鬼殺隊IF 本鬼殺隊ルート   作:限界社畜あんたーく 

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第壱拾四話

 

時は遡ること十数分前───

 

 

 

我妻善逸は獪岳の指示を全うし、木に背を預け待機をしていた。

 

動かなければいけないという使命感はあった。

このままで良いのかという罪悪感もあった。

だが、善逸は未だに動けずにいた。

 

鬼との接敵、対決を怖がっていたのは事実。しかしそれ以上に、獪岳の命令を無視し無断行動を取った、その後のことが、何よりも恐ろしかった。

怒られることも、罵られることも、貶されることも、慣れてはいる。 

だが、慣れているからといって、嬉々としてソレに飛び込むような馬鹿ではない。

ましてやそれが命令違反であるなら尚更。

 

そうだ。これは命令なのだ。

別に無理に逆らう必要性はない。

そもそも仮に自分が動いた所で、何が変わるというのか。

獪岳であれば一人で解決できるだろうに。

 

動く必要はない。

ただここで、二人の帰還を待てばいい。

 

 

「………………」

 

「…………」

 

「……」

 

……ただ、それではきっと、何かが不味い。

耳の奥からジリジリとなる耳鳴りが、善逸の第六感を刺激する。

悪い予感というやつだ。

 

「……ごめん、獪岳」

 

気付けば、善逸は歩いていた。

獪岳が走ったその方向へ、聴覚を頼りに進んでいた。

善意

 

 

 

 

 

 

 

 

 

草木をかき分け、暫く歩く。

そうしていると、目前が開け小さな円形の広場が見えた。

人の手があまり入っていない雑木林の中に、このような中々開けた空間というのは随分と違和感がある。

現にその違和感を助長するように、丁度広場の中央には家が一つ浮いていた。

立っている、のではない。浮いているのだ。

木々に張られた細い糸によって、その家はポツンと浮いていたのだ。

 

「なんだアレ…?」

 

ただ浮いているだけなら、まだ良かった。いや良くはないが。

一種の近代芸術や、新しい建築方法として、ギリギリ納得できたかもしれない。

しかし、その家はグワングワンと大きく揺れていた。

中からは獣の叫び声のようなものと、それに対する悲鳴のようなものがしきりに響いている。

 

怪しい。 あまりにも怪しい。

きっとあの家の中に、世にも恐ろしい鬼がいるのであろう。

ゴクリ、と喉仏を鳴らす。

   

注意深く、その家を観察していると、ふっと揺れと叫び声が収まり、その家の引き戸がズズッと開いた。

 

 

───ボトッ

 

 

引き戸から落ちてきたのは、人の頭──否、鬼の頭。

悲痛に歪んだその顔は、何か叫ぶように口を忙しなく動かしながら消滅した。

 

一体何が起きたんだ?

 

現状が理解できないまま困惑していると、これまた引き戸から何かが落ちてきた。

 

 

「ダァ…ハァ…俺様がァ……この森のォ…ヌシ、だァぁあアッ!!!」

 

 

何処となく予想はしていたが…。

引き戸から落ちてきたのは伊之助だった。

大方これまであの鬼と戦っていて、丁度今鬼の首を刎ねたのだろう。伊之助の外傷から見て中々の激闘であったことが推察できる。

 

「おいおい、大丈夫かよ伊之助…」

「あ?紋逸か!遅ェじゃねぇか!」

「俺の名前は善逸だ!あと、俺が遅いんじゃなくて、伊之助が勝手に突っ走ってるだけだからな!」

 

テクテクと伊之助の方に寄り、懐から消毒液を取り出すとそれを見える範囲の傷にぶちまける。

当然伊之助は猛烈に痛がる素振りを見せるが、善逸はそれを意に返さず、全身の怪我の具合を静かに診る。

───怪我の種類は大半が切創。それ以外だと打撲がチラホラ見える程度。致命傷になり得るような怪我を負っているようには見えない。

一先ずその様に判断した善逸は、消毒液を仕舞うと別の傷薬を取り出し、それを切創に塗る。そしてその上から包帯をぐるぐると巻き始めた。

 

「アイツが吐く毒はヤバそうだったからな!アレだけは当たらねぇように気をつけたぜ」

「へー」

 

興味が無さそうに受け流す善逸。

 

尚、二人の知りようのない情報だが…

本来、伊之助が倒した鬼は、人を傀儡とする毒液を持っていた。

それを使って子分を増やすことで、戦闘を優位に進める戦法を取るはずだったが…しかし、そもそもの材料である人が手に入らないという誤算があった。

普通の一般人は、こんな山奥には入ることが滅多にない。仮にあっても、それは食料として確保される。

鬼殺隊士は、いつ頃からか少人数かつ慎重に行動するようになったため、確保がし辛くなった。その上ようやく確保しても、その者らは大抵自害か、相打ち覚悟の特攻を仕掛けようとしてくる。

そんなこんなで、子分が全く増やせなかった鬼は、渋々単身で伊之助と戦うことになった。

その結果が、あの様である。

 

閑話休題。

 

「…これで一先ず、怪我は大丈夫だろ」

「よし!それじゃ次の獲物を探しに───ぐえっ!?」

 

ドシドシと走り去ろうとする伊之助。その首根っこをガバっと掴むと、そのまま引いて尻餅をつかせる。

 

「何すんだテメェ!?」

「オマエ、恋柱様から教わったこと忘れてないか?」

「あ?カイバシラ?…あぁ、あの桃色頭のつえー女のことか?」

「恋柱様だ!!二度と間違えるなよ!!」

 

伊之助の首を掴んだまま、ブンブンと振り回す。

脳震盪でぶっ倒れそうなほど激しく振っているが…伊之助は大して食らっていないのか、余裕綽々といった様子である。

 

「その人が教えてくれただろ?『適切な休息を挟みなさき』って。「一回鬼を倒すごとに、せめて息を整えるぐらいの時間を設けなさい」って」

「ン?……あ……いや、言ってたか?」

「なんだその『…あ…』は!?思い出した時の『あ』だろうが!!」

「わーったわーった。休めばいいんだろ休めばよ」

 

渋々、といった様子で、伊之助はその場であぐらをかくと、息を整えて休み始めた。

しかし流石に疲労が祟ったのか。その内呼吸は寝息に変わり、伊之助はそのまま寝てしまった。

 

「えー。寝ちゃったよ。まぁ中々激しい戦闘だったみたいだし、無理もないか」

 

さて、伊之助をどうするべきか。

伊之助をさっさと起こすべきか。ひとまずここで休ませるべきか。

それとも、伊之助を連れて山を下るべきか…

 

「…うーん」

 

と、善逸が悩んでいると───

 

 

ドッピシャアアッ!!!!

ゴロゴロッ…ゴロゴロッ…!!

 

 

「!?!?」

 

遠方より雷鳴が轟く稲妻の音が響き渡った。

それと同時に、音の方向から全身を叩く衝撃波まで伝わってくる。

───な、なんだ!?

雷?いや、しかし空には雨雲どころが曇り空すらない。

それにこんな山奥だ、山火事は起きてもあんな大爆発なんて滅多に起こりはしない。

ならば、考えられるのは……

 

「獪岳…!?」

 

獪岳が、鬼と戦っている。

今の技は恐らく陸ノ型。善逸には到底扱うことのできない大技も大技。

獪岳がそれを扱う時は決まっている。つまり、『今の獪岳は後先を考えていない』ということ。

師───桑島の言葉が脳裏に浮かぶ。

 

『獪岳のあの技は、儂ですら度肝を抜かれた。それ程極まった『奥義』。大抵の鬼であれば防御すら困難。速度も相まって、間合いの中であれば回避するのも一苦労じゃろう。…しかし、その一撃で仕留めきれなければ、逆に獪岳は窮地に立たされる。あの子の才能は素晴らしい。じゃがその才能が、あの子の首を絞めておる。頼む、善逸。もしも、曇り空でもないのに雷鳴が聞こえたならば────

 

 

 

────その方へ、急いで駆けてほしい』

 

 

 

善逸は、伊之助を置いて音の方へ走る。

 

優先すべき順番が間違っているとは思っている。

他の第三者にこの光景を見られたら、何を言われるかなんて分かりきっている。

理解している。理解はしている。

けれども。それでも。だとしても。

走らなければならないと。向かわなければならないと。

全身が、本能が、鼓膜が、そう叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

(あれは…………!!)

 

音の発生元に辿り着くと、鬼に追い詰められる獪岳の姿があった。

全身ボロボロ。肩で息をしながらも、荒い戦意を宿した目を鬼に向けている。

対して鬼は飄々とした表情をしながらも、限りなく濃密な殺意を宿した瞳を獪岳に向けている。

どちらが攻勢かなど一目で分かる。

だが、そんな折。

 

「チィッ…こうなったらやるしかね………ェぁ?」

 

獪岳の瞳が、善逸を捉えた。

視線ががっちりと合ったのが一目で分かった。

その瞬間────獪岳の表情は見たこともないような顔をした。

深い絶望が伝わる側面、淡い希望を少しでも抱いているような、絶妙すぎる表情。

しかし、それも束の間。

 

「クソが…!やってやるよ、やってやらァいいんだろ?クソッタレがッ!」

 

そう叫びながら、獪岳は壱ノ型の構えを取った。

 

その構えは、見る者全てが『完璧な構えである』と言えるほどの完成度を誇っている。

だが、唯一。鬼殺隊の一部隊士と、一人の育手のみが知っていた。

 

獪岳は、壱ノ型を使えない。

 

なのにこの状況でこの構えを取った。

得意の陸でも弐でもなく。使えないはずの壱ノ型。

何故、この構えを選んだのか。

その真意は、この場にいる善逸にのみ伝わった。

 

 

(俺に…やれって…言うのか…?)

 

 

獪岳には使えない唯一の型。

善逸には使える唯一の型。

これを選ぶ意図。そんなもの、一つしかない。

 

 

善逸が、あの鬼の首を切る。

 

 

(無理無理無理無理!!!無理だよ!!!)

 

獪岳ですら負けかけた鬼を相手にするなど。

ましてやそんな鬼の不意をついて首を切るなど。

そんな大役。俺に出来るわけがない。そんなことが出来るわけが───。

 

(……でも、出来なきゃ獪岳が死んじゃう……)

 

こうして悩んでいる内にも、鬼は血鬼術を使い獪岳を追い詰めている。

刻一刻と、獪岳の命の灯火は消えかかっている。

悩んでいる暇はない。

 

でも…。

 

だけど…。

 

 

それでも…。

 

 

 

足が竦んで…。

 

 

 

 

 

(───────────動け)

 

 

 

 

 

(動け動け動け動け動け動け─────今動かないで、いつ動くんだよ!!!)

 

 

 

 

 

覚悟は数秒。

決まれば刹那。

 

 

低く前傾姿勢に構え、刀を握る。

カッと開いた瞳は、射殺さん限りの眼光を持って鬼の首へと定まる。

体内に溜まった熱を放出するかの如く、深い深呼吸と共に発散。

全身の筋力を総動員し、酸素を全身に生き渡らせ、この一撃に全身全霊全てを懸けて──

 

 

 

 

 

『雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃』

 

 

 

 

 

────放った。




鬼殺隊隊士の持ち物

─基本装備
・鬼殺隊の隊服
・日輪刀
・鎹烏
・藤の花のお守り
・蝶屋敷製携帯薬箱(消毒液や包帯もこれに入っている)
・呼笛(鎹烏や隠、遠方に居る隊士を呼ぶ為のもの)
・遺書
・自決用の毒・短刀

─一部隊士が装備しているもの
・桜餅
・不死川の血が詰まった小瓶
・鬼用の毒
・桜餅
・爆竹(又は煙玉)
・冨岡義勇の写真
・桜餅
・試作型機関銃
・桜餅
・蛇
・厄除の面
・桜餅
・桜餅etc...
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