キヴォトス、先生大量発生中!?   作:ユメ先生

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トリニティの先生:水面下の動き

 

 

 

 ハスミは不満であった。

 

 トリニティの先生の尽力で実現した彼女にとっての二度目の、ゲヘナの万魔殿との会談。

 先生は万全の準備を期して挑んだ。

 

 相手の好みを調べ尽くし、送り物を用意し、食事やお茶で持て成す。

 まるでゲヘナ相手に下手に出ているかのようで、ハスミは正直己の先生の対応が弱腰に見えたのだ。

 

 しかも、エデン条約の為の会談なのに、話の内容はからっぽ。

 マコト議長の下らない世間話や自慢話に終始している。

 

「ふふふ」

「キキキ」

 

 和やかな会談だった。

 あのマコトもトリニティの先生相手では、前回のようにハスミを見るなり容姿を小馬鹿にして彼女を激怒させるような態度は控えているようだった。

 

「ゲヘナ学園の生徒達はみな元気いっぱいであると、そちらの先生から伺っているよ。

 我が校の生徒達は少々大人しすぎて、多少庭園を走り回ってくれた方が安心するのだが。どうだね、彼はちゃんと仕事をしているかね?」

 

 トリニティの先生は、向こうの先生について言及した。

 

「ああ、あの掃除屋か」

 

 対して、マコトは紅茶を啜ってからこう言った。

 

「まあ、頑張っているのではないか?

 この間も生徒会棟のラクガキを生徒達と掃除していたな。

 調子に乗ったのか美化委員会から予算を増やしてほしいなどと嘆願があったほどだ。まあ、この優しいマコト様は奴らの自主性を評価して多少予算を増額してやったものだ!!」

 

 そう語るマコトを、チラリと隣の席に座るイロハが見やる。

 トリニティの先生はその仕草を目聡く察した。

 

 まるでコントか何かのようにマコトの発言に度々ツッコミを入れていた彼女が、何も言わなかった。

 

「なるほど!! 校内の美化は生徒達の意識の高さに直結するものだからね。

 マコト議長の判断は極めて正しいでしょう」

「キキキッ、だろう?」

「聡明な貴女のことだ、条約の締結後の展望について既に考えがあるのだろう。ぜひ、聞かせてもらえないだろうか。

 両学園が対等な関係で手を結ぶのだから、本格的な学校間の交流などが始まるのだろうが」

 

 ハスミは先生を見やる。この会談を始めて、初めて条約に踏み込んだのだ。

 

「まあ、確かに。これまで百年以上、ゲヘナとトリニティとの直接的な交流は数えるほどしかなかった。

 晄輪大祭なども、結局は連邦生徒会が間に挟んでのことだった。

 しかしッ!! なにも問題は無い!!」

「と言うと?」

「まずトリニティと交流したいと言う部活などをこちらで精査し、そちらの自治区などで活動の許可を求める形から始めるだろう。

 本格的な行事や大規模な親睦会などは、その様子を見てからになるだろうな!!」

「マコト先輩……正気ですか?」

 

 隣のイロハが驚愕の表情でこう言った。

 

「先輩がそんなまともそうなことを仰るなんて……。

 ハスミさん、お料理に何か悪いモノでも混ぜたのですか?」

「どういう意味ですか!?」

 

 ハスミが声を張り上げる。

 

「ははは、相変わらずマコト議長はユニークな御方だ。

 ゲヘナの先生が羨ましいよ。うちの生徒達はあまり本音で話してはくれないからね」

「だろうな!! 私も議長に就いて長いが、トリニティの連中とまともに会話が出来たのは初めてだ!!」

 

 キキキ、マコトが笑う。イロハも小さく頷く。

 それはそっちが原因でしょうがッ、とハスミは内心キレ散らかしていた。

 

 

 

 会談は終始和やかな雰囲気で終わった。

 相変わらず何も決まらなかった、とハスミは思った。

 

 帰りのリムジンの中で、先生は呟く。

 

「エデン条約は締結する前か、或いは締結後すぐ破棄されるだろうな」

「……どういう意味ですか?」

 

 怒りが冷めやらぬハスミだったが、彼の言葉に冷静さを取り戻した。

 

「マコト議長は条約について興味が無いようだった。

 その上で我が校を下に見ている。あちらに都合の良い状態で、こちらの面子を潰す為に堂々と条約を破棄するだろう」

「先生はそうお考えなのですね」

「あくまで私の所感だがね。これをティーパーティーの面々に伝えても無駄だろう。

 ホスト代理の桐藤君は、条約締結に血道を上げているからね。

 両学校の保守派同士で話を進めていたと聞いたが、これはどうしたものか」

 

 非常に強い発言だった。学校のトップを皮肉っている。

 ハスミや他の生徒も見たことが無いほど、彼は冷徹に現状を分析している。

 

「先生。具体的にそのように考える根拠について、教えてください」

 

 ハスミは努めて冷静に、チェスの盤上を見下ろし指導を願うように問うた。

 

「私も信じられないのだが、ゲヘナの生徒は書類申請などしないそうだ。

 つまり先ほどのマコト議長のお言葉が本当なら、学校間での交流はこれまでと変わらず、あちらの生徒が好き勝手するだけなのだろう」

「……」

 

 ハスミは絶句した。

 

「むしろこちらの自治区で活動できる、と名目を与えるだけの結末になりそうだ。こちらで問題を起こして抗議しても、適当に対応されるだろうね」

「やはりッ、ゲヘナ連中は誰も彼もッ」

「羽川君。君はヒトの上に立つ立場なのだから、淑女の振る舞いを意識したまえ」

「……はい」

 

 先生に諫められ、ハスミは怒りを抑え込んだ。

 

「これ以上万魔殿との会談は無用だろう。

 羽川君、今度はあちらの風紀委員会との会談をセッティングできるかな?」

「はい、上に申請してみます。多少時間が掛かるでしょうが」

「うむ。お願いするよ」

 

 先生はそう言って、リムジンの外を見やる。

 

「実権と権威がそれぞれ独立している、か。ゲヘナ学園は中々に厄介な政治体系をしている」

 

 

 

 

「この辺りで降ろして貰えるかな?」

「ここで? 先生、まだ学校までは遠いですが」

「ほほほ、この老体の健康の維持には、散歩が欠かせないのだよ」

 

 わかりました、とハスミは運転手に指示を出した。

 

 トリニティ自治区の片隅で、先生は下車する。

 

 しばらく彼は言葉通り散歩をして、夜の人気のない公園のベンチに座った。

 

 こつこつ、と頼りのない街灯の灯りに、足音を響かせ何者かがやってきた。

 ゲヘナの先生だった。

 

 彼の座るベンチの横に、彼は座った。

 

「誰にも聞かれていないかね?」

「ああ、俺が信頼する生徒達に周囲を見張らせている。盗聴は不可能だ」

 

 うむ、と老人は頷いた。

 

「空崎委員長と会談をしたい。そちらから働きかけて貰えないだろうか」

「カネが掛かる」

 

 ゲヘナの先生が即答した。

 

「幾らだ?」

 

 トリニティの先生が問う。

 

「おい、幾ら必要だ?」

 

 ゲヘナの先生の声が公園に響く。

 

 すぐに、銃声が一発鳴った。

 

「百万だってよ」

「ふむ、そんな端金で良いのなら用立てよう」

 

 淡々と頷く老人に、この貴族野郎が、とその金銭感覚にゲヘナの先生は内心イラっとした。

 

「会談の内容は盗聴させてもらったけどよ、ありゃダメだな」

「向こうの議長は、お前の所業についてご存じないようだったがな」

「ああ、イロハの奴が報告を止めてるんだろう。

 あいつは面倒ごとは嫌いだし、政治と距離を置いている俺を危険視しても厄介ごとが増えるだけだ」

 

 くつくつ、とゲヘナの先生は笑った。

 全て、彼の計算ずくの行動だった。

 ろくに会ったことの無い万魔殿の議員達の性格を完全に把握していた。

 

「生徒をキヴォトスの最奥に放り捨てるなんてやり過ぎだ」

「ほう。じゃああんたならどうする?」

「学籍の剥奪で十分だろう」

「それはトリニティの生徒への対応だろう。あのバカは会話が出来なかった。

 俺が好きであんなことをしたと思うか?

 あんたはクマ相手に、人間を襲わないでって頼むのか? 的外れなんだよ、脳みその無い環境活動家気取りか?」

 

 ゲヘナの先生は煙草を取り出して、火を点けた。

 

「お貴族様には理解できないだろうが、ゴミ箱にゴミを入れても、それは勝手に消えるわけじゃねえのよ。

 ちゃんと業者に処理を頼まないといけない。ゴミを放置したら周りに恨みを買うだけだ」

 

 だから彼は、手を汚してまで掃除をした。

 ただそれだけのことだった。

 

「シャーレの先生が知ったら怒るぞ」

「あいつはまだ若いし、理想主義が過ぎる。

 あと何年かすれば、良い感じに成熟するだろうさ」

「それまでは、我々が支えればいい、か」

 

 溜め息を一つ、トリニティの先生は立ち上がる。

 

「では、また連絡する」

「おう」

 

 老人が公園から去った。

 

 ゆっくりと煙草を吸い終えると、ゲヘナの先生はこう言った。

 

「明日、昼前に第66ゲヘナ自治区にて、指名手配中の便利屋68が暴れていると通報が入る。

 あの厄介な連中と戦うには、ヒナ委員長が出張るしかないだろうな。

 しかも、なぜか、同時多発的に不良集団が自治区各地で大騒ぎを始める。風紀委員会の戦力は分散され、凶悪犯を取り逃がすかもしれない。恐ろしいな」

 

 そう言ってから、彼は立ち上がり、公園を去る。

 

「依頼料はいつもの闇銀行の口座で」

「ああ」

 

 入り口の街灯に背を預けて腕を組んでいたアルが、先生の背を見送った。

 

「……くぅ、カッコいいわ、先生ッ。

 そうよ、私はこう言うのがやりたかったのよ!!」

「アルちゃん、もうちょっとシリアスを維持しようよ」

 

 周囲を警戒していたムツキが、目をキラキラさせてウキウキしているアルを面白そうに見ていた。

 

「だってムツキ、これが私の憧れていた理想のアウトローなのよ!!

 便利屋として闇に紛れ、かっこよく仕事をこなし、渋いやり取りをする……。先生、ありがとう」

「アル様が楽しそうで、私も嬉しいです」

 

 そんな彼女を見て、ハルカが微笑みながら現れる。

 

「まあ、うちの先生は依頼料を踏み倒したりしないしね」

「最初に私達の仕事の実績とか、成否についてレポートを出してって言われた時はびっくりしたよね」

 

 木々の合間から出てきたカヨコの言葉に、ムツキがそう返す。

 

「私達の得意分野と、失敗の原因を分析して、適切な仕事の割り振りをしているんだろうね。

 先生からの仕事の達成率は100%だし」

「私達以外にも色々と手駒が居そうだよね」

 

 まあ手駒になった覚えはないけど、とムツキはニヤリと笑う。

 

「私はシャーレの先生の方が弄り甲斐があって好きだけどなぁ」

「わ、私はどっちの先生も好きよ?

 シャーレの先生は協業相手だし、うちの先生も私を自活できてる立派な生徒だって言ってくれるしッ」

 

 アルはもう完全にごっこ遊びに付き合ってくれる大人に対する幼女みたいな表情だった。

 

「でも社長、次の相手はあのヒナだよ。百万円なんて安すぎない?」

「あ、安心しなさい、私達はメッセンジャーだから、そう伝えればいいのよ!!」

 

 冷や水をかけてくるカヨコに、アルはそう主張した。

 

「はい、アル様!! ヒナ以外の風紀委員会は全部ぶっ殺します!!」

「まあ、まずその状況に持ってかないとだよね」

 

 とは言え、仕事だから、とカヨコは状況をシミュレーションし始める。

 

「やるわよ、みんな。今日は高級焼肉よ!!」

「アルちゃん、今日の分のお金が入ったからってすぐに浪費しようとしないでよ」

 

 そして翌日、彼女達は無茶苦茶ヒナにボコボコにされるのだった……。

 

 

 

 

「キキキッ」

「その表情、何か企んでますね?」

 

 ゲヘナ自治区の寮に帰る道中の車内で、マコトは悪そうな笑みを浮かべていた。

 

「イロハ、正直お前に言えばごちゃごちゃ言われるだろうからギリギリまで黙っていようと思ったのだが」

「まずそこからツッコミどころ満載なんですけど」

「このマコト様は、トリニティでクーデターを計画しているアリウスの連中と密かに手を組んでいるのだ!!」

 

 アリウス? とイロハは眉を顰めた。

 

「ああ……まさかまだ存在していたとは。

 先輩、その学校がどういうところだか、知っているんですか?」

 

 彼女のような才女でさえ記憶の底に埋もれているような、歴史に忘れ去られた学校なのだ。アリウスとは。

 

「知らん!! だが昔からトリニティを恨んでいるそうだ。

 私は秘密裏に、奴らの先生に接触し協力を要請することに成功した」

「はあ、まあギリギリで言われるよりはマシか……」

 

 連中について調べておかないと、と仕事が増えて溜息が出たイロハだった。

 

「何やら別々に活動しているのか、今度アリウスの生徒どもが接触してきた時に共に打ち合わせをする予定だ。

 くくく、トリニティの連中め、目にモノ見せてやろう!!」

「そうですか」

 

 さてこの困った人をどう操縦しようか、とイロハは脳内で面倒な思考を張り巡らせるのだった。

 

 

 三大学校の二つが水面下で事態を進める中、シャーレの先生の周辺でも事件が巻き起ころうとしていた。

 

 朝のニュースで、クロノス報道部が堂々とこのような見出しで生放送を始めた。

 

『SRT特殊学園、RABBIT小隊と見られる四人が子ウサギ公園を占拠し、デモ活動を主張か!?』

 

 と。

 

 分岐路を走る列車が、速度を上げ始めた。

 

 

 

 

 





トリニティの先生は政治担当なので、動きが少ないから実質前回のゲヘナの先生の続きみたいになってしまいました。前回の内容を補完するような内容でしたし。
ですが、今回はそれだけではありません。キヴォトスが加速します。

次回はSRTの先生か、ヴァルキューレの先生かどちらかになるでしょう。

なるべく更新速度を維持しますので、高評価や感想などを頂ければ嬉しいです。

あなたはどの先生に勉強などを教わりたいですか?

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  • ミレニアムの先生
  • アビドスの先生
  • 百鬼夜行の先生
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