キヴォトス、先生大量発生中!? 作:ユメ先生
今回は前回のあとがきの予定とは異なりますが、百鬼夜行の先生を忘れていたのでそちらをどうぞ。
百鬼夜行連合学院の自治区にて、此度も伝統あるお祭りが催されようとしていた。
その名も、百夜ノ春ノ桜花祭。桜花祭、等と略されて呼ばれることも多い。
伝統のあるお祭りであり、観光業を主産業として成り立っている百鬼夜行では観光客を集める一大イベントの一つだ。
この学校はかつて、トリニティのように凄惨な争いの果てに連合を組むことで学校として成り立った歴史がある。
それ故に、明確に統治する生徒会が存在しないのが特徴であった。
そこは陰陽部が実質的に生徒会の役割を担っており、統治者と言うより部活動や各委員会のまとめ役のようなものである。
そんな体制だからこそ、この学校の部活動は他校と比べて異彩を放つものが多い。
彼女達は此度のお祭りの為に、一丸となって準備を行っていた。
「あれ、なんだか今年って、まだ準備中なのに観光客が多くない?」
イベント用のステージを組み立てている生徒が、商店街を見回してそう言った。
お祭りの日はまだ一週間近くある。
百鬼夜行はキヴォトスでも比較的小規模の学校なので、三大学校のように人員も資金も大量に投入などできない。予算を抑えるために学生が準備に精を出している。
彼女が言う通り、どことなく観光客が普段の二割増しに来ているように思えた。
「気が早いね。みんなお祭り楽しみにしてるのかな」
「いやいや、違うよ」
隣で骨組みを組み立てている生徒がそれを否定した。
「あの人たち、見て見なよ。殆どが男の人でしょ?」
「あ、言われてみれば確かに」
大人のキヴォトスの住人達が、何やらそわそわとして時間やら周囲を確認している。
女性の住人もそれなりに居るが、圧倒的に男性が多かった。
「そ、そろそろ時間だよな!!」
「ああ、事前情報によるとそうらしいな!!」
服を纏った犬や猫の住人達が、そんな話をしているのが聞こえる。
「今日、なんかイベントあったっけ?」
「あはは、違う違う、あの人たちはあれだよ」
その生徒は、苦笑しながらこう言った。
「──先生を見に来たんだよ」
ああ、とそれを聞いて隣の生徒も納得した。
「なにせ、先生達随一の美女、って触れ込みだもんね!!」
「お陰で観光客が増えたって陰陽部の知り合いが言ってたよ」
生徒達がそんなことを話していると。
「あ、来たぞ、百鬼夜行の先生だ!!」
その声に、一斉に観光客たちがその方を向いた。
金糸が至る所に入れられた桜吹雪の意匠の黒い派手な着物を着こなし、真っ赤な番傘で日差しから身を守る女が現れる。
色白の肌は最低限の化粧の身で際立たせ、髪型は日本人形の童女のようなのに、その表情の妖艶さのギャップがその年齢を推察することを難しくしている。
背はすらりとしていて、発育の良い生徒達のように若いのか、それとも同性すらも誑かす妖しい熟女なのか。
或いは、その頭頂部に揺れる黒毛の狐の耳が示すように、傾国の妖狐なのか。
彼女が、百鬼夜行連合学院に赴任した先生だった。
「先生、相変わらず人気者ですね」
隣で番傘を差す天狗面の生徒がそう言った。
彼女の四方を守るように、魑魅一座の者達が彼女を護衛していた。
「ほんと毎日毎日、飽きまへんなぁ。
まあ、それがうちの狙い通りなんやけどな」
先生は唇を僅かに釣り上げ、嘲笑した。
「うち、学校に通ったことないねん。
勉強はなんも教えられへんのよ。せやけど、女の魅せ方はいくらでも教えたる」
彼女が商店街の大通りを進む。
まるで遊郭の太夫*1のように。
「女の価値は、魅せ方ひとつで変わる。
うちも昔は狐憑きやぁって、二束三文で売られたこともあったわ。
そやけど、必死に女磨いて、色香を妖術や言うて演出すれば、ほなこの通り」
大勢の観光客が、彼女に釘付けになっていた。
男も女も、老いも若きも。
だが、彼女を憧れの表情で見ている者達が居た。
生徒達だった。
彼女は、生徒達に手本を魅せているのだ。
「すごい、本当に魑魅一座を手懐けてる……」
ステージを設置している生徒がそう言った。
彼女の周囲だけ、まるで桜吹雪でも舞っているかのような錯覚をしてしまいそうだった。
いや、違う。本物の桜吹雪だった。
丁度今、桜の季節。本物の桜が散り、彼女の周囲を彩っていた。
完璧な演出、完璧なショーだった。
毎日この時間帯にここを通る、と情報を拡散させ、注目を浴びる。
その謳い文句が、数千人の先生達で一番の美女。
それを否定することは、この光景を見れば誰も出来ないだろう。
「先生は後程ブロマイドをお出しになる、カメラやスマホを向けたものは警告なしで撃つ!!」
魑魅一座の生徒達が周囲を銃器で威嚇しながらそう言った。
周囲が騒めく。それすらも事前に決められた演出だった。
「アホくさ。でも写真一枚だけ売り出して値段をどれだけ釣り上げられるか、試すんのも一興やわ……」
「陰陽部に怒られますよ、先生」
「まあ、チセちゃんに怒られたらショックやわ」
先生は欠伸を隠すように口元に手をやり、適当な観光客に流し目をして誤魔化す。
まるで特定の誰かに微笑んだかのようだったが、その観光客は夫婦で来ているらしく、女房に頭をシバかれた。
「……先生、私は本当に幸せになれるんでしょうか。私、バカですし」
「んなもん、良い男捕まえればええねん。
男はバカなんやから、愛嬌さえあれば頭の良し悪しなんて気にしまへん」
「そう言うもんですか? 私に結婚できるかなぁ」
「でも、最近は結婚しない自由ってのもあるらしいですよ」
その生徒の言葉に、はははッ、と先生は笑った。
「あれやろ、今時の多様性やらなんやらって奴。
せやかてそんな風に部屋ん中で元気にネットに齧りついとる女連中は、自分らはガキ産めるから男より上や言うてるんやろ?
ほな、やっぱり結婚して良い男の子供産むんのが女の幸せってことやないか。全会一致や」
将来を不安そうにしている番傘持ちの生徒の頭を、彼女は撫でた。
「うちについて来ぃや。後悔させへんよ」
「はい、先生!!」
くすぐったそうな生徒している生徒に、先生は微笑みかけた。
そんな時である。
どかん、とロケットランチャーの弾頭が近場で爆発した。
ぞろぞろ、と魑魅一座の生徒達が武器を持って現れたではないか。
「なんや、またかいな」
先生は目を細める。
「先生!! 裏切り者共々、今日こそこの自治区から追い出してやる!!」
「うちの学校は、女性を見世物にする低俗な学校じゃない!!」
「お前達みたいなこの学校の伝統を穢す奴はぶっとばしてやるッ!!」
魑魅一座・路上組が声高々にそう言って乱入してきた。
「ええなぁ、あんたらは。お面被ってれば伝統を名乗れるんやから。
なんや、あんたらどうせ十五くらいやろ? お面の下の伝統は随分こっすいわなぁ」
「や、やかましい!!」
「なあ、なんでけったいな爺さん婆さんは年下相手に年寄りは敬え言うんかわかるか?
それ以外に誇るモノがないからやで!!」
これには、観光客たちも爆笑だった。
まさしく、自分達の所属している組織の伝統しか誇れるものない不良集団がそこに居た。
「伝統は自分らで創るもんや。せやからあんたらは惨めなんや。
他人を羨む前に、自分を磨きぃや。そんで、自分を誇れるようになるんや」
先生は優しく彼女達を諭した。
「あんたらはそないなお面で顔隠さんでも可愛らしいやんけ。
人手はいくらあっても足らんのや、皆と一緒にお祭りの準備でもしなはれや。若いうちにダチと遊ばんと損やで」
「う、うるさい!! 黙れババア!!」
「そうだ、この年増!!」
「うちらには若さがあるんだよ!!」
「はぁ?」
完全に言い負かされて半泣きで言い返すクソガキたちに、先生はイラっとした。
すると、その時彼女の視界の端で桃夜堂の店員たちが騒ぎを聞きつけ駆けつけてきた。
それを見て彼女はニヤリと笑った。
「おう、若造ども!!」
急にドスの利いた声音に、魑魅一座の面々は慄いた。
「その手に持っとるチャカは飾りかいな!!
ほな、撃てるもんなら撃ってみぃや!!」
きゃー、とフィーナの黄色い声が周囲に響いた。
「撃ちなはれ、遠慮せんと撃ちなはれ!!」
あの任侠映画の名台詞デス!! と、叫んでいる任侠マニアがいた。
「あんたらも組のモンなら、筋通して撃ちなはれや!!
ほな、どうしたんや!! ヘイローあるモンしか撃てへんのか、あほんだらッ!!」
不良達は、先生の気迫に気圧されていた。
演技の筈なのに、堂に入り過ぎていたのである。
「姐さんッ、助太刀するデス!!」
「わわッ、私も手伝います」
「先生、無理しないでください!!」
百夜堂の面々が、約一名目をキラッキラさせて登場する。
その後修行部が駆けつけ、魑魅一座は追い返された。
すると、ピンポンパンポーン、と各地の放送器具からニヤの声が聞こえた。
『えー、以上が百鬼夜行の先生による極妻任侠ショーでしたー』
「なんや、ニヤの奴、見とったんかいな」
周囲の観光客は本気でショーだと思ってるらしく、拍手を始めた。
アホらし、と先生は冷めた表情で吐き捨てた。
「先生、無茶はなさらないでくださいッ」
「そうですよ、こっちは生きた心地がしなかったんですからね!!」
「はいはい、お小言はその辺にしといてや」
護衛の生徒達に、先生は怒られてうんざりしていた。
「センセイッ、いや姐御!! ワタシも舎弟にしてくださいデス!!」
「フィーナ、あんたは愛嬌があるさかい、うちが教えること無いわ」
「そんなー!!」
即撃沈して仲間の元に戻っていくフィーナ。
シズコ達は観光客を自分たちの喫茶店に誘導している。
「先生、ごきげんよう。あまり無茶はなさらないで下さい」
「なんや、今度はミモリが説教かいな」
ミモリは上品に笑って、まさか、と否定した。
「先生は私の目標の、その到達点の一つですから。
私からお説教などと……」
「おべっかはええわ」
ミモリの目標とする大和撫子の定義とは、控えめでありながら優美で知的で芯の強さを持つ女性のことである。
その定義によるなら、派手な視線を浴びる先生は当てはまらない。
だからおべっかはいい、と彼女は言ったのだ。
「いえ、フィーナさんを見て、すぐに彼女を喜ばせる振る舞いをなされたのですから。
観光客の皆さんも楽しんでいましたし、その柔軟性は見習いたいです」
「あんたにも教えること無いと思うてたけど、一つだけあったわ」
「はい、何でしょう?」
「その賢しさは隠しとき。男って言うんは自分より頭の良い嫁をうっとおしく思うもんなんや。
料理習っとるんやろ? 何でもいいから依存させな他の女に目移りされるで」
まああんたが男を見る目が無いとは思わんけどな、と彼女は忠告した。
「……分かりました。男性を見る目も養おうと思います」
「結婚は人生の墓場言いよるけど、家庭を持っても油断してはあかんで。愛は冷めるもんや、薪くべて燃やさな墓まで続かん。
もしそうなってしもうたら、何の為に自分は頑張って来たんやろって思ってしまうで」
それはミモリを想っての言葉だった。
目標を達成し幸せになっても、男に依存して裏切られれば自分の人生に絶望してしまう、と。そう言う助言だった。
そう、素敵なお嫁さんになると言う自分に恋をして、目を曇らせるなと。
「応援しとるで、ほなな」
「はい、ご指導ご鞭撻、ありがとうございます」
先生が護衛達を連れて歩きだす。
新しい百鬼夜行の名物と化した、一人だけの魑魅魍魎の行進だ。
ミモリは頭を下げてその先生を見送った。
彼女は思った。やはり、何も分からない、と。
読心術師、などと呼ばれる彼女でも、あの先生の心根は見通せなかった。
まるで闇夜の湖面のように、どす黒く何も映さない。
彼女が最初に感じたのは畏怖だった。
女性としての格の違いを感じた。酸いも甘いも知り尽くした、人生の先達だった。
そして、彼女に新しい目標が出来た。
「ううう、相談に乗ってくれてありがとうございます……」
「アビドスの先生、なんであんた生徒達より手が掛かるん?
そりゃあ、そのデカい重りふたつぶら下げてれば引く手あまたやろうけどな。その前に女衒に攫われて浴場にでも売り飛ばされそうで心配やわ」
そんな百鬼夜行の先生の最近の心配事は、大勢の同期の中でもひと際ダメダメの若い先生だった。
「こっちの大人どもは子供の手前、死やら性欲やらを遠ざけとるけど、あんたは違うんやからね?
一時間でうん万円稼げる言われても付いて行ったらあかんよ?」
「わ、わかりましたぁ」
「しゃんとしなはれ、あんたんとこの子供たちがおるんやろ?」
はいぃ、と意気消沈しているアビドスの先生。
ヴァルキューレの先生も犯人を追跡してくれると言っていたので、そのうち逮捕されるだろう。
「まあ、カネは戻らんやろうけど」
「ひぃん……」
しかし大抵の場合、犯人に奪われたお金は返ってこない。
お金を貸しても良いと思ったが、その瞬間から対等ではなくなるので彼女はそれをしなかった。
「ほな、そろそろミーティングが始まるわ。それが終わったらなんか美味いもん奢ったるから、元気だしな?」
「え、本当ですか!?」
「なんや、奢らんでもえらい元気ええやん」
そんなぁ、と落ち込むアビドスの先生に、うそうそ、と彼女は笑いかけた。
彼女はどちらかと言うと、手間のかかる相手の方が好きなタイプだった。
:百鬼夜行先生
百鬼夜行という華やかさとその下に隠れる闇を垣間見せる、影のある着物姿の女先生。
観光業を眼を引くという解釈で魔性の美女として擬人化。
百鬼夜行の先生らしく妖怪変化の狐憑き、恐らく見た目通りの年齢ではない。
長く生きてるので多くの経験から、生徒達に助言を行う。政治には当然興味がない。
ちなみに京都弁なのは、和風の表現であり、ついでに作者の趣味である。
次回はシャーレの先生の視点。主要な先生達が出そろったので、ミーティングがどんな内容かを書こうと予定しています。予定です。大事な事なので二回言いました!!