キヴォトス、先生大量発生中!?   作:ユメ先生

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今回の副題、奇人変人の見本市。



シャーレの先生

 

 

 

「“一学校一先生制度?”」

 

 これはシャーレの先生がキヴォトスに来て、一週間ほどのことである。

 連邦生徒会のあるサンクトゥムタワーにてリンに説明を受けていた。

 

「ええ、我々も気づいたのは最近です。

 先生がサンクトゥムタワーの行政権を回復して頂いた、すぐ後です」

「“全部の学校に、先生を配置する政策なんだね”」

 

 リンから渡された資料を読み、先生はそう言った。

 

「はい。我々は何も聞かされていませんでした。

 全ては失踪した連邦生徒会長の意図したものでしょう」

「“リンちゃん……”」

 

 連邦生徒会長。

 全ての生徒会長の長にして、キヴォトス全ての生徒達の代表。

 

「先生の招致も、この政策についても、ある意味では彼女の失踪は責任を取った形なのかもしれません。

 連邦生徒会長という席は独裁者ではありません。

 政策は議会を通し、予算を組み、全ての学校に布告し施行する時間を儲けなければなりません。

 SRTの設立といい、彼女は専横が過ぎると言わざるを得ません」

 

 それだけ責任のある立場である、とリンは語る。

 先生は彼女の言葉に含まれる、複雑そうな声音を察した。

 

「“友達だったんだね”」

「……本当に、猫のように愛嬌のある方でした。でもまさか、死に様を見せずに消え去るようなところまで猫のようでなくても良かった。

 彼女については、草の根を分けても探し出し、議会でしっかりと責任を追及するとして」

 

 リンの眼鏡がきらりと光る。

 先生はなぜかシッテムの箱が震えたような気がしたが、何の通知も無い。ゴーストバイブ現象かと判断した。

 

「既に先生方の選定と招致は済んでいるようです。

 これだけの人数を、いったいどうやって……。こんな人数の雇用費を捻出できない、アオイも頭を抱えてましたよ」

 

 雇用費は各学校に負担して頂く形になりそうです、とリンは口にした。

 

「“でも、正直助かるかな。

 こっちに来て一週間だけど、もう書類仕事で手一杯だから……”」

 

 書類仕事が苦手な先生は少しだけホッとした。

 連邦生徒会長が自ら選んだ大人が、各学校に赴任する。

 

 シャーレの業務だけでも、既にいっぱいいっぱいだったのである。

 

「先生におかれましては、先生を補佐する生徒達を“当番”の他に、“副担任”を各先生からローテーションで任命してシャーレの透明性の確保し、業務への理解及び円滑な遂行を目的とする予定です」

 

 リンから先生の手続きや業務など説明が始まる。

 そして一週間後、先生は各学校に赴任する直前の先生達に初心表明を行い、彼ら彼女らはキヴォトス各地に散って行った。

 

 

 

 そして、政策施行の一か月後。

 

 今日はあらかじめ決まっていた合同ミーティングの日である。

 シャーレの大会議室を活用し、先生達の意見を聞いて各学校での問題の洗い流し、どう対応するべきか定期的に話し合うことになっていたのである。

 

「“今日は皆さん、お集りになってありがとうございます”」

 

 シャーレの先生は、各学校の先生の代表として内外に周知されていた。

 彼は司会進行として、この場に収容できた先生達の前に立つ。

 

 彼は思った。この中には自分より年上なだけでなく、実績も栄誉もある大人も数多い。

 それでもここに居る先生達は、彼の熱意に応じて代表と認めてくれている。自分がしっかりせねば、と。

 

「ひとまず、会議の流れとしましては、影響力のある三大学校の先生方を中心に、議論をすべきかと思います」

 

 先生の秘書のように近くに侍るリンがそう言った。

 この場に居る生徒は彼女と、あと一人だけである。

 

「その方がよろしいでしょう。

 我々は対等な立場ではありますが、各学校に与える影響は残念ながら平等ではありませんからね」

 

 老紳士然としたトリニティの先生がそう言った。

 

「まあ、そうなるわな。でも俺らで派閥とか作るのはまだしも、生徒達の政治を持ち込むのは無しにしようや」

 

 現役軍人のゲヘナ先生は派閥が産まれるのは仕方ないとして、そう提言した。

 

「えー、面倒だな。私も何か発言しないといけない感じ?」

 

 そしてぼーっとしていたミレニアムの女先生はそんなことを言い出す。

 

「では御三方は別の席を用意しましょう」

 

 リンはそう言って、正面側にテーブルと三席の椅子を用意した。

 三人の先生はそちらに移動し、彼らのテーブルの前には『トリニティ総合学園』『ゲヘナ学園』『ミレニアムサイエンススクール』の学校名が書かれた三角の札が置かれた。

 

「“ではまず、最初なので……皆さんがキヴォトスで感じたことを教えてください”」

 

 大勢の先生が挙手し、シャーレの先生は一人を示した。

 彼は自分の赴任先の学校名を言い、こう言った。

 

「まず、聞いていたとは言え、銃の普及率がほぼ100%という事実に我々との価値観のギャップを感じました」

 

 でしょうね、とシャーレの先生は頷いた。

 

「これはあくまで個人的な意見ですが、生徒達の銃の所持に反対です。

 私の前職は教師でしたが、こちらの子供たちは余りにも銃撃戦がカジュアルで、銃弾で撃たれたとしても掠り傷ぐらいにしかならないので、暴力、その恐ろしさに気づいていないことが問題であると考えます」

「私も同意見です」

 

 他の先生が手を挙げ、そう言った。

 どうぞ、とシャーレの先生は彼の発言を促した。

 

「わたくし事ではありますが、自分は母親から虐待を受けて育ちました。

 最初こそ母は私を殴った後謝ってくれましたが、次第にそれが無くなり、当たり前のように暴力を振るうようになりました。

 ええ、そうです、暴力とは慣れるものなのです。それ故に私の現状を憂いずにはいられません。

 将来的に、暴力に慣れたまま社会に進出して良いのか、それが彼女達の為にならないのではないか、と」

 

 彼の言葉に、多くの先生達が頷いた。

 

「確かに、皆さんの言う通りですな。

 暴力と言う手段に訴えた時点で、対話の拒否をしたも同然。

 言論を持って理性に訴える、それが我々の常識でもあると言えます」

 

 トリニティの先生はそのように述べた。

 

「そうは言いますがねぇ、あの子らが卒業してうちらの世界に来るわけでもないでしょう?

 この世界の子供たちにはこの世界なりの倫理や常識があって、少なくとも俺達がそれを押し付けるわけにもいかんでしょう」

 

 ゲヘナの先生はそう反論した。

 

「皆さんもこっちに来るときに書類にサインしたでしょう?

 我々の世界のイデオロギーや差別などはこっちに持ち込まない、と。

 こっちの生徒達の自主性を尊重し、成長を促す。それは我々の大原則の筈です」

「銃社会出身の私から言わせてもらうなら」

 

 興味無さそうにしていたミレニアムの先生が、彼の言葉に続く。

 

「彼女らから銃を奪うなんて不可能だよ。

 彼女らにとって銃とは、自らの個性を表現するファッションなんだ。

 我々の着ている服と言う文化が今更身体に悪いと分かったからと言って、皆から服を奪うなんて出来ないだろう?」

 

 事実を述べるミレニアムの先生に、多くの先生達が難しそうに唸った。

 

「しかし、教育に悪いのは事実です!!」

 

 ある先生が手も上げずにそう言った。

 

「そうですな。銃弾の一発は、生徒達に一回殴られる程度だと推察されます。

 しかし銃とは秒間で何十発も銃弾を発射できる。

 皆さんは一マガジンを30発だとすると、一瞬で30発をも殴ることを正常だと言えるでしょうか」

 

 議論は順調に進んでいく。

 皆が理性的で、子供たちにとってどうすれば良いか真剣に話し合っている。

 

 そこで、一人の先生が手を挙げる。

 

「“そちらの方、どうぞ”」

「はいッ。私はレッドウインターの先生です!!」

 

 声高々にそう名乗ったスラブ系の男は、重ね着した毛皮のコートをこんもりと纏った大男だった。

 

「皆さんは銃を持つことを教育に悪いだとか、そう思っていらっしゃるでしょうが、私はそうは思いません!!」

 

 両目をかっぴらき、正気とは思えない表情で彼はそう言った。

 

「ねえ、あの人って、たしか……」

「ああ。国際指名手配されている有名な自称活動家だ」

 

 そんなミレニアムとトリニティの先生のやりとりが、シャーレの先生に聞こえてしまった。

 

「私は長きに渡り闘争によって獲得した優れた政権こそが、民衆を導くものだと考え活動をして参りました!!

 しかしッ、我々の世界において私の活動は異端とされていたのです!!

 私はそれが衆愚の無知と怠惰に思えて仕方が無かったのです!!」

 

 勝手にヒートアップしていく、レッドウインターの先生。

 

「それはなぜか? 私はキヴォトスに来て理解しました。

 なぜ私の考えが受けいれられなかったのか、それは──人が死ぬからです!!

 うちの生徒達は、毎日のように闘争を繰り広げ、正しい政権と政策を求めているッ、なんと素晴らしき弛まぬ向上心か!!」

 

 彼は感涙まで流し、自分達が受け持つ生徒達が如何に素晴らしいかを語った。

 

「彼女らの闘争を、ただの暴力と切って捨てないで頂きたい!!

 私は彼女らが誰も死なず、苦しまぬ闘争に身を投じ、生き生きしているのを実感してる次第であります!!」

 

 ここにいる大半の先生は思った、あッヤベー奴だ、と。

 

「あーうん、学校のごとの文化が違うのは分かったよ、うん。

 えーとシャーレの先生、次の話題に行きましょう、な?」

「“そ、そうですね……”」

 

 目が泳いでいるゲヘナの先生に促され、シャーレの先生は彼に着席を促した。

 

「“えー、それでは、各学校での問題点について順番に話し合いたいと思います”」

 

 次の話題に変えた瞬間、いち早く手を挙げた者が居た。

 

「“はい、そちらの先生どうぞ”」

「はい。私はハイランダー鉄道学園に勤務している者です」

 

 如何にも車掌と言わんばかりの格好をしている生真面目そうな黄色人種の先生が、そう名乗った。

 

「まず言わせて頂きたい。なぜ、──キヴォトスでは列車が運行できているのですか?」

「……? それはどういった意図の発言でしょうか?」

 

 リンに投げかけられた質問に、彼女は理解できずにそう返した。

 

「銃社会であり、誰もが当たり前に銃を携帯しているのは、まあ理解しましょう。

 しかし、うちの中央管制センター、生徒会には毎日のように車両での銃撃事件が報告され、挙句の果てには数日おきにハイジャックが起きると報告されているんですよッ!!」

 

 うわぁ、と誰かが言った。

 

「うちの国には珍しい車両が運行されると、決まって現れる“猿”の集団が存在するのですが、連中のバカだの死ねだのカネ払えだの、そんな下等な言語中枢を持つ連中でもまだ知能を有していたのだと思わざるを得ませんッ!!

 私が在籍していた鉄道会社だったら安全確保できないとッ、一日どころか電車の一本すら運航などできないと判断せざるをえません!!」

 

 彼は苛立ちを示すように、ガリガリと頭を掻きむしり始めた。

 

「うちのクソガキどもに至っては、電車の機能美を台無しにしやがって!!

 車内に速射砲が鎮座しているのを見た時、卒倒しそうになった私の気持ちを理解できますかな!!

 ダイヤは美しく完璧に運行されなければならないのに、それが守られた試しがありゃしない!!

 これでッ、どうやってッ、キヴォトスの流通を守れば良いと仰るんですかぁッ!!

 私はッ、キヴォトスの列車を見たくて、楽しみで楽しみで仕方なかったのにッ!!」

 

 ハイランダーの先生はついには頭を抱えて泣き出してしまった。

 両隣に座る先生が、貴方は悪くないですよ、すごく気持ちはわかります、と慰めていた。

 

「“えー、その問題に関しては、後日当該学校を交えて協議しましょう……”」

 

 リンが凄く申し訳なさそうな、肩身の狭そうな表情をしているので、シャーレの先生はそう言うしかなかった。

 

「シャーレの先生、拙僧の方からもよろしいだろうか?」

「“はい、どうぞ”」

 

 次に手を挙げたのは、袈裟と頭陀袋を下げた壮年の僧侶だった。

 彼の前には深編笠が置かれ、まるで時代劇から現れた虚無僧そのものだった。

 

「拙僧の担当となる、アリウスなる学校はいずこにあるのでしょうか?」

「“え、赴任する学校がどこか分からないのですか?”」

「えーと、ちょっと待ってください」

 

 大会議室がハイランダーの先生のお陰で変な空気になっているのを他所に、リンがスマホで確認を始めた。

 

「……申し訳ありません。連邦生徒会でもかの学校の所在を把握できていません」

「これは、なんと」

「最後の記録は、十数年前にこちらからの支援要請を断られて以来でして……。トリニティの先生、何か聞いていますか?」

「残念ながら。しかし赴任する学校の所在地が分からないとは由々しき事態です。

 私の方からもティーパーティーに尋ねてみましょう」

 

 トリニティの先生はリンの言葉を受けて強く頷いて見せた。

 

「いやはや、助かりますな。このままキヴォトスを彷徨うのも御仏の意思なのやもと思っておりましたところ、手助け痛み入る。

 色即是空、空即是色……この出会いや機会に感謝を」

 

 アリウスの先生は禿頭を深く下げた。

 

「私からもよろしいですか」

 

 シャーレの先生は次の先生を指名した。

 

「ハッキリ言って、キヴォトスの犯罪率は異常です。

 犯罪集団と化した不良生徒が野放図になっている。

 彼女らの支援と更生を本格的に実行しなければ、根本的な解決にならないでしょう」

 

 その先生はさらにこう語った。

 

「また、各学校の自治権が強過ぎるのも問題だと感じました。

 各自治区の警察組織が抑止力として機能していないのもありますが、治安が子供たちによる自治組織頼りになっているのはいかんともしがたい」

 

 なるほど、とリンは頷いた。

 

「カンナ局長、それについてどう考えますか?」

「はい」

 

 この場に居るもう一人の生徒、ヴァルキューレ警察学校のカンナが立ち上がる。

 

「先生方の憂慮は理解できます。

 しかし、こればかりは慣習的なものであり、私の所属する連邦生徒会直属の警察組織であるヴァルキューレ警察学校も、D.U.近辺にしか影響力が及ばないのです」

 

 その後も大人たちに言い訳をしているような気分になりながら、カンナは答弁を続けた。

 最終的に要検討、となってその話題は終了し、カンナは着席した。

 

 カンナは自分の学校に赴任した先生を横目で見やる。

 

「……なんだ、カンナ。我に何か用か?」

 

 彼女の視線の先には先生、白い毛並みの大型犬、では説明できない超大柄の犬が、警察帽をちょこんと頭に乗せている。

 視線を感じて、ヴァルキューレの先生は眼を開けてカンナを見やる。

 

「いえ、何でもありません」

 

 人語を介する巨大な犬から、カンナは視線を戻した。

 なんでうちの先生は二足歩行ですらないんだ、と理不尽に思った。

 

「そうか、終わったなら甘味を。ドーナツを食わせろ」

「……わかりました」

 

 フブキだな餌付けしたの、とカンナは内心部下をなじる。

 

「先生方におかれましては、一応連邦生徒会長は自治権を超えた至急性の高い犯罪に対応すべく、特殊部隊を育成する学校を設立したのですが。……SRTの先生、彼女達はどうでしょうか」

 

 リンが水を向けた相手は、異様な男だった。

 まるでハロウィンに付けてくるような狼男のマスクを被った、軍服の男だった。

 

「ん? 俺か? うちのガキどもの訓練なら仕上がって来てる」

 

 半分寝コケていた彼は、肩を竦めた。

 

「俺がひでぇ顔だから顔は見せらんねぇって言ったらイキってたがよ、今は子猫のように俺に従順だ。

 海兵隊も音を上げる特殊部隊用の訓練をさせて、毎日何十発も銃弾をぶち込んでやったからな」

 

 屈強な大人が何人も脱落するあれをか、とミレニアムの先生の唖然とする声がシャーレの先生にも聞こえた。

 

「元々能力はあった。精神がまだ未熟だが、まあ若さってのも善し悪しだ。後は経験を積めばキヴォトスの為に命を捧げるのも厭わないだろうぜ」

「貴様、子供が相手なんだぞ!! そこまでする必要があるのか!!」

 

 楽しそうに虐待に近い教育を語るSRTの先生に、激高した先生が居た。

 

「平和ボケした素人は黙ってろ!!

 うちの生徒どもはキヴォトス中から集められた選りすぐりのエリート。

 自ら志願して軍人の道を選んだ精鋭だぞ。お前んところの何も考えずに若さを浪費してるガキとは違うんだよ!!

 ガキだからなんだってんだ、あいつらが戦う以外の選択肢を奪われた少年兵と一緒だって言うのか?」

 

 気圧される、本物の戦場を知っているゲヘナの先生すらも、冷や汗を感じる気迫。

 

「よーく考えろホワイトカラーども。

 キヴォトスの安全保障ってのは瀬戸際にあんだよ。

 例えば、だ。俺がうちの可愛い生徒達を連れ、連邦生徒会を離反したとしよう。連邦生徒会に不満を持つ小規模な学校を二十ばかり一緒に、一斉にだ」

 

 狼マスクの男は、この場の先生達をぐるりと見まわす。

 

「そうなった時、誰が俺らと戦う?

 連邦生徒会の手先になって戦いたいって学校の先生は手を挙げろ」

 

 誰も、手を挙げなかった。

 

「ほらな。これぐらい、俺でも簡単にできる。他の連中が出来ないなんて、誰が保証できる?

 今のキヴォトスはそんな危ういバランスの上に立ってやがんだ。

 リン主席行政官、よーくその辺りを世間知らずの行政官どもに言っておけ。な?」

 

 釘を刺された、とリンは戦慄した。行政委員会でSRT廃校の議論が行われているのを、彼は既に知っているのだ。

 

「安心しろ、あいつらは俺がちゃんと手綱を握っててやる。

 だからゆっくりと、あいつらの命令系統の再編成をお願いする」

「……わかりました。カヤ防衛室長を交え、見当をします」

 

 リンはそう言う他なかった。

 他の先生達も誰も反論できなかった。彼の危機感は本物だからだ。

 それもまた闘争だ、とレッドウインターの先生はうんうんと頷いているが。

 

 次に、別の先生がこう言った。

 

「我々を招致した連邦生徒会長の行方はどうなったのですか?」

「現在捜索中です」

「事件、事故、両方の線で捜索していますが、足取りは完全に途絶えています」

 

 リンに続き、カンナがそう答えた。

 

「うちの国なら副大統領が繰り上がるけど、こっちだとどうなるのかな?」

「うむ、政治の空白が生じるのはよろしくないな」

 

 ミレニアムとトリニティの先生がリンに尋ねる。

 

「今のところは先生方のご助力もあり、行政は問題なく運営出来てはいます」

「……いやいや、今のミーティングの惨状を聞いてなかったの?」

 

 これにはゲヘナの先生も困惑を示した。

 

「俺だってこんなこと言いたくないけど、もう一か月よ?

 俺らが来る前から何週間も失踪している以上、何らかの理由で姿を隠してるか、生存は絶望的って判断してことを進める他ないよ」

 

 ゲヘナの先生の指摘は尤もだった。

 

「ふむ、シャーレの先生はどう思われますか?」

 

 ひとまず連邦生徒会の問題として、トリニティの先生がシャーレの先生に問うた。

 

「“私も顔を合わせたこともありませんが、私達のことを信じてくれた彼女のことを信じたいと思います”」

「キレイごとやんけ、そんなん」

 

 最前列に座っている百鬼夜行の先生がぼやいた。

 

「あんたが信じるのは勝手や。

 せやけどうちらはそれだと他の子らが迷惑被る言うてるんやで。

 ほな、うちも信じるわ。それで丸く収まるんやろ?」

「“もう少しだけ、彼女達に時間を上げてくれませんか?”」

 

 お願いします、シャーレの先生が頭を下げた。

 それを青臭いと思いつつも、ここに居る先生達は拒絶するのも難しかった。

 

「“私は無力です。彼女達を信じることしかできない。

 でも、短い時間でも私の生徒達はみんな、素晴らしい可能性に満ち溢れています。私はそんな彼女達の力になりたいのです”」

 

 そう語るシャーレの先生に、唸るように悩む先生達。

 シャーレの先生はアビドスの件で生徒達に寄り添い、危急の状況を救ったことはここに居る誰もが知っている。

 この中にそれを出来た先生がいったいどれだけいるか。

 

「私も、シャーレの先生の言葉を信じたいです」

 

 ある先生がそう言った。

 

「私は教師として本当の教育がしたくて、キヴォトスに来ました。

 私が居た学校は不祥事に隠蔽気質で、子供は何をしてもハラスメントだと言って教師を馬鹿にし、少し諫めただけでその親たちは狂ったように怒り職員室にやって来る。

 本当の教育とは何なのでしょうか? 私は生徒一人一人に向き合い、時には叱り、その子の将来の為に導くことだと思います」

 

 彼のように、とその先生は言った。

 シャーレの先生が、その言葉に顔を上げる。

 

「連邦生徒会もまた、“生徒会”ということか」

「私達よりずっと優秀なのに、子供扱いするってなんだかおかしいわね」

 

 その場の緊張感がほどけていた。

 ありがとうございます、と彼はもう一度頭を下げた。

 

「私もシャーレの先生の言葉に賛成です」

 

 そう言ったトリニティの先生を、胡散臭そうにゲヘナの先生が横目で見やった。

 

「ですが明確に期限を設けましょう。

 仕事を果たせないのならば、どの様な理由があったところで社会では通用するものではありません。

 とりあえず、夏までは様子見をしようではありませんか。その時のミーティングで、改めて決めましょう」

 

 それ以上は待てない、と彼は言った。

 

「……ありがとうございます、先生方」

 

 リンが眼鏡を取り、ハンカチで根元を拭った。

 しかし、彼女の安堵を切り裂くような声が迸った。

 

「リン言うたか? 泣くなや!!」

 

 百鬼夜行の先生だった。

 

「あんた、政治やっとんやろ? それともままごとかいな?

 政治家ってのは男社会やで、涙見せたらあかんわ」

 

 みんな良い空気だったから、彼女以外がギョッとしていた。

 

「しゃんとしぃや。女の政治家が涙見せたら、アホなマスコミは喜んでその絵を撮りに来るで。

 あんたの政治理念やのうて、泣き顔だけを欲しがるんや。

 そんで民衆は涙を武器にする女政治家ってバカにするんや」

 

 カメラを構えようとしていたクロノス担当の先生はそっとそれをしまった。

 

「女が社会に出て戦うなら強ぅならんとあかんわ。肝に銘じときや。

 女が涙見せるのは男落とす時にだけ使いや、何度も使こうてたらナマクラになんねん」

「はい、はいッ」

「ほな、ええ勉強になったわな」

 

 男の先生達は突然キレた彼女にビビっていた。逆に女先生たちは目を輝かせている。

 言いたいことを言った百鬼夜行の先生は、何でも無さそうに爪を弄っている。格付けが決定した瞬間だった。

 

 こうして、最初の合同ミーティングは終わった。

 

 

「シャーレの先生、なんかアクが強い奴らばかりだがよ、俺らも協力するから頑張ろうぜ」

「“はい、ゲヘナの先生”」

「うむ、君は一人ではない。その理想を保ったまま、我々を手本として先生として成長してほしい」

「“ありがとうございます、トリニティの先生”」

「ま、困った時はうちの子たちの科学力でどうにもなるから、いつでも言ってね」

「“助かります、ミレニアムの先生”」

 

 ミーティングが終わり、次々と先生達から声を掛けられるシャーレの先生。

 

 彼は思った、自分は独りではない、と。

 この頼もしくもちょっと変わった大勢の仲間たちが居るのだと、そう思ったのだった。

 

 

 

 





:シャーレの先生
ある生徒が聞きました、なんで先生は毎日遅くまで仕事してるですか、と。
疲れ切った先生は冗談っぽく言いました。私が一人だけだからじゃないかな、と。
ある生徒はこう考えました。じゃあ、先生がいっぱい居れば、先生やみんなも喜ぶと。


以上、各学校の先生の顔見せでした。
約一人? 一匹? 擬人化じゃないだろって?
じゃあドーナツ食う無能なデブ警官をカンナに押し付けろって言うのか!? 可哀想だろ!!

各学校の先生達は、シャーレの先生が英霊召喚したみたいなものなので、主に波長の合う人たち構成された、子供が好きで覚悟ガンギマリの面々ばかりです。キヴォトスに死ぬ覚悟で来てます。
原作での先生の最大の不幸は、自分と同じ目線の理解者が存在しないことだと思うんですよねぇ。

次回からこそ、生徒達から見た各学校の先生の先生を書こうと思います。
あと、試しにアンケートとかやってみたいと思います。良ければ参加してみてください。

あなたはどの先生に勉強などを教わりたいですか?

  • トリニティの先生
  • ゲヘナの先生
  • ミレニアムの先生
  • アビドスの先生
  • 百鬼夜行の先生
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