キヴォトス、先生大量発生中!?   作:ユメ先生

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ゲヘナの先生:堪忍袋の限界

 

 

 

 ゲヘナ学園、校門前。

 

「アテンションプリーズ!! ようこそ、アリウスの皆さん!!

 ここがトリニティなんかよりも歴史あるゲヘナ学園の本校舎でーす!!」

 

 校門の前で、両手を広げるゲヘナの先生。

 とは言え登校時間はとっくに過ぎてるので、グラウンドを利用している生徒がなんだなんだと見ているくらいだ。

 

 ただ、アリウスの生徒達はゲヘナの先生を恨めし気に見ていた。

 

「あ、アリウスの皆じゃん!!」

 

 その時である、校舎からゲヘナのギャル達が窓を開けて顔を出し、手を振り始めた。

 

「ホントに来てくれたん? マジ嬉しいんだけど!!」

「これから歓迎会しようよ!! それならうちらが敵じゃないってわかるくね?」

「それな!!」

 

 ギャル達は楽しそうにそんなことを言っているが。

 

「なにが敵じゃない、だ!!」

「ここに来るまで五回も襲われたんだけど!!」

「よりにもよってトリニティに間違われてだ!!」

「こっちは誘拐されかけたんだぞ!!」

 

 アリウスの生徒達はぎゃーぎゃー不満を爆発させた。

 だが、そんなのはゲヘナでは挨拶代わりにもなりはしない。

 

「せんせーい!! 歓迎会やろうよ!!」

「放課後にしろ、バカ共が!! 授業中だろうが!!

 こっちは授業で来てんの!! 怒るぞ!!」

 

 はーい、とゲヘナの先生が怒鳴ると、ギャル達は窓を閉めて授業に戻った。

 

「んじゃ、お前たちにはゲヘナの洗礼を受けて貰おうか」

 

 彼はニヤリと笑う。

 アリウスの生徒達は猛烈にイヤな予感がするのだった。

 

 

「A班はニンジンの皮を剝いて、いちょう切りに!! あまり厚く切らないで!!

 B班は大根の皮むきして同じくいちょう切り、厚めに切って。大雑把でも食べ応えがあっていいからスピード重視で!!」

 

 ゲヘナの食堂に到着した彼女達は、フウカへの挨拶もそこそこに彼女の指示に従い始めた。

 食堂の調理場は、戦場だった。

 

 今日の昼間は豚汁定食の予定である。

 彼女らはその膨大な量の野菜に、お肉。その下ごしらえを任されたのだ。

 

「うん、使えるわね!! 今日は一品増やせそうだわ!!」

 

 とりあえず最低限の作業は出来ると作業に従事するアリウス生たちを見て回り、フウカは満足げに頷く。

 

「もう一時間も野菜切ってる……腕が痛い」

「泣き言を言うなよ、まだ三分の一だぞ」

「どれだけゲヘナの生徒が居るっていうのよ……」

 

 アリウスの生徒達は野菜の山と格闘している。

 

「すごい、フウカさん、私達十人分ぐらいの調理をしてる……」

「ほぼ数人で毎日切り盛りしてるって本当なんだ……」

「私達も力にならないと!!」

 

 猛烈な勢いで切ったり焼いたり煮たりを繰り返すフウカに、彼女達も戦慄している。

 

 そして、お昼。本当の地獄の幕開けだった。

 

「日替わり定食みっつ追加!!」

「追加で五つです!!」

「更に追加で十五ッ!!」

「追加……ああもう、とにかく作り続けてください!!」

 

 終わらない。終わらない。ゲヘナの生徒の列。

 どれだけ捌いても、次から次へと生徒が湧いて出てくる無限地獄。

 

 ゲヘナの給食部はその名の通り、貧困生徒の救済措置の側面があり、格安でランチが提供される。

 儲けの為にやっているわけでは無いので常に予算はカツカツ。

 毎年入部する生徒も居るが、その過酷さからすぐに辞めて行くのが恒例だった。

 

 それどころか。

 

「おい、今私の尻尾踏んだよね!!」

「だから、謝ったじゃん!!」

「誠意を感じないっつってんの!!」

「なに、やるって言うの!!」

「いい度胸じゃん!!」

 

 喧嘩やその結果として銃撃戦など日常茶飯事だった。

 だが、その日は違った。

 

 ざっざっざ、とアリウスの生徒達が血走った目で喧嘩をしているゲヘナ生たちを取り囲んだ。

 

「な、なに、あなた達!!」

「ここは食堂だよ。喧嘩するなら出て行って」

「私達の作った料理に火薬残渣がはいるじゃないか……」

「食べないならそのお盆、他の子に回してよ……」

 

 まるでゾンビのような形相のアリウス生達に、四方八方から銃口を突き付けられ、ゲヘナ生たちは渋々引き下がった。

 

 それを見ていたフウカは、修繕費が浮いた、とほろりと涙を流した。

 壁や天井に穴が開くだけならまだマシで、流れ弾が厨房の設備や料理の入った鍋に当たったら次の日のメニューの質が下がる。

 フウカたち給食部にとっては切実な問題なのだ。

 

 この時間帯になると料理は盛り付けるだけになり、アリウス生たちはホールの方に睨みを利かせるようになった。

 ゲヘナ生たちも今日の食堂の異様な雰囲気に、珍しく大人しく昼食を取った。

 やがて、昼間のピークは終わり、デスマーチは終わった。

 

「ありがとう、みんな。こんなに早く終わったのは初めてよ。賄いを作るから交代で休憩していいわ」

 

 そんなフウカの言葉に、アリウス生たちはへなへなと半ば力尽きた。

 

「自治区でのどんな訓練よりキツかった……」

「大人になると、これが毎日……? やっぱり人生は虚しいんだ……」

 

 だが、彼女達は知らなかった。

 この後、うっかりジュリが賄い料理に手を加えてしまい、──料理がモンスターと化して暴れ出してしまうことに。

 

 

 

 

 一方で、ゲヘナの先生は生徒会室に呼び出されていた。

 

「おーい、なんだよ。俺まだ仕事中なんだけど」

 

 彼は自分の雇い主に呼び出されたとは思えない態度で、開口一番そう言った。

 

「先生、お呼びだてしてすみません」

「報告が欲しいならあとでちゃんと書面で送るからよ」

「いや、その」

 

 入り口で先生を出迎えたイロハは、ぎこちなく振り返った。

 

「キキキ、先生よ。よくやった」

「はあ……どうも」

 

 マコトは上座でふんぞり返ってそう言った。

 先生は中身のない首肯を返した。

 

「それで、いつトリニティを攻撃するのだ?」

「はい?」

「キキキ、隠すことは無い!! 先生もトリニティを潰す為にアリウスと手を組んだのだろう?」

 

 それは盛大な勘違いだったが、マコトの視点からすれば無理筋でもない話だった。

 

「シャーレの先生の副担任としてトリニティの内部に潜り込み、アリウスの生徒達と接触して訓練を施し、アリウス自治区の生徒と共に蜂起を待っていたわけだ。

 このマコト様も密かにアリウスを支援していた!! 敵の敵は味方という奴だ!!」

「……なるほど」

 

 先生は顎に手を当て、頷いた。

 

「アリウス“自治区”はトリニティで蜂起を狙っている、と。

 いや初耳でしたなぁ(大嘘)」

「おや、聞かされてなかったのか?

 まあ情報を段階的にするのは当然の事だ。とにかく、事を為せばトリニティだけでなく風紀委員会もまとめて始末できる!!

 その時は共に祝杯を交わそうではないか!!」

 

 そんな未来を想像しマコトは高笑いをあげた。

 だから彼女は気づかなかった。

 

 生徒会室の空気が氷点下、いや絶対零度まで凍り付いていたことに。

 その場に集まって仕事をしていた生徒会の役員たちは、みな怯えるように先生を見ていた。

 

「せ、先生。今のは、マコト先輩の妄言でして──」

「いや。もう我慢の限界だ」

 

 震え声のイロハのフォローを、先生は拒絶した。

 終わった、と彼女は思った。

 

「百歩譲って、トリニティと戦うってのは良いだろう。お前らの外交ごっこに口出しはしねぇよ。好きなだけ喧嘩しな。それだけなら一線を超えない限りはフォローしてやるよ。俺はゲヘナの先生だからな。

 ──だが、風紀委員会を始末するってのはどういう了見だ?」

 

 その言葉で、ようやく大口を開けて笑っていたマコトは自分たちの先生を見据えた。

 

「言葉通りの意味だが?」

「お前は生徒会長で、風紀委員会は我が校の生徒だろうが。

 お前は望んでその地位に就いた。お前はあいつらを守る立場じゃないのか?」

「キキキ、ああ守るとも。風紀委員会の連中以外はな!!」

 

 普段生徒に責任だの何だのを求めない先生が、それを問うた。

 生徒会長の仕事は学園と生徒を守ること。自らの自由意思でその席に座ることの意義を問うたのだ。

 それが事実上の最後通牒だった。

 

 先生は周囲の役員たちを見渡した。

 

「お前らもそれに賛同しているってことでいいのか?」

「え、それは、その……私はそう言うのはよくないって言ったんですけど……」

「私は催眠で何とかしようって……」

 

 チアキもサツキも目が泳いでいる。曖昧な返事しか出来ていなかった。他の役員たちもそうだった。

 

「先生!! マコト先輩はその、サツキ先輩の催眠でちょっとおかしくなるんです!!

 普段なら風紀委員会以外の事でならそこまでトチ狂ったことは言わないんです!!」

「おいイロハ、それどういう意味だ!!」

 

 イロハは先生の前に出て、必死に訴え出ていた。

 健気にも先輩を守ろうとしていたが、当人にはその意思は微塵も伝わっていなかった。

 

「イロハ。俺が一番嫌いな奴を教えてやる。

 それは、頑張って努力している奴を笑って踏みにじる奴だ」

 

 室内の皆が、マコトの方を見た。

 キキキ、と彼女は笑った。

 

「先生、あくまでも風紀委員会の肩を持つのか?」

「お前には肩を持つとか持たないとかって話に聞こえるのか? 俺はお前らの政治ごっこには興味なんて無い」

「ほう?」

「だが、先生として学内の“イジメ”を見過ごすわけにはいかない」

 

 うぐ、と直接イジメと言われて若干良心が痛んだマコトだった。

 

「キキキ、先生。まだ自分の立場が分かっていないようだな……。

 我々が貴様を解雇すれば、お前は先生ではなくなる」

「“我々”って一括りにしないでください、お願いですから」

「何を怯えているイロハ!! さあ、先生、貴様はクビだもうどこにでも行くがいい!!」

「わかった。辞めてやるよ」

 

 青ざめた表情のイロハは、先生の、いや先生だった男に向けられた。

 その彼は、おもむろにスマホを取り出し、電話を掛けた。

 

「ああ、アコ。俺だ俺。ゲヘナの先生クビになったわ。

 ああ、そうそう。じゃ、契約成立な。書面は後から送るわ。あれ持ってきておいてくれ」

 

 彼はスマホの画面をタップし、通話を切った。

 

「んじゃ、今日からゲヘナの先生改め、風紀委員会の先生ってことで皆さんよろしくな!!」

 

 そして、マコトは己の失策を悟った。イロハが目も当てられないと言わんばかりに顔を覆った。

 

「……なるほど、正式に我々の敵になるということか」

「俺は何にも変わらないぜ、マコト議長」

「ふん」

 

 マコトはテーブルの下のボタンを押した。

 ブザーが鳴り、万魔殿の部隊長クラスの生徒が何人も押しかけて来た。

 

「議長、緊急ブザーとは何事でしょうか!!」

「その男をつまみ出せ。この場にはふさわしくない者だ」

 

 マコトがそう言うと、部隊長たちは先生の方を向いた。

 

「なんだ、先生じゃないですか。びっくりさせないでくださいよ」

「よッ、奨学金の申請通ったか?」

「はい、お蔭さまで。その節ではありがとうございました、先生」

「議長。悪ふざけはやめてくださいよ、まったく」

「悪いなお前ら。戻っていいぞ」

 

 先生が彼女達にそう言うと、部隊長達は何の疑問も無く去って行った。

 いつの間に、と彼女達が懐柔されていた事実に戦慄するイロハ達。

 

「……」

「さて、と。では風紀委員会の先生として仕事をさせてもらおうか。

 俺は常々生徒会の業務遂行能力に疑問を持っていてな」

 

 唖然としているマコトを他所に、風紀委員会の先生はつらつらと話し出した。

 

「失礼します」

 

 すると、風紀委員会の生徒達が抱えるほどの大量の書類を持って現れた。

 

「これ、明日までに決済してくれ。

 お前達に業務遂行能力があるなら可能だよな?」

 

 どん、どん、と彼女達はテーブルの上に書類を置いた。

 イロハはその一番上の書類を手に取った。

 

「『ティーパーティーとの会合に際して、ここ百年以内の紅茶の濃度と砂糖の割合について』……?」

「おう、今度必要なんだ。やってくれるよな?」

 

 それは、明確に万魔殿が風紀委員会にやっていた嫌がらせの意趣返しに他ならなかった。

 

「ふ、不可能です!! 明日が期限なんて!!」

「出来ない!? マコト議長、それはあんたの判断なのか!?」

「ふ、ふざけるな!! なぜ我々がそんなことをしなければならない!!」

「あ、バカッ」

「では我々風紀委員会は、万魔殿の業務遂行能力が無いと判断せざるを得ないな」

 

 おい、と先生は風紀委員会の生徒に目配せした。

 はい、と彼女達は頷いた。

 

 すると、ぞろぞろと風紀委員会の生徒達が生徒会室に入って来た。

 

「お前ら、こいつらに相応しい仕事をくれてやれ。

 現状が打開されるまで生徒会の権限を縮小し、風紀委員会が業務を代行する」

 

 それは、完全にクーデターそのものだった。

 

「は、計ったな、先生!!」

「連れていけ」

 

 生徒会のメンバー達は、風紀委員会に連行されていった。

 後から、アコが疲れたような表情で現れた。

 

「よくも我々の仕事を増やしてくれましたね。ヒナ委員長が帰ってきたら怒りますよ」

「しゃーねーだろ。あんなの見過ごして堪るかってんだ」

「……まあ、そこだけは感謝してますよ」

 

 それを見て、先生は驚いた表情になった。

 

「あのアコがデレた!?」

「先生は私を何だと思ってるんですか!!」

 

 その後、急いで帰還したヒナは事情を聴き、全てを諦めた表情で議長代行に収まった。

 彼女は風紀委員会の監査役にイブキを指名し、風紀委員会の先生は改めてゲヘナの先生として再雇用をされた。

 

 そして、追い出された方はというと。

 

「ここが今日からお前たちの仕事場だ」

 

 古びた埃だらけの倉庫の扉に、紙で『生徒会室』と張られただけの一室に押し込まれた。

 

「先生は今後の生徒会の仕事は、トイレ掃除に専念するように仰せだ」

「なんで、私達まで……」

「先生は、見て見ぬ振りをしてた連中も同罪だ、だそうで」

 

 風紀委員のその言葉に、イロハは力無く肩を落とした。

 

「く、覚えていろよ、先生……。必ず風紀委員会から生徒会室を取り戻してやる!!」

「……」

 

 イロハは胡乱気にそんなことを言い出すマコトを見やると、思いっきり叩き始めた。

 

「痛ッ、な、何をするイロハ、や、やめろぉ!! 先輩に手を挙げるとは何事だぁ!!」

「イロハちゃん落ち着いてッ!!」

「そうそう、暴力はダメよ!!」

 

 そんな役員たちをよそに、肩を落とした他の生徒会の面々は倉庫の中身を運び出し始めていた。

 

 そんな騒動が起こっても、ゲヘナ学園という巨大な坩堝はいつもと何にも変わりなく、そこに在った。

 

 

 

 夕方。アリウスの生徒達が疲れ切った表情で帰路についていた。

 食堂での後片付けが終わった後、フウカにまた来てね、と手を握られて仕事が終わり、それを聞きつけたゲヘナのギャル軍団に自治区を連れまわされたのだ。

 

「……なんで、私達ってあんな連中を憎んでたんだろう」

 

 そう零したのは誰だったか。

 

「マダムに言われたからでしょ。ほんと、馬鹿らしい」

「でもさ」

 

 あるアリウスの生徒はこう言った。

 

「ゲヘナの連中だけだったよね。私達を対等に見てくれてたの」

「……そうだね」

 

 トリニティの生徒も、先生達でさえ、アリウスの生徒達を憐れんでいた。

 ゲヘナの生徒達には、それが無かった。何も偏見もしがらみも無かったのだ。

 

 バカで、何も考えてなくて、騒々しいけど。

 それでも、友達になれたのだ。

 

 彼女達はゲヘナの校門を振り返る。

 ゲヘナの生徒達が大勢、笑顔で手を振っていた。

 

「戻ろう」

「うん」

 

 アリウスの生徒達は新しい思い出を胸に、合宿場へと帰るのだった。

 

 

 

 

 

 




よし、何とか書けました!! 前回の感想、みんなタマちゃんのことしか言って無くて草。まあ性悪爺さんの昔話なんてどうでも良いですもんね!!(ゲヘナ先生並感
ちょっと用事がありますので、前回の感想の返信は明日になります。ご了承ください。

次回は、いよいよ先生達の計画が明かされる、予定!!
それではまた!!

あなたはどの先生に勉強などを教わりたいですか?

  • トリニティの先生
  • ゲヘナの先生
  • ミレニアムの先生
  • アビドスの先生
  • 百鬼夜行の先生
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