キヴォトス、先生大量発生中!? 作:ユメ先生
ブラックマーケット壊滅作戦の翌日。
補習授業部の四人は合宿場の教室で正座をさせられていた。
「お前らバカじゃねえの? なんで自分から危険な場所に行くわけ?」
ゲヘナの先生は心底ご立腹だった。
「しかもアビドスの先生を縛って閉じ込めて。
俺達がどれだけ心配したかわかってるのか?」
「“ゲヘナの先生、彼女達も反省しているようですから……”」
「シャーレの先生は黙っててください」
はい……、とゲヘナの先生に凄まれて、おずおずと引き下がるシャーレの先生。
「でもゲヘナの先生!! あの日、あの場所に行かなければペロロ様グッズが全部焼けてしまうところだったんですよ!?」
「なるほど、ヒフミ。てめぇ全く反省してないな?」
「あ、あうぅ……」
何を言っても言い訳になると理解し、ヒフミは項垂れた。
「ヒフミちゃんは悪くありません。焚きつけたのは私ですから」
「ほー? 部長を庇うのか、ハナコ。美しい友情だな。
それを友情だって思ってるから、お前友達居ねぇんだよ」
「それは……」
「お前は先ず損得勘定で距離感を計るな。相手の信頼や善意を信じられない。相手はお前を友達と思ってるが、お前はそうじゃない。お前は最初から俺らに詰められたら泥をかぶるつもりだっただろ? それが一番安い買い物だからだ。それは自己犠牲じゃねえんだよ、お前は三人を信じちゃいないんだ。そうだろ?」
ゲヘナの先生のプロファイリングはかなり正確だった。
ハナコが自分で泥をかぶるのは、自分ならそれを制御できるからだ。つまり、それは逆説的にヒフミが上手く責任を躱せると思っていないからでもある。
「……」
「決まりだな。この責任はヒフミ、部長のお前が取れ」
「は、はい……」
「アズサ。お前は何で付いて行った」
「戦力的な話だ。三人が危険な場所に行くなら、自分が居た方が安全性が高まると判断した」
「コハルは?」
「わ、私は、ハナコの話を聞いて、正しいことだと思ったから……」
「そうか。じゃあ今度お前の尊敬するハスミの前で同じことしてみろ。めでたく謹慎を食らうだろうな」
「うッ……」
「いいかよく聞け、私情で判断する奴をエリートなんて言わねぇんだよ。正義実現委員会のお荷物で居たいならこれからもそうすりゃいい」
「うう、うッ……」
ガン詰めされる四人。
コハルは目元に涙を溜め、ハナコがその目元をハンカチで拭った。
「その辺にしたまえ。彼女達の行動を知りながら容認したのは私だ。
責任ならこの老骨が取ろう」
トリニティの先生がそう言った直後だった、ゲヘナの先生の拳が飛んだ。
机や椅子を巻き込んで、老人の身体が吹き飛んだ。
「せ、先生!!」
ヒフミが声を挙げ、他の三人も膝が上がる。
「“ゲヘナの先生!! 暴力は良くありません!!”」
シャーレの先生は殴られても何も言わないトリニティの先生の背に手を回し、ゲヘナの先生にそう主張した。
「この子たちがあの場で大怪我をしてたら、てめぇをぶっ殺してた。てめぇの老い先みじけぇ命で、どうやってこの子たちの人生の責任を取れるってんだ、笑わせんな!!」
「……」
トリニティの先生は、何も言い返さなかった。
「ふむ、責任を取るのはヒフミで良いんだね?」
合宿場に合流したミレニアムの先生が、そう言った。
「じゃあこうしようじゃないか。
君はモモフレンズに人生を捧げるのに躊躇いはないんだろう?」
「え、あ、はい……」
「実はミレニアムには、モモフレンズのライブなどの音響設備を納品していてね。
その伝手で、ミレニアムでモモフレンズのライブの打診をされているんだ」
「ええ!? それは本当ですか!?」
「ああ。先方には多少無理を言って、六日後にゲリラライブを頼もうと思う」
六日後。それを聞いて喜んでいたヒフミの表情が真っ青になった。
第三次試験の当日だった。その日に四人が同時に合格しなければ、全員退学。
「次は他の三人の人生をも捧げるか、君が決めなさい」
その冷徹な罰の宣告に、男先生達はドン引きしていた。
ヒフミは魂が抜けたようにしなしなと崩れ落ちた。
「これでいいかな、ゲヘナの先生。これ以上感情的に子供たちを叱っても無意味だ。子供は反省しない生き物だからね」
「お、おう……」
この人怖ッ、と戦々恐々しながらゲヘナの先生は頷いた。
「ところで、SRTの先生は?」
「“連邦生徒会と事後処理を。攻撃性のあるドローンの所持数を学園や企業ごとに制限するよう働きかけるそうです”」
「なるほどな。でもここはキヴォトスだぜ? 焼け石に水だろ」
そうですね、とシャーレの先生はゲヘナの先生の意見に頷くほかなかった。
「それはどうだろうか。ドローンの操作はラジコンではない。
向こうの世界でも、兵士の高コスト化が顕著になっているわけだが、それは高度な教育を前提としている。
勉学を放棄した不良程度に扱えなくなるようになってくる、と私は考えるけど」
「でも、キヴォトスだからなぁ」
「そうなんだよねぇ」
そう提言したミレニアムの先生当人が、論理を放棄して遠い目になった。
「ああ、そうだ、一つ気になっていることがあったんだ」
「なにかね?」
「なんで昨日の場に、ワイルドハントの先生が来れたんだい?」
「誰かが彼女に協力を要請したのではないか?」
トリニティの先生がそう答えたが。
「では彼女の役割はなんだい? 彼女はブラックマーケットに突っ込んで、大騒ぎしただけだ。
彼女の役割は、SRTの先生の筋書きにどれだけ役に立ったんだい?」
「“確かに……”」
言われてみれば、ワイルドハントの先生の役割だけが見えなかった。
「ああ、彼女を呼んだのは私だ」
そう言ったのは、レッドウインターの先生だった。
他にもこの場に居た先生達の視線が、彼に集まる。
「無論、あの場ではない。アリウスの生徒達の為だ。彼女のあのユニークな行動は、こっちの要請と関係ない」
「“アリウスの生徒達の為とは、どういうことですか?”」
シャーレの先生が問う。
「それは無論、扇動の為だ。諸君は、アリウス自治区の解放をどのように行うつもりかね?」
「“いえ、SRTの先生が計画をしているとしか”」
「私はその準備を担当しているのだ」
レッドウインターの先生は瞳孔の開いた目で語る。
「私とSRTの先生は、元々ある人物に依頼されて行動していた。
それがキヴォトスの為になるから、彼も私も喜んで賛同した」
「あの人も登場のタイミングが絶妙だとは思ったが……」
ゲヘナの先生が渋い表情を浮かべる。
「アリウス自治区への宣戦布告は、この合宿場を指定されている。
その日には、他の多くの先生達も招き、陽動を行う。
そこで襲撃に来た敵集団を撃滅し、返す刀でアリウス自治区に逆侵攻する手筈である」
「戦力を分断する作戦か」
「うむ。そして、戦いの最前線に出るのはアリウスの生徒達自身でなければならない」
レッドウインターの先生はそう断じた。
「“……私は、反対です”」
「なぜ?」
「“子供たちを戦力とする前提の作戦に、賛同できないからです”」
「理解は出来る、シャーレの先生。だが現実を見えていない」
レッドウインターの先生は微笑みながら、彼を諭し始めた。
「私の予想では、ブラックマーケットの一件でアリウスの生徒達を“利用”した我々を、アリウス自治区の支配者は不快に思うことだろう。そのようなプロファイリングが成されている。
自分の手駒を他人に利用されたのだ。不愉快になるのは当然だろう。
私なら、ここに居るアリウスの生徒達に帰還命令を下す」
「“それはッ”」
「さて、帰還させられた彼女達は、いったいどんな目に遭うだろうか?」
「“くッ……”」
「彼女達は初めから、自らの尊厳を自らの手で取り戻すしか道は無かったのだ。シャーレの先生、君の甘さは美徳だが、真に彼女達を想うなら茨の道を示すことさえ躊躇ってはならない。
甘やかすことだけが教育ではないし、彼女達を信じるからこそ選択と責任には痛みが伴うと教えなければならない。
それとも君は、そんな大事なことを教えずに子供たちを送り出すつもりかな?」
レッドウインターの先生の言葉は正論だった。
政治の話をしなければ割とまともだと言うのは本当らしかった。
「シャーレの先生。何も彼女達だけで戦わせるわけではないだろう?」
「“山海経の先生……”」
「我々は子供たちだけを戦わせて、後ろでふんぞり返っているわけではない。だから君は自分の無力を嘆き、己を責めてはいけない。考えるよりも、やるべきことを今はやるべきだ」
葛藤しているシャーレの先生に、山海経の先生は人生の先達として助言を行った。
「“……そうですね”」
シャーレの先生は、教室の窓から外を見た。
そこにはアリウスの生徒達と、昨夜到着したアリウスの先生がいた。
「えーと、私達の先生とのことですが……」
アリウスの生徒達は、自分達の自治区に赴任する筈だった虚無僧を見て、困惑していた。
「私達に何を教えて下さるのですか?」
彼女達にとって、先生とは自分達に何かを教えてくれる人たちだった。
だからこそ、そう問うたのだが。
「何も」
アリウスの先生は、そう答えた。
「拙僧は君達に何もできぬよ」
「先生、それは違います!!」
たまらずスバルが声を挙げるも、彼女らの先生は手で制した。
スバルは言葉を飲み込んだが、それでも主張をしたかった。
自分達の先生はとてもスゴイ人で、私達の苦しみを誰よりも理解しようとしてくれた、と。
アリウスの仲間たちが彼を疑念の目で見ていることが、彼女は悲しかったのだ。
「その代わり、共に居よう」
「え?」
「君達と悲しみを分かち合い、飢えるのなら共に飢えよう。
道端に咲く花を愛でる時は、共にその喜びを分かち合おう。
私は噂に聞くシャーレの先生のように何か問題を解決することは出来ないが、共に悩み迷い、そして同じ道を歩こう」
教養の無いアリウスの生徒達は、理解できなかった。
それは、ただ無力なだけなのではないか、と。
戦いだけを教えられてきた彼女達は、それを理解できなかった。
彼女達にとって、大人とは上位者でなければならなかったからだ。
アリウスの生徒達は、すぐに自分達の先生から興味を失った。
校舎で先生達が話し合いをしているので、自発的にスポーツに勤しみ始めた。
それは、これまでの彼女達には無かった行動だった。
アリウスの先生は、その光景をただただ微笑みながら見ていた。
「……先生、すみません。皆が失礼を」
「構わぬよ。拙僧は誰かに理解を求めたいわけではない」
スバルは彼の態度がもどかしかった。
目の前の人物は誰にも興味を抱かれなかったアリウスの現状を訴え、キヴォトスを変えた。
テレビの中で有識者たちは真剣にアリウスの現状について論議し、それはSNSでも同様だった。
その全てを偽善だと断じない程度には、スバルも彼と共にキヴォトス各地を歩いて知っていた。
アリウスの先生だと人々が察すると、応援の言葉を掛けてくれる人々や、喜捨をする人々で溢れた。
それは自分の為でもあるが、純粋な善意でもあった。
自らの財産を持たない彼は、それで生きて来た。スバルもそれを分かち合った。
「先生は、本当はスゴイ人の筈なのに」
「スバルよ。それは違う、違うのだ」
彼はやんわりと、スバルの言葉を否定した。
「拙僧がなぜこのような装いをしているのか。それは反発心からだった」
「反発心、ですか?」
「拙僧はこれでも由緒ある大きな寺の生まれでな。何かに不自由したことはなかった。
だが、偉い僧侶であるはずの父親を見て疑念を抱いた」
彼の瞳は、虚空を映していた。
「父は高い車を乗り回し、檀家様の御布施の額を年々高くし、それを当然と思っているような人物だった。
私は幼心に、これが徳のある者がすることだろうか、と思ったモノだ」
「……」
それは、他者を搾取して当然と思う誰かと似ていると、スバルは思った。
「虚無僧の格好は、向こうではとっくに廃れた祭りの出し物でしか見ないようなものでな。
拙僧は全てを捨て、それに扮して全国を練り歩いた。世間の注目を浴びる為だった。それが父への意趣返しになる、と。若い頃はそう思っていたのだ」
彼の原点は、思いのほか俗っぽい理由だった。
「全ては虚しいものだ。
私腹を肥やし栄華を極め、死後にそれの何の意味がある?
食べ物を独り占めして、肥え太り、また求めるのは亡者と何が違う?
真理や悟りを得たところで、己の無力や行いの矛盾が何か変わるだろうか?」
「それはッ」
Vanitas vanitatum et omnia vanitas.
その本質、ベアトリーチェに歪められる前の、正しき金言の根幹だった。
「拙僧は彼女達に何もできぬ。未来ある彼女達に、今しか生きれぬ拙僧に道を示せるはずもない」
「……」
それは事実だった。だからこそ、スバルは悲しかった。
「いずれ、皆も分かってくれるはずです」
「そうであれば、喜ばしいな」
アリウスの先生は、儚く微笑んだ。
そんな時だった。
合宿場の入り口から、輝かんばかりのデコトラが校庭に侵入してきた。
ギョッとするアリウスの生徒達。
デコトラの荷台部分が展開し、そこは即席のステージと化す。
その中心に居たのは、派手な装束のワイルドハントの先生のだった。
「アリウスのマッドフェアリーども、あたしの歌を聞きやがれ!!」
スピーカーからの爆音に、彼女達は思わず耳を塞いだ。
先生達も教室から、何事かと外を見る。
ステージの上のドラマー担当の生徒が、合図を出す。
同時に、演奏を始める生徒達。
「あたしらみんな、からっぽさ。生きてる意味なんざなーんもねぇ!!
お前ら誰だ、名前は何だ? 誰も彼も、覚えちゃいねぇ!!」
その音楽は、彼女達にはまさしく衝撃だった。
「お前ら、よーく聞け!! どうせ人生なんて無意味なんだよ!!
だったら今を楽しめりゃそれでいいッ♪
小難しいことなんざ、全部捨てちまえッ、笑って死ねりゃそれが最高だろ!!」
彼女の指先が、アリウスの生徒達を舐めるように滑る。
「怒り、苦しみ、憎しみ、それってどこにあんだい!?
からっぽなあたしらに、誰が証明できんだ!!」
アリウスの先生は、その歌詞で気づいた。
これは般若心経をもじっている、と。
「お前ら、よーく聞け!!」
やはり、と彼は思った。
般若心経は弟子に師が語り掛けるという体で進行するお経だ。
この歌はそれを踏襲している。
「あたしらの苦しみなんざ、誰も理解しねぇ!!
世の中なんざみんなクソだッ、だからあたしらもクソだッ、そこに隔たりなんざねぇんだよ!!」
そして、ワイルドハントの先生のデスボイスが炸裂する。
アリウスの生徒達はもう呆気に取られるほかなかった。
「気に入らねぇならぶっ壊せ!! ぶっ潰せ!!
それが世の中ってもんだろ、スカッとしたもんが勝ちなんだよ!!」
最後に、彼女はこう締めくくった。
「わかったかッ!! てめぇの価値は、てめぇで決めんだよ!!」
「いやはや……」
これにはアリウスの先生も苦笑するほかなかった。
あの老婆は自分よりもずっと先の悟りを得ている、と。
「……あの」
唖然としているだけだった、アリウスの生徒の一人がいった。
「もう一回、もう一回お願いします!!」
「う、うんッ、もう一回聞きたいです」
「もう一回!!」
「わかってねぇな、マッドフェアリーども。そういう時は、アンコールって言うんだよぉ!!」
ワイルドハントの先生がマイクに向かってそう叫ぶ。
すぐに、アンコール、と無数の声が響いた。
「オーケー、今日は持ち歌全部やってやんよ!!」
すると、合宿場の入り口から無数の生徒が校庭に流れ込んできた。
彼女のライブに駆けつけて来たファンだった。
「そうだ、それでいいんだ。みんな」
遠くからその光景を、エマは見ていた。
「マダムは、音楽の力を恐れていた。
私達を分断し、疑い、憎み合わせていたそれを一つにする音楽の可能性を」
ワイルドハントの先生のライブに、生徒達の垣根はなかった。
「機は熟しつつある……」
エマはそう呟いて、踵を返してコートを翻し、その場から消え去った。
更新がしばらく途絶えてすみません。
最近のストーリーは怒涛の展開ばかりで、様子見をしてたところもあります。
ゲヘナの生徒が新たに登場し、ゲヘナの先生の解像度が上がってしまうんですが……。
あと、別のブルアカ作品でこんなのを書いてみました。
ティーパーティーの面々が好きなら、暇つぶしに良ければどうぞ。
ではまた、次回!!
あなたはどの先生に勉強などを教わりたいですか?
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トリニティの先生
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ゲヘナの先生
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ミレニアムの先生
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アビドスの先生
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百鬼夜行の先生