鬼殺隊IF 本鬼殺隊ルート   作:限界社畜あんたーく 

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第捌話

 

冨岡の指信号を頼りに、人混みの方へと進んでいく。

 

鬼殺隊の用いる指信号。

それは雑木林のような見通しの悪い場所でも伝わるよう動作自体大きな作りになっている。

だが、鬼にその合図を看破されない程に複雑化されており、指信号の型をある程度熟知した者でなければ解読は不可能。

それでいて、他の一般人には気取られないよう、人が取る自然な動作に見えるように、様々な創意工夫が施されている。

 

故にこの人混みの中でも、誰の目にも不審に思われることなく冨岡の指信号を鱗滝は見ることができ、更に双方の情報伝達にはなんら問題は発生していなかった。

 

 

『右方向。微修正。直進』

 

鱗滝はその合図を受け取り、少しだけ右へ逸れる。

 

『回避。直進』

 

眼の前の人を避けつつ、まっすぐ進む。

 

『回避。直進』

 

再度、前の人を避け、まっすぐ進む。

暫くその動作を繰り返す。

四回ほど人を避けた頃。冨岡の指信号が変化した。

 

『眼前。接近。待機』

 

目の前にいた男の背後にピッタリと着く。息を忍び、気配を消して。時間にして十秒程度。冨岡の合図を待った。

そして…冨岡の指信号が送られる。

 

 

『眼前。男。鬼』

 

 

その合図を目指した後。

鱗滝は男の肩へ手を伸ばし、ポンと手を置いた。

 

 

「そこの方。失礼ながら、こちらを向いてもらえませんか?」

 

 

それは、あまりにも大胆な行動だった。

今も多くの人が行き交う人波の中で、その中心で。

鬼の長と思わしき相手に対して行うには、あまりにも思い切った行為であった。

 

一見して命知らずに見えるこの動作。

しかし鱗滝も、無策無謀で行ったわけではない。

 

そもそも、ここに鬼舞辻が居るのは何故だろうか。わざわざバレるリスクを孕んでまで、人混みに溶けているのは何故なのか。その理由は不明瞭ではあるものの、少なくとも『人に扮し紛れる必要』があり、そして『鬼と気付かれるような、目立つ行為は避ける必要』があることは明白。

だからこそ、周囲の視線が集まるように、わざと目立つように、声を掛けた。鬼舞辻が鬼であることを周りに周知しないよう、力の行使を抑制させる為であった。

 

「…なんでしょう?」

 

それを知ってか知らずか、男は不愉快そうな表情を浮かべ、ゆっくりとこちらへ振り向いた。

 

病的なまでに白い肌。血濡れた月のように赤い瞳。

着飾った服からは、確かな気品と豊かさ、そして陰りのない清潔さを感じさせる。

何故かは分からない。分からないが…鱗滝の勘が、強く知らせる。

 

鬼だ。コイツは鬼だ。

確かな動機も根拠もない。

だが、コイツは鬼舞辻だ。元凶だ。

鬼殺隊が滅すべき、忌むべき悪鬼だ───と。

 

ギリと歯を食いしばりながら、男を仮面越しに睨みつける。

だが───男が抱いていたものを見て、その表情は一転する。

 

「おとうさん。この人、だぁれ?」

 

男の懐に抱かれた、小さな女児。

女児はこちらを指で指しながら、そう男に問うた。

鱗滝は思わず硬直してしまう。

 

「あら?どうしたの?」

 

更に、男の横に並んでいた女性が、男にそう声をかけた。

 

「…この人が、私を呼び止めてね」

「そうなの。…お知り合い?」

「いや?知らない人ですね」

 

二人は男と違い、鬼には見えない。

理性的であり、あまりにも平静すぎる。

人と言われても納得できる…が。

現時点において、二人が鬼かどうかはさほど問題ではない。

今注目すべき点は、この鬼が、人間の普通の家族のふりをして、自然と社会に溶け込んでいたことだ。

 

元々、鬼には一部、知性と理性を伴った個体が居るのは見受けられた。その傾向が濃く見られる程、本体の実力も高くなるのだが…まさか、鬼舞辻程ともなれば、人間に化けて世に馴染むことすらも造作ではないということか。

 

まさに節穴。木を隠すなら森の中とはよく言うが、まさか人の中に溶けていたとは。それも、周りの人にバレないほどの精巧な擬態とは。

鬼殺隊の目を欺くための技に、最早感心すらしてしまう。

 

ただ───今更ながら、この現状、これらの情報は、あくまで確定事項ではないということを念頭に置かなければならない。

 

今の所、炭治郎の嗅覚と、鱗滝の勘でしか、この男が鬼舞辻であるという証拠を得られていないのだ。

それだけでは、勘違いの可能性が極小ながらも存在する。事実たったこれだけの情報だけで、鬼舞辻かどうかを判断するのは、客観的に見ても材料不足であることは否めない。

 

せめて、鬼である証拠を何か、この目で捉えなければ。

だが、いきなり刀で斬り付けるわけにもいかない。不死川の血を持っておけば良かったが、昨日の任務で使ってしまった。

 

ならば───カマをかけてみるか…?

 

鱗滝はゴホンとわざとらしく咳をすると、男に向かって頭を下げた。

 

「…失礼、人違いだったようです。私この辺りの治安を警備している、()()()と申します。…実は最近、この辺りで不審者が出没しているという話を耳にしまして───」

 

その後は適当に理由を付けた。

服装が似てるだの、後ろ姿が似てるだの。

だが、それよりも。

産屋敷の名を聞いた、男の反応。今重要なのはそれである。

仮面越しに、男の顔を注視する。

 

「まぁ。不審者ですって。怖いものですね」

「…はぁ…」

 

一瞬、特にこれといった感想を抱いていないように見えた。無関心といったほうが正しいだろうか。無表情で、気にと留めていないような、そんな顔。

 

しかし鱗滝の慧眼は捉えていた。

男の表情の裏に隠された、怒りや嫌悪に似た感情を。

 

(もう少しだけ、絞り出せるか…?)

 

鱗滝が再度カマをかけようと口を開───

 

 

 

 

「鬱陶しい」

 

 

 

 

小さく。鬼舞辻はそう呟いた。

それに対し鱗滝が反応するより前に、鬼舞辻の手は付近を歩いていた男の首を掻っ切る。

それは鱗滝の動体視力をもってようやく視認できる速度。周囲の人は知覚することはおろか、鱗滝でさえそれを防ぐことはできなかった。

 

 

「うっ………ウガァァア!!!」

 

 

首を切られた男は、傍にいた女性の首目掛け噛み付く。

悲鳴と動揺が人波を伝い、混乱が招かれる。

 

「クソッ!遅れた!!」

 

人混みだからと、抜刀するのを躊躇してしまった。鬼化してすぐに斬り捨てておけば、このようなことにはならなかった。

しかし、今刀を抜けば、間違いなく人の目に止まる。これにより鬼殺隊が目立ち、そして鬼の存在を周知されれば、社会の混乱を招くことになる。

それだけは避けなくてはならない。

 

一先ず、鬼がこれ以上暴れることがないように、鱗滝は懐から縄を取り出すと、鬼の手を縛り上げる。

その間、鬼舞辻は人混みに紛れ逃走を図っており、冨岡はそれを追おうと駆け出す。

 

「追うな!義勇!今はまずこの鬼の対処だ!」

 

大声を上げ、冨岡を制止する。

 

鬼であることを周知させる危険を顧みず、あのような強攻策に出たということは、それだけ鬼舞辻も追い詰められているということ。そしてそれは、これ以上鬼舞辻を刺激すれば、戦闘になる危険性も増したということでもある。

 

鬼殺隊の柱が全員揃っているような、万全の状態ならまだしも。たった二人(正確には三人)で鬼舞辻に挑んだ所で、いとも容易く雑草のように薙ぎ払われることは安易に想像がつく。

ならば今は、いかに民間人への被害を少なくできるか、そして鬼舞辻の情報を鬼殺隊に届けることこそが、今優先されるべきことである。

 

「………分かった」

 

苦虫を噛み潰したようなような顔をしつつも、冨岡は鱗滝の命令に従い、追跡を止めた。

 

残されたのは、鬼舞辻により鬼にされた男のみ。

鱗滝は既に手足口元を含む全身の拘束を終えており、鬼は力強く藻掻くも拘束から抜け出せないでいる。

 

「あとは、この鬼をどうするかだが…」

「…ここは人目があり過ぎる。鬼を連れて、離れるべきだ」

「だな」

 

冨岡の意見に賛同し、鱗滝は鬼の身体を担ぐ。

そして鎹鴉を呼ぶと、混乱を収めるよう隠への伝言を与えた。

そのままこの場から去ろうと駆け出───

 

「ま、待ってください!殺しちゃうんですか!?その人を!?」

 

冨岡の背後で一部始終を見ていた炭治郎が声を上げる。

 

「その人はまだ、誰も殺していない!なのに殺すんですか!?」

 

そう言いかけた時。

その場から去ろうとしていた冨岡は、ピクリと動きを止め振り向いた。

 

 

「なんだ?人を殺していない鬼は、お前の妹のように、人を襲わなくなるのか?」

 

 

決して冨岡は、怒っているわけではなかった。

単純な疑問。それが可能なのかを問うた質問。

しかし、その本意とは真逆に、険悪かつ怒りに満ちた人相をしていた。

 

無論、それは炭治郎も分かっていた。匂いでそれは理解していた。だが、それを理解した上で、思わず身動ぎしてしまう程、その眼光には強い圧があった。

 

「…お前の妹という前例がある以上、俺も可能性は考慮する。だが、今こうして人を襲おうとしている者に、一々慈悲を与える余裕はない」

「だからって…!」

 

今は正気を失ってるだけなのかもしれないじゃないか。

いくらなんでも、殺そうとする判断が早すぎるんじゃないか。

そう言いたい。この人を説得したい。

───だが、口が開かない。

目の前から、悲壮漂う匂いが漂ったからだ。

 

「…過去、俺が対峙してきた鬼の中にも、人を食いたくないと言った者がいた。事実、そいつは身内に手を出すことはなく、極力人食いを避けているようだった。…だが、そいつは飢餓に瀕した途端、見境なく家族を食おうと牙を向いた」

 

当然、その前に鬼は斬ったが───と、冨岡は付け足す。

ただ…その後どうなったかは、言わずとも理解できる。

 

「…俺達は鬼殺隊だ。人を救うために鬼を狩る。情をかければ、今度襲われるのは自分の大事な人になるかもしれない。…それを理解した上で、お前はあの鬼に慈悲をかけろと、そう言うのか?」

「ッ…!」

 

冨岡は炭治郎の返答を聞く間もなく、鱗滝の共に人混みから去ろうとする。

 

「ま、待ってくだ────」

 

呼び止めようと声をかけた、その時。

 

 

 

 

「お待ち下さい。そこの人」

 

 

 

 

人混みが消え、周囲が花の紋様で彩られる。まるで着物の生地の幕を下ろしたように。それは美しく、蠱惑的だった。

 

「血鬼術───!!」

 

その紋様に同じ囚われたのだろう鱗滝と冨岡が、刀を抜いて臨戦態勢に入る。

二人は周囲を見渡しながら、炭治郎を見つけると守るように正面に立つ。

 

「炭治郎!鬼は何処か分かるか!?」

「え!?えぇっと…」

 

鼻で周囲を探知する。

しかしうまく鼻が利かず、場所を探ることができない。確かに鬼の臭いはするが…

 

三人が困惑している最中。コツコツと幕の裏から二人の足音が近付いてくる。

二人は足音の方向へ刀を向けつつ、警戒する。

 

 

「刀を下ろしてください。私は貴方達の敵ではありません」

 

 

幕の裏から現れたのは、着物を着た女性と書生のような服装をした男だった。

 

 

「私は珠世。鬼であり、医者であり、そして───鬼舞辻無惨の抹殺を願う者。どうか…私達のお話を聞いてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男は、暗い路地裏を歩いていた。

帽子の陰に隠れた顔は、まさしく鬼の形相。しかし足取りは軽く、まるで最早慣れたものだと言わんばかりにスタスタと突き進む。

 

道中酔っ払いに絡まれたが、それは無視した。

今はそれよりも、済ませるべきことがあるからだ。

 

パチンと、指を鳴らす。

すると男の背後から、まりで影から滲み出るように、二人の鬼がドロリと現れた。

 

「「なんなりとお申し付けを」」

 

跪いた姿勢のまま、そう遜る。

男はそれを視界に入れることすらなく。

自身の帽子を取ると、それを背後に投げ捨てた。

 

 

()()()()()()

 

 

それは、仮初の姿を消す合図。

月彦という男が居た証拠をすべて抹消し、無かったことにする命令。

それには当然、あの妻娘も含まれている。

 

「食べてしまっても宜しいので?」

「構わん」

 

しかし、まるであっさりとそう吐き捨てる。

隠れ蓑に愛情や未練を抱くわけもなく。廃棄物のその後に何の興味も湧かないように、淡々とした態度であった。

 

「あの仮面の男は如何にしましょう?」

 

そのまま立ち去ろうとしていた男は、背後の声を聞き暫し思考する。その目には感情はなく、まるで勘定を計算する機械のようであった

 

「…放っておけ」

「…それは、あの男を見逃す、ということですか?」

 

片方の鬼の、回りくどい聞き方に、男の眉間のシワが寄る。

 

「…そんなことも、一々言わなければ分からないのか?お前は」

 

圧倒的な威圧感。怒りと嫌悪の入り交じった、真剣のような鋭利な視線。

鬼の額から顎の先へ、冷や汗がダラダラと流れる。

だがそんなものは知らぬ存ぜぬと言わんばかりに、男は鬼の首へ手を伸ばすと、そのまま絞め上げ持ち上げる。

 

「ぐぅ!?」

「あの男は柱だ。それも見抜けん節穴が出しゃばるな。図々しい」

 

そのままもう一人の鬼の方へ投げ捨てると、とっとと消えろと睨みつけた。

二人が影の中に消える。

男はそれを気配で気取った後、不快感を顕にした息を一つ吐いた。

 

 

 

男はそのまま、一本道を突き進む。

その道の先は行き止まり。この道を知っている者であれば当然、引き返すのが常識だが。この男は一直線、足を止めようとしない。

むしろ疑惑を抱いた顔で、眼の前の道なんて気にも留めずに、歩き続けている。

 

(あの男…何故私を見抜けた?)

 

その疑問だけが、男の心残りであった。

アレは、まるで男が鬼であることを理解していたようだった。どころが、男がそれよりもさらに格の上の存在であることを、それこそ鬼舞辻無惨であることまでを見抜いていたような気さえする。

 

残した痕跡や情報から探知したとは思えない。何百年と、その為だけに細心の注意を払って来た。

考えられるのは…鬼と人を判別できる道具か何かを作ったか。

 

「異常者共め。また面倒なことをしてくれる…」

 

苦労して立てた隠れ蓑が、これからは役に立たなくなる危険がある。早急に対策を取らなければ。

 

苛立った様子で、そのまま男は眼の前の壁に走り込む。

男の身体がそのまま壁に当たると思われたが、その直前に、周囲に琵琶の音が響いた。

 

気が付けば、そこには男の姿はなく。

足跡さえも、一足たりとも残ってはいなかった。

 





今年度の最終選別記録①

審査官 
元炎柱 煉獄愼寿郎 元花柱 胡蝶カナエ
監視役
階級癸隊士 12名

本最終選別参加者 26名
内合格者 4名

合格者
胡蝶カナヲ
評価点 100点(50/50)

煉獄愼寿郎氏 
「敏捷神速。沈着冷静。実力精神力共に高く、鬼殺隊に求められるべき要点を押さえている。今後の成長にも期待が持てるだろう」
評価 合格

胡蝶カナエ氏
「正直、カナヲには鬼殺隊に入ってほしくないって思ってて。落とすつもりで審査していたのだけれど…あの戦いぶりを見たら、落とすにも落とせないじゃない。文句無しで合格よ。………ま、私が育てたんだけどね!」
評価 花丸大合格
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