鬼殺隊IF 本鬼殺隊ルート   作:限界社畜あんたーく 

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第零話

 

 

 

1901年。梅雨時。

鬼殺隊本部では、どんよりとした空気が佇んでいた。

 

先代産屋敷家当主の逝去。

病死と隊士たちには通達されているが、事実は異なる。彼は死にゆく隊士達を前に耐えきれず、自殺してしまったのだ。

真実を隠匿するため、遺体は早期に火葬された。顔を拝む間も無く、気付けば彼は随分と小さな姿となっていた。

 

次代当主───否、現当主である産屋敷輝哉は、眼前の骨壺に向かい、手を合わせ祈る。

そして数秒という短くも永い黙祷の後、キリと目を見開いた。

 

──未だ蔓延る鬼達を、鬼舞辻無惨を倒さなければ。

 

私の代で、この悲劇を終わらせる。

そのために、この身体が動く限り、出来ることは何でもやる。

強い覚悟の眼差しで、遠く───見えない場所に潜んでいるであろう者らをクワと睨みつける。

 

「明日…柱合会議を行おう。これからの鬼殺隊の方針を決めなければいけないからね」

 

柱の陰で聞いているであろう鎹鴉に聞こえるよう大きく呟く。小さく「御意」と声が聞こえた後、忙しなく羽ばたく羽の音が本邸中に響き渡った。

 

 

 

 

時間にして30秒足らず。羽の音は止み本邸は静寂に包まれる。

鼓膜が痛くなるほどの静けさ。心の何処かに寂しさを感じながらも、それに負けじと輝哉は目を瞑る。

今見るべきは鬼殺隊。その未来を憂い空想する。

 

今の鬼殺隊に足りないものは何か。欲しているものは何か…。

今現在置かれている状況を顧みながら思案した。

 

第一、鬼殺隊全体の質の低下。

第二、鬼殺隊の人員の不足。

第三、右肩上がりに増加する鬼の被害件数。

 

細々(こまごま)としたモノは除き、主に問題点として挙げられるのはこの三つ。

特に人員不足に関しては、限りなく限界に近い状況にある。

 

剣士を均一かつ順当に育てる環境は無く、未熟な状態で戦地に送られる者は少なくない。

隊を組むにも頭数が足りず、だというのに鬼の力は増す一方。柱を筆頭に優秀な剣士も居るが、彼らを酷使すれば当然亡くなる確率も高くなる。

その上十二鬼月との遭遇も珍しい話ではない。折角柱を出向かせたというのに、結果はこちらの壊滅に終わることもある。

 

これまでの鬼と鬼殺隊の戦いは、つかず離れずのイタチごっこを継続していた。だが、今の鬼殺隊のままでは、その関係すらも維持できなくなるかもしれない。

 

改革が要る。

今のままでは鬼の撲滅は愚か、鬼無辻の足掛かりすらも届くことはない。

大きく、鬼殺隊の形を変化させる必要がある。

 

……では、何から変えるべきか。

腕を組み思考する。

 

(────例えば)

 

例えば、最終選別。

産毛の生えた程度の実力しか無い幼子達を、鬼の潜む山に七日間閉じ込め、鬼との実戦による戦闘能力、様々な状況に置かれても対応できる臨機応変さを測る。

実力と精神力を兼ね備えた、鬼殺隊に望まれるべき存在であるかを見極める、古くから続く伝統ある行事だ。

 

鬼殺隊の登竜門として用意された大事な儀式。しかしながら、この最終選別には数多くの問題点が存在する。

 

・高い死亡率。

20人剣士を送り込み、5人残れば万々歳…というのは非効率が過ぎる。

 

・常人であれば精神を病むほどの過酷な内容。

最終選別を生き残り、鬼殺隊に認められた剣士でも、精神疾患を抱える者は少なくない。治療に励み復帰した者も居るが、大抵はそのまま霧散してしまう。勿体ないことこの上ない。

 

・剣士達を指導する者の有無の差。また、各剣士の指導、訓練に対する時間の長短。

育手の数が少ないというのも問題の一つに起因しているが…基礎を知っているのと知らないのとでは雲泥の差がある。成るべく均等に知識と実力を蓄える時間と場所を与えたいものだ。

 

・実力と運。

今の最終選別のやり方でな、実力が足りずも運が良ければ生き残る、逆に実力が大いに足りていても運が悪ければ落とされる場合が度々ある。

過去にも柱候補とさえ言われていた剣士の一人が、石に躓き転倒しただけで亡くなってしまったことがあった。また別の事案で言うと、呼吸法が使えないにも関わらず、運良く見つけた穴で数日過ごし生き永らえた者もいた。

一応、()()を含めて実力を測っているとはいえ、現状無駄かつ勿体ないことを行っているようにしか思えない。

 

 

(……うん。挙げればキリがない)

 

改良の余地は多分にある。

というよりも、今すぐに変えるべきだ。

古い考えが悪いという訳では無いが…この形が最適だとはお世辞にも言えないことは確かだ。

 

(古きを捨て新しきを得る…か。そういえば、最近その手の話題を聞いたような…)

 

額に手を当て思い耽る。

 

───そうだ。前に藤の花の家紋の家に出向いた時だ。

後ろ姿で顔は見えなかったが…確か入ったばかりの幼い隊士の二人だった。その彼等がこのような話をしていた。

 

[何故鬼殺隊の武器は刀しかないのだろうか?]

[それこそ海外で取り扱っている銃のような、高威力かつ殲滅力のある武器があるというのに、何故それを使わないのだろうか?]

 

私自身、同じ考えを抱いた事がある。

 

確かに銃の威力は刀の比ではない。

鉛製の銃弾ですら、鬼の固い皮膚を抉れるほどの威力を誇るのだ。それが日輪刀と同じ材質で作られれば、鬼の首など一撃で吹き飛ぶだろう。

算段予算を顧みず、隊士の皆が銃を担げば、今よりももっと効率よく、死者を出さずに鬼を倒せるかもしれない。

 

…しかしながら…それが実現することは叶わない。

 

資産云々の話ではない。…いや、関係ない訳では無いが。

 

そもそも銃という代物は、持ち運びや取り回しが大変不便だ。特に山岳や雑木林ではそれが顕著になる。また、銃は熟達した名手でもなければ、精密な射撃が困難であり、弱点である首を正確に狙わなければならない鬼とは相性が良くはない。

更に、一部の強力な鬼には銃の弾ですら見切られてしまい、当てることがより一層困難である。そして何よりも、激しい光と音により一般人に気取られてしまう危険性がある。

 

無論他にも理由はあるが、要するに銃と鬼殺隊、そして鬼どもとの相性は総じてあまり良くはないということだ。

 

 

しかしながら…武器の諸々、そういった根本の見直しというのも、これからは必要になるだろう。

 

古きを捨てるのではなく見直す。

新しきを得るのではなく見定める。

"昔ながら"を否定するわけではない。

"最先端"を肯定するというわけでもない。

今の時代に即した、新しい形式に、最適な姿へ、鬼殺隊を変える。

 

これは私だけではできないことだ。

客観視だけでは見えぬ不満や不備もある。

実際に動いている隊士達。彼等から本物の言葉を聞く必要があるだろう。

 

 

「……明日の柱合会議にて、その辺りを重点に話し合うとしようか」

 

 

 

 

 

 

 

時間にして5分程度。輝哉は漠然とそのような思考を巡らせた。亡き親への悲しみを紛らわせる気分転換。存外それは効果があった。

しかしながら──まさか、そのたった5分で生んだこの考え。それが結末を大きく変えることになるとは。

 

この時の輝哉は知る由もなかったのであった。

 

 

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