【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど 作:もろきゅー
屋敷へ戻ってから、俺はしばらくの間、リリアに付き合わされることになった。
「アウラ! こちらはどうですの?」
「とってもお似合いだと思いますよ」
目の前で、リリアがくるりと一回転する。
今日買ったばかりの赤いウィッグ。
いつもの淡い金髪とはまるで印象が違うが、元々顔立ちが整っているせいか、こちらもよく似合っていた。
そして、その髪色に合わせて選んだらしい赤と白を基調にしたドレス。
胸元には、小さなリボンまで付いている。
「とてもかわいいと思いますよ」
「本当ですの?」
「本当です」
「では、こちらとこちらでは、どちらがいいと思います?」
そう言って、リリアが両手に一つずつ髪飾りを持って見せてきた。
片方は白い花を模した髪飾り。
もう片方には、小さな赤い宝石のような飾りが付いている。
「う~ん……どっちもかわいいと思いますよ」
「どっちもでは駄目ですの!」
「そ、そうですねぇ……」
駄目なんだ。
今日、何度このやり取りをしたんだろう。
ウィッグを買う時にも、赤にするか黒にするかで延々と悩んでいたというのに、屋敷へ帰ってきたら今度はそのウィッグに合わせるドレス選びが始まった。
幸い、リリアが持っているドレス自体はそこまで多くなかった。
問題は、その先だ。
髪飾りにリボン。
胸元の飾りに、靴。
それぞれを組み合わせては──。
「こちらはどうですの?」
と、聞かれる。
「じゃあ……こっち、ですかね?」
俺は白い花の髪飾りを指差した。
「どうしてそう思いますの?」
「うえ?」
り、理由まで必要なのぉ……?
「え、ええっと……」
リリアが期待するような目で見つめてくる。
適当なことを言えば、たぶんすぐにばれる。
「形もかわいいですし……赤い髪なら、白い方が目立って似合うんじゃないですかね……」
「~~~っ! さっすがアウラですの!」
ぱっとリリアの表情が明るくなった。
「私も、こちらの方がいいと思っていましたの!」
「そ、そうですか」
「やっぱりアウラは分かっていますわね!」
「ははは……」
なら最初からそっちを選べばいいのでは?
とは、とても言えない。
さっき別の物を選んだ時は、露骨に不満そうな顔をされたからな。
どうやらリリアの中には、すでに正解が決まっているらしい。
だったら俺に聞かなくてもいいような気がするんだが……。
「では、次はこちらですわ!」
「まだあるんですか?」
「もちろんです!」
元気だなぁ。
俺はすでに、心を無にしていた。
◇
「や、やっと終わった……」
たっぷりとリリアの着せ替えに付き合ったあと、俺はようやく本館から解放された。
外へ出たところで、両腕を頭の上まで伸ばす。
「う~~ん……!」
身体そのものは、まったく疲れていない。
今日だって、別に激しい運動をしたわけじゃないからな。
なのに、妙に疲れた。
何が正解なのか分からないまま延々と選択を迫られるのが、思っていた以上に精神へくるらしい。
「子供に付き合うのも簡単じゃないな……」
思わず独り言が漏れる。
まあ、本人はものすごく楽しそうだったから、それでいいんだけど。
そんなことを考えながら別館へ戻ろうとしたところで、門の方から二人の男が歩いてくるのが見えた。
レオンとカルスだ。
朝、冒険者ギルドへ向かった二人が戻ってきたらしい。
「おかえりなさい、レオン様」
俺が声を掛けると、レオンはこちらを見たまま一瞬足を止めた。
ああ、そういえば俺、まだ変装したままだったな。
けれど声を聞いてすぐ俺だと気づいたらしく、柔らかく笑う。
「ああ、ただいま。アウラさん」
レオンは本館へ目を向けた。
「リリアはいい子にしていたかな? 迷惑をかけていないといいんだけど」
「いえいえ、ご迷惑だなんて」
俺は手を振った。
「楽しそうにウィッグを選んでいましたよ。屋敷へ戻ってからも、そのウィッグに合うドレスや小物をずっと選んでいました」
「ははは……それでこんな時間まで?」
「はい……」
思わず遠い目になる。
「今も嬉しそうに着飾ってますから、見掛けたら褒めてあげてください」
「ああ、分かったよ。ありがとう、アウラさん」
レオンが楽しそうに笑う。
だが、笑顔を見せても疲れているのは分かった。
朝もそうだったが、目元には疲労が残っている。
そういえば、冒険者ギルドの方はどうなったんだろう。
「あの、レオン様」
「なにかな?」
「冒険者ギルドの方は、どうでした?」
俺が尋ねると、先ほどまで浮かんでいた笑みが薄れた。
「……あまりいい状況ではないね」
レオンが小さく息を吐く。
「戻ってきていないのは、昨日ダンジョンへ入った調査隊だけじゃなかったんだ」
「え?」
「沈鐘の回廊に新しく人が入らないよう、入口付近で見張りをしていた者たちも行方が分からなくなっている」
「見張りの人まで?」
「ああ」
レオンが頷く。
「今朝、交代の者たちが向かったところ、いるはずの見張りが誰もいなかったそうだ」
「それって……」
見張りをしていた人たちは、ダンジョンの中へ入っていない。
その人たちまで消えたということは──。
「ダンジョンの中だけの問題じゃないってことですか?」
「その可能性も考えている」
レオンの表情がさらに険しくなる。
「荷物の一部はその場に残されていたらしい。全員が示し合わせて持ち場を離れたとも考えにくい」
「……嫌な感じですね」
「僕もそう思う」
最初は、ダンジョンから魔物が姿を消しただけだった。
それが今度は、中へ調査に入った冒険者が帰ってこなくなり、ついには入口を見張っていた人たちまで消えている。
明らかに、状況は悪くなっていた。
「ダンジョンで何かが起きているのは間違いないだろうね」
レオンが本館へ目を向ける。
「それが外にまで影響を及ぼしている可能性もある。父上にも報告して、今後の対応を早急に考えないと」
「そうですね……」
そこでレオンが目元を軽く押さえ、大きく息を吐いた。
「……少しくらい落ち着いてくれると、ありがたいんだけどな」
小さな独り言のような声だった。
やっぱり、かなり疲れているようだ。
「あの、無理だけはしないでくださいね」
俺がそう言うと、レオンが顔を上げる。
「私にできることがあれば仰ってください。できる範囲でお手伝いしますから」
一瞬驚いたような顔をしたあと、レオンが笑った。
「ああ、ありがとう。最近は色々と重なっていて、なかなか疲れが取れないみたいだ」
「ちゃんと休んでくださいよ?」
「そうしたいところなんだけどね」
レオンが苦笑する。
「もし何かあった時は、頼らせてもらうよ」
「はい」
「それじゃあ、またあとで」
レオンはそう言うと、カルスを伴って本館の中へ入っていった。
その背中を見送る。
「……大変そうだな」
何事もなければいいんだけど。
別館へ戻り、二階へ上がる。
せっかくリリアから解放されたんだ。
しばらく談話スペースでのんびりしよう。
そう思って向かうと、すでに三人の先客がいた。
ティナとカイト、それにシエルだ。
三人とも茶を飲みながら何か話していたらしい。
「お、ちょうどいい。俺にもお茶──」
声を掛けると、ティナとカイトが同時にこちらを向いた。
そして、固まる。
「……え?」
「誰……?」
二人とも、俺の顔をじっと見ている。
数秒後、ティナが眉を寄せた。
「その声……アウラ?」
「おう、正解」
「えぇ!?」
ティナが椅子から身を乗り出した。
「ちょっと、何その髪!」
「変装だよ、変装」
俺は栗色の髪を軽く持ち上げて見せる。
「どうだ? なかなか似合うだろ」
「すごいです、アウラさん!」
カイトも驚いた顔でこちらを見ている。
「本当に別人みたいですよ!」
「だろ?」
俺は得意げに胸を張った。
「これで変装しておけば、もう簡単には聖女に間違えられないって寸法よ」
「なるほど……」
カイトが感心したように頷く。
シエルは俺の姿を見慣れているため、横で小さく笑っていた。
「それより、俺にもお茶くれない?」
「はいはい」
ティナが呆れたように笑う。
俺も空いている椅子へ腰を下ろした。
そのまま四人で、しばらく取り留めのない話をする。
今日の買い物のこと。
リリアがウィッグを選ぶのにどれだけ時間が掛かったか。
屋敷へ戻ってからドレスや小物まで選ばされたことを話すと、ティナは楽しそうに笑っていた。
「アウラ、完全に遊ばれてるじゃない」
「いやぁ……あれは本当に疲れるぞ……」
「そんなになんですか?」
「お前、ティナに正解の分からない選択肢を延々と迫られてみたらどう思う?」
カイトが吹き出した。
「あんた達……!」
ティナがじろりと俺たちを見る。
そんなくだらない話をしているうちに、少しずつ気分も楽になっていった。
しばらくすると、ティナが席を立つ。
「そろそろお風呂に入ってくるわ」
「早いな」
「あとで混むの嫌なのよ」
ティナがそう言って階段へ向かう。
カイトも続いて立ち上がった。
「僕も剣の手入れをしてきます」
「真面目だなぁ」
「結構、剣の手入れするの好きなんですよ」
自分の剣だから、尚更だろうな。
ティナとカイトがそれぞれ部屋へ戻り、談話スペースには俺とシエルだけが残った。
「さて……」
何をしよう。
別に眠いわけでもない。
少し考えたところで、ふと思いつく。
「そうだ、シエル」
「はい?」
「今からちょっと、化粧の練習させてもらっていいか?」
「私でですか?」
「ああ。今朝は俺が練習台だっただろ? 今度は俺がやってみたい」
シエルの表情が明るくなる。
「もちろんです」
「じゃあ、部屋行くか」
「はい」
◇
「……よし。こんなもんかな」
俺はシエルの顔から少し離れ、出来栄えを確認した。
今朝とは逆だ。
今度は俺が、シエルへ変装用の化粧を施している。
昨日よりは、だいぶ手際よくできたと思う。
「鏡、見てみるか?」
「はい」
シエルへ鏡を渡す。
「おお……」
自分の顔を確認したシエルが、小さく声を上げた。
「昨日より上手になってますね」
「だろ?」
ちょっと嬉しい。
「俺だって成長してるんだからな」
「あはは。負けていられませんね」
「そのうち勝負するか」
「何を競うんですか?」
「どっちが上手く変装できるか?」
「元の顔が一緒なので、難しそうですね」
「それもそうだ」
二人で笑う。
最後に、シエルが栗色のウィッグを被る。
長い金髪を中へ収め、形を整えれば完成だ。
「よし」
シエルが鏡の前へ座り、その横へ俺も立つ。
「…………」
「…………」
二人で鏡を見る。
「いやぁ……」
思わず声が漏れた。
「こうして並んでみると、余計にすごいな」
「本当ですね……」
鏡の中には、栗色の髪をした少女が二人並んでいた。
同じように印象を変えた顔。
同じ髪色。
同じ髪型。
そして、変えることのできなかった同じ緑色の瞳。
もちろん、元々俺とシエルの顔は瓜二つだ。
だが、こうして同じ化粧を施し、同じウィッグまで被ると、本当に双子にでもなった気分だ。
「何か不思議な感じがするな」
「ですね~」
シエルも鏡の中の俺と自分を交互に見ている。
「こうして見ると、私も自分の化粧品が欲しくなってきますね」
「だったら、今度買いに行くか?」
「いいんですか?」
「ああ。俺の行った店なら、初心者向けの物とか教えてくれそうだし。こうやって変装してれば、お前も普通に街へ出られるだろ?」
「それなら私も──」
その時だった。
──ドン。
遠くから、低い音が響いた。
「……ん?」
俺とシエルが同時に顔を上げる。
「今、何か聞こえませんでした?」
「ああ」
なんだ?
少しして──。
今度は、もっとはっきりとした音が聞こえた。
ドォン──。
僅かに窓が震える。
「……何だ?」
「外でしょうか?」
二人で立ち上がり、窓際へ向かう。
窓を開けた瞬間、夕方の少し冷たい風が部屋へ流れ込んできた。
日はすでに沈みかけている。
空にはまだ僅かに明るさが残っているものの、街のあちこちには明かりが灯り始めていた。
ブルム家は高台にある。
そのため、ここからならドゥル=ブルムの街をかなり広く見渡すことができる。
「……あれ?」
遠く。
街並みの向こうで、何かが崩れた。
土煙が舞い上がる。
少し遅れて、大きな音が届いた。
「な、なんだありゃ」
「建物が……?」
さらに別の場所からも煙が上がった。
一ヶ所じゃない。
二ヶ所、三ヶ所──。
ドゥル=ブルムの街のあちこちから、煙が上がり始めていた。