鬼殺隊IF 本鬼殺隊ルート   作:限界社畜あんたーく 

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第漆話

 

禰豆子との再会を経て。

涙も静まり、落ち着いた頃。

 

「暫くぶりだな、炭治郎」

「あ!鱗滝さん!」

 

久方ぶりに鱗滝さんと会った。

様子は特に変わっていない。ただ、いつにも増して元気そうではあった。

 

「長い事会ってなかったが…見ない間に、随分と大きくなったな」

「そんな、親戚の子供じゃないんですから…」

 

蝶屋敷に居た頃、鱗滝さんは俺や禰豆子のことをよく気に掛けてくれていた。特に禰豆子が目覚めている間は、かなり可愛がってくれたそうだ。

 

「随分と嬉しそうな顔しやがって。…まぁ、それも当然か。ヒノカミ神楽を覚えて、その上で禰豆子も目覚めて。今日は随分とついてる日だな」

「そんなことないですよ。…でも、本当にこれまでの努力が、全部報われたみたいで…俺って幸せ者だなぁって…」

「……そうか」

 

面で表情は伺えない。

ただ、優しい笑みを浮かべているのだろうということは、顔を見なくとも分かった。

 

「それで、今日は何か御用ですか?」

「いや。偶々通りかかっただけだ。禰豆子の様子でも見ようかと思ったんだが…」

「あぁ、成程」

 

ちなみに禰豆子は今、胡蝶さんの下で検査を行っている。

なにせ数年間も寝ていたのだ。元気に歩いているとしても、気掛かりな所はあるだろう。

 

「しかし…本当に、お前達の元気な姿が見れてよかった。…そうだ、実は今日の夜、浅草の方で義勇と飯を食べる約束をしていてな。お前達のことを祝うわけでもないが、もし暇なら───」

 

浅草!?

浅草って、あの浅草!?

しかもご飯もご馳走してくれるって!?

 

断る理由なんてあるわけがない!

 

「行きます!!行かせてください!!」

「そ、そうか…」

 

鱗滝さんは若干引き気味になりながら、頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の浅草近辺。

冨岡義勇は暗い街道を歩いていた。

 

「…すまない。面倒事を押しつけてしまって」

「いいっていいって。普段の任務は殆どお前が一人でやっちまうし、せめてこのぐらい俺に手伝わせてくれ」

 

共に任務に同行していた村田はそう言うと、持っていた書簡を懐に仕舞う。

 

村田が持っていたのは、蝶屋敷や藤の花の家紋の家等の、各所施設の諸費用を纏めた書類。月に一度これを産屋敷の元に納める必要があり、それの運搬を冨岡達は任された。

重要書類であるため鎹鴉の使用は厳禁。運ぶことが許されているのは、戊*1以上の隊士のみである。

尚、村田の階級は戊であり、瀬戸際ながら運搬を許されている。

 

「それに、水柱様に会うのは久しぶりなんだろう?そんな日に遅れたら、後々後悔するぞ?」

「……ありがとう」

 

冨岡は不器用ながら感謝を伝える。

それに対し村田は、小っ恥ずかしそうに頭を掻きながら、しっしと冨岡を追っ払う動作を見せる。

 

「ほら、行った行った!後は俺が届けとくから、ちゃんと休めよ?」

「あぁ、分かった」

 

村田は駆け足気味に本部の方へ走っていった。

その背が見えなくなるまで見届けた後、冨岡は鱗滝と待ち合わせしている場所へと歩いて向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだな、義勇」

「あぁ。そっちは変わらず、元気そうだな」

 

冨岡が待ち合わせ場所に向かうと、そこには既に鱗滝の姿があった。

ちなみにいつもの面は外しており、腰に下げている。

 

「そっちは…」

「初めまして、竈門炭治郎と申します!」

「…よろしく頼む」

 

…?

随分と、鱗滝と接した時よりも余所余所しい態度に炭治郎は疑問に思う。何か怒らせるようなことをしただろうか…?

 

「なんか俺、失礼でした?」

「…そういう訳ではない」

 

会話が途切れる。気まずい…本当に、これで怒っていないのだろうか…?

と、炭治郎はビクビクと怖がっていると、鱗滝が冨岡の肩をグッと掴んで寄せた。

 

「すまない炭治郎。義勇は初対面の相手には口下手になるんだ」

「…俺は口下手じゃない。ただ距離感が掴めないだけだ」

「それを口下手って言うんだろ?」

 

ムスッとした顔をする冨岡。それを見て鱗滝は笑う。

 

成程…不機嫌に見えたが、それは喋りかけるのを遠慮していたということか。

それなら──自分が喋りやすい人であることを伝えよう!

 

炭治郎は胸を張ってみせた。

 

 

「俺はグイグイ来られても全然平気です!」

 

 

その様子を見た二人は、顔を見合わせくしゃりと笑った。

 

「な?いい奴だろ?」

「…あぁ。そうだな」

 

どうやら少し好感度が上がったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これから何処に向かうとするか…今日のために、甘露寺から色々と美味い店を聞いてな。確か紙に…」

 

そう言いながら、鱗滝は懐から紙を取り出す。

中には店の名前とその店の名物料理、そしてその店の位置が記載されていた。

冨岡と炭治郎は横からその紙を覗き込むと、上から順に見始めた。

 

「…天麩羅うどんか…」

 

冨岡がそう零す。

 

「奇遇だな。俺も真っ先に目に入った」

「実は俺も…」

 

二人が同意したことで、目的地が定まった。

鱗滝は店の位置を覚えると、紙をしまいその方角へと足を伸ばす。

 

「決まりだな。それじゃ早速───」

 

刹那。

炭治郎の鼻腔に、何処かで嗅いだ匂いが刺さった。

何年も前の記憶…。色彩が薄れていたはずの、あの光景が鮮烈に脳裏に浮かぶ。

忘れもしない。忘れるはずが無い。

 

(この匂い…!!どうしてこんな所で!?)

 

───鬼舞辻無惨の匂いだ!

 

どうする。どうするべきだ?

今すぐ追うべきだ。それは分かっている。

だが、俺が単独で行動するのはあまりにも無謀かつ無意味。出会えば即殺されてそれで終わり、自分の無力さなら誰よりも分かってる。

ならば───鱗滝さん達に相談するべきだ。

 

炭治郎は鱗滝の肩を掴む。

 

「?どうした、炭治郎?」

「あ!あ、あの!!」

 

不思議そうに振り返る鱗滝と冨岡。

最初は冷静そのもの。しかし炭治郎の、呼吸を荒らげ、焦る姿を見るや否や、二人の表情が段々と真剣なものへと変わっていく。

 

「…どうした?」

「あの……実は…!!」

 

尋常ではない雰囲気。それに対し、鱗滝は瞬間的に思考を巡らせる。

 

体調不良を訴えている…?

しかし先程までその傾向は見られなかった。

便意を催したか?

それにしては焦り具合がおかしい。

 

冷静に、炭治郎を分析する。

恐らく、抱いている感情としては

 

──焦燥。──怒気。──驚愕。──緊迫。

 

これらの四つ。

 

なんだ?

何が炭治郎をこうさせた?

炭治郎は俺達に何を伝えようとしているんだ?

 

 

 

───まさか?

 

 

 

いや、まさか。そんなわけはない。

可能性は零ではないが、ほぼ零に等しい。

ありえない。…が、仮にありえるのであれば──

 

 

「ここに、鬼舞───!!」

 

 

その時。

鱗滝は、炭治郎の口を手で閉じると、空いた方の手を自身の口元に当てた。

 

 

『静かに』

 

 

それに対する炭治郎の反応は、あまりにも劇的。

 

なぜ止めるんだ?なぜ声を出しちゃいけないんだ?

そう声を出したいのが、叫びたいのが一目で伝わる。

理性と本能の際を詰めた顔だった。

 

しかしながら───それでも、なんとかギリギリの所で炭治郎は踏ん張る。

止める理由があるのだろう。声を出しては行けない理由があるのだろう。

噛み殺す勢いで、肺を潰す勢いで、声をなんとか喉に留めた。

 

「…よく耐えたな」

 

鱗滝はそう言いながら、炭治郎の頭の上に、宥めるようにポンと手を置いた。

 

 

仮に、この場に鬼舞辻無惨が本当に居たとして。

その名を呼べば向こうに気取られる可能性がある。しかも、鬼である以上聴覚も人並み以上であることは間違いないのだから、叫ぶなど言語道断。

故に、鱗滝は炭治郎の口を閉ざしたのである。

 

尤も…

 

「…鬼舞…?…あぁ……ん?」

 

本当はもっと早めに気づいて、断片もヤツの名を出させなかった方が良かった。今の冨岡のように、二文字から推察される可能性があるからだ。

だが、出た以上は仕方がない。聞かれていないことを祈りながら、その前提で話を進める他ない。

 

「…錆兎」

「あぁ…だがその前に、確認だ」

 

鱗滝は炭治郎の両肩を掴み、真正面から瞳を見つめる。

真面目で、冷静で、その瞳は嘘すら見抜けるのではと思う程に、透き通っていた。

 

「…ソレは、本当に、()()()()()?」

 

炭治郎の目が、大きく開かれる。

そして───

 

「……はい」

 

静かに、そう告げた。

 

 

 

鱗滝と冨岡は顔を見合わせる。

 

「…錆兎。信用できるのか?」

「分からない。が、試してみる価値はある」

 

冨岡は、炭治郎の嗅覚の鋭さも、過去の素性も知らない。

故に、信用もない。が、鱗滝のことであれば。鱗滝の言うことであれば、信じようと思える。

 

「…分かった。指示をくれ」

 

鱗滝は「あぁ」という返事と共に頷く。

そして、炭治郎の方へと視線を向けた。

 

「先ずは、炭治郎。義勇の後ろに隠れてくれ。そして、()()の場所を小声で義勇に伝えてくれ」

 

炭治郎は言われた通り、義勇の後ろに移動する。

 

「義勇は俺の視界から見える範囲内で、炭治郎から伝えられた位置を()()()*2で俺に伝えてくれ。俺が直接、()()を確かめる」

 

鱗滝は仮面を身に着けると、刀を隠していた布の一部を剥ぎ、いつでも抜刀できるようにした。

 

「…戦うんですか?」

 

恐る恐る聞いてみる。

鱗滝は一瞬、思考する間を置いた後、首を振った。

 

「いや。ここで戦えば多くの人が巻き込まれる。あくまで、確かめるだけだ。……だが、もし仮に戦うことになったら…義勇は炭治郎を連れて逃げてくれ」

 

仮面越しに、義勇を見つめる。

一瞬だけ、動揺した素振りを見せつつも、冨岡は一呼吸を置いた後に頷いた。

 

「……あぁ。分かった」

 

冨岡の返事を聞いた所で、鱗滝は人混みの方へと向かい始めた。

 

 

 

*1
上から6番目

*2
隠や一部隊士が使うハンドサイン




・冨岡義勇

階級甲の鬼殺隊士。
錆兎と比べ実力は劣るものの、独自に編み出した型である凪を保有している。本人は「錆兎なら俺よりもこの技を使いこなせるはずだ」と斜め下な謙遜の仕方をしているが、錆兎としては(いや、なんで?)と冨岡の中の錆兎像に内心引いている。
 
本来は明るい性格をしているのだが、初対面の相手には若干無口かつ無表情気味になってしまう。
しかし冨岡からの好感度が上がると、多少はマトモな会話が成立するようになり、更に好感度が上がると冨岡自身から相手に喋りかけるようになる。更に更に好感度が上がると、表情もかなり柔らかくなり、最終的に元の性格で接してくれるようになる。(この段階まで行けたのは現状錆兎のみ)
その際、極稀に綻んだ笑みを零すことがあるのだが、その笑みは女性隊士を一撃で射止める程の火力を秘めている…らしい。
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