キヴォトス、先生大量発生中!?   作:ユメ先生

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SRTの先生:搾取の構造

 

 

 

 

 三日目の夜。

 

 昼間に作ったカレーをアレンジし、それが夕食になった。

 アリウスの生徒達はそのメニューに文句どころか、大喜びであった。毎日これでもいい、という子さえ居た。

 

 そんな夕食を終えて、まだ勉強を続けている補習授業部の面々に断わって席を外したシャーレの先生は職員室に向かった。

 

 そこには、この合宿場に集った先生達が勢揃いして、彼を待っていた。

 

「“お待たせしました”」

「いや、気にするなって」

 

 大して広くもない部屋の奥の椅子に座り、SRTの先生は肩を竦めた。

 シャーレの先生が席に着くと、彼は話し始めた。

 

「じゃあ、俺がトリニティに来た理由から話そう。

 結論から言えば、それは二つ。トリニティの安全保障が脅かされているからだ。

 そして二つ目は、探し物だな」

「探し物、ですか?」

 

 アビドスの先生が聞き返す。

 トリニティの情勢は、確かに不安定である。二つの派閥が睨み合いをし、けん制し合っている。

 それは分かるが、探し物とはなんだろうか?

 

「ああ、これだ」

 

 彼が取り出したのは、聖典だった。

 トリニティだけでなく、キヴォトスで広く親しまれているこの世界でおも随一のベストセラー。

 

「曰く、退廃と悪徳の街に神は怒り二人の天使を遣わし、火と硫黄にて街を滅ぼした」

 

 彼は聖典の一説を諳んじた。

 

「現実的な解釈だと、天然ガスに引火して大惨事になった、ってのが通説だな。

 しかし、キヴォトス学としての解釈は異なる」

「あちらの世界に訪れたキヴォトスの生徒が、それを行ったという説ですね」

「ああ。大型爆弾でも使って、街ごと吹き飛ばしたのかもな」

 

 アビドスの先生の言葉に、SRTの先生は頷いた。

 

「キヴォトスは数百年以上前から、精巧な銃器の製造技術などが存在していた。

 それらが神話の武器として俺たちの世界で登場することはままあることだ。

 だが、近代になって、俺達の世界とキヴォトスが安定して交流することができるようになった結果、キヴォトスの内部の事情がこちらにも明確に伝わるようになった」

「各地のキヴォトス信仰の衰えの発端になった奴ですね」

 

 先生達の世界で、キヴォトスは様々な名前と伝承によって崇拝されてきた歴史があった。

 しかし、その実態は不良と銃火が蔓延る危険地帯であった。

 

「キヴォトス学の観点から、聖典の出来事を“事実”として実際に起こったことと考えると、箱舟と洪水の話はどう解釈できる?」

「……」

「聖地を包囲した18万もの軍勢を一晩で消したって一説もある。

 俺らの世界の政治家どもは考えた。キヴォトスには、人知を超える大量破壊兵器があるのでは、と」

 

 誰もそれを、否定できなかった。

 

「俺らの世界でも、核兵器があればどんな雑魚国家でも大国相手に対等に渡り合える。

 キヴォトスにもそれが秘匿され、運用できる状態なのではないか。俺らの世界の連中はずっとその探りを入れて来た。

 連邦生徒会はそんなものは存在しない、の一点張りだがな」

 

 だろうな、とゲヘナの先生は呟いた。

 

「俺の国も、命令というほどではないが、一応それに類する兵器がないか、出来れば確認を取ってくれ、と言われてこっちに来た」

「私もだ。仮にそのようなモノがあると言う噂があれば、知らせてほしいと言われた」

 

 ゲヘナの先生だけでなく、山海経の先生もそう答えた。

 

「“私は、連邦生徒会がそんな危ないモノを隠しているとは思えないです”」

「それに関しては、俺も同感だ。

 連邦生徒会は数年ごとに入れ替わり、新陳代謝が激しい。あいつらが大量破壊兵器の存在を忘れていてもおかしくはない。

 まあ、俺がトリニティに来た理由はそういうことだ」

 

 聖典の天使のモデルとされるトリニティの祖となった学校の遺物。

 SRTの先生の探し物とは、それだった。

 

「そして、キヴォトスを語る上でオカルトは欠かせない。

 俺らの世界でキヴォトス学の権威に当たる先生がいてな」

「ああ、私のゼミの教授……」

「そうそう。できれば紹介状を書いてくれると嬉しいね。今は忙しいみたいだが」

「そう言うことなら構いませんよ」

 

 アビドスの先生は、彼の要請に快諾した。

 

「それにしても、キヴォトス学って面白いよな。あの神曲も、ゲヘナ辺りを歩き回ったって考察がされてるんだろ?」

「それが事実なら、うちの学校はまるで学校に見えなかったってことになるんだが……」

 

 おかしそうに笑っているSRTの先生に、そうぼやくゲヘナの先生。

 でもゲヘナの生徒達が煮えたぎる池に落ちてわちゃわちゃしてる神曲の一場面は容易に想像できる彼だった。

 

「“……もしそんな危険なものがあるなら、処分しないといけませんね”」

 

 真剣な表情で彼らの話を聞いていたシャーレの先生は、そう呟いた。

 

「あんたならそう言うと思ったよ。だが俺は、実在しているならしているで、ちゃんと管理されているならばそれで良いと思っている」

「“ですが、それは……”」

 

 シャーレの先生は口に出そうとして、気勢がしぼんだ。

 SRTの先生はキヴォトスの社会そのものの安全保障を考えている。そう、彼はもう既に、己をキヴォトスに捧げている。

 

 彼は自分たちの故郷さえも、キヴォトスの脅威として数えているのだ。

 結果的に大量破壊兵器の存在を、キヴォトスの安全を保障する物として。

 

「シャーレの先生、こんな話は知っているか?」

 

 彼の葛藤をこの場に居る誰もが理解しつつ、SRTの先生は話を続ける。

 

「ここ最近、俺らの世界がキヴォトスとの交流で注目されている輸入品は何だと思う?」

「……教育、だろ?」

 

 彼の問いに、ゲヘナの先生が代わりに答えた。

 

「“教育、ですか?”」

「ああ。俺らの世界では、教師不足が世界的に問題になってるだろ?

 キヴォトスの教師を必要としない教育方法を、最新のものだとして俺らの世界のリベラルどもは有り難がってんだ」

 

 SRTの先生は馬鹿馬鹿しそうに肩を竦めた。

 彼の祖国では教師の低賃金がただでさえ社会問題と化している。

 

「どこにでも居るよな、本質を見えてない馬鹿な連中は。

 キヴォトスの教育方法が最新だろうが優れてようが、学習の成果ってのは子供の意欲にしか依存しない。社会に未来が無ければ子供は絶望し、働くことすら倦厭する。

 そして皮肉にも、その事実はこのキヴォトスが証明している。

 大人になった後の自分を想像できない子供たちが、学ぶことすら放棄して徒党を組んで放蕩を繰り返してやがる。

 あっちのバカ共が有り難がってる者は、そんな現実を無視したものに過ぎない」

 

 ゲヘナの先生は、それを嫌というほどゲヘナ学園で見て来た。

 

「そして、それを一番に必要としているのはどこだと思う?」

「……軍隊、ですね」

「正解だ」

 

 今度はアビドスの先生が俯きがちに答えた。彼女はその事実を師から授業で習っていた。

 SRTの先生は嗤う。

 

「キヴォトスという膨大なサンプルからフィードバックされた教育方法を、軍事訓練に取り入れている。

 ただでさえ、キヴォトスのガキどもは不良でも簡単な軍事行動がとれる練度を持っている。落ちこぼれでさえこれだ」

 

 そしてそれは、どんな生徒達でもシャーレの先生に指揮に混乱せず追従できる理由でもあった。

 

「……わかっただろ? キヴォトスの子供たちは、俺達の世界の大人にさえ搾取されているんだよ!!」

 

 子供たちの教育の為の技術を、軍事転用されている。それが現実だと彼は言った。

 その事実に、吐き気を催すほど怒り狂っていた。

 

「そして、俺はこの世界に身を置いて、分かったことがある。

 キヴォトスは子供たちの楽園だの言われているが、俺はこう思った。

 この世界は、──大人にとっても楽園なのだ」

 

 彼はそう、この世界の現実を語る。

 

「俺は俺の娘たちを雇用した会社を作り、自治区の壁を超える犯罪者に対処すると言った業務をしてきた。

 その顧客の多くは各自治区の生徒会だが、意外にも企業から仕事が来るんだ」

 

 彼はSRTの存在意義とした会社を立ち上げ、それをそこの生徒達を傭兵として居場所を与えた。

 

「そうして連中の立場から見ると、企業の敵ってのは何なのか分かって来る」

「“企業の敵、ですか?”」

「ああ、商売敵って意味じゃないぜ? 経済活動での企業努力による商戦は、むしろ健全なことだ。

 だがそれをグレーなところでやる連中が居る。企業の連中にも一定のルールはあるが、その中では暗闘、蹴落とし合い、やりたい放題だ。

 そう言う意味では、奴らは子供たちなんて眼中に無い」

 

 キヴォトスの大人たちの大半は、子供たちなんか眼中に無いのだ。

 大人達の世界と、子供たちの世界。それでキヴォトスは構成されていると言えた。

 

「だがその過程で、子供たちが搾取され、利用されていることもある。

 そして、これが俺がここに来た三つ目の理由になる」

 

 彼がそう口にした時だった。

 

「Frieze」

 

 職員室のドアの外から、そんな声が聞こえた。

 

「教官、彼女たちが盗み聞きを」

「入れ」

 

 SRTの先生がそう言うと、補習授業部の面々がFOX小隊に銃を突き付けられ、ホールドアップしながら入室してきた。

 

「なにやってんだ、お前ら」

 

 これにはゲヘナの先生も呆れたようだ。

 

「それはこっちの台詞よ!!

 何で知らない生徒が居るのよ!!」

 

 コハルがすかさず抗弁した。

 

「ああ、悪いなお前ら。別に大した話はしてない。仕事に戻れ」

「はッ」

 

 FOX小隊の面々は、敬礼をして去って行った。

 

「じゃ、そう言うことで俺も明日からここで世話になるわ」

 

 狼マスクから覗く瞳は、楽しそうに子供たちを見ていた。

 

 

 

 

 

 四日目の朝。

 

「わーお、なんかプールが凄いことになってる!!」

 

 ミカが温泉開発部に改造されたプールサイドを見てはしゃいでいた。

 

「お湯が張ってある!! なにこれ、温水プール? まるでレジャー施設みたいだね、楽しそう!!」

 

 そうしていると、彼女の元に二人の大人がやって来る。

 シャーレの先生と、ゲヘナの先生だった。

 

「よう、ミカちゃん」

「“おまたせ。用件を聞いても良いかな?”」

 

 二人は笑みを浮かべて彼女にそう言った。

 

 えへへ、とミカは屈託なく笑ってこう言った。

 

「先生達が上手くやってるかなってさ、ほら、急に無理難題を頼んじゃったじゃない?」

「“気にしないで良いよ。私達も楽しくやっているからね”」

 

 シャーレの先生は本心からそう言った。

 補習授業部の面々に勉強を教えるのも、その合間にアリウスの生徒達と交流をするのも、彼は楽しんでいたのだ。

 

「それでお姫様、独りで俺らに内緒話かな?」

「もう、ゲヘナの先生はせっかちだね!!

 SNSの業務報告はマメに毎日更新してるのに!!」

「お、まさかトリニティの子に見て貰えてるとはな。

 聞いてくれよ、うちの生徒会って、俺に報告の義務も課さなかったんだぜ?

 あのキキキ大王も、俺の好きにするといいってお言葉だけでそれっきりさ」

「うわぁ、想像以上に投げやりだね」

「仕方ないから、俺のSNSのアカウントに挙げて、活動を示してるってわけだ」

 

 ゲヘナの先生の事情に、ミカはドン引きしていた。

 

「でも、そのお陰で、ここでどんなことをしてるか、こっちの方にも伝わってるよ。

 ふふふ、もっと贅沢したって良いんだよ?」

「温かい食べ物を有り難がってる連中にか? 物事には段階がある。それに、俺らは小市民でな。必要経費とは言え、他人のカネを使いこむのは気が引ける」

 

 彼はそう言って、肩を竦めた。

 

「……うん、余計な前置きはやめて、本題に入ろうか。

 先生達は、アリウスの自治区について聞いている?」

「“ううん。なんだか、触れづらくて”」

 

 シャーレの先生にも、デリカシーはある。

 相手は社会から孤立しているコミュニティであり、彼女らには彼女らの事情がある。

 アリウスの生徒達から事情を話してくれるくらい親しくなってからでも遅くはない、と思っていた。

 

「俺も詳しくは聞けてはいない」

 

 ゲヘナの先生は、目を細めた。

 

「だが、“マダム”と呼ばれる人物が自治区の管理ないし校長のような立ち位置いるらしいな。

 漏れ聞こえる彼女らの話から大まかに察っするに、大層恐れられているようだ」

「そっか、私も同じくらいの情報量かな。

 ただ、彼女には一部のアリウスの生徒しか会えないような、そんな存在だって聞いてる。

 私もアリウスの自治区に何度かお邪魔したけど、一度も会ったことがないよ」

「なるほどな……」

 

 ゲヘナの先生は、シャーレの先生を見やった。

 

「シャーレの先生、あんたはどう見る?」

「“情報が限られてるので、まだ何とも……”」

 

 しかし、彼は既に最悪の想像をしているようだった。

 

「まだマシなパターンは、そのマダムとやらが手を尽くしてなおアリウスの現状や生徒達があの有様ってことだ。

 あの子たちが幼い頃に内戦があったって話をしてくれてな、その頃にはこんな美味しいもの食べれると思わなかったってな。

 その内戦の事後処理を優先して、生徒達にまで手が回っていない。それがまだマシなパターン」

「“……ゲヘナの先生。言っていて苦しくありませんか?”」

 

 割とお気楽な性格のシャーレの先生でさえ、彼の言うマシなパターンは非現実的だと思った。

 

「そうだな。自治区の復興を掲げる真っ当な為政者なら、子供の教育を疎かにするなんてあり得ない。教育なくして復興や発展はあり得ないからだ。

 だがシャーレの先生。じゃあ最悪のパターンは何だ?」

「“子供を利用し、搾取し、押さえつけている……”」

 

 ゲヘナの先生はパチッと指を鳴らした。俺も同じ意見だ、とでも言うように。

 

「俺は一度だけ、彼女らに聞いたんだ。マダムってどんな人なんだ、って。そしたら、彼女らはこう言った」

 

『お願いですから、私達の事情に踏み入らないでください』

 

「それは拒絶でもあり、思いやりでもあった。怯えながら、こっちを気遣ってた。まるで俺らを巻き込みたくないって感じだった」

「“……”」

「俺はその時、こう考えた。カイザーとどっちを先にするかな、ってな」

 

 ゲヘナの先生は笑った。笑顔の持つ、本来の意味で。

 

「“気持ちはわかります。でも重要なのは彼女達の意思です”」

「シャーレの先生、あんたは見過ごすって言うのか?」

「“違います。私達は彼女達の意思を無視できない。子供たちの意思を無視すれば、それはただの横暴です!!”」

「だが、場合によっては親から子供を引き離す必要もある。それが横暴だと?」

「“ならば、相手が形だけの反省を示し、子供たちがそれを受け入れたらどうなりますか?”」

「……」

「“たった、たった一言で良いんです。……助けて欲しい、と”」

 

 シャーレの先生は、切なそうな、彼こそが懇願するかのようにそう言った。

 ただ暴力で引き離すだけでは、意味がないと訴えていた。

 

「“その言葉が無ければ、その言葉を彼女達から引き出せないなら、私達が先生と名乗る資格はない。そう思いませんか?”」

「……そうだな。今のところ、事態は逼迫しているようではないし、最後の手段は見送るべきか」

 

 ゲヘナの先生は彼の切なる願いに自らの意見を引っ込めた。

 

「……シャーレの先生は、生徒達の味方なんだね」

「“うん、私はそうありたいとおもっているよ”」

 

 二人の会話を見ていたミカは、そう言った。

 

「なら、私も二人を信用して、話すね。

 私の目的はアリウスとの和解だって知ってるよね?

 だけど、その前に必要な工程があると思わない?」

 

 その言葉で、二人は彼女が何を考えているのか察した。

 

「そう、私の本当の目的は、──アリウスの解放だよ」

 

 彼女は強い意思を瞳に宿し、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 




この間、久々に日刊ランキングに載ってびっくりしました!!
以前いっぱい高評価を頂いた時は載らなかったので、評価形式が変わったのだと思ってました。

最近は返信が遅れてすみません。
ちょっと更新するだけで精いっぱいなメンタルなのです。あしからずお願いします。

あなたはどの先生に勉強などを教わりたいですか?

  • トリニティの先生
  • ゲヘナの先生
  • ミレニアムの先生
  • アビドスの先生
  • 百鬼夜行の先生
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