【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど   作:もろきゅー

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106話 新人冒険者の一日

 二人から少し距離を空け、同じ方向へ向かう通行人を装って後ろを歩く。

 先ほどの会話からすると、ヴェルノは終わらせた依頼を報告するため、冒険者ギルドへ向かっているらしい。

 

 ヴェルノは楽しそうにサラへ話しかけていた。

 サラはいつもと変わらない、少し気だるそうな態度だ。

 それでも、ヴェルノがあまりにも嬉しそうに話すものだからか、心なしか普段より機嫌がよさそうに見える。

 

「で、冒険者の仕事には少し慣れたのかよ?」

 

 サラが尋ねると、ヴェルノは元気よく頷いた。

 

「はい! 皆さん、とても親切にしてくださいます。冒険者として必要なことも、いろいろと教えていただいています!」

「へえ。そりゃよかったな」

「特に受付のテッサさんには、いつも心配していただいていて……今日受けた依頼も、ほとんどテッサさんが選んでくださったんですよ」

「テッサの奴が……?」

 

 サラが露骨に怪訝そうな顔をした。

 

「あいつ、すげぇ口が悪いし、他人の心配なんてするような奴じゃないと思うんだが」

「そんなことありません!」

 

 ヴェルノが勢いよく振り返り、サラへ反論する。

 危うくこちらまで見られそうになり、俺は咄嗟に近くの露店へ顔を向けた。

 

「私が初めて冒険者ギルドへ伺った時も、何をすればよいのか分からず辺りを見回していたら、テッサさんの方から声をかけてくださったんです」

「向こうから?」

「はい。冒険者登録の方法から、依頼の受け方、報告の仕方まで、全部丁寧に教えてくださいました。とても優しくて、よい方ですよ」

「……いやあ、どうだかな」

 

 サラは納得していないようだった。

 だが、ヴェルノは本気でテッサという受付職員を信頼しているらしい。

 話している間も、何度も嬉しそうに笑っていた。

 

 どうやら、冒険者として困っている様子はなさそうだ。

 先ほどの店主とも良好な関係を築いていたし、サラにも気にかけてもらっている。

 しばらく二人のあとを歩くと、冒険者ギルドの建物が見えてきた。

 ヴェルノとサラが扉を開けて中へ入る。

 少し間を空けてから、俺もそのあとに続いた。

 

 今の俺は、栗色の髪をした見知らぬ少女だ。

 ヴェルノにもサラにも気づかれなかったのだから、冒険者ギルドへ入ったところで問題はないだろう。

 中へ入ると、前に来た時よりも随分と人が少なかった。

 酒を飲みながら話している冒険者や、依頼書を眺めている者はいるものの、混雑しているというほどではない。

 時間が遅いからだろうか。

 それとも、ダンジョンが封鎖されたことで、依頼を終えて戻ってくる冒険者が減っているのかもしれない。

 

 受付にも空いている場所がいくつかあった。

 そのうちの一つに座っていた若い女性職員が、入ってきたヴェルノへ気づく。

 途端に、その顔がぱっと明るくなった。

 

「ヴェルノさーん!」

 

 受付職員が大きく手を振る。

 

「テッサさーん!」

 

 ヴェルノも嬉しそうに返事をして、彼女のもとへ駆けていった。

 サラはその後ろを、やれやれといった様子で歩いていく。

 俺は目を細め、受付職員の顔を確かめた。

 

 ……あいつ、前に俺たちがここへ来た時にいた職員だよな?

 依頼書を貼っている最中だから話しかけるなと、俺たちへかなり強い口調で言ってきた女だ。

 今は満面の笑みを浮かべ、ヴェルノへ向かって何度も手を振っている。

 まるで別人だ。

 

 あの時は仕事が忙しかったから機嫌が悪かったのだろうか。

 いや、それにしても態度が違いすぎないか?

 

「テッサさん、今日の依頼を終わらせました!」

 

 ヴェルノが鞄から何枚かの書類を取り出し、受付台の上へ並べた。

 

「こちらが倉庫整理の依頼で、こちらが荷車への積み込みです。それから、先ほど商店の荷物もすべて運び終えました!」

「今日も三件全部終わらせたんですか? さすがヴェルノさんです!」

 

 テッサが書類を確認しながら、弾んだ声を上げる。

 その目は、明らかにヴェルノしか見ていなかった。

 

「どれも簡単な力仕事でしたから、私ならこれくらいは大丈夫です」

「簡単なんかじゃありませんよ。ヴェルノさんのおかげで、助かっている人がたくさんいるんですから」

「テッサさん……」

「もっと胸を張ってください。すごく格好いいですよ!」

「か、格好いいですか?」

 

 ヴェルノは照れたように頬を緩める。

 

「はい! 昨日の依頼主の方も、ヴェルノさんのおかげで助かったって、わざわざお礼を言いに来たんですよ!」

「そこまで褒めていただくと、少し恥ずかしいですね」

 

 ヴェルノが照れ笑いを浮かべた瞬間、テッサの頬が僅かに赤くなった。

 

「テッサさん、いつもありがとうございます。明日も頑張ります!」

「はい! 頑張ってくださいね!」

 

 テッサは受付台の奥から身を乗り出し、壁際にある依頼書の一角を指さした。

 

「そうそう。ヴェルノさんに合いそうな依頼を、あちらにまとめておきました。街の中でできるものばかりなので、よかったら見てみてください」

「わざわざ選んでくださったんですか?」

「もちろんです!」

「ありがとうございます。見てきますね!」

 

 ヴェルノは嬉しそうに頭を下げると、依頼書が貼られた壁へ向かっていった。

 その背中を、テッサがうっとりした様子で見送る。

 近くに立っていたサラが、呆れたように口を開いた。

 

「お前って、そんな性格だったか?」

 

 テッサの笑顔が、一瞬で消えた。

 

「……あんたさあ」

 

 サラへ顔を向けたテッサの目つきが、急に鋭くなる。

 

「私とヴェルノさんの時間を邪魔しないでくれる? 用がないなら、あっち行って。しっしっ」

「お、おう……」

 

 サラが思わず一歩下がった。

 

「やっぱりお前はそうだよな。逆に安心したわ」

「何が言いたいのよ」

「いや、ヴェルノにだけ気持ち悪いくらい甘いからさ」

「気持ち悪いって何よ!」

 

 テッサが受付台を叩く。

 

「ヴェルノさんは、あんたたちみたいな粗暴な冒険者と違うの! 礼儀正しくて、教えたことはちゃんと聞くし、依頼主にも優しいし、それに……」

 

 テッサは言葉を切り、依頼書を見ているヴェルノへ視線を向けた。

 

「……格好いいし」

 

 最後だけ、随分と小さな声だった。

 

「やっぱり、そこかよ」

「うるせえな!」

 

 テッサは顔を赤くすると、サラを追い払うように手を振った。

 

「ほら、報告がないなら邪魔だからどいて!」

「はいはい」

 

 サラは肩を竦め、ヴェルノのいる依頼掲示板へ向かっていく。

 

 なるほど、そういうことらしい。

 俺たちへ冷たかった理由が分かったわけではないが、少なくともヴェルノにだけ優しい理由は分かった。

 確かに、ヴェルノはぱっと見なら格好いい。

 背は高いし、筋肉もすごい。短い黒髪も、凛々しい顔立ちによく似合っている。

 黙って立っていれば、頼りになる女戦士そのものだ。

 ……まあ、少し付き合えば、よく泣くし、よく笑うし、意外と慌てん坊なのが分かるんだけどな。

 

 俺はギルドの隅にある卓へ腰を下ろした。

 誰かを待っているような顔をしながら、周囲の様子を眺める。

 改めて見ると、やはりアストルの冒険者ギルドよりも広い。

 受付の数も多く、依頼書を貼るための壁もいくつかに分けられている。

 今は人が少ないものの、昼間ならかなり混雑するのだろう。

 

 ヴェルノはテッサが選んでくれた依頼書を、一枚ずつ真剣な顔で確認していた。

 その隣では、サラが時折内容を覗き込み、何か助言をしている。

 やがて、一人の若い女性冒険者がヴェルノへ近づいていった。

 

 年齢はティナたちより少し上くらいだろうか。

 まだベテランという雰囲気ではないが、ヴェルノよりは冒険者としての経験がありそうだ。

 

「あの、ヴェルノさん」

 

 女性冒険者が遠慮がちに声をかける。

 

「はい?」

「よかったら、明日の朝、この依頼を一緒に受けませんか?」

 

 彼女が手にしていた依頼書を、ヴェルノへ見せる。

 

「引っ越しの荷物を馬車へ積み込む仕事なんです。大きな家具が多いみたいで、何人か集めることになってるんですけど……ほら、報酬も結構いいんですよ」

「わあ、本当ですね!」

 

 ヴェルノが依頼書を覗き込み、目を輝かせる。

 

「ちょうど力のある人を探していたので、ヴェルノさんが来てくれたら助かります」

「それでしたら、ぜひお願いします。私も今は金欠なので、報酬が高いのは助かります!」

「よかった。それじゃあ、明日の朝七時にギルドの前で集合でもいいですか?」

「分かりました。よろしくお願いします!」

「こちらこそお願いします。それでは、おやすみなさい」

「はい。おやすみなさい!」

 

 女性冒険者は明るい表情で手を振り、ギルドを出ていった。

 ヴェルノも嬉しそうに手を振り返している。

 

 おお、サラやテッサだけではなく、ほかの冒険者とも関係を築けているらしい。

 依頼主にも感謝され、先輩のサラには面倒を見てもらい、受付職員のテッサからは妙に気に入られている。

 さらに、一緒に依頼を受けようと誘ってくれる冒険者までいる。

 思っていた以上に順調だ。

 

 冒険者になったばかりのヴェルノが、周囲から浮いているのではないかと少し心配していたが、完全に杞憂だったらしい。

 これなら、冒険者としても、この街の住人としても問題なく受け入れてもらえるだろう。

 ヴェルノが上手くやっているとシエルへ伝えれば、きっと安心する。

 

 見るべきものは見た。

 これ以上ここにいると、不審に思われるかもしれない。

 俺は椅子から立ち上がり、ギルドを出ようとした。

 

「あ、あの、テッサさん」

 

 背後から聞こえたヴェルノの声に、足を止める。

 先ほどまでの弾んだ声とは違う。

 どこか緊張したような、弱々しい声だった。

 

 振り返ると、ヴェルノが再びテッサの受付へ立っていた。

 その顔には、先ほどまで浮かんでいた笑みがない。

 

「はい。どうしましたか、ヴェルノさん?」

 

 テッサもすぐにヴェルノの変化へ気づいたらしい。

 先ほどまでの浮かれたような態度を引っ込め、心配そうな顔をしている。

 

「今日も同じことを聞いてしまって、申し訳ないのですが……」

「いえ、大丈夫ですよ」

 

 テッサが優しく首を振った。

 

「捜している女性のことですよね?」

「はい……」

 

 ヴェルノが胸元で両手を握る。

 

「何か、新しい情報は入っていないでしょうか」

 

 テッサは少しだけ視線を伏せた。

 

「すみません。事情があってお名前は明かせないとのことでしたので、教えていただいた特徴だけを受付の職員たちに共有しています。顔なじみの冒険者にも、それとなく聞いてはいるんですが……今日も新しい情報は入っていません」

 

 ヴェルノの肩が、僅かに落ちた。

 

「そうですか……。ありがとうございます」

「ちょっと待て」

 

 少し離れたところで依頼書を眺めていたサラが、こちらへ歩いてきた。

 

「お前、誰か捜してたのか?」

「あ……はい」

 

 どうやらサラは、ヴェルノが女性を捜していることを今初めて知ったらしい。

 テッサが手元の記録を確認する。

 

「金色の長い髪に、透き通るような白い肌。それから、緑色の瞳の若い女性でしたよね?」

「はい、間違いありません」

「金髪で、白い肌に緑色の瞳……?」

 

 サラが首を傾げる。

 しばらく考えたあと、何かに気づいたようにヴェルノを見た。

 

「それって、アウラって奴じゃないのか?」

 

 突然自分の名前が聞こえ、危うく肩が跳ねそうになった。

 お、落ち着け……今の俺は、栗色の髪をした見知らぬ少女だ。

 ここで反応した方が、よほど怪しい。

 

「サラさんは、アウラさんをご存じなのですか?」

 

 ヴェルノが驚いたように尋ねる。

 

「おう、前にアストルからこの街へ来る馬車を護衛した時、一緒だったんだ」

 

 サラが腕を組む。

 

「金髪で、やたら目立つ顔をした奴だろ?」

「そうだったんですね」

 

 ヴェルノは少し驚いた顔をしたあと、寂しそうに首を横へ振った。

 

「確かに、アウラさんとは驚くほどよく似ています。私もアストルで初めてお会いした時は、捜している方だと思ってしまいました」

「違ったのか?」

「はい。別人でした」

「……あんな目立つ顔の女が、もう一人いるのかよ」

 

 いるんだよなぁ……。

 

「アウラは、お前が捜している女について何か知らないのか?」

「以前お会いした時に伺いましたが、ご存じないようでした……」

 

 ヴェルノが困ったように眉を下げた。

 

「アウラさんとは、アストルの共同浴場で偶然お会いしただけなんです。私が人違いをしてしまって……」

「ふーん」

 

 サラは顎に手を当て、ヴェルノに尋ねる。

 

「しかし、そこまでして捜すくらい、大事な奴なのか?」

 

 サラの問いに、ヴェルノは静かに頷いた。

 

「はい。私が、命を懸けてでもお守りしなければならない方です」

 

 そこで一度言葉を切り、胸元で手を強く握る。

 

「……いえ。それだけではありません。私にとって、とても大切な方なんです」

「そうか」

 

 サラはそれ以上詳しく尋ねなかった。

 

「特徴は覚えた。それらしい女を見かけたら、知らせてやるよ」

「本当ですか!?」

 

 ヴェルノの顔が一瞬だけ明るくなる。

 

「ありがとうございます、サラさん!」

「別に礼を言われるほどじゃねえよ。それらしい奴を見かけたら知らせるってだけだ」

「それでも、ありがとうございます!」

 

 ヴェルノは深く頭を下げた。

 サラは少し居心地が悪そうに頬を掻き、顔を逸らす。

 

「正式な捜索依頼として報奨金をつければ、もっと多くの冒険者に捜してもらうことはできます」

 

 テッサが慎重に言葉を選びながら話を戻した。

 

「ただ、報奨金目当ての不確かな情報も増えると思います。似た人を見ただけで知らせてくる人や、ひどい場合には嘘をつく人もいますから……個人的には、あまりおすすめできません」

「分かりました」

 

 ヴェルノは小さく頷いた。

 

「それに、今の私には、十分な報奨金を用意することもできませんので」

 

 なるほど。

 先ほど金欠だと言っていたのは、生活費だけが理由ではないのかもしれない。

 ヴェルノはシエルを捜し続けるためにも、できるだけ多くの依頼を受けて金を稼ごうとしているのだ。

 

「引き続き、何か情報が入りましたら教えてください」

「もちろんです」

「それから……」

 

 ヴェルノは一度言葉を止めた。

 

「もし、その方らしい人が見つかったら、私が捜していることも伝えていただけますか」

 

 テッサが静かに頷く。

 

「分かりました。必ず伝えます」

「ありがとうございます」

 

 ヴェルノは深く頭を下げた。

 しかし、顔を上げても、その表情は晴れなかった。

 先ほどまで楽しそうに弾んでいた声も、今はすっかり小さくなっている。

 

「見つかるといいですね」

 

 テッサが励ますように声をかける。

 

「はい……」

 

 ヴェルノはそう答えたものの、肩は目に見えて落ちていた。

 

「今日はもう帰ろうぜ」

 

 サラがヴェルノの肩を軽く叩く。

 

「明日も朝から依頼なんだろ?」

「……そうですね」

 

 ヴェルノは無理に笑顔を作り、頷いた。

 

「明日も、頑張らないといけませんから」

 

 街へ馴染めているからといって、シエルの行方が分からない不安まで消えるわけではない。

 どれだけ多くの人から親切にされても、ヴェルノが最も会いたい相手の居場所は分からないままだ。

 

 いや、本当はすぐ近くにいる。

 無事に生きている。

 それを知らないヴェルノは、毎日のように冒険者ギルドで情報を尋ねているのだ。

 

 俺は声をかけることができなかった。

 今の俺は、ヴェルノにとって見知らぬ少女だ。

 それに、シエルのことを勝手に話すわけにもいかない。

 だが、このままでよいとも思えなかった。

 

 ヴェルノが無事に暮らしていることだけではない。

 今もシエルを捜し続け、その安否を心配していることも、きちんとシエル本人へ伝えなければならない。

 俺は肩を落とすヴェルノを残し、冒険者ギルドをあとにした。

 

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