キヴォトス、先生大量発生中!? 作:ユメ先生
作戦決行、一時間前。
シャーレの多目的ホール。
そこは記者会見の会場になっており、先生達が連邦生徒会を伴って会見を開くと言うことでクロノスの報道部の記者たちが忙しなく準備を行っていた。
「あと15分だよ!! 音声テストは済んだのッ!?」
会見場の後方から、クロノス先生の鋭い声が鼓膜を刺した。手元のバインダーで仕切りに手を叩きながら、彼女は血走った目で会場を睨みつけている。
「各局のマイク、集音レベル確認して! 幹事社……いえ幹事学校は我々なのよ、マイクがさっきから少しこもってる!! 調整、早く!!」
「すみません、すぐに調整します!」
飛び交う生徒たちの声に、クロノスの先生は壇上へ移動し、全体を見渡す。
「そこのパイプ椅子!! 5センチ右にズラして。登壇者が頭を下げたとき、背景の連邦生徒会とシャーレのロゴが綺麗に見えるように。それから、机の上の水ボトルのラベルを剥がし忘れてるわ。カメラのフラッシュを浴びたら、ラベルの文字がハレーションを起こして台無しになる。一瞬でも『余計な情報』を映しちゃダメだからね!!」
「「「はい、先生!!」」」
クロノスはキヴォトスにおける報道を一手に担う学校であるが、言わばこれは国営放送のようなもの。
所謂民放にあたる、大人たちのメディアの記者たちも少なからず参加していた。
「見ろ、クロノスの先生が陣頭指揮を取ってる。普段は生徒任せなのに、気合入ってるな」
「あれくらいは教育の範疇なんだろうさ。
クロノスの報道なんて子供のお遊びだったが、あの人が来てから業界の空気が引き締まった気がするよ」
「ああ、そうだな。我が社も負けていられない」
パイプ椅子に座って記者会見を待っている犬と猫の市民の記者が、そんな会話を交わした。
「暢気だね、おたくらは。
今日のメインイベントはクロノスが独占なんだろ?」
「ああ、トリニティの先生とゲヘナの先生の決闘だろ?」
「そう腐るなよ、あれはクロノスの“仕込み”だって聞いたぞ」
「じゃあ、今回もか?」
口を挟んできたロボットの市民の記者が、顔面のモニターに顔を顰めるような顔文字を表示した。
「向こうの担当の話じゃ、正義実現委員会と万魔殿の部隊を引き連れて対峙してるって話だよ」
「なんだそれ、戦争でもするってのか!?」
「あの先生達がか? 子供を巻き込んでまで大人の面子を賭けるとは思えないが……」
「だが、被害を気にしてなきゃ、ブラックマーケット近郊に集結したりはしないだろ」
「そう言えば、昨日ゲヘナの風紀委員会がブラックマーケットに逃亡した不良生徒を確保する為に部隊を派遣するってリークが……」
記者たちは何かを察して、黙り込んだ。
「もしかして、この記者会見もそれに関することじゃ」
「ありうるな」
犬の市民の記者は腕を組んで頷いた。
「いずれにせよ、今日事態が動くのは間違いないだろうな」
大人の記者たちは、何か大きなことが起こる予感がしていた。
一方、現時刻。ブラックマーケット近郊。
そこにはトリニティの先生とゲヘナの先生がお互いの武力組織の生徒達を引き連れ、対峙していた。
生徒達は完全武装であり、その物々しさはこれから武力衝突が行われることを如実に想像させる光景だった。
遠巻きに大勢の野次馬、不良達が一触即発の光景を眺めていた。
そして、マーケットガードの部隊がブラックマーケットの入り口を固め、牽制するように武装を向けている。
戦車の砲塔や装甲車の銃座を向け、迫撃砲まで用意し、市場を荒されまいと敵意を剥き出しだった。
そんなキヴォトスの住人ですら緊張する現場に、赴く者がいた。
シノン達クロノス報道部の取材班だった。
「えー、ゲヘナの先生、本日の決闘の意気込みについてどうぞ……」
この光景にはシノンですらドン引きだった。
本気で戦争する気じゃん、とすら思っていた。
「今日は万魔殿の部隊を連れて来た。
俺とトリニティの先生は、用兵術……つまり生徒達の指揮によって優劣を決めることになった」
「えーとその、それはつまり、エデン条約をゲヘナ側に有利に進める為の前哨戦ってことでしょうか?」
「そんな政治的な意図はない」
ゲヘナの先生は真っ直ぐと数十メートル先のトリニティの先生を見ながらそうインタビューに答えた。
いや無理があるでしょ、とシノンはツッコみたかったが、そんなことをすれば後で自分たちの先生に叱られると、ツッコミを飲み込んだ。
「えーとぉ。トリニティの先生、今回の決闘についての意気込みをどうぞ……」
「悪いね。番組を盛り上げる気の利いた言葉を言える気分ではないのだよ」
「アッハイ。失礼しました……」
シノン達はすごすごと引き下がった。
ただ、正義実現委員会の生徒達は不安そうにしていたのを彼女は見て取った。
本当に戦うのか、と。
「先生、本当にトリニティと戦うのですね?」
「見てわかんねぇのか?」
対して、ゲヘナ側の部隊長たちの士気は高かった。
「失礼しました。御命令があれば、いつでも攻撃をします」
「まだ待て。決闘の開始まで時間がある。
まさか勇み足で攻撃するバカはお前らにいねぇよな?」
「当然です!!」
ゲヘナの先生の言葉に、部隊長たちは敬礼を返す。
「知ってるか? 万魔殿の部隊は式典ぐらいでしか存在感が無いから、儀仗兵だってトリニティには思われてるらしいぜ」
彼の発言に、彼女達は顔をこわばらせ、手を握り締めた。
儀仗兵とは儀式や護衛を専門とする兵科。つまり実戦経験のない、お飾りの部隊だとバカにしているのだ。
「昔からの、トリニティの連中の我々に対する常套句です」
「先生!! ゲヘナは風紀委員会だけではないと、証明してみせましょう!!」
「勝利を、議長達と先生に捧げます!!」
「おう、頼むぜ」
ゲヘナの先生は、腕時計を確かめながら、昨日のことを思い返していた。
「イロハ、明日の決闘にちょっとお前らの部隊借りるな」
「急に何言ってるんですか?」
作業着で髪をまとめてトイレでモップ掛けをしていたイロハは、突然現れてそんなことを言い出した自分達にそう返した。
「お前達、何をしている!! 窓際の雑巾がけが甘いぞ!!」
「あ、本当ですね!!」
「よし、最終確認は終えたな、次はあちらだな!!」
すると、マコトを始めとした議員の面々が作業着姿でトイレから出て来た。
いっそ清々しいほど、クッソ馴染んでいた。
「キキキ、いずれ生徒会室を取り戻した時は美化委員会に予算を増やしてやろう。このマコト様が直々に掃除したトイレが汚れたままなのは気に食わんからな!!」
「あら、マコトちゃん、先生が来てるわよ」
「なに!?」
余裕のある作りのはずの作業着を虐待しているサツキが、先生に気づいた。
「せ、先生、いったい何の用だ……!!」
「意外だな。お前達がちゃんとトイレ掃除をしてるなんてな」
ファイティングポーズをするマコトに、ゲヘナの先生は予想外な珍獣に遭遇したような目でそう言った。
「キキキ、今は雌伏の時なのだ。後で目にモノをみせてくれる、覚悟しておくことだな!!」
「それはそうと、お前らの部隊借りてくからな。あとで書類送るわ」
「おい、無視するな!!」
「ちょっと待ってください、いったい何をする気ですか?」
いくら万魔殿の業務が縮小中とは言え、彼女らの部隊の所属までは変わらない。
彼女らの普段の仕事はもっぱら訓練か、学校周辺の治安維持。
当初、議長代理を務める羽目になったヒナに従わない姿勢を見せたが、かといって内戦をするほどでもなく、ゲヘナの先生が取り成して現在は風紀委員会の業務の一部を代行している。
「トリニティの先生との決闘に使う。偶にはあいつらにも見せ場は必要だろ? あ、イロハ、お前は来なくていいぜ。戦車は使う予定はないからな」
そしてイロハは戦車隊の部隊長を務めているので、彼はそう断った。
「トリニティと全面衝突……」
「お前らじゃあるまいし、そんなガキみたいなことしねぇよ!!」
顔を青くしているイロハの言葉を、先生は笑い飛ばした。
「ああ、そうだ。ヒナはお前らとの落としどころを模索してる最中だ。
お前らが大人しくしてるなら、ほとぼりが冷めた頃に権限を戻してやるそうだ」
「グギギギ、ヒナめ……」
「ほーん、まだ反省はしてない、と」
屈辱を感じているらしいマコトを、先生は目を細めて見ていた。
「トイレ掃除の次は風紀委員会の下っ端ってのはどうだ?
アコにアゴで使われるってな、くははは!!」
生徒達は笑わなかった。目の前の男の目がちっとも笑ってなかったからだ。
「……嫌か?」
「先生!! マコト先輩含め、調子に乗って風紀委員会に嫌がらせをしていた五名の議員は判明しています。我々は関係ありません」
「なぁッ!? イロハお前!!」
「ダメだ。シャーレの先生にお前達をたっぷり叱っておくって約束しちまったからな」
がくりと肩を落とすイロハ。後ろで聞いていたチアキとサツキはまた怒られると涙目になっていた。
「お前らが反省しないなら俺にも考えがある、それは覚えておけよ」
「……先生、あなたは私達の政治に距離を置くスタンスではなかったのですか?」
当分シャーレにサボりにいけそうにないとわかってしなしなになっているイロハがそう問うた。
「イロハよ、ここはどこだ?」
「……ゲヘナですが」
「そうだ、ゲヘナ学園だ。つまり、学校ってわけだ。
お前、学校で政治といじめ問題の解決。どっちが大事だと思う?」
ゲヘナの先生にとって、生徒会の活動など単なる生徒達の活動に過ぎなかった。
逆に言えば、いじめ問題はそんなモノに比べれば学習を阻害する重大問題と位置付けていた。
「政治の大好きなトリニティの先生が仰ってたぞ。
生徒会の派閥による政治活動は、将来に向けての“練習”に過ぎない、とな。つまり、お前ら子供の政治とやらは、失敗してもいい“ごっこ遊び”なんだよ。連邦生徒会の連中もそうだ。だから俺達先生はあんな問題だらけなのに何も口を挟まねぇんだ。生徒達の自主性って奴だ。
では問題だ。お前らのくだらないごっこ遊びと、いじめの解決、どっちが大事だ」
ゲヘナの先生は、別に生徒会の活動を見下しているのではない。
“ごっこ遊び”で誰かが傷つくのが馬鹿げていると言っているのだ。
誰かが傷ついた時点で、それは健全ではないと考えていた。
「ですが、このままではいずれ、風紀委員会に限界が訪れます」
「だろうな」
「この状態が続けば、ゲヘナは崩壊します」
「滅びればいいだろ。いじめを良しとする学校なんざ。な? 生徒会ぐるみでいじめを黙認してたもんな」
ゲヘナの先生は本気だった。本気で怒っていて、本気で彼女達を諭していた。
「いっそのこと、一回潰して新生ゲヘナ学園って形でやり直した方がいいんじゃねえのか?
学籍だけ持って授業にも来ない生徒を整理してよ、ちゃんと学校に来る生徒だけがうちの生徒だってな」
「先生、それは!!」
彼の言っていることは正論だが、暴論にも近かった。
それは、選別に他ならなかった。一度学籍をリセットして、意欲があるものだけを“生徒”とする。
──魔王の所業だった。
「……先生。仮に貴様がそれを実行するとして」
「するとして?」
「もしその時は、ヒナの奴は反旗を翻すだろう」
キキキ、とマコトは笑った。
「毎年、年度末になると我が校の高等部三年生に転入届が大量に来る。大抵は非行を繰り返している不良共だが、我が校はそれを受理し、ひと月もせずに、一度も学校に来ずとも卒業証書を発行する。
それでも学費は発生するのだから、大事な収入源だ。
だがそれ以上に、卒業証書とは“大人になる権利”だと我が校は位置付けているわけだ」
「……馬鹿げてやがる」
「だろうな。だがそれがどうした。来る者は拒まず、去る者は追わず。それが我が校だ。卒業した者の質など、ましてやその後がどうなろうと、我が校は知ったことではないのだ」
だが、そんな生徒でさえ、ゲヘナの生徒というだけでヒナは守ろうとするだろう。
「とは言え、我がゲヘナがそう言った最後の砦として機能しているのも事実だ。連邦生徒会の連中が、自治権があるとはいえ治安を改善しないとペナルティを与える等と言えない理由がそれだ。
そして先生、こんな状態を変えようとした奴が、以前にも居た」
「お前の先代か」
「キキキ、そうとも。あの忌々しい麒麟児でさえ、恐怖と圧政で縛るほかなかったのだ」
マコトはこう言っている。お前も同じ末路を辿る、と。
「大人になる権利、か。大人ってのはお前らが想像してるもんじゃないぞ……」
先生は所在なさげに胸元の煙草をまさぐり始め、子供の前だからとそれを止めた。
「大人になるってのはな、独りで海に飛び込むようなもんだ。
行先も目的も決めずに子供のままでいると、ただがむしゃらに泳ぐだけになる。
学校ってのは、その海を泳ぐ術だったり、誰かが保有してる船に乗せてもらえるようにするための場所だ。
俺はただ溺れてくガキを眺めてく趣味はないんだよ」
そこまで言って、何説教してんだ、と彼は思い直した。
「とりあえず、用件は伝えたからな」
彼はそう言って、踵を返した。
「こちら、便利屋。闇市会場を制圧完了よ!!」
アルが無線で報告をした。
報告だけなら簡単だが、彼女のスーツは煤けていて激闘を物語っていた。
「全員、手を挙げて。こっちの指示に従って身分証を提示してよねぇ」
「生徒はあちらに移動してください。大人の方は身分証を提示できない場合、逮捕後の裁判が後回しになりますよ!!」
覆面を被ったホシノとノノミが武装解除されて避難民と化した者達の誘導を始める。
一か所に集められた避難民たちは、ガスマスクをした大勢のアリウス生に囲まれている。
「リーダー、集めた武器はどうする?」
「え、リーダー!? 私ですか!?」
ヒフミはシロコの悪乗りで覆面軍団のリーダーにされかけていた。
「……えーと、とりあえずガソリンを掛けて燃やしましょう」
「了解した、リーダー。あらかじめ弾倉を抜かせておいてよかった」
それにアズサまで乗って、闇市の売り物からガソリン缶を持ち出して、避難民から武装解除して山のように積み上がっている銃火器にぶちまけた。
「あはは!! よく燃えるね!!」
そして、瞬く間に燃え上がる銃器にムツキが歓喜する。
「とりあえず、第一関門は突破ですね。
出来れば“避難民”の皆さんは動けないようにしておきましょう」
「流石にそこまでは人手が足りなすぎるわよ」
ハナコの言葉に、コハルは首を振った。
ヒフミたちは合流した援軍を含めて七十名程度。
闇市の参加者は二千人以上だ。その全員が抵抗したわけでは無いが、武装解除だけで精いっぱいだった。
「そうですね、ですがこれから更に大勢の避難民が駆けつけてきますよ」
「頭が痛くなるわね……でも、やるしかないわ」
コハルは真面目な表情のまま、愛銃のコッキングを行った。
「……そうですね、私達が始めたことですし」
ハナコは僅かに訪れた休息の時間に、昨日のことを思い返す。
「私の妻は色々な意味で魅力的でね、私を飽きさせない女性だった」
「ほう!! それで!?」
「ある時、彼女は私にこう言ったのだ。浮気をしてもいいけど、私にバレないようにしてね、と。
私は悟ったよ、彼女の挑戦だとね」
「なるほど、それがいつもの先生ご夫妻の知恵比べと言うわけですね!!」
放課後、ハナコはトリニティの先生となぜか意気投合していた。
「うむ、私はどこまでが浮気になるか、どの様な手段で探って来るのか、チキンレースを始めたのだ。
勿論、一線を越えるつもりはなかったのだが、ある時週刊誌にそれをすっぱ抜かれてしまってね!!
党には迷惑を掛けてしまったよ!!」
「うふふふ、それはそれは」
老人の笑い話に、ハナコは上品に笑い返した。
「いや、浮気は普通にダメでしょ」
コハルは汚物を見るような目で二人を見ていた。
ただ、トリニティの先生はそれを見て孫に構って貰った祖父みたいに嬉しそうにしていた。
「まあまあ、結局は妻以上の女性など存在しなかったと言う、老人の惚気だよ」
「……」
コハルは唐突にギロチンでも落ちてこないかな、なんて思い始めた。
「先生、もっと具体的な内容について教えてください」
「ああ、いいとも」
ハナコに催促され、トリニティの先生は如何に妻と腹の探り合いやら、どんな女性とデートをして際どい所を突いたかを語り始めた。
話としては普通に面白いのがコハルは嫌だった。フィクションなら良かったのに、と。
彼女はおもむろに銃ラックに向かって行った。
「ま、まあまあ、コハルちゃん」
「退いてヒフミ。あの女の敵殺せない」
「落ち着け、コハル。まだ話は終わってない、私は興味があるぞ」
眼が完全に据わっているコハルを、ヒフミとアズサが立ち塞がってブロックする。
「そ、それにしても、先生。なんだか学校とは雰囲気が違って、その、新鮮ですね!!」
コハルを抑えながらも、ヒフミは何とか話題を変えようとそんなことを言い放った。
「今は謹慎中の身だからね。先生としてではなく、私個人として話をしているからだろう」
トリニティの先生は朗らかに笑ってそう答えた。
「先生はこっち側だって信じてたのに!!」
コハルは忌々し気にそう叫んだ。
「公序良俗に反しない範囲でならば、女性が男性の性欲に理解があるのは素晴らしいことではないか、下江君。
その上でハナコ君のように見目麗しい女性ともなると、ね?」
「あらあら、先生ったらお上手ですね♡」
教壇の席に座っているシャーレの先生は二人を見て思った。この二人似た者同士だ、と。
「……そうか、立場か」
「“トリニティの先生?”」
「人は立場と言うスーツを着ている。私はハナコ君に本音で接したことはなかったのだな、と思ってね」
それは仕方がない、とシャーレの先生は思った。
人間社会は本音と建て前で回っている。子供たちのように、大人は純粋ではいられないのだ。
「つまり、先生は今、裸のまま私達に接している、と♡」
「ふふふ、そう言うことだね」
トリニティの先生は、下ネタが大好きだった。
ハナコと一緒にきゃっきゃと笑っている。
「そこはペルソナとか、色々言い方があるでしょ!!」
そこにコハルが噛みつくものだから、からかいたくもなるのだろう。
「おーい、エロジジイとガキども。
そろそろ飯の時間だぞ。今日は早く食って寝ろ。体調を整えることに専念しろよ」
すると、ゲヘナの先生がやって来てそう告げた。
ぞろぞろと教室を出始める面々。
「先生」
声を潜めて、ハナコはトリニティの先生を呼びかけた。
「なにかな? ハナコ君」
「SRTの先生は、アリウスの皆さんを英雄にしようとしているのでしょう?」
「ほう」
ハナコにとって、退屈なほど単純な理屈だった。
アリウスの復興には、彼女らの社会的地位の向上が必要不可欠だ。
いつまでも彼女達は“可哀想な子供”ではいられない。
一番手っ取り早く、そして彼女達に適しているのは、その武力を売り物にすることだ。
ハナコがSRTの先生ならそうするだろう。
「明日のブラックマーケットの襲撃に加担させ、それを大々的に喧伝する。
そうすればもう、誰も彼女達を憐れまず、そして見くびる者も居なくなるでしょう。
ですがそれは、とても残酷な、茨の道でしょう。彼女達はその強さに見合う品格が備わっていませんから」
「……そうかもしれないね」
「あえてこう言います。クソくらえです、と」
トリニティの先生は咄嗟に笑いをかみ殺した。
ただ笑顔をハナコに向けていた。
「私達は、私達の意思に従います」
「君の好きなようにしたまえ。責任は我々が持とう」
ハナコは、自分達の先生に頭をゆっくりと下げた。
「先生と歩み寄れて、本当に良かったです」
「私もだよ。ああそうだ、ハナコ君。君がどのような進路を選ぶかは分からないが、いずれパートナーを見つけることだろう。
その時は式場の手配などは任せてくれたまえ。君には幸せになってほしいからね」
「……それは遠慮致します、先生」
顔を上げたハナコは、きっちりとした笑顔のままこう言った。
「先生はきっと、私の伴侶に相応しいかお試しになられるでしょうから」
自分が目の前の老人ならそうする、とハナコはそう言ったのである。
なぜなら二人は、似た者同士なのだから。
「おやおや、目を掛けている生徒の将来を心配するのは当然の事だろう?」
「ふふ、余計なお世話ですよ♡」
二人はそんな軽口を叩きながら、食堂へと向かった。
「記者会見が始まったわよ」
隣でスマホを見ているコハルの言葉に、ハナコは我に返った。
「では、始まるのですね」
爆撃による、一斉攻撃が。
画面には、連邦生徒会のリンとカヤ、そしてシャーレの先生を始めとした先生達数名が長椅子に座り、フラッシュを浴びていた。
『今から三十分後に、ブラックマーケットに大規模な無差別爆撃を行う。
逃げようとしても無駄だ。間もなく、ゲヘナの先生とトリニティの先生が指揮する生徒達によって全面封鎖が完了する。
無差別爆撃の後、現地の抵抗勢力が完全に無力化したと判断したら、各学校の治安維持部隊が一斉に突入する。
ブラックマーケットに根を張るクズどもに告げる。お前達に逃げ場はない』
SRTの先生が告げる。
この場所がパニックに陥るのは時間の問題だった。
「アリウスの皆さん!! 総員傾聴してください!!」
ハナコは彼女達に呼びかけた。
憐みの対象ではなく、対等な存在となる為に。
これはその、彼女達の小さな、大人達への叛逆だった。
「さあ、リーダー。後はお願いします」
「え、ええ!? ハナコちゃんまで!?」
急に無茶振りをされて、ヒフミは戸惑ったが。
皆が彼女を見ていた。アリウスの生徒だけでなく、アビドスや便利屋の面々、そして避難民と化した闇市の参加者達も。
「……私達は、ちっぽけな存在です。ひとりひとりでは、きっと無力な存在なのでしょう」
覚悟を決めたヒフミは、皆にこう告げた。
「ですが、何もできない存在では無い筈です!!
何かを変えようと、行動を起こすことが出来ます!!
縦えそれが、青臭くて、無茶で無謀でも!!」
ヒフミは空を指差した。
「それが私達の、
彼女は、この世界の真理を指差したのだ。
今回は正直難産でした。しかも長くなったから終わらなかったって言うね。
次回こそ、総攻撃にひと段落します。
感想と高評価が更新速度に直結するはずなので、よければお願いします!!
あなたはどの先生に勉強などを教わりたいですか?
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トリニティの先生
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ゲヘナの先生
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ミレニアムの先生
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アビドスの先生
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百鬼夜行の先生