【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど   作:もろきゅー

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11話 知らなかったのか、ハイレグからは逃げられない

 朝、白鹿亭の部屋で出発準備をしていると、

 ティナが俺をじっと見て眉を寄せた。

 

「その髪、どうするつもり?」

 

「どうするって……別に、このままで」

 

「このままでって……あんた、昨日もボサボサだったじゃない」

 

 ティナは呆れたようにため息をついた。

 

「ちょっとこっち来なさい。座って」

 

「何を……」

 

「髪くらい結いなさいよ。はい、じっとして」

 

 言われるまま椅子に座ると、ティナの指が器用に髪をまとめていく。

 慣れない感触に、くすぐったさと照れが一度に押し寄せた。

 

「……できた。ほら、可愛いじゃない」

 

「か、可愛いって……」

 

「素直に喜びなさいよ」

 

 ティナが満足げに頷く。

 

「せっかく綺麗な髪なんだから、ちゃんとしないと勿体ないわよ」

 

「……うん」

 

 褒められ慣れてないせいか、胸のあたりが妙にむず痒い。

 

「よし。じゃあ行きましょうか。遅れるとヴァンに何言われるか分かったもんじゃないし」

 

「わかった」

 

 そんなわけで、髪型まで整えられ、俺たちは白鹿亭を後にした。 

 

 

 

 朝の空気は、少しひんやりしていて気持ちが良かった。

 

 白鹿亭を出て、石畳を踏みしめながらギルドへ向かう。まだ日も上りきっておらず、通りにいる人もまばらだ。行商の荷車の音と、パン屋の前で立ち上る香ばしい匂いが、朝が動き出していることを告げている。

 

(……下着があるって素晴らしいな)

 

 昨日買った、まともな下着と、新しい服。

 柔らかい胸当てとショーツ、インナーにズボン、その上に軽い上着。どれも肌なじみが良くて、歩くたびに「ごわごわした悪意」を感じていたリネンとは比べものにならない。

 

「ねぇ、さっきから妙に機嫌良さそうだけど」

 

 隣を歩くティナが、じとっとした視線を向けてくる。

 

「……別に。普通だ」

 

「どう見ても解放感に満ちた顔してるんだけど」

 

(そりゃあ、ノーパン卒業できたら誰だってこうなるだろ……)

 

 口には出さず、咳払いでごまかす。

 少し前を歩いているカイトが振り返った。

 

「今日はいよいよ、オーロックの森ですね!」

 

「いよいよってほどの大冒険じゃないわよ。入口付近まで案内するだけなんだから」

 

「それでも、森渡りのヴァンと一緒に行けるなんて滅多にない機会だよ! 僕、ちゃんと話できるかな……」

 

 カイトの目が、完全に憧れで輝いている。

 ああいう「分かりやすい英雄」は、カイトにとって理想像なのだろう。

 

 そんな話をしながら歩いていると、ギルドの建物が見えてきた。

 まだ朝早いせいか、昨日より人は少なめだ。だが、ギルドの前には既に一人、黒い影が立っていた。

 

「お」

 

 銀の髪が、朝日にわずかに光る。

 昨日、一度会ったばかりの男──ヴァンは、ギルドの壁にもたれかかりながら、軽く手を挙げた。

 

「おはよう、カイト。ティナ。そして──アウラ」

 

 昨日と違って、今日はきちんと装備を整えている。

 黒を基調とした軽そうな革鎧に、動きやすそうなブーツ。腰には、装飾の少ない、しかし一目で良い品だと分かる剣。

 

 寝癖もヒゲも綺麗さっぱりなくなり、「二日酔いの兄ちゃん」から「ちゃんとした冒険者」に見た目がアップグレードしていた。

 

「おはようございます、ヴァンさん!」

 

 カイトが嬉しそうに頭を下げる。

 

「おはよう」

 

 ティナは一応挨拶しつつも、若干警戒気味の目だ。

 

「やぁ、二日酔い明けの体には、朝の空気がしみるねぇ」

 

 ヴァンは軽く伸びをすると、俺のほうを見てにっこり笑った。

 

「その髪型も、すっごく似合うじゃないか。朝から可愛くてびっくりしたよ」

 

「っ……朝からそのテンションはやめろ」

 

「事実しか言ってないさ」

 

 さらっと言ってのける。

 その言い方が妙に慣れているからこそ、余計にタチが悪い。

 

(……この軽さでミスリル級なんだから、世の中よく分からない)

 

 そう内心で悪態をつきつつも、表面上は「はいはい」という顔で流す。

 

「じゃ、さっそく行こうか。入口までならそんなに遠くないし、昼前には戻ってこられるだろ」

 

 ヴァンは踵を返し、森のあるほうへ歩き出した。

 俺たち三人は、そのあとに続く。

 

 

 

 街を抜けると、すぐに景色は変わった。

 畑と草原。その向こうに、じわじわと迫ってくる緑の塊──オーロックの森だ。

 

 道はよく踏み固められている。街から森へ向かう者がいかに多いかが分かる道だ。

 

「カイト」

 

 歩きながら、ヴァンがふいに声をかけた。

 

「オーロックの森には、今までどれくらい入ったことがある?」

 

「えっ? えっと……浅いところまでなら、何度か」

 

「キラーボアに会ったのは初めて?」

 

「はい。こんな入口近くで出るなんて聞いたことなかったですし……」

 

「そうだよなぁ」

 

 ヴァンは頭の後ろで手を組み、空を見上げる。

 

「俺が知ってる限り、キラーボアはもっと奥に棲んでる。入口付近に来るとしたら、かなりのイレギュラーだ」

 

「やっぱり、何かに追われてたんですか?」

 

「可能性は高いね。……まぁ、その辺りは“調査隊の仕事”だ。今日はそこまで突っ込むつもりはないよ」

 

 言葉こそ軽いが、その横顔には真面目な気配も混じっていた。

 

「アウラは?」

 

 不意に名前を呼ばれる。

 

「ん」

 

「森歩きは慣れてる? キラーボアを倒せるってことは、戦うのには慣れてそうだったけど」

 

「どうだろうな。森のど真ん中を歩き回った経験は少ない」

 

 実際、前世でやっていた山歩きは、整備された登山道くらいだ。

 地球の山も、異世界の森も、「真ん中まで突っ込んだら大体死ぬ」という意味では似たようなものだが。

 

「まぁ、大丈夫。今日は入口付近だけだし、俺もいる」

 

 ヴァンは自分の胸を軽く叩いた。

 

「万が一のときは、僕がアウラを守るよ」

 

「俺だけか?」

 

「そう言っておいたほうが、格好つくだろ?」

 

 にこっと笑う。

 ティナが横から冷えた目を向けた。

 

「はいはい、ヒーロー気取りはその辺にしておきなさい」

 

「えー、ひどくない?」

 

「事実を言ったまでよ」

 

 そんな他愛もない会話を交わしているうちに、森はすぐ目の前まで迫ってきた。

 

 

 

 オーロックの森の入口は、思ったよりも「普通」だった。

 大きな木々が並び、その合間に人が通れるだけの隙間がある。入口付近は、冒険者や木こりたちが往来するおかげか、下草もある程度踏みならされている。

 

 森の中からは、鳥の声と、見たことのない虫の羽音が聞こえてきた。

 

「じゃ、キラーボアが出た場所まで案内してくれる?」

 

 ヴァンが振り返る。

 

「ああ」

 

 俺とカイト、ティナは互いに顔を見合わせ、この間と同じルートを辿るように森の中へ入って行った。

 

 地面は柔らかく、ところどころ根っこが浮き出ている。

 木々の間から差し込む光がまだら模様を作り、空気はひんやりとしているのに、じわじわと汗がにじむ。

 

「この辺りから、少し奥に入ったところだな」

 

 昨日歩いた記憶を辿りながら進む。

 頭の中で、キラーボアの姿が何度も再生される。突進してくる巨体、あの質量。

 

「……あの木だ」

 

 俺は一本の大きな木を指さした。

 幹に、深くえぐられた傷跡がある。キラーボアが角をぶつけたときにできたものだ。

 

「うわ……」

 

 カイトが息を呑む。

 

「前は余裕なくてちゃんと見てませんでしたけど……すごい傷ですね」

 

 ヴァンも近づき、幹をじっと見つめた。

 指でなぞるようにしながら、周囲の地面にも目を走らせる。

 

「角で削った跡だな。……こっちから走ってきて、お前たちとぶつかったのか」

 

 足跡らしいくぼみや、土の乱れを確認している。

 普段の軽さからは想像できないほど、目は真剣だ。

 

「どっちの方向から現れた?」

 

「向こうだ」

 

 俺は森の奥を指さす。

 

「俺たちは、あっちから出てきて、ここで遭遇した」

 

「ふむ……」

 

 ヴァンはその方向に少し歩いていき、立ち止まって周囲の気配を探るように目を細めた。

 

 しばらく黙っていたが、やがて肩をすくめる。

 

「まぁ、今日はこの辺にしておくか」

 

「いいのか?」

 

「調査隊が来たときに、また改めて見るさ。入口付近なら、そうそうヤバいものも出ないだろうし。……多分ね」

 

 最後だけ、少しだけ冗談めかした声色だった。

 

「とりあえず、“ここからこの方向に走ってきた”って情報があれば十分だ。ありがとな、三人とも」

 

「役に立てたなら何よりだ」

 

 そう答えた、そのときだった。

 

 耳に、ぬちゃりと嫌な音が届いた。

 

(……今の音は)

 

 振り向くより早く、視界の端で何かが跳ね上がるのが見えた。

 

 青緑色の、半透明の塊。

 小型犬くらいの大きさのそれが、弾丸のような速度でこちらに飛びかかってくる。

 

「アウラ──!」

 

 ヴァンの声。

 同時に、彼が剣に手を伸ばす気配。

 

 だが、それより早く。

 

 世界が、眩い光に包まれた。

 

 

 

「──っ!?」

 

 何が起こったのか、分からなかった。

 

 肌の上で、何かが弾ける感覚があった。

 布が裂ける音。糸が引きちぎられる感触。軽い衝撃と、風。

 

(え……?)

 

 視界が白に染まり、それがすっと引いていく。

 

 同時に、体の中心がぐん、と前に出た。

 

 自分の意思とは関係なく。

 足が一歩、勝手に踏み込む。

 

 腰のあたりで、何かが跳ねた。

 鞘から抜ける金属音。握った覚えのない柄の感触。

 

「……っ!」

 

 自分の腕ではないみたいに、滑らかに剣が振り抜かれる。

 空気を裂く音と、小さな悲鳴のような濁った音。

 

 青緑色の塊が、目の前で真っ二つに割れた。

 地面に落ちるより早く、切断面から黒い煙のようなものが噴き出し、塊そのものを溶かしていく。

 

 一秒もかからなかったと思う。

 

 スライムらしきものは、跡形もなく消えた。

 

「…………」

 

 森が、しんと静まり返った。

 

 鳥の声も、風の音も、一瞬遠のいたみたいに感じる。

 

「アウラさん……?」

 

 最初に声を出したのは、カイトだった。

 

 振り向いた彼の顔が、真っ赤に染まった状態で固まる。

 

 ティナも、目を見開いたまま言葉を失っている。

 

(え……?)

 

 胸が、妙にスースーする。

 背中、腰、腿。風がやたらと肌に当たる。

 

(まさか……)

 

 恐る恐る、自分の体を見下ろした。

 

 銀色の鎧。

 胸元ギリギリの装甲。

 腰から下は、ほぼ布面積ゼロに近い。守る気があるのか疑うレベルだ。

 

 ──アウラ特製ハイレグアーマー。

 

「なん、でだ……」

 

 喉から漏れた声は、ほとんどかすれていた。

 

「なんで、これを着てるんだ……!?」

 

 ついさっきまで着ていたはずの服は、どこにもない。

 足元には、破片になった布と糸がわずかに散っているだけだ。

 肌には、さっきまでの柔らかい布の感触はなく、代わりに、あのいやに肌に馴染む鎧の心地よい冷たさがあった。

 

(嘘だろ……昨日買った服……下着……)

 

 脳裏に、昨日の店と、優しそうな店員の顔がフラッシュバックする。

 

「これでやっとまともに歩ける、と思ったのに……!」

 

 頭を抱えたくなる。

 

 さっきの一瞬を思い出す。

 光った。

 服が弾けた。

 鎧が、勝手に身体にまとわりついた。

 

 さっきの踏み込みも、剣を振った感覚も、自分のものではなかった。

 足は勝手に前へ出て、腕は勝手に剣を振っていた。

 

(そういえば……この鎧の説明に……)

 

 俺は以前見たハイレグアーマーの効果を思い出した。

 

 ──危険時自動装着。

 ──危険察知装着。

 敵意・殺気・落下・魔法反応などの危険を感知すると即時装着される。

 ※強制発動時は演出効果として光が走ります。

 

 スライムに襲われて自動装着したって事か……。

 そして光ったのは演出効果──。

 

 自分の腰の剣を睨みつける。

 鞘に収まったその刀身は、何食わぬ顔で静かにそこにあった。

 

「ア、アウラ……?」

 

 ティナの声は、かすかに震えていた。

 

「その……大丈夫なの?」

 

「……あぁ、とりあえずは何とか」

 

 体が勝手に動いた。剣も、勝手に抜けた。

 自分でもぞっとした。

 自分の身体なのに、自分で制御できなかったという事実。

 

「さっきの光も……鎧も……何もかも、勝手に……」

 

 言葉を途中で切る。

 視線を上げると、少し離れた場所でヴァンが立ち尽くしていた。

 

 さっきまで抜こうとしていた自分の剣は、半分も鞘から出ていない。

 間に合わなかったのだろう。

 

 その目が、じっとこちらを見ていた。

 

(……やばい。完全に見られた)

 

 勝手に動いた剣。

 勝手に装備されたハイレグアーマー。

 スライムを消し飛ばした一撃。

 

 ヴァンの視線が、ゆっくりと俺の頭から足の先まで降りていく。

 じろじろ見られているというより、何かを測るような目だ。

 

 そして──

 

「…………」

 

 しばらく沈黙したあと、ぽつりと一言だけ、落とした。

 

「……エロすぎんだろ」

 

「そこかよ!!」

 

 思わず全力でツッコんでいた。

 

 真っ赤になったティナが、横で怒鳴る。

 

「そういう問題じゃないでしょ!!」

 

「い、今見るつもりはなかったですからね!? 僕、見てませんからねアウラさん!!」

 

 カイトはカイトで、顔どころか首筋まで真っ赤にして、全力で視線を逸らしている。

 地面しか見ていない。

 

「いや、だって……」

 

 ヴァンが頭をかきながら、苦笑いを浮かべる。

 

「急に光ったと思ったら服が全部吹き飛んで、その鎧だぜ? エロすぎるだろ。真面目な感想だよ」

 

「真面目に言うことか、それを……!」

 

 涙目になりながら叫ぶ。

 

(やめてくれ……本当にやめてくれ……)

 

 恥ずかしさと、恐怖と、怒りと、諦めがぐちゃぐちゃになって胸の中をかき混ぜる。

 

 勝手に動く剣。

 勝手に装備される鎧。

 

 今まで「ちょっと癖のある武器防具」くらいに受け止めようとしていたが──

 

(……完全に、こっちの都合なんて聞いてくれないじゃないか)

 

 俺の意思がどこにあるのか、分からなくなりそうだった。

 

 それでも。

 

 奴らのおかげで、スライムに喰われずに済んだのも事実で。

 

 それが余計に、腹立たしくて、情けなくて、悔しかった。

 

(……せめて、“服を犠牲にしなくてもいいモード”とか用意しておけよ……)

 

 心の中で、女神の額を全力で小突きながら、俺はただ、森の冷たい空気を必死に吸い込んだ。

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