キヴォトス、先生大量発生中!?   作:ユメ先生

39 / 45
アリウスの先生:六道輪廻

 

 

 

 時間は少し巻き戻り、三日目の夜。

 

 アビドスの先生は深夜の見回りをしていた。

 

「はーい、みんな眠ってるかなー?」

 

 彼女は補習授業部の四人が眠っている部屋のドアを開けた。

 懐中電灯でベッドを順番に照らすと、ヒフミとコハルはすやすや眠っている。

 だが、アズサとハナコのベッドはもぬけの殻だった。

 

「あれ、アズサちゃんとハナコちゃんが居ない!?」

 

 もう消灯時間なのに、と彼女が困っていると。

 

「ふふふ、アビドスの先生。アズサちゃんは合宿場周辺の見回りをしていますよ」

「あ、ハナコちゃん……って、どうしてそんな格好してるの!?」

 

 彼女はスクール水着の上に、白シャツを羽織って現れたのだ。

 

「夜の散歩です♡」

「どうして夜中歩き回ったのかはまだ聞いてないよ……」

 

 おほん、とアビドスの先生はツッコみを終えて咳払いした。

 

「とにかく、トリニティでも夜中は危ないから、出歩いちゃダメだよ?」

「はーい。わかりました」

 

 ハナコはとりあえず彼女の指示に従い、ベッドに戻って行った。

 その格好で寝るんだ、と再びツッコミを入れるアビドスの先生を、楽しそうにハナコは見ていた。

 

 次に彼女は、体育館に向かった。

 アリウスの生徒達がここで寝泊まりしているのだが。

 

「あ、アビドスの先生だ」

「哨戒お疲れ様でーす」

 

 廊下で見張りをしているアリウス生二人に話しかけられた。

 

「うん、君たちもね!! 先生としては、君たちにもちゃんと寝ててほしいんだけど……」

 

 現在見張りの最中の為か、暗がりでガスマスクを着用している二人の姿に若干ビックリしつつも笑顔で対応するアビドスの先生。

 

「流石にそれはできませんよ……」

「そうそう。いつトリニティの奴らが奇襲を仕掛けてくるかわかりませんし」

 

 彼女らにとって、それは普通のことだ。

 アビドスの先生はその事実に痛ましそうに口元を結んだ。

 

「中を確認しますか? ちゃんとみんな寝てますよ。寝るのも任務の内ですから」

「うん、ありがとう」

「あ、一応外で警戒してる班もいるので、点呼に向かいますか?」

「そうだね、ちゃんと確認しないとダメだし」

「わかりました、位置情報を共有しますね」

 

 そんな感じで、99%無害(ほぼヒヨリ)と見なされ舐められて(フレンドリーに)対応されるアビドスの先生だった。

 

 

 彼女がスバルを発見するのは容易かった。

 

 彼女が居る方から、ハーモニカの音が聞こえたからだ。

 なんとなくしばらく、それを聞いていると。

 

「……アビドスの先生ですか。お耳汚しで失礼しました」

 

 彼女に気づいたスバルがそう言って、高所から降りて来た。

 

「上手だね、とても素朴で、良い感じだと思うよ!!」

「お世辞は結構ですよ、ただ吹きたいように吹いているだけで、まともな曲も吹けませんから」

 

 スバルはそのように自嘲した。

 

「そんなことないのに……」

「……アビドスの先生」

 

 勝手に内心を想像され、ちょっと不満げなアビドスの先生にスバルは言った。

 

「失礼ながらアビドス高校については私は存じ上げなかったので、他の先生方にどんな学校か聞かせて貰いました。

 控えめに言って、私達などに構っている余裕などあるのですか?」

「ううッ、それを言われると弱いなぁ」

 

 スバルの鋭い指摘に、涙目になるアビドスの先生。

 

「少なくとも、廃校寸前の学校の方に憐れまれるほど、我々は落ちぶれているつもりはありません」

「憐れむって……違うよ!! 私は皆の力になりたいだけだよ」

 

 彼女は微笑み、無表情のスバルにそう言った。

 

「余計なお世話ですよ」

「ううん、それも違う」

 

 スバルの言葉を、彼女は否定した。

 

「私は先生だから。それが仕事だってのもあるし、それをしたいからここにいるんだよ。多分、他の先生達もそうだと思うよ」

「……先生は、キヴォトス出身だそうですね。大人になって、こちらに戻って来たと」

「うん、そうだよ!! あ、外について聞きたいの? 今日は遅いからまた今度ね!!」

「……いえ、それは別に構いません」

「あ、そうなんだ……」

 

 ちょっと残念そうなアビドスの先生だった。

 

「そうだ、こっちの生活は楽しい? やりたいことの為に勉強したくなったかな?」

「……」

 

 彼女の問いに、スバルは若干迷ってからこう答えた。

 

「所詮、ここでの生活は天道のようなものです」

「天道?」

「私は自分達の先生にしばらくの間、護衛として付き従っていました。

 その間、いろいろな仏教の話をして頂きました」

「ああ、六道輪廻のことだね!!」

「ええ」

 

 スバルは頷いた。

 

「天道は功徳を積んだ天人が住む、享楽の世界。地獄道はまた別にありますが、天もまた地獄の一つだと先生は捉えているようでした。

 天人が享楽のまま生きれるのは、功徳を消費しているからに過ぎない。

 例えば自らが誰かを救いたいと考えれば、救われる為の存在が現れる、望みが叶う欲望の世界だと」

 

 だから、彼女らの先生は、彼女たちに何も干渉をしようとはしなかった。

 アリウスの生徒達を憐れみつつも、何もしないことを選んだ。

 自分が望むままに誰かを救うのは、功徳では無いからだ。

 

 そして仮に彼が手を差し伸べようとしても、彼女たちは拒絶しただろう。

 かつての連邦生徒会にそうしたように。アリウスの先生は、それを理解していた。

 

「今の我々もまた、世間の憐れみを消費しているにすぎません。

 永遠にこの生活ができるわけではありません。

 この任務が終われば、より虚しさを抱くだけです」

 

 この虚無感こそ世界の真実。

 幼い頃から教わりつづけたアリウスの教えだった。

 

「……そっか」

 

 アビドスの先生は、理解した。

 彼女たちは何も望んでは居ないのだと。

 縋るものなど、何一つないと。

 

「そうだよね、世の中の争いは無くならないし、社会は何もしてくれないし、私達は何も為せないもんね」

 

 そう、アビドスの先生は彼女達に理解を示した。

 

「でもね、私は知っているよ!! この世界にはね、本物の“奇跡”が存在するってことを!!」

 

 その上で、満面の笑みでそう言った。

 

「……なんですかそれは、馬鹿にしているんですか?」

 

 スバルは呆気に取られてそう返した。

 

「あ、違う違う、そんな風に聞こえたならゴメンね!!」

 

 アビドスの先生は屈託なく笑っている。

 その笑顔に知り合いの影を感じ、スバルは毒気が抜かれてしまった。

 

「大丈夫、私が証明するよ。だって、奇跡は手を伸ばさないと掴み取れないものだから」

 

 彼女は、言った。

 

「あなた達の代わりに、私が“奇跡”を手にするよ!!」

 

 太陽すら墜とす底なしの笑顔で。

 

「それなら大丈夫だよね? あッそうだ、今度うちの学校の皆を紹介するよ、なにせうちの生徒は五人しか居ないからね!! 何かお互いに協力できることもあるかもだし!!」

 

 彼女は次を考えていた。スバルは次など考えていなかった。

 それが全てだった。

 

 だからスバルは、何も言えず呆然と楽しそうにしている彼女を見ているしか出来なかったのだ。

 

 

 そして翌日、アリウスの生徒達の前に彼が現れた。

 

「よう、お前らがアリウス分校の生徒たちだな?」

 

 迷彩柄の軍服の狼マスクの男が、グラウンドに整列している彼女達の前に立ちそう言った。

 

「俺はSRT特殊学園ってところの先生をやってる者だ。うちみたいな小さな学校の事なんて、お前らは知らんだろうがな」

 

 学校は休校中で生徒も全員休学だしな、と彼は肩を竦めて笑う。

 

「まあ、先生って呼ばれ方は性に合わんから、教官とでも呼んでくれや」

「わかりました、教官」

「じゃ、とりあえずお前らの訓練を見てやる。その前に……おい、お前ら!!」

 

 SRTの先生が明後日の方に声を掛ける。

 すると、物陰からぞろぞろとセーラー服の生徒達が資材を持って現れる。SRTの生徒達だった。

 

 まるで気配がなかったことに、アリウスの生徒達は緊張を高めた。

 

 彼女らは資材を組み立て、あっという間にグラウンドにはアスレチックのコースが出来上がった。

 それが終わると、彼女たちは一礼して去って行った。

 

「お前達の体力テストをする。最下位のチームにはペナルティを与える」

 

 SRTの先生は、淡々と告げた。

 

「他の先生方はお前らを甘やかしてたみたいだが、俺は違う。

 お前達を厳しく評価し、キヴォトスで生きられるようにしてやる」

 

 アリウスの生徒達の脳裏に、ある人物が過ぎった。

 マダム。ベアトリーチェ。

 

 自分達を恐怖で支配する、想像通りの“大人”の姿を。

 

 彼は、そう言う人物である、と。

 

「それじゃあ、チームごとに分かれろ。そしてチームごとに順番にコースを一巡しろ」

 

 そして、体力テストが始まった。

 

 

 

 体力テストの光景を、先生達は遠巻きに見ていた。

 そこには、いつもは補習授業部に集中しているシャーレの先生の姿もある。

 

「心配か? まあ気持ちはわかる」

「“ええ……”」

 

 不安そうに体力テストをこなしていくアリウスの生徒達を見ているシャーレの先生に、ゲヘナの先生は声を掛ける。

 

「俺はあの人を見てると、訓練学校時代の教官を思い出して身体が震えてくるぜ……」

 

 そんな風に笑うゲヘナの先生。だがシャーレの先生は冗談には聞こえなかった。

 

「“……大量破壊兵器なんて、存在するのでしょうか”」

「難しい問題だな。あんたは核兵器を放棄した平和な島国に居ただろうが、世界的に見れば核兵器の放棄は必ずしも勇気ある英断ではない。

 大国の意思によって、結果的に戦乱が齎されることもある」

 

 それは過去の歴史ではない。彼らが生きている間にも起こったことだった。

 

「“……”」

「そう気負う必要もあるまい。選択を行うのは子供たちだ。

 それに連邦生徒会は生真面目がすぎるからね」

 

 山海経の先生は若い先生にそう言葉を掛けた。

 

「俺としては、政府としては面白みに欠けると思ってるがな!!」

「……」

 

 ゲヘナの先生の冗談は虚しく響いた。

 アビドスの先生は心配そうにアリウスの生徒達を見ていた。

 

 SRTの先生はこう言った。

 

「俺はあいつらを可愛そうな連中だと思っていない。それをお前らに知らしめてやるよ」

 

 そう言って、彼はアリウスの生徒達の前に向かって行ったのだ。

 

 

 グラウンドに接地されたアスレチックコースは、様々だ。

 

 十メートルもある木造の塔にロープ一本で登り、数メートルの高さで横倒しにされた丸太を渡らされ、有刺鉄線の網の下の隙間の僅か数十センチを匍匐前進で進まされる。

 その先には、トリニティの制服を着せられたセンサーで動く機銃が設置され、設置された遮蔽物をジグザグに進み、少しでも遅れれば銃撃を受けると言うかなり本格的な代物だった。

 

 特殊部隊の訓練じゃねーか、とゲヘナの先生は漏らしたくらいだ。

 

 アリウスの生徒達は黙々とそれをこなして行った。

 

 木造の塔から落ちても、バランスを崩して丸太から落ちても、体操着の背が有刺鉄線にひっかかり破けても。

 機銃から銃撃を受けても、誰ひとりとして文句は言わなかった。

 

 その訓練の光景を、先生達は戦々恐々と見守っていた。

 いや、彼女たちだけではない。教室から補習授業部の面々も、勉強どころではなく窓からその光景を見ていた。

 

「教官。全チーム、終わりました……」

 

 スバルがSRTの先生に報告をした。

 彼は淡々と、全員分の結果をクリップボードに書き込んでいる。

 

 アリウスの生徒達は、砂埃だらけだった。

 高所から落ちたり銃撃を受けた生徒も居たが、そのくらいでキヴォトスの生徒はへこたれたりしない。ましてや、アリウスの生徒達ならなおさらだった。

 

「では、結果を発表する」

 

 彼の言葉に、生徒達は緊張に包まれた。

 

「悪かった」

 

 彼はそう言った。

 

「どういう意味でしょうか?」

「ついいつもの調子でやっちまったってことだ。

 ましてや、……やる気のない奴らにな」

 

 彼は、アリウスの生徒達を端から端まで見てそう言った。

 

「厳しい訓練を課すのが俺の仕事でな。

 ペナルティは無しだ、友好の為に来てるお前達がどれくらいなのか試したくなっただけなんだ。今日はここで終わりにしよう。解散だ解散だ」

 

 そう言って、手を叩いた。困惑する、アリウスの生徒達。

 そして彼は振り返り、去り際にぼそりとこう言った。

 

「ま、所詮トリニティからあぶれた分校風情の生徒だしな」

 

 

「ちょっと待ってください。聞き捨てなりません」

 

 スバルの声に、男は足を止めた。

 

「我々が、トリニティに劣ると。そう言ったのですか?」

「そうだ」

 

 彼はクルリと彼女達の方を見て、そう言った。

 

「お前達は所詮、負け犬の学校の生徒。

 今の体力テストを見てすぐわかった。ただ言われた通り我慢して最後までやった。ただそれだけだ」

 

 総勢百人の怒気に近い視線を受けて、その男は挑発を繰り返す。

 

「お前らを見ていると、敗戦寸前の弱小国のゲリラ部隊を思い出す。

 知ってるか、ゲリラってのは勝つのが目的じゃない。出来るだけ相手に損害を与えるだけで、最終的に全滅するまで戦う。負け犬そのものだ!!

 連中はそれを気高さだの誇りだののたまいやがる。お前達はどうなんだ?」

「私達は貧しさや惨めさに耐え、虚しさを受け入れここに居ます。

 それは能天気なトリニティに劣るものだと、とても思えません」

「虚しさ、虚しさか、あはははは!!」

 

 そんなスバルの血を吐くような言葉を、SRTの先生は笑い飛ばした。

 

「訂正するよ、敗戦寸前の弱小国のゲリラってのは間違いだった。

 お前らはイカレた宗教国家の、使い捨ての自爆テロの駒と同じだ!!」

 

 彼は彼女達を、嘲笑っていた。

 

「俺に言わせればお前らなど、兵士ですらない。憐れで、下等な、意思の無い肉人形だ!! まさか少年兵以下とは思いもよらなかったぞ!!」

「黙れ、貴方に何がわかる!!」

「だから言っただろ、一目で分かったって」

 

 なら証明しようか、と彼は優しく言った。

 

「そろそろ時間だな」

 

 彼は袖をまくり、腕時計を確かめた。

 

 そんな時だった。

 

「シャーレの先生!!」

 

 彼女らを見守っていたシャーレの先生は、聞いたことのある声に振り返った。

 

「“その声は、ハスミ!!”」

 

 そこには、ハスミの率いる正義実現委員会の小隊がそこに居た。

 

「はい、実は今日、アリウスの生徒達との親善合同演習を行うと聞いていたのですが、やはりこの場所で合っているようですね」

 

 シャーレの先生は、そんな話まったく聞いていなかった。

 そして、正義実現委員会も暇ではない。昨日今日で決まった話ではないと、彼は察した。

 それこそ、アビドスの先生や山海経の先生が来る前から。

 

 

「あそこに正義実現委員会がいる。お前達の敵がそこに居る」

 

 SRTの先生は、アリウスの生徒達を煽る。

 

「どちらが優れているか、ハッキリしたいと思わないか?」

「望むところです!!」

 

 そうして、お互いに同数での試合が決まった。

 

 

「ルールは単純だ、同じ人数で全員の半数が撃破判定が出るか、相手の指揮官を確保したら終了だ。指揮官に攻撃は無しな。

 正義実現委員会はシャーレの先生が指揮するとして、アリウスの連中はゲヘナの先生に任せても良いか?」

「“わかりました”」

「……俺は構わないぜ」

 

 そして、お互いに子供たちの指揮官に、大人を据える。

 子供たちの地力を計るのに、大人の存在は不要の筈だとゲヘナの先生は思ったが、口には出さなかった。

 

「ゲヘナの先生。我々は我々だけで戦えます。具体的な指揮など不要です」

 

 怒りを露わにしているスバルは、そう主張した。

 

「そうか。じゃあお前たちの実力を見せてくれ。俺は後ろで煙草でも吸ってる」

 

 ゲヘナの先生はそう言って煙草を取り出した。

 そして思った。惨いことをする、と。

 

 合同演習は、ハスミが連れて来た一個小隊50人と同数がアリウスの生徒から選出された。彼女らのほぼ半数である。

 

「それでは、いい試合をしましょう」

 

 笑顔のハスミが握手を示すと、スバルは形式的に握手を返した。

 

「“それじゃあ、お互いに怪我をしないようにしようね!!”」

 

 シャーレの先生がそう言って、正義実現委員会の後方へ移動した。

 

「それでは、よーい、始め!!」

 

 アビドスの先生が、空砲を鳴らした。

 直後、双方から銃声が鳴った。

 

 

 前衛は障害物に隠れ、お互いに撃ち合いを始めた。

 演習開始と同時に、アリウス側は左右に部隊を展開。強襲作戦を敢行。

 対して、正義実現委員会側は守りを重視した陣形を形成。

 

「“左右の部隊は囮だよ。彼女達は自分たちの実力を信じてるからね、必ず正面突破をしてくる”」

「わかりました、先生」

 

 シャーレの先生の助言を受け、ハスミも部隊を動かす。

 左右の部隊に戦力を割き、あえて正面を薄くした。

 

 そして彼の言う通り、アリウス側は半数の部隊を動かし、正面から攻撃を仕掛けて来た。

 

「“ハスミ、狙撃をお願い。ターゲットはあの子と、あの子、そしてあの子だ”」

「了解です、先生」

 

 シャーレの先生は、ガスマスクを被っているのにアリウスの部隊長を正確に見分けて狙撃をハスミに指示した。

 

 そして彼女は、それを忠実に実行した。

 

 たった三発の銃撃。それだけで勝敗は決した。

 

 

「……」

 

 その光景を、ゲヘナの先生は後ろから見ていた。

 スバルを始めとしたアリウス側のリーダー格の年長者を正確に無力化された。

 

 それにアリウス側の生徒は動揺し、混乱した。

 そして彼女達が出来たのは、半狂乱になって抵抗をするだけだった。

 

 SRTの先生が言った通りの、相手に損害を与える為だけの自暴自棄の攻撃だった。

 彼女たちの過酷な訓練の成果など、まるで意味を為さなかった。

 

 そうして、アリウスの生徒達は掃討され、全滅し敗北した。

 

 

「総員、戦闘止め!! 負傷者の救護を始めなさい!!」

 

 ハスミの指示で、正義実現委員会の面々は戦闘を中断、包帯や消毒液を取り出して手あたり次第救護を始めた。

 

「これが現実だよ、お前ら」

 

 そうして呻くことしか出来ないアリウスの生徒達に、SRTの先生はそんな言葉を投げかけた。

 

「ゲヘナの先生、あんたはこいつらの敗因をどう分析する?」

「……まず前提として、個々の能力はアリウスの生徒達が上だった」

 

 それは正面突破を容易く成功させたことから明白だと、彼は語った。

 

「シャーレの先生って相手が悪かったのを除けば、教本通りの戦術と言うか、負け戦のやり方を分かってないと言うのもあるが」

 

 ゲヘナの先生は、彼らの敗因を言語化した。

 

「部隊同士に、お互いに信頼関係が無いな。

 チーム内での結束は高いが、それだけだ。それを全体で共有出来てない」

 

 それは当然だった、彼女達はSRTの先生の言う通り、使い捨ての捨て駒なのだから。

 

「所詮お前達は、嫌々戦ってるだけの弱卒というわけだ。

 そして、お前達は言ったな、虚しさを受け入れたと」

 

 慌てて手当てを手伝いに入っているアビドスの先生や、演習に参加できなかったアリウスの生徒達が、その男を見上げた。

 

「その通りだ。お前達は無価値だ。何の意味も無い存在だ。お前達の訓練と同じように、何の存在意義も無い。トリニティの歴史の搾りカスだ!!」

 

 その言葉に、試合をしていたハスミやシャーレの先生が声を挙げようとした。

 それを、山海経の先生が手で制した。

 

「だが、この世に価値のある人間なんてどれだけ居る?」

 

 まるで演説のように、昼前の太陽を背にSRTの先生は問うた。

 

「俺ならお前達に価値を与えられる。意義のある戦いと、意味を与えらえる」

 

 その光景を見ていたゲヘナの先生は、えげつねぇな、と思った。

 だが、何も言わなかった。彼は彼女達に、一番必要なモノを与えようとしていたからだ。

 例えこの手法が洗脳、マインドコントロールの一種だとしても。

 

「俺はお前達を犬畜生から、人間にしてやれる」

 

 誰もが彼の言葉を聞いていた。

 

「誰からも蔑まれず、後ろ指を指されず、太陽の下で堂々と生きれるようにしてやれる」

 

 アリウスの生徒達が必要としているモノ。

 

「お前達に、尊厳を与えてやる」

 

 男は、彼女達にそう言ったのだ。

 

 

 

 

 

 





ちなみに、アリウスの生徒の入浴で風呂が汚れた描写は天人五衰を表現しています。
今は憐れまれている彼女達がテロを行えば、それは天界の住人(憐みの対象)ではいられない、ということですね。
なぜならそれは原作でもスバルが言っていたように、そういう積み重ねなのですから。

あなたはどの先生に勉強などを教わりたいですか?

  • トリニティの先生
  • ゲヘナの先生
  • ミレニアムの先生
  • アビドスの先生
  • 百鬼夜行の先生
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。