鬼殺隊IF 本鬼殺隊ルート   作:限界社畜あんたーく 

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ストック消滅


第肆話

 

 

……永い夢を見ていた。

家族と団欒を過ごす、幸せな夢を見ていた。

寧ろこれが現実で、あの赤く染まった光景の方が夢だったのではないかと。そう信じたくなるほどに、それは永く幸せな夢だった───

 

 

 

────

 

───

 

──

 

 

 

 

 

 

 

「……はっ!」

 

水面から顔を上げたような感覚。

それと共に、炭治郎は眠りから目覚めた。

 

「…ここは……?」

 

病院だろうか。視界一面に広がる綺麗な木目の天井や、腕に刺さった点滴、白く清潔感のある布団と衣。おこらくここは間違いなく病院だろうと推測する。

───どれだけ寝ていたんだ…?

激しい頭痛と全身の倦怠感、鋭い痛みの数々に耐えながら、朧げに記憶を遡る。

確か…俺は禰豆子を背負って山を下っていて…それで───

 

「───禰豆子ッ!!」 

 

炭治郎は無意識のままに、病床から降りようとした。

──が、身体はその指示を受け入れられず、その勢いのまま床に頭から落ちてしまう。

 

「グッ…ぅぅ…禰豆…子…!」

 

落下した際の痛み。無理やり外れた点滴の痛み。全身にビリビリと走る謎の痛み。それらを食いしばりながら堪え、なんとか立ち上がろうとする。

だが足は、手は、身体は、まるで言うことを聞こうとしない。

 

「くそっ…!」

 

這いずってでも探してやる──そう意気込もうとしたその時。ガッ!と勢いよく病室の扉が開かれた。

 

「……ん?」

「……ん?」

 

視線が合う。

片や地面に這いつくばる病人。

片や奇怪な面をつけた変人。

互いが互いに、目の前の情報量に圧倒される。

 

「……え…だ、誰…?」

「……いや、なん…寝…は…?」

 

どのような反応を、対応を取るべきか。

時が止まったような感覚がしばらく続く。

 

「どうしたの、錆兎く…あら?」

 

扉の奥からヒョコリと女性が顔を覗かせた。

彼女は床に這った炭治郎を見るや否や、ささと近付くと片手で炭治郎の身体を起こした。

 

「あらあら大丈夫?起きたばかりで身体も動かないでしょうに…」

「い、いえ!大丈夫で──力強ッ!?」

 

遠慮するよりも前に、目の前の女性の腕力に驚いてしまう。

確かに普通の女性よりもそれなりに筋肉質であるようには見えるが…思わず面食らってしまった。

 

そのまま無理矢理病床に横にされると、一安心と言わんばかりに彼女は胸を撫で下ろした。

 

「…あの…色々と、聞きたいことがあるのですが…」

「えぇ勿論。ずっと寝てたでしょうし、気になることも沢山あるわよね」

 

女性は何でも聞いてと慈母ような笑みを浮かべた。

 

…聞きたいことは、山ほどある。

ここはどこか?貴方は誰か?背後の人は?

家族は?誰か生き残っていないのか?

どれだけ寝てた?怪我は?後遺症は?

 

───だが。何よりも聞きたいのは、それらでは無い。

 

 

「───妹は…禰豆子は、何処に居るんですか…?」

 

 

───禰豆子の名を出した途端。

奥にいた仮面の人が、顔を逸らしたのが見えた。

 

息が、荒くなる。

嫌な想像が、脳裏に浮かぶ。

体中から、滝のように汗が溢れ、嫌悪感と吐き気が一気に襲ってくる。

まさか…まさか……妹は……?

 

空気を貪るように、口をパクパクと動かす。

声に出そうとするが、声帯が潰れたように声が出ない。

 

「……錆兎君。彼女をここへ」

「…あぁ」

 

錆兎───そう呼ばれた仮面の人は、扉を開け部屋から去っていった。

 

禰豆子を……ここへ……?

生きている…のか?若しくは…死───

 

動悸が収まらない。

呼吸と脈拍が雑になるのが分かる。

頼む。頼む。どうか、生きていてくれ。

祈るように、手を合わせ俯く。

 

 

───暫くして。

扉がまた勢いよく開いた。

その方へと目を向けてみれば、そこには───

 

 

「……禰豆子……?」

 

 

間違えるはずがない。

彼が背負っているのは、俺の妹の、禰豆子だ。

…そう。そのハズ…だ。

 

「なん…で…」

 

ピクリとも動かない。

運ばれている間、大きく揺れていただろうに。それでも目覚めようとしない。まるで深い眠りについたように──

 

「どう…して………」

 

彼は禰豆子を、丁寧に降ろした。

その間も禰豆子は動かず、魂が抜けたように脱力していた。

…不意に、涙が溢れる。

悲しい気持ちで、不甲斐ない気持ちで、胸が一杯になる。

 

「禰豆子……禰豆子ぉ………」

 

抱き締め、寄せる。

禰豆子の身体は生温かく、まるでつい先程命を落としたよう。薄い呼吸音は寝息のようで、死人とはまるで思えない。脈拍も低く、血の巡りも遅いように感じる。

 

まるで死んでいるようには思え────ん?

 

「…………あれ?」

 

一瞬で、涙ぐんでいた顔が?に変わる。

 

胸に耳を当てる。確かに心臓の音がする。

口元に耳を寄せる。確かに呼吸の音がする。

 

……………ん?

 

「……………え?」

 

二人の方へ視線を向ける。

すると何だか、気不味そうに視線を逸らし始めた。

 

「いやぁ…そのぉ…」

「…悪戯をするつもりはなかったんだがな…だが伝えられる雰囲気でも…すまない」

 

 

 

 

……今の心境を言語化するのは、かなり難しい。

ただ、恐らくこれまでの人生で一度は抱いたことのある感情から、これから先抱くのであろう感情、死ぬまで抱くことのない感情まで。

恐らく、俺はその全てを、さっきの一瞬に、一度に味わったことだけは、理解できた。

 

もし仮に、この感情に近しいものを挙げるとするのであれば…

 

それは多分、間違いなく怒りだと思う。

 

 

 

 

 

 

「せめて!俺が聞いた時点で!『禰豆子は生きてるよ』とかは!言いましょうよ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

言い切った所で、俺の頭がグルンと揺れた。

恐らく酸素不足だろう。目眩と吐き気に襲われながら、俺の視界は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後。

目覚めると視界内に禰豆子の姿は無く、代わりにウサギの形に切られたリンゴがあった。

尚二人に関しては、反省しているのか随分と背が小さく見えた。

 

「ごめんなさい。本当に、騙すようなつもりはなかったの」

「…いえ、俺も少し、早とちりしすぎました。もう少し、冷静になるべきでしたね」

 

差し出されたリンゴをボリボリと食べながら、頭を下げる。

あの時は思わず怒鳴ってしまったが、結果的に禰豆子が生きていると知れた今、特別怒る必要もない。寧ろ随分と心に余裕ができた方だ。

思い返せば、自分にも悪いところがあったと思える程度には、心は落ち着いている。

 

「でも禰豆子ってば、随分とぐっすり寝てましたね。俺があんなに強く抱き締めても起きないなんて。激しい運動でもしたのかな…?何か、迷惑とかかけてませんか?」

 

すると二人は顔を見合わせ、戸惑ったような素振りを見せた。

 

「…炭治郎君は、今の禰豆子ちゃんのことを、どこまで知ってるの?」

「……え?」

 

不穏な空気が漂う。

安心したのも束の間、また鼓動が速くなるのを感じる。

 

「それってどういう…」

「…少し長くなるが…構わないか?」

 

…本当は、聞きたくはない。

聞いたら多分、元の日常には戻れない気がする。

ただ……どうして家族が亡くならなければならなかったのか。どうして妹が眠ってしまったのか。

その真実を知らなければいけないと、そう直感した。

 

「……はい。今度はちゃんと、説明して下さいね」

「あぁ、勿論だ」

 

それから───鱗滝さんから色々と話を聞いた。

 

禰豆子のこと。鬼のこと。鬼殺隊のこと…。

付随する形で、俺の身体の状態も聞かされた。

怪我に関しては大方予想通り。しばらくリハビリすれば元の生活にすぐ戻れるとのこと。

個人的に驚いたのは───

 

「俺、十日も寝てたんですか!?」

「あぁ。その間、カナエさんが看病してくれたんだ。感謝するんだぞ?」

「そうなんですか?ありがとうございます!」

 

ちなみに、あの女性の名前は胡蝶カナエと言うそうだ。なんでも鬼殺隊の元柱?らしい。だからあんなに腕力があったのか…。

 

「…で、お前が寝ている間に、禰豆子のことを色々と調べていたんだが…丁度二日前からだ。その日から、禰豆子は寝たきり目覚めなくなった」

「でも、特に異常が見られるわけでもなくてね。詳しく診たけど、結果は変わらずただ眠っているだけ。…で、ここからは推測になるけど──

 

胡蝶さん曰く。

鬼が人を食べることで得ている栄養や力を、睡眠を多くとることで補っているのどはないか?とのこと。

考えてみれば納得の道理ではあるが…それを潔く容認できない自分もいる。何か命にかかわる状態ではないのかと、実はもう二度と目覚めることがないのではと。そう悪い想像を浮かべてしまう。

かといって、自分がそれをどうにかできるような、大層な存在ではないことは否応にも理解している。

自分ができることと言えば、せいぜい禰豆子の目覚めを祈るだけだ。

 

「蝶屋敷は私含めて、医療に詳しい人間は多く居るわ。流石に鬼を診た人はいないけれど…私達に任せてくれれば、他の病院よりも安心できるとは思うわ」

「……分かりました。禰豆子のことを、宜しくお願いします」

 

そう頭を下げると、『任せなさい』と言わんばかりに胸を張って了承してくれた。

 

「…さて、後はお前の今後についてなんだが───

 

そう鱗滝さんが切り出そうとした刹那。

ドバンッッ!!と、扉が開いた際に出たとは思えないほどの、爆発音が室内に響いた。

 

 

 

 

 

「竈門炭治郎!竈門炭治郎はここにいるか!!」

 

 

 

 

 

強烈な熱気と共に、焔色の髪の男が部屋へと侵入する。

あまりに唐突な出来事に、声すら漏らすことができずに硬直していると、男はジロリとこちらの顔を強く見つめた。

そして何を思ったのか。ズカズカと足踏みを鳴らしながら、その迫力のままに炭治郎の元へ近付き、そのままバンと目の前に仁王立ちをした。

 

「お前が竈門炭治郎だな!?」

「えあ!?は、はい!!??」

 

内容に関わらず、思わず返答してしまうほどの、威圧感と圧迫感。全身の骨が軋むような感覚に見舞われ、呼吸が上手く出来ない。

まるで燃え上がる業火そのものと面と向かっているようだ。

 

「煉獄()()!ここは病室ですよ!」

「それがどうしたというのだ?」

「少し落ち着いて貰えませんか?!」

「…あぁ、すまない。少し興奮していた」

 

そう言うと、煉獄と呼ばれたその男は、深く深く息を吸った後、吸った息の倍の量の空気を肺から絞り出す。

それを終えた頃には先程の熱気は静まり、威圧感も随分と控え目になっていた。

 

「えーっと…この人は…?」

「…まぁ、そのうち紹介はする予定だったからな。構わないか。この方は鬼殺隊の元炎柱。その名を───」

 

 

 

 

 

「煉獄槇寿郎だ。()()()()よろしく頼む」

 

 

 

 

 

槇寿郎と名乗るその人は、礼儀正しく頭を下げるのであった。

 

「あ…はい、よろし…え?()()()()…?」

 

その時の俺は、あまりにも不穏な気配を感じ取り、思わず頬が引き攣りそうになった。

 

 

 





炭治郎の身柄は件の会議後、鬼殺隊が迅速に保護し、蝶屋敷へと輸送した。
尚このことを医者は事前に知らされておらず、以降『患者の神隠し現象』という怪談として語り継がれたとかないとか。
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