちょっとよろしいですか?」
「“どうぞ”」
シャーレの先生がそう促すと、補習授業部の三人が入室した。
「どうしたんだ、お前ら」
「ええ、実は……」
ヒフミが代表して事情を説明した。
「ふーむ、彼女たちに機械に関するスキルは無いと思うのだけど」
ミレニアムの先生はそう所感を述べた。
「ええ、私達もそう思ったので、一応本当に故障があったら困りますし、こうしてご報告をと」
「なるほどな、やんちゃしてないか心配だな」
普段からそう言う生徒ばかり相手にしているゲヘナの先生が懸念を示した。
「機械なら私が見れる、ちょっと様子を見てくるよ」
「“わかりました、お願いします”」
「ああ、二人に女風呂をお願いするわけにもいかないしね」
ミレニアムの先生は立ち上がり、そう言った。
そして、プールの方では。
「みんな、いったいどうしたんだ? プールを占拠などして」
アズサがアリウスの面々に尋ねた。
「……」
しかし、向けられたのは若干の敵意だった。
アズサが困惑していると、更衣室に到着する。そこは湯上りの生徒で溢れていた。
「スバル先輩、どうしたんだろ」
「さあ? なんかピリピリしてる奴もいるし」
「あ、アズサじゃん」
アズサの登場に、彼女たちの視線が集中した。
「みんな、私は別件で任務中だ。今は他人として接してくれ」
「わかってるよ、でも今は私達だけだからいいじゃん」
「そうか。それより、プールを占拠してどうしたんだ?」
アズサの対応を気にした様子も無く、彼女たちはこう答えた。
「それが、スバル先輩が急に取り乱して。私たち全員を追い出したんだ。
それから彼女が何人か連れて、お風呂のお湯を抜き始めたんだ」
「お湯を? 毒でも入れられたのか?」
「さあ?」
「……わかった。直接現場を見てくる」
「うん、スバル先輩にどうしてか聞いておいてよ」
彼女らの言う通り、状況を飲み込めない生徒も多かった。
スバルによる独断のようだった。
アズサは更衣室からプールサイドへ踏み込んだ。
そして、彼女は見た。衝撃の光景を。
程なくして、ミレニアムの先生も現場に到着した。
推しの強い大人を、彼女たちは止められなかったのである。
「こ、これは……」
ミレニアムの先生は、その光景に目を見開いた。
「それじゃあ、なんだ、つまり──」
スバルは先生達の部屋にて、俯いていた。
彼女はとても恥ずかしそうにしていた。
「アリウスの生徒達がプールに入ってたら、思ってた以上に、その、プールが濁ってしまった、と」
ゲヘナの先生はスバル達の行動をそのようにまとめた。
「……自分達が、こんなに汚れているとは、知りませんでした」
スバルは顔を真っ赤にしてそう吐露した。
「まあ、なんだ、これを機に垢を落としなよ」
「“ゲヘナの先生ッ”」
「あ、悪い」
ちょっと無神経だった、とゲヘナの先生は目を逸らした。
「えーと、それじゃあ、私達はシャワー室を使うってことで……」
「そうね。そうしましょう……」
ヒフミとコハルも、居た堪れないような表情でそう言った。
これにはハナコも困ったように何も言えないでいた。
「仕方ないよ、想定外のことが起こるのが世の常だ」
ミレニアムの先生はそんな風にスバルを慰めた。
「いえ、隠してしまってすみません。私達は、その、皆一人で生きて来たので、弱みを見せたくなかったんです」
「“気持ちはわかるよ。でも、遠慮なんてしないで良いからね”」
些細な事でも相談してほしい、とシャーレの先生は微笑みかけた。
「まあ気にするなよ。そう言うこともあるって」
「うむ、私のお勧めの石鹸も持ってこよう」
先生達に気を遣われ、スバルも恥じ入るように更に顔を俯かせた。
そんなこんなで、この夜の小さな騒動は幕を閉じたのだった。
「……スバル、これで分かっただろう?」
部屋を後にしたスバルに、アズサが声を掛ける。
「…………」
「アリウスはこのままじゃいけない……」
「そんなこと」
吐き捨てるように、スバルは言った。
「わかってるんです、そんなこと」
「……」
スバルは皆が寝泊まりしている体育館の方へと歩いて行った。
アズサはその背を、じっと見ていた。
アリウス汁、一定の需要はありそう(白目
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あなたはどの先生に勉強などを教わりたいですか?
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トリニティの先生
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ゲヘナの先生
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ミレニアムの先生
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アビドスの先生
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