キヴォトス、先生大量発生中!? 作:ユメ先生
前々回の最後と前々回のミレニアムの先生の表記が、トリニティの先生になっていました!! すみません!!
わたあめやパンケーキを作ってくれる面白紳士は居なかったんや……!!
合宿二日目。
ミレニアムの先生はアリウスの子供たちを案じながら、惜しみながら夜中に去って行った。
自分の学校の実験やら何やらの合間を縫って、本当に忙しい中に来ていたらしい。
これには二人の先生も頭が上がらなかった。
そしてこの日、新たに二人の先生がやって来た。
「シャーレの先生に、ゲヘナの先生!!」
「“アビドスの先生!!”」
アビドスの先生が、出迎えに現れたシャーレの先生とハイタッチした。
ゲヘナの先生も苦笑して、それに応じた。
「お二人共、微力ながらお手伝いに来ました!! アリウスの子供たちの為に、一緒に頑張りましょう!!」
「それは有難いのですが、御自分の学校は大丈夫なのですか?」
ゲヘナの先生は嫌味ではなく、そう尋ねた。
「え、ええと、うちの子たちはみんなしっかりしてるので……」
アビドスの先生は恥じ入るようにそう答えた。
嫌味ではなく当然の指摘として受け取ったらしい。
「……実は、生徒会の皆から戦力外通告されちゃって……」
先日の一件でアビドスの対策委員会は何とか生徒会として連邦生徒会から承認されたのは良いが、彼女はその当人たちと喧嘩別れしてきてしまったらしいのだ。
「生徒と喧嘩なんて、先生として見られてないってことですよね」
「“いえ、生徒と喧嘩できるなんて羨ましいですよ”」
生徒と喧嘩できるなんて、同じ目線で見れていると言うこと。
シャーレの先生はそれを羨んでいた。大人として責任を持つと言うことは、絶対的に子供と同じ立ち位置に居れないことも同義だからだ。
彼はアビドスの先生はそれを両立しているように見えたのだ。
「まあ、色々と課題や理想はあるでしょうが、俺もうちのガキどもと友達みたいなもんですよ。
普通の教師は生徒とは友達には成れません。でもうちの学校は俺みたいな大人と生徒達が友達になれる。ゲヘナにはそんな自由も有るんですよ」
俺がうちの学校に赴任して数少ない良かったことです、とゲヘナの先生は苦笑しながら言った。
「ありがとうございます、二人共」
彼女はちょっと目頭を拭って、笑顔を浮かべた。
「家出の口実みたいになっちゃいましたが、アリウスの生徒達の力になりたいの本当です。お手伝いさせてください」
「“助かります。こちらこそ、お願いします”」
シャーレの先生がそう言うと、彼女は真剣な表情で頷くのだった。
アビドスの先生から程なくして、また新たな先生が到着した。
「こうして会うのは初めてですな。シャーレの先生とゲヘナの先生」
チャイナ服の老人が、二人の前に現れた。
山海経の先生だった。
「“……こちらこそ、初めまして”」
シャーレの先生は、彼の雰囲気に気圧されながらも、名刺を取り出して差し出した。
「失礼ですが、御自分の学校は大丈夫なのですか?」
対して、ゲヘナの先生は警戒心を持って相対していた。
なにせ、目の前の老人を先生達の中でも警戒対象として警鐘を鳴らしたのは他ならぬ彼なのだから。
「合宿は最低一週間以上掛かる予定です。最悪それより伸びる可能性も」
「……実は、今は自治区の居心地が悪くてね」
老人は事情を説明しだした。
「“つまり、生徒会に不満を持っている生徒達が、山海経の先生を中心に強硬な姿勢を取り始めた、と”」
「うむ。このままでは内戦や抗争になりかねない状況だった。
正直心苦しいが、一旦彼女らの元から離れようと思ってね」
彼はその状況を良しとはしていなかった。
しかし不良を中心とした、普段は抑圧されている生徒達は彼を頼るしかなかったのだ。
だから一度距離を取ることを決めたのだと言う。
「私は子供たちにお腹いっぱいご飯を食べて欲しかっただけなのだがね」
「“私はとても立派だと思います”」
シャーレの先生は、アビドス自治区で会った柴大将を思い起こしながら、そう言った。
「……そうですね。一先ず、ご協力感謝します」
ゲヘナの先生も、一応様子見をする構えを見せた。
「ああ。よろしく頼むよ」
この日は彼を含めた二名が副担任として馳せ参じた。
当然ながら、二日前の急な要請だったので、予定が無い先生が来たのだった。
どの学校も、大体は現地の大人を職員として雇ってるものである。
清掃員や設備の維持、売店や食堂など、その役割は多岐に渡る。
そんな訳で、合宿場にも職員用の休憩室が存在した。
先生達は便宜上、ここを職員室として運用することにした。
そこで、新しく駆けつけてきた二人と情報を共有した。
「そんな、うちの学校よりヒドイところがあったなんて……」
「いや、どっちが酷いかは一概には……」
アビドスの先生にゲヘナの先生はそんなツッコミを入れたが、余談だと首を振った。
実際、どちらの学校も甲乙つけがたい惨状である。
「なるほど、大体はわかった」
悲しそうにしているアビドスの先生に対して、山海経の先生は淡々と事実を受け止めていた。
「これからの予定はあるのかね?」
「“とりあえず、私は補習授業部の子たちを請け負うつもりです”」
「アリウスの連中はとりあえず、今日はスポーツでも教えてみようかなって話をしてたな」
老人の問いに、先任者二人は答えた。
「わあ、それはいいですね!!」
アビドスの先生はそれを聞いて楽しそうに笑った。
「なるほど、ところで予算は決まってるのかね?」
「経費はティーパーティー持ちだ。上限なんて言われなかったぜ」
「それはそれは。まあ、子供が食べ物の心配をするべきではない、それを聞いて安心できたよ」
肩を竦めるゲヘナの先生に、山海経の先生は頷いた。
「彼女達には私から料理を教えよう。それぐらいしかこの老骨にはできないからね。
それに、これは私の家の家訓なのだが、料理が出来ればどこに行ってもやっていける、と言うものだ。
まず、道具や食材の調達をうちの学校の者に頼んでみようと思う」
「“それは良いですね!!”」
貧困から脱出するには、手に職を持つことが重要だ。
ただ金銭を与えればいいわけでは無い。シャーレの先生は賛成した。
「なるほど、そいつは良いですね。毎食弁当ばかりなのは、生徒達に悪いと思ってたんだ」
別にお弁当が悪いわけでは無いが、一括して頼んでいたので種類にも限界がある。
ゲヘナの先生はそれを懸念していたのだ。
「重要なのは、生徒の皆が“学ぶ”ことですもんね」
「“ええ、お弁当なら手早く済みますが、実際に調理実習をするのはその時間以上の価値があります”」
若い二人の先生はそれに頷いた。
「あと、補習授業部の奴らも毎日一時間ぐらいは気晴らしをさせてやろうぜ。試験は大事だが、ずっと机にしがみついてるのも良くないだろう。
今日はアリウスの生徒に交じってスポーツをさせてもいいし、料理の実習でもいい」
「“それは、私も賛成です。勉強は大事ですが、それが全てではないですからね”」
「一応、俺達も時々補習授業部の様子を見に行ったりするようにしようぜ」
そんな感じで、この日と今後の予定など簡単に打ち合わせしていく。
そして、各々行動を開始した。
シャーレの先生は補習授業部が使っている教室へ。
ゲヘナとアビドスの先生は、体育館の準備室に向かった。
体育館の内部にあるので、二人は彼女達が寝泊まりしているそこを通ることになる。
「アビドスの先生、着替えとかしてたらまずいんで、偵察をお願いします」
「はい、任せてください、将軍」
アビドスの先生は敬礼をして楽しそうにそう言った。
そこまで偉くなかったなぁ、とゲヘナの先生は苦笑した。
昨日も彼は実感したことだが、やはり生徒達と同じ女性の大人が居るのは助かるのだ。
大人と子供以上に、男女の違いは絶対的なのだから。
それはそれとして、アリウスの生徒達にまともな羞恥心があるのだろうか、とゲヘナの先生はそう考えてしまって眉を顰めた。
なにせ、彼女たちの大部分はまともな衛生観念も備わっていなかったのだ。
スバルのような一部の生徒以外、自分達が汚れていることがなぜ恥ずかしいのかすら分かっていなかった。
まずは手洗いうがいの基本からか、と思案するゲヘナの先生だった。
アビドスの先生が体育館の扉を開ける。
その中は、アリウスの生徒の生活空間だ。
班ごとにリネン室から引っ張って来たシーツを被って、まとまって眠っていた痕跡が見えた。
今は先ほど配給された朝食のお弁当を食べているようだった。
「おはよう、みんな!! 私はアビドス高校の先生だよ!!
今日からみんなと一緒にいろんなことをしようね!!」
突然現れた大人に、アリウスの生徒達の視線が注がれ、彼女はそう自己紹介した。
「……あれ、ヒヨリちゃん?」
「いや、違うじゃん。ヘイローも無いし」
「私もヒヨリかと思った……」
「あ、あれ?」
アリウスの生徒達は、なぜかアビドスの先生を横目に見てひそひそと話しだした。
スバルなんて二度見、三度見までした。
そんな様子に彼女は困惑せざるを得なかった。
「あ、ええと、先生、何か御用でしたか?」
「えーと、ちょっと奥の体育準備室を見に来たんだ。ごめんね、お邪魔しちゃって」
「ああいえ、気になさらないでください」
彼女に対応したスバルも、雰囲気も似てる、と内心思っていた。
そんなアビドスの先生が体育準備室に向かうと、途中でシーツの踏んでしまってすってんころりんとすっ転んだ。
気まずそうに愛想笑いをしながら、そそくさと準備室に向かうアビドスの先生。
やっぱりヒヨリの変装なのでは? アリウスの生徒達は訝しんだ。
食事が終わり、彼女たちがグラウンドに出ると、ゲヘナの先生が言った。
「今日はサッカーをやるぞ!!」
準備室にあったサッカーボールを片手に、彼はそう宣言したのだ。
当然、殆どが生徒がサッカーを知らない。ルールを知っている生徒は全くと言っていいほどだった。
「でもゲヘナの先生、彼女たち、体操着が無さそうですけど」
「あ、しまった……」
これからスポーツをすると言うのに、彼女たちは全員制服だ。
体操着の事をすっかり忘れていたのだ。
「……我々は勝手に訓練をしているので、準備を終えたらお声を掛けてください」
「いやぁ悪いな、段取りが悪くて」
「いえ。こちらの日程も急に決まったので仕方ありませんよ」
この場を取りなしてくれるスバルに感謝しつつ、ゲヘナの先生はトリニティに電話を掛けに向かった。
「アビドスの先生、大丈夫だと思いますが一応彼女達をお願いします」
「ええ、任せてください」
アビドスの先生は拳をグッと握ってそれに応じた。
「それでは各班、準備運動から始めてください」
スバルの指示に、アリウスの生徒達は各々準備運動を始めた。
程なくしてゲヘナの先生が戻って来て、トリニティから予備の体操着を貰えることになった、と言って数名が手伝いに彼に付いて行くことになった。
なんとか昼前には彼ら戻って来て、それぞれのサイズの体操着を調達してきた。
「おーし、それぞれのサイズの体操着を受け取ったら、名前を書いて着替えて来るんだぞ」
「みんな、お昼のお弁当も来たから、それも受け取ってね!!」
体操着とお弁当を配り終え、午後になったらいよいよスポーツの時間だ。
ゴールポストを倉庫から運んできて、ふわっとルールを説明してからサッカーが始まった。
最初はルールではなく、雰囲気を重視して始まった。
食材と料理道具の発注を終えた山海経の先生も交え、思い思いに練習や試合などに励んでいた。
そうしていると、シャーレの先生を始めとした補習授業部の面々が体操着でグラウンドに現れた。
「“みんな、やってるね!!”」
「お、シャーレの先生、お前らも、サッカーをやりに来たのか?」
山海経の先生が五分以上もキレのあるリフティングを披露しているのを皆が息を飲んで見守っているところに、五人がやって来たのをゲヘナの先生が見やった。
「ふう、やれやれ、老体にはこれ以上は難しいな」
「す、すごいです、師父!! 私にも教えてください!!」
「あッ、ズルい、私にも教えて、師父!!」
山海経の先生はすっかり人気者だった。
「おい、お前ら。トリニティとアリウスの交流試合をするぞ!!」
そんな様子を微笑ましそうに見ている他の先生陣だったが、ゲヘナの先生がそう宣言した。
「え、いきなり試合!?」
「いきなり実戦か。腕が鳴るな」
「まさか、いきなり本番なんて……激しいですね♡」
「あ、あはは……お手柔らかに」
これには補習授業部の四人の反応もそれぞれだった。
「でも、こちら側の人数が足らないですよ」
しかしヒフミが尤もなことを述べた。
「フットサルなら五人だろ。そうなるともう一人は……」
「あ、じゃあ先生が入るね」
それにアビドスの先生が手を挙げた。
彼女はキヴォトス出身だし、同性だから遠慮もしなくていいだろう、と言うことで適任だった。
他の先生達は審判で、アリウス側はスバルを中心とした年長者五人が対戦相手となった。
そうして、試合が始まった。
トリニティ側のオフェンスは、アズサと以外にもハナコが名乗り出た。
真ん中にヒフミ、ディフェンスにコハルという所謂イプシロンと呼ばれるY型のフォーメーションを取った。
対して、アリウス側は4-0の攻撃的なフォーメーションを取った。
お互いにサッカーは初心者。
しかし、細かいルールに囚われない、激しい競り合いが行われていた。
個人の技量に依存したプレーをするアリウス側だったが、それが許されるフィジカルを全員が持っていた。
対し、トリニティ側はアズサをエースとし彼女を中心にハナコがパスを回し、積極的に攻勢に出ることで対抗した。
「いやぁ、キヴォトスのガキどもは皆身体能力が高いから、意外と見ごたえがあるなぁ」
「“みんなぁ、どっちも頑張れ!!”」
審判とは名ばかりの大人達。
生徒達が危険なプレーをしないように見ているだけで、楽しんでいた。
「いけいけスバル先輩!! やっちゃえ!!」
「トリニティなんかに負けるな!!」
「そこ、そこでボールを取りに行くんだ!!」
アリウス側の生徒達は、当然ながら自チームを応援していた。
「うう、ここはトリニティなのに、なんかアウェーみたい……」
その賑やかな様子を、コハルは居心地が悪そうにしていた。
「あはは、せっかくだから楽しみましょう……」
「そうよね……やっと勉強から解放されたしって、ヒフミ、来てる、ボール来てる!!」
「ええ!?」
丁度その時、ハナコのパスの隙をついて、スバルがボールを奪ってゴールに向かって猛進し始めた。
「ヒフミ、二人掛かりで行くわよ!!」
「それだとフォーメーションが……いえ、気にしてる場合ではありません!! 行きましょう!!」
どうせ初心者同士のふわっとした試合である。
勝っても負けても何も無いレクリエーション。
ヒフミは意を決して、コハルと共にスバルに挑む。
「ふッ」
が、スバルは左右に包囲が狭まる前に、シュートを放った。
「え、ええ、──ぎゃん!?」
シュートは真っ直ぐゴールを守るアビドスの先生の真上に飛んできた。
それを防ごうとジャンプした彼女は、頭部でそれを受けた。
それで防げたのなら良かったのだが、弾かれたボールは頭上に飛び、ゴールに突き刺さった。
シャーレの先生がホイッスルを鳴らす。アリウス側に一点である。
「大丈夫ですか、先生!?」
「ひぃん……みんなゴメン」
そんな感じで、試合は進んで行った。
最終的にアリウスが3点、トリニティが1点で終了した。アリウスの勝利である。
「いや、いい試合だったな。アズサ達の攻めも良い線行ってたし、惜しい場面も多かった」
ゲヘナの先生はそのように感想を述べた。
「ごめんなさい、私が足を引っ張ってしまいました」
「いや、ハナコのパスは的確だった。私が決めきれなかったのが原因だろう」
「いえいえ、二人共凄かったですよ」
試合後の補習授業部の面々は、そのように反省会をし始めた。
「そ、そうね、たしかに惜しかったわ。次は私もオフェンスに加われば、得点は取り放題の筈よ!!」
コハルも嫌味の一つも言わずに、そう述べた。
ここで仲間を責めないのが、彼女なりのスポーツマンシップだった。
「ゲヘナの先生!! 明日もサッカーをやりますか?」
「うーん、どうだろう。もっとシンプルにドッジボールの方が良かったかもって思ってるんだがどうだろう」
「どんなルールでも、私達は負けませんよ」
スバルのドヤ顔に、ヒフミは悔しそうにしていた。
「なんだか、こういうのって良いですよね」
「“ええ、そうですね”」
アビドスの先生の呟きに、シャーレの先生は心から頷いた。
子供たちが子供たちらしく、青春を謳歌している。
あまり活発に見えないハナコがスポーツで駆け回っている。
内気なコハルが皆と一体となっていた。
ワンマンプレーが目立ったアズサが連携に気を使い、部長としてヒフミがそれをまとめている。
何とも輝かしい、何でもない日々の一ページだった。
アリウスの生徒達も、それは同じだったのだ。
この時に学校の垣根も何も無かった。
これが当たり前になるようにする。それが先生達の願いだった。
しかし、この後体力を使い果たした補習授業部は、教室に戻ってからと言うもの、眠気を必死にこらえて放課後までの時間を過ごす光景が見えたとか。
これには家庭科室で杏仁豆腐を作って差し入れに来た山海経の先生も、思わず微笑んだのだった。
これで良いんだよおじさんと化する先生達。
生徒達はもっと無限に青春を謳歌すべき。
ストーリー進行がゆっくりですが、こういった描写が今後の展開に説得力に繋がるので、ご了承ください。
次回は、アリウスの子供たちがお腹いっぱいご飯を食べれますので、高評価下さると嬉しいです。
あなたはどの先生に勉強などを教わりたいですか?
-
トリニティの先生
-
ゲヘナの先生
-
ミレニアムの先生
-
アビドスの先生
-
百鬼夜行の先生