鬼殺隊IF 本鬼殺隊ルート   作:限界社畜あんたーく 

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なんか倍の長さになっちゃった


第弐話

 

 

雲取山の麓にある小さな病院。

鎹鴉の案内の元、少年を担ぎ急いで向かった。

不審な仮面、その上長物を帯刀しているのだ。そもそも治療を受けられるかも怪しかったのだが…どうやらそこの医者は彼と面識があるらしく、担がれてきた姿を見ると一も二もなく診察、治療を行なってくれた。

 

結果から言えば…少年の命に別状は無いとのことだった。

肋骨数本と右腕尺骨の骨折。内臓の損傷と左足の捻挫、そして打撲と切創が複数ヵ所。怪我の数だけ見ても分かる通りのかなりの重傷。特に内臓の損傷がかなり酷いらしく、治療が少しでも遅れていれば何れかの臓器が機能不全に陥っていた可能性もあったとのこと。

しかしながら、怪我を負ってから治療までの間があまり空いていなかったこと、そして本人の生命力の高さが功を奏し、安静にしていれば後遺症もなく傷は完治する──と、医者は言っていた。

 

治療が終わった間もなく、彼の病室へと向かう。

扉を開けてみれば、そこには病床で静かに寝息を立てる少年の姿。

それを見て、俺は心の底から安堵の息を吐いた。

 

それにしても…本当に、彼が助かったのは奇跡と言う他ない。

あの一家が襲われた痕跡から見て、現れた鬼は相当の強者だった。少なくとも一般人が太刀打ち出来ないだろうと断言できる程の、強い鬼であることは間違いない。

だが、それでも彼は生き残った。これを奇跡と言わず何というか。

本当に、彼が助かってよかった。

 

───不意に、彼の頭上に掲げられた札に目を向ける。

筆で丁寧に描かれた漢字五文字。十中八九、彼の名前だろう

 

「竈門炭治郎……か」

 

少年改め、竈門炭治郎。そうなるとつまり、彼女の名は竈門禰豆子となるわけか…ふむ、二人とも中々良き名である。

特に炭治郎。どうやら炭売りをしていたそうだが、その縁と祈願を込めるにはうってつけの字並びだ。

 

あのまま炭売りを続けていれば…普通の、ごく平凡な一家として、過ごせていたかもしれない。

……だが、そうはならなかった。不運にも、鬼の被害に遭ってしまった。彼にはこれから先、辛い日々が待ち受けているだろう。

家族を無くし、唯一残された妹は鬼になった。

これから先、彼は一人孤独に生きることになる。

 

「…いや、若しくは…」

 

禰豆子は錆兎の目から見ても、異常な存在であることは一目で分かった。お館様に話を通せば、少なくとも処分されるようなことは無いはず。

もしかしたら、鬼を人に戻す唯一の手掛かりになるかもしれない。

そうなれば或いは───

 

「………?」

 

色々と思考を巡らせながら、少年に目線を戻した時。

ふと、彼の耳飾りが目に入った。

 

「耳飾り…この模様…」

 

何故かは分からない。見覚えなんて無いはずなのに、何処かで似た話を聞いた覚えがある。思い出そうと張り切るが、古く霞んだその記憶は、朧げかつ大雑把でしかなく、いくら揺すろうと終ぞ思い出せることはなかった。

 

「…まぁ、良いか。一先ずは、これらのことをお館様に報告することが先決だろう。禰豆子の」

 

窓際に立っていた鎹鴉にこの件の一部始終をお館様に伝えるよう話すと、カーとひと鳴きした後バサバサと勢いよく羽ばたいて行くのだった。

 

 

 

 

…さて…これからどうしたものか。

 

別の任務に向かいたい所だが、その前に禰豆子をどうにかしないといけない。別の場所に預けるでも保護するでも、兎に角手放さなくては、任務に向かうどころの話ではない。

だが、生憎錆兎には鬼の少女を安心して預けられるような伝手はどこにもない。…いや、居ないことはないが…あの人の場合物理的な距離が空きすぎていて、万が一に直ぐ駆け付けることができない。成る可く近距離かつ、常時監視できる状況下にあったほうが個人的に安心できる。

 

様々な条件の下、適所を吟味するとなれば……

 

(蝶屋敷…か)

 

そうと決まれば善は急げ。

早速医者に駄賃を払うと、錆兎は禰豆子の居る山の方へと駆けて向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

 

 

 

 

蝶屋敷。その一室に、蟲柱胡蝶しのぶは座していた。

目の前には幾つかの毒の素。それを慎重に調合しながら、その効能を調べていた。

あくまで鬼を狩るための研究ではあるものの、本人にとってそれは最早習慣と呼べるまでに身に染みたモノと化している。その手際たるや本職のそれをも遥かに上回る程。熟達した職人の手捌きと遜色が無いほどに、それは極まっていた。

 

(───ふぅ、これで一先ず完成…と。あとは実戦で試して………おや?)

 

ゴトンッ…。

その大きな物音を感知し、しのぶは取り組んでいた作業を止め、そして音の方へと視線を向けた。音の反響や大きさからして、恐らく壁の向こう──今居る部屋より廊下を跨いだ先の部屋から鳴ったのだろうと推察する。

丁度毒の調合も終わった所だ。息抜きついでに様子を見ようと立ち上がると、部屋を出て音のした部屋と向かった。

 

 

 

 

 

 

「…えーっと?鱗滝さん?」

 

部屋の扉を開ける。

するとそこには、何やら様子のおかしい錆兎がいた。

 

「ん?あぁ、しのぶか。どうしたんだ?」

「どうしたも…こうしたも…あの…」

 

冷や汗をダラダラと滝のように流し、明らかに後ろめたい何かを隠した苦悶の表情を浮かべ、その上声音と足先まで少し震えている。

見るからに怪しい……のだが、今この場には、それ以上におかしな点がある。

 

「なんですか、それは??」

 

錆兎の背後には、身の丈以上の大きさを誇る、紐で締められた巨大な木の箱があった。

形状からしてまるで棺…というか、よく見なくともそれは棺そのもので、事実箱の正面には死者の顔を覗くための小窓が設けられている。

明らかに異物。明らかに異様。

しかし本人はそれを自分の身で隠せているつもりなのか、まるでさも「いつも通りだが?」のような、謎に自信ありげな気迫をうっすらと纏っている。

天然は一周回ると可愛く思えるとはよく聞くが、流石にここまで来ると普通に腹が立ってしまう。

 

「その、鱗滝さんの後ろにある、大きな箱は一体…?」

「これか。…いや、本当はもう少し小さい箱が良かったと反省しているんだ。だが、どこを探しても丁度良い大きさが見当たらなくてな。そこで町外れに古い棺屋があるって話を───」

「別に私はその箱の所在を知りたいわけではなくて、持ってきた意図を知りたいのですが…?」

「……まぁ…そうなるか…」

 

何故かしょんぼりと肩を落とす錆兎。まるで叱られるのを待つ子犬のように小さく萎んでいる。

 

「蝶屋敷の管理人として、安全確保の為にも命令します。その箱の中に入っているものを見せて下さい」

「……分かった。だが一応、先に断っておくが…仮に、この中から何が出たとしても、早まって攻撃したりするんじゃないぞ?」

「…まさかとは思いますけど…もしかして、中に鬼が入っているとか、言うつもりじゃないですよね?」

 

図星。表情の変化と動揺が典型的過ぎて最早何も感じない。 これで箱の中身が違えば、なんという演技力だと脱帽する所だが…まあ、この男に限ってそんなことは断じてあり得ないので、九割九分鬼で間違いないだろう。

 

(この人は優しいから、いつかこんな日が来るんじゃないかって思ってたけど…本当に来るなんて……でも、よく考えてみれば…鬼に情が湧いたからって、わざわざここに連れてくるかしら…?)

 

この蝶屋敷に鬼を連れてきたという愚行。それ自体に中々の怒りが殺到しているものの、しかし彼が何の案も無しにそのような行動をするとは思えない、という冷静な思考も過る。

鬼殺隊に対し、利をもたらす意図があるハズ。

胡蝶しのぶは錆兎のことを、そういう人間であると認識している。

 

「……はぁ、分かりました。何があろうと、私はその箱の中の存在に対し一切の攻撃はしません。なので早く、箱を開けて見せて下さい」

「…あぁ」

 

渋々──といった顔で錆兎は棺に手を伸ばす。

 

所謂普通の棺。木製の、蓋をただ被せているだけの棺を、白く細い紐で雁字搦めに巻いている代物。

紐は見るからにきつく締められており、手で解くのは中々至難の技だろう。錆兎も最初こそ指で解こうと努力していたが、その内堪忍袋の緒が切れたのか刀を抜き紐を切り裂いた。

そして、棺の蓋はゆっくりと開く。棺の中から押されるように力強く、そして着実に開く。

そして───ドスンッ と、支えをなくした蓋は倒れ、そして中に居た生物が、その姿を現した。

 

「……これは……!」

 

 

 

 

 

「もごっ!」

 

 

 

 

 

中から現れたのは、腰の丈ほどの小さい鬼だった。 

人を噛まぬようにか、口元には白い布が当てられており、そのせいで何かを喋ろうとするたびにフゴフゴと音を立てている。

 

「…随分と…可愛らしい鬼ですね?」

 

何を想像していたのか。

しのぶはキョトンとした表情で目の前の小さな鬼を見つめる。尚錆兎も何故か驚いたような表情を浮かべていたが──それは兎も角。てくてくという効果音が似合いそうな歩行を行う鬼を眼前に、しのぶは警戒心を薄め細かく観察する。

 

「服に付着した血の跡は…返り血ではなさそうですね」

「あぁ。現にこの鬼は、人を一人として襲っていない。服の血は自身の負った傷が大半だ」

「鬼の人を襲う本能を、残った理性で抑えているわけですか。それは確かに珍しいですが…」

 

珍しいには珍しいが…別にそれがなんだというのだろうか。

理性で抑えても、何れ時間が経てば飢餓状態に入る。

そうなれば理性は効かなくなり、見境なく人を襲うようになってしまう。鬼殺隊の常識だ、事実そのような現場は数度見たことがある。

この鬼も飢餓状態に入れば人を襲うに決まっている。

 

「今ここで倒した方が、確実に安全ですよ?丁度先程、新しい毒も完成しましたし、その試験台に──」

「そう焦るな。まだ説明が終わっていな───」

 

苛立つしのぶ。それを見越し、事の経緯を説明しようとする錆兎。その図が着実に、滞ることなく進もうとした、その時であった。

 

 

スス……ッ───

 

 

それは、扉を開いた際に生まれた風圧と、その勢いに比べると、やけに音が小さく、やけに丁寧な動作であった。

思わず錆兎たちが会話を止め、振り返ってしまうほどの違和感と、それと同時に何故か慣れ親しんだ感覚を覚えてしまうそれは───錆兎に、本能的に冷や汗をかかせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ここに居やがったか。しのぶ、今テメェのことを探して──

 

 

 

 

 

 

 

 

──あ?」

 

 

 

 

 

鬼に対する恨み怒りは柱随一。

一切合切の情を鬼に抱くことはない、血の気の最も多い戦闘意欲の大化け物。

風柱───不死川実弥。

 

「…うわ」

 

まさに今、錆兎にとって、最も来てほしくなかった人間第一位である。

 

 

「オイオイオイオイ!鱗滝よォ、テメェ!?そこに居るのは鬼じゃあねェか!?なんで鬼が蝶屋敷に居やがんだァ!?」

 

 

視界に鬼の姿が入るや否や、唸りを上げて錆兎と鬼の両者に向けて、ドスドスと地響きと共に踏み込み始める。

そしてその勢いのまま、腰に下げた刀を振り抜くと、その切っ先を錆兎の眉間へ向けた。

 

「落ち着いてくれ実弥、それを今しのぶに話すところ───」

「あァ?何を話すってんだオイ?その鬼の殺し方か?講義でもすんのか?それとも、まさかとは思うがよォ、その鬼を生かすための言い訳なんてするつもりじャねェだろうなァ?」

 

射殺すような瞳と共に、怒号が向かう。

傍から聞いてるしのぶは、その光景に呆れたような溜息を吐きつつも、不死川に対し同意するかのような目線を錆兎に向けていた。

両者からの寒暖差の激しい鋭い視線…だが錆兎は、それに対し、ただ淡々と言葉を紡ぐ。

 

「…あぁそうだ」

「……ハッ!とんだ腑抜けが柱に居たもんだ!鬼を生かす理由がこの世にあるってか?フザケてんのかテメェはよォ?」

 

ギリギリと刀と錆兎との距離が狭まる。

しかしその間も、錆兎は瞬き一つ起こすことなく、ただ不死川の怒りを真正面から受け止め続けた。

 

「ほら、その言い訳をさっさとしてみろよ?俺を納得させてみろよ?なァ?でねェとテメェのその───」

 

 

 

 

 

 

 

「でないと錆兎君の───何をどうするつもりなのかしら?実弥君?」

 

 

 

 

不死川の背後──開いた扉の先に、新たな刺客が現れる。

長く伸ばした黒髪──。蝶文様の羽織──。

この蝶屋敷では二番目に見慣れた姿。

 

 

 

「姉さん!?」

「カナエさん!?」

 

 

元鬼殺隊花柱。

胡蝶しのぶの姉にして、蝶屋敷の副管理人。

その名を、胡蝶カナエ。

 

彼女のにこやかに浮かべた表情の裏に、一体何が隠されているのかは、カナエを除き誰にも理解できていない。

だがしかし、少なくとも、表情通りの感情でないことは、誰の目から見ても明白であった。

しかし分からないのは、そのうちに秘めたる激情が、誰に向かっているのか。錆兎か、しのぶか、不死川か、それとも鬼か。誰にも分からないからこそ、その全員が硬直し、動けずにいた。

 

「い、いつからそこに…?」

「いつからって…実弥君が何か叫びだしてからよ。あまりにもうるさくて、気になって来てみたの」

 

糸のように薄く開いた瞳の奥。

その最奥に秘められた冷たい眼光が、不死川に深く突き刺さる。

 

「つまり姉さんは、私達の話の内容は…」

「内容?聞こえてないわよ?何を話していたかは分からないけど…私がここに来たのは、単に実弥君に一言添えようかなって思っただけ」

 

より一層、鋭利さを増した眼光にブルリと身を震わす不死川。

それをよそ目に、安堵の息を吐く傍の三名。

 

「クソッタレが…!」

 

ギリギリと歯軋りを立て、小さく悪態を吐く不死川。

その怒りの矛先は、当然というべきか錆兎たちへと向かう。

 

「俺が声を張ったのは悪かった。が、アレを見りゃ俺のせいだとも言い切れねェハズだ」

 

そう言いながら、不死川は錆兎の背後に隠れた鬼の方へと指をビッと指した。

なにかしら?とカナエはチラリと視線を合わせる。当然というべきか、その先に居た禰豆子と目が合った。

 

───静寂。暫くそれが続いた後、それまで和やかだったカナエの態度は一変。不死川程ではないにしろ、穏やかではない雰囲気が漂い始めた。

 

「これは…確かに説明が欲しい所ではあるわね。大丈夫かしら?」

 

しかしながらやはり、しのぶと同様に彼女はかなり理知的だった。

彼女がこの場に来た時は修羅場になるかと覚悟したが、これは寧ろ僥倖。不死川も冷静さを取り戻したようで、かなり場が纏った。

 

「あぁ。丁度今、しのぶに理由を話そうとしていたところだった。…それに、ここで言わなくとも近い内に皆に共有するであろう話だ。むしろ手間が省けて助かった」

 

こうしてようやく、錆兎は雪取山で起きた出来事を話し始めたのだった。

 

 

 

 

 

それは時間にして約10分程度。

話し終えた際、錆兎を除く一同は、それぞれ思う所がありそうな表情を浮かべていた。

それが特に顕著なのは、やはり不死川実弥。話し終えた途端に、人に向けるとは思えない程の強い殺気を錆兎に向けた。

 

「あぁ!?その鬼は、俺の血に反応しなかっただァ?何かの見間違いじゃねェのか!?」

 

掴みかかる勢いで、錆兎との距離を詰める。

胡蝶姉妹は錆兎の説明に対しそれなりの理解を示していたが、この点に関しては不死川と同意見らしく、不死川のことを止めようとする素振りはなかった。

 

「見間違い、か…それなら、俺もここまで悩む必要が無かったんだがな」

「ならここで試してみようじゃねェか。テメェが見たのが幻だってことを、今ここで証明してやらァ」

 

突き放すように錆兎から離れると、ガッと腰に帯びた刀を抜───

 

 

 

「どうやって?」

 

 

 

───く前に、部屋全体が一瞬で凍りついた。

 

「ねぇ?どうやって証明するつもり?刀なんて取り出して。まさか、腕を切って出血した血を見せるとか、そんな真似するつもりだった?」

「………」

「ここは蝶屋敷よ?隊士達の傷を癒す神聖な場所、訓練や修練のためならいざ知らず、そんな所で流血沙汰を引き起こすつもりだったなんて……そんなわけ、ないでしょうね??」

「………」

 

みるみる大人しくなる実弥。

その様子を見ながら、しのぶと錆兎はひそひそと小言を呟く。

 

(…不死川さんって、将来奥さんの尻に敷かれそうな性格してますよね?)

(俺も内心思ったが…あまり言ってやるなよ?)

「おいゴラァッ!聞こえてんぞテメェら!!」

「実弥くーん?まだ話は終わってないわよー?」

「………」

(ほら、やっぱり)

(……強く生きろよ、不死川)

 

 

その後も暫くカナエの説教が続いた。

 

 

 

───カナエの説教が済んだ後。

不死川の血を摘出する妥協案として、注射針を使用することになった。まぁ妥当と言えば妥当だが…不死川だけは未だ納得していないような顔をしていた。

 

結論から言えば、やはり不死川の血にも禰豆子は反応しなかった。しかも二度目ということもあってか、慣れた様子でプイと視線を避けていた。

予め説明をしてはいたものの、それでも彼女らにとっては信じられない光景だったようで、三者共に開いた口が塞がらない様子だった。

 

「どうだ、これで信じてもらえたか?」

「聞いてはいたけど…こうも間近に見ると凄いわね…」

「でも、何故禰豆子さんだけなのでしょうか?過去にこのような鬼が居たという話は一度も聞いていませんが…何か、禰豆子さんに特別な何かがあるのでしょうか…?」

「そこまでは分からないな……なにせ手掛かりがな…」

「確か…竈門炭治郎君?でしたか?彼が目覚めたら、聞き取りを行ってみたらどう?」

「だな」

 

錆兎達がそう話し合う中。

一人だけ、不貞腐れた様子の男がいた。

 

「……チッ」

 

不死川は舌打ちをつくと、そのまま部屋から出ようと扉へ手を伸ばす。

 

「実弥君?何か言うことがあるんじゃないのー?」

 

カナエからそう声が投げられ、不死川の手は止まる。

 

「……俺の血に反応しねェってのは…認めてやらァ。だが、それでもソイツが鬼であることには変わりはねェ」

 

静止させていた手を扉へ伸ばし、勢いよく開く。

身体を半身部屋外に出した状態で振り向くと、キッと指を錆兎に向けた。

 

「ソイツの処遇が正式に決まるまでは見逃しといてやる。それまで一片足りとも目ェ離すんじゃねェぞ」

 

そう言い切ると、扉をバタンッ!と叩き閉め、不死川は去っていった。

 

 

 

 

 

 

嵐が去ったかのように、ただ静けさだけが漂う室内。

そんな空気を変えようとしてか、カナエはそういえばと口を開いた。

 

「錆兎君は、お館様にこのことは伝えたの?」

「あぁ。昼前に、お館様に向けて鎹鴉を向かわせた。時間帯的に返事が来る頃合いだとは思うが…ん?」

 

噂をすればなんとやら。

忙しなく翼を動かしながら、鎹鴉が手元に向け飛んでくる。

 

『緊急会議!緊急会議!明日ノ正午屋敷ニテ!

  緊急会議!緊急会議!明日ノ正午屋敷ニテ!』

 

頭上で鎹鴉は高らかに叫び回る。

 

「……早いな」

「……ですね」

「噂をすれば何とやら…ね」

 

──なんとも言えぬ表情で見つめ合う三人であった。

 

 




・胡蝶カナエ

とある鬼との戦いで肺を負傷。戦闘の継続が困難になってしまったため、鬼殺隊を引退している。

引退はしたが、以降は育手、稽古指南者、蝶屋敷の管理人として貢献。一部隊士達からは『女神』と呼ばれているが、機能回復訓練を経た隊士達からは『大魔王』と揶揄されることもあるとかないとか。

また、蝶屋敷の所有者は元々カナエであったが、しのぶが蟲柱になってからは彼女に跡を継がせ、今は副管理人としてのびのびと過ごしている。

余談だが、胡蝶一家は全員存命であり、時間さえあればしのぶと共に顔を出している。
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