キヴォトス、先生大量発生中!? 作:ユメ先生
合宿二日目の夜。
補習授業部の面々は眠気と戦いながら遅くまで勉強をしていた。
それに当然のようにシャーレの先生は付き合っていた。
「皆、あまり根を詰めないようにな」
夜十時頃、山海経の先生が差し入れにお粥を持って来た。
「シャーレの先生も。毎日これでは明日に差し支えよう。これで身体を温めるといい」
「“ありがとうございます。ほら、みんなも”」
シャーレの先生はお盆を手に取って四人に促した。
「わあ、助かります!! 丁度お腹が空いてたんで」
「これは、お粥か? 初めて食べるな」
ヒフミは喜んで受け取り、アズサはそれを見てそう言った。
「お粥、お粥かぁ。まあ、無いよりはましだけど……」
「うふふ、二人共、これは多分普通のお粥じゃないですよ」
食べ盛りのコハルは物足りなそうだったが、ハナコはそんな二人を見て微笑んだ。
「“これは、中華がゆですね?”」
「ああ、あり合わせで悪いが、米とささみをほたてでだしを取り、エビやショウガをいれたシンプルなものだよ」
「“絶対美味しいやつだ……”」
さっと掛かったごま油の香りが、食欲をそそる。
彼はとてもありがたそうにそれをレンゲで一口食べた。
想像通りの味で、感嘆の息を漏らすシャーレの先生。
「本当です、こういう料理はトリニティには無いので新鮮ですね」
「ああ、本当に美味しい」
ヒフミと同じように、中華がゆでアズサも笑顔になった。
「私も一度ぐらいしか食べたことがありませんね」
「……」
「ふふッ、コハルちゃん、もう食べ終わったんですね? もう無くなっちゃったって顔してますよ」
「ち、違うわよ!! 私はそこまで食いしん坊じゃないわ!!」
コハルは顔を赤くしてハナコの言葉を否定した。
「気に入ったのなら、明日の朝食にも出してあげよう。レパートリーはいくらでもあるからね」
「うわあ、楽しみです!!」
そのことにヒフミたちは喜んだ。
そんな風に軽く夜食を取った四人は勉強に戻った。
「おいおい、お前ら。もうすぐ消灯時間だぞ」
「“あ、ゲヘナの先生”」
「お前ら温水プール楽しみにしてただろ、明日もあるんだしこの辺にしておけって」
「“そうですね、みんな。この辺にしておこうか”」
シャーレの先生に促されて、四人もようやく手を止めた。
「なあ、シャーレの先生、四人とも上手くやれているか?」
「“ええ、私が教えるまでも無く、お互いに教え合っています。さっきはアビドスの先生にも質問をしていましたし”」
「なるほど。こっちの歴史とか国語の言い回しの違いとか、俺らじゃあんまり教えられないからな。本当に彼女が来てくれて助かるよ」
「“ええ、ですね”」
当人も昔生徒会長をしていただけあって、アビドスの先生は勉強は人並みにはちゃんと出来ていた。
まあ彼女に言えば、他に誰もやりたがらなかっただけですよ、と謙遜するだろうが。
各々が教科書や参考書を片付けていると、コハルが眠そうにうとうとし始めて、うっかりカバンの中身をダバーッと床にぶちまけてしまった。
コハルはハッとなって片づけを始めた。
「大丈夫かコハル、手伝おう」
「コハルちゃん、頑張ってましたもんね」
アズサやハナコがそれを手伝おうとしたのだが。
「ん? コハル、これは参考書か?」
「え? なにそれ──ッ!?!?!?」
アズサが何気なく赤い装丁のやたら薄い本を拾い上げた。
それを見たコハルは真っ赤になって取り乱し始めた。
思いっきりR18と書かれたそれに、ハナコは大喜び。
正義実現委員会の活動中の押収品だと主張するコハル。
ヒフミはあたふたし、アズサは意味が分かっていない様子。
「ほう、どれどれ」
ひょい、とゲヘナの先生は取り乱しているコハルの手から、エロ本を掠め取った。
「ほーう、ほうほう、これはなかなか……」
「ゲヘナの先生。これはお尻ですか?」
「ああ、ケツだな」
おもむろに広げて読み始めた彼と、それを後ろから覗き込むハナコ。
「ちょ、ちょっとなに普通に広げて読んでるのよ!!」
「俺、大人だし。シャーレの先生も読もうぜ!!」
「“わ、私は遠慮しておきます……”」
河原でエロ本を拾ったみたいなノリのゲヘナの先生に、シャーレの先生は苦笑いだった。
「しかし、この程度ではまだまだお子ちゃま向けだな」
「そんなッ、こんなハードなのは、キヴォトスでもなかなか見れませんよ!?」
「同人作家を兼任してるある先生は、俺×トリニティの先生の本とか出してたぜ……」
ハナコは雷を受けたような表情をしていた。
「お、おと、とこ、どうしッ」
コハルは混乱の極致で、混乱している!!
「だからよ、俺は一言言ってやったんだ。せめて俺はTS美少女にしろってな!!」
「いやそっちなんですか!?」
ヒフミが思わずツッコミを入れた。
「“いもはじ”みたいにさぁ、男だって可愛い女の子に変身してバニースーツとか着てみたいとか、そう言う願望だってあるんだよ!!」
男、ゲヘナの先生、本心からの主張だった。
「シャーレの先生もバニースーツ好きだよな、な!!」
「“言っている意味がわかりませんね”」
シャーレの先生は真顔で応えた。
「“バニースーツが嫌いな人なんていないですよ”」
男、シャーレの先生、魂の断言だった。
「え、エッチなのはダメなの、なんでそんなこと素面で言えるわけ!?」
「えッ、だって男がエッチじゃないと、人類は滅ぶじゃん。
コハルよ、お前は食事や睡眠はダメだって言うのか?」
「それとこれとは違うでしょ!!」
「いいや違わんよ」
ゲヘナの先生は微笑ましいモノを見るようにそう言った。
「例えば授業中に弁当を広げて食べ始めたり、授業の内容を聞かずに居眠りするのはダメだろ?
性欲もまた同じだ。時と場合を弁えればオッケーなんだよ。なあ、ハナコ」
「おやおや、なんでそこで私に話を振るんですか?」
「いいや、他意は無いぜ」
一瞬二人がバチっていたが、コハルはふんと鼻を鳴らした。
「まったく、ゲヘナの先生はやっぱりゲヘナの先生なのね!!
うちの先生みたいに品がないとダメなのよ!!」
「でもあの爺さん、子供六人居るぜ。五十手前で嫁さんに一番下の子産ませたし、何なら女性問題起こして一回政党の役職を辞任してる」
ゲヘナの先生の語る事実に、コハルの表情が固まった。
ゲームなら画面が灰色になってひびが入る演出が入りそうなぐらいの固まり具合だった。
「まあ、まあ!! 私達の先生はそのようなスゴイ性欲の持ち主なのですね!!」
「おうよ、だから俺はあのジジイが生徒達に手を出さないかマジで心配してるんだぜ?」
これにはハナコも大盛り上がりである。
「“……でも、以前機関紙で、不純異性交遊があった時は怒っていたような”」
「あれは多分、フェアじゃないからじゃねえか?」
「フェア、と言うと?」
よくわかっていない様子のアズサに、うむ、とゲヘナの先生は頷いた。
「要するに、恋愛っていう駆け引きを大前提にしてるってこった。
あの爺さんの島国の文化は、とりあえず一回付き合ってお互いの相性を見て結婚を決めたりする感じだからな。
子供相手に最後まで致してしまうのは、立場が上の大人として不公平ってことだろう。それは誠実な付き合いじゃないってこった」
トリニティの先生は、どこまでも紳士だったのである。
「ちゃんと対等な立場で、駆け引きをする。まあそれが大人の恋愛ってやつだわな」
「な、なるほど、大人の世界ですね……」
ヒフミはちょっと顔を赤らめて納得してしまった。
子供が考える甘酸っぱい青春の恋物語とは、全く違うのだ。
「だからよ、キヴォトスのガキって不釣り合いなくらい大人っぽい奴とか居るだろ? あの爺さん今は独り身だし、唾つけたりしないかって思ってよ」
「なるほど、個人的にはそう言う恋愛は好みではないですね。恋愛小説ならば、文学的と言えるのかもしれませんが」
文芸作品ならアリ、とハナコはそんな感想を漏らした。
「ッ、じゃ、じゃあ、ゲヘナの先生はどうなのよ!!
先生だって子供に手を出しそうな、軽い人に見えるし!!」
「コハル、流石にそれは言い過ぎだと思うぞ」
「俺が? ははッ、ははは!!」
意地になったコハルの物言いをアズサが諫めたが、ゲヘナの先生はおかしそうに笑うばかりだった。
「な、なに笑ってるのよ!!」
「俺のストライクゾーンは二十代半ばくらいからだ。
俺に前、縁談が有ったって言っただろ? 相手が十九歳だったんだよ」
思いのほか際どい年齢だった。
その場にいた面々は、思わずうなった。
「一度は会ったんだけどよ、相手の子も嫌々だったっぽいし、派手に断ってやったんだ。
自分の半分ぐらいの歳のガキに、欲情できるかってんだ!!」
ゲヘナの先生は愉快そうに笑っていた。
「大声が聞こえるから何事かと思ったら、何やら面白そうな話をしているな」
すると、様子を見に来たのか山海経の先生が教室に再び現れた。
「温水プールを見てきたが、アビドスの先生がちゃんとアリウスの生徒達に体の洗い方を指導していたおかげで今日は大丈夫だろうな」
「師父、師父はどうなんですか!?」
コハルは縋るように彼に問うた。
「師父はエッチな人じゃないですよね!!」
「……これは困ったな」
尚、コハルは聞く相手を間違え過ぎていた。
彼は意味深に笑った。
「私の経営していた
一族や会社の社員の為に、若い頃はほぼ公認の愛人が何人かいた、とだけ」
「そ、そんな……」
自分の周囲の大人たちが、全員ドスケベ野郎だと知ってしまったコハルは、膝をついてorzみたいな姿勢になった。
「その話、詳しく教えてください、師父!!」
「ふふふ、機会が有れば語るのも良いだろう」
ハナコはこの猥談空間に生き生きしていた。
「じゃ、じゃあ、ゲヘナの先生は、どんな人が良いんですか!!」
これ幸いと、ヒフミが彼に問うた。
彼女は自分が普通だと自称するように、普通に恋愛話が好きだった。
「そうだなぁ、アビドスの先生とか良いと思わないか?
明るいし、愛嬌あるし、色々とデカいし」
「な、なるほど!! ではシャーレの先生は!?」
「“私はまだ、そう言う気にはなれないかな……”」
ともあれ、そんな混沌とした状況だったが、この日はゆっくりと幕を閉じた。
そして合宿三日目が始まる。
早朝、コハルの付き添いでシャーレの先生はエロ本を押収品保管庫に戻しに行った。
その帰りに、合宿場の入り口にトラックが横付けされていることに気づいた。
「お、二人共。丁度いいところに来たな」
そこには、先生や生徒達がトラックの納品の手伝いをしていた。
二人の到着を、ゲヘナの先生が出迎える。
「“ああ、料理道具や資材の搬入ですね。手伝いますよ”」
「うう、朝から力仕事なんて、タイミング悪い……」
と言いつつも、コハルも皆と一緒に手伝い始めることになった。
「師父、いつ戻るの? みんな意気消沈してたよ」
皆が納品を手伝っている少し離れたところで、山海経の先生がトラックを運転してきたルミと話していた。
「わからない。アリウスの生徒達次第と言ったところか」
「でも手紙一つ置いて皆に何も相談しないなんて!!」
「私も彼女たちから相談などされたことはなかったがね」
「……」
彼は溜め息を吐いた。
ルミはそんな彼に何も言えなかった。
「……私はね、子供を利用してきた側の大人だ。
孤児を囲い、組織の為に育てて来た。幼い頃から知っていた子が、私を庇って命を落としたこともある。
私の息子達も、次期ボスの座を奪って殺し合ったことさえもね」
「……」
「子供たちが争い、傷つくのを見るのは、もううんざりなのだよ」
「師父……わかったよ」
どこか遠いところを見る彼に、ルミは持ち前の明るさで笑いかけた。
「食材の配達は任せて。トリニティは払いが良いからね!!
あの子たちのことも、私から話をしておくよ」
「ああ、頼むよ」
山海経の先生はそれだけ言うと、合宿場の方へと歩き去った。
合宿場の食堂で山海経の先生がアリウスの生徒達に料理のやり方を教え始めた。
包丁やフライパンの使い方、そして簡単な料理の作り方。
「人間は空腹から逃れることはできない。
つまり、最低限の料理が出来ればどこに行っても食い扶持を稼げるのだ」
彼は生徒達にそのように教えた。
「まず、今日はカレーを作ろうと思う。
とりあえず、今日の目標は基本的な野菜の切り方を学ぶことから始めよう」
今日のところは失敗が少ないカレーをメニューに、野菜の切り方を教えるようだった。
初めての料理に、彼女たちも苦戦するかと思いきや。
「先生、こんな感じですか?」
「うむ。みな、意外と達者だな」
「はい、ナイフ術の訓練とかしますんで!!」
アリウスの生徒達は包丁を危なげなく操っている。
不安なのはむしろ……。
「えいッ、えいッ」
「ああもう先生、持ち方が危ないんですよ」
「そんなに不器用じゃやってられないですって……」
危なっかしいのは、ギクシャクして包丁を使うアビドスの先生の方だった。
隣で割烹着を着たアリウスの生徒達が冷や冷やしながら見守っている。
「大丈夫だよ!! 大学時代は自炊してたからね!!」
なお、彼女の親友がここに居れば、安いうどんやそばで食いつないでいただけだろう、とツッコミを入れたことだろう。
そうしてある意味アリウスの生徒達を戦々恐々させていると、食堂に入って来る者が現れた。
シャーレの先生である。
「あ、シャーレの先生!!」
「“アビドスの先生、ちょっとよろしいですか?”」
彼が手招きするので、アビドスの先生は入り口の方へと駆け寄った。
「はい、何かありましたか?」
「“実は……ホシノが来てます”」
「ホシノちゃんが!?」
彼の伝えた言葉に、彼女は驚き、肩を落とした。
「……今は、会う顔がありません」
「“そうですか。そう伝えておきます”」
シャーレの先生は悲しそうにしている彼女の意思を汲み、その場を後にした。
「…………そっか」
アビドスの先生の言葉を伝えたシャーレの先生は、意気消沈しているホシノに掛ける言葉が無かった。
「ユメ先輩、砂祭りを開催したいって言ったんだ」
「“うん”」
「でも、そんな予算、どこにもないじゃない?
シロコちゃんやノノミちゃんは賛成したんだけど、他の二人は難しいって言ったんだ。勿論、おじさんもね」
「“……そうなんだね”」
「それでも先輩はどうしてもやりたいって。おじさん達はそれよりも学校を立て直すのが先だって。
でも、先輩は、私が今年卒業だからって……」
彼女は学校よりも、たったひとりを優先した。
それがホシノを激高させた。
『先輩、もう昔みたいに二人じゃないんですよ!! 私の事よりも、大事なことはいっぱいあるでしょう!?』
『そんなことないよ!? ホシノちゃんには、学校の楽しい思い出を持って行ってほしいんだよ……』
『先輩、それでも大人なんですか!?」
「“それで大喧嘩しちゃったんだ……”」
「……うん」
合宿場の門柱に背を預け、力無くホシノは頷いた。
「あんな風に譲らない先輩は、初めてだったな。
あの人がキヴォトスを去る前も、出来もしない砂祭りをやろうって……」
「“それはきっと、その時もホシノの為だったんじゃないかな?”」
「え?」
しかし、ホシノはすぐに気づいた。
以前は彼女が去る側だった。今度は、ホシノが去る側だ。
いずれにしても彼女がホシノに、思い出を残してあげられるのは最後だった。
いや、今度こそが最後のチャンス。一度は失敗した彼女が、思わぬ奇跡によって得た機会。
三度目は無いし、期待する物でもない、そう悟っているのだ。
「……ほんと、どうしようもない先輩だよ、まったく」
ホシノは小さく笑って、悪態をついた。
「いや、お互い様、かな」
「“ホシノ、私もアビドスの砂祭りを見てみたいな”」
「えッ、先生?」
「そいつは面白そうだな、二人共」
合宿場の入り口の扉から、ゲヘナの先生が出て来た。
「お祭りってのはな、バニースーツと同じだ。そうだろ、シャーレの先生?」
「“ッ!? そうですね、嫌いな人が居るわけありません!!”」
「暇な先生を集めて、計画練って、思い出作り、やってみようじゃねえか!!」
「“ええ、きっと楽しくなりますよ!!”」
大人達が勝手に盛り上がってるのを見て、ホシノは言った。
「まったく、もう、これだから大人は、勝手なんだから……」
彼女は苦笑しながら、目元を拭った。
「おうとも、俺はゲヘナの先生だぞ。自分の楽しいことを優先して何が悪い」
「“私もシャーレの先生だよ。シャーレの活動目標は、何も決まってないからね!! 私が決めて良いんだ!!”」
これが大人の自由さ。子供には無い、行動力や人脈の大きさだった。
「……うん、楽しみに待ってるよ。先生」
そう言って、ホシノは微笑んだ。
その様子を、合宿場の廊下からそっとアビドスの先生は見守っていた。
そして、これは後日になるのだが。
アビドス高校に戻って来た先生は、こんなことを言い出した。
「ねえねえ皆、シャーレの先生って、す、好きな人居るのかなッ」
彼女としては、生徒達と恋バナでもしようと思ったのかもしれないが。
ホシノは無言で彼女に迫った。
「え、え、えッ、何をするの、ホシノちゃん!?」
「いーやぁ? この無駄な贅肉をどうやったらもぎ取れるかなってさ」
「ひぃん……」
ホシノにされるがままになっている自分たちの先生を、他の四人は微笑ましく見ていたのだった。
アビドスの砂祭り編、いずれやるかもしれません。
次回は、あの先生が登場します!!
あなたはどの先生に勉強などを教わりたいですか?
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トリニティの先生
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ゲヘナの先生
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ミレニアムの先生
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アビドスの先生
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百鬼夜行の先生