【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど   作:もろきゅー

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111話 それぞれの戦場へ

「何か起きてるぞ」

「行きましょう!」

「ああ!」

 

 俺とシエルは顔を見合わせると、急いで部屋を飛び出した。

 別館を出た時には、本館の方も騒がしくなっていた。

 何人もの使用人が慌ただしく行き来している。

 

「やっぱり、何かあったみたいだな」

「はい」

 

 俺たちはそのまま本館へ向かう。

 すると、ちょうど正面の門から一頭の馬が勢いよく入ってきた。

 

「止まれ!」

 

 屋敷を守っていた騎士の声が響く。

 馬に乗っていた男が飛び降りた。

 鎧を着た兵士だ。

 肩で息をしながら、周囲を見回す。

 

「クラウス様に報告が!」

「こちらだ!」

 

 本館から声が響いた。

 クラウスが姿を現す。

 その後ろには、先ほど戻ってきたレオンとカルス。

 ゲオルグとロイドもいる。

 何事かと集まってきた騎士や兵士たちの姿もあった。

 俺とシエルも急いでそちらへ向かう。

 

「クラウス様!」

 

 俺が声を掛けると、クラウスがこちらを見る。

 そして、一瞬固まった。

 

「……誰だ?」

「あ」

 

 そうだった。

 

「アウラとシャロンです。化粧とウィッグで変装してるんです」

「アウラと……シャロン?」

 

 クラウスが俺とシエルを交互に見る。

 

「……こりゃ凄いな。並んでると、双子にしか見えんぞ」

 

 レオンたちも、驚いたように俺とシエルを見比べている。

「アウラさんの変装はさっき見たけど……シャロンさんまで同じ姿になると、本当に分からないね」

 

 レオンが困ったように笑う。

「これは……教えていただかないと、私にも見分けがつきませんね」

 

 ゲオルグまで感心したように呟いた。

 自分たちでは分かっていたつもりだけど、こうして他人に言われると少し変な気分だ。

 

「クラウス様!」

 

 兵士の切羽詰まった声が響いた。

 クラウスの表情が一瞬で引き締まる。

 

「すまん。報告を」

「はっ!」

 

 兵士が姿勢を正した。

 

「街中に魔物が出現しております!」

「魔物だと?」

「はい! 正確な数は確認できておりません! 複数の場所でほぼ同時に現れたとの報告があり、すでに市民にも多数の被害が!」

「侵入経路は?」

「不明です!」

 

 クラウスの眉が険しくなる。

 

「門から入った形跡は?」

「ございません!」

「……街の中に突然現れたとでも言うのか?」

「分かりません! ですが──」

 

 兵士が僅かに言葉を詰まらせた。

 

「報告では、死体のような姿をした魔物も混じっていると……」

「死体?」

 

 レオンが反応する。

 

「どういうことだ?」

「分かりません! ただ、明らかに腐敗しているものや、身体の一部が欠損した魔物まで動いているとのことです!」

 

 何だ、それ。

 ゾンビみたいなものか?

 嫌な予感がする。

 

「父上」

 

 レオンが低い声で呼ぶ。

 

「沈鐘の回廊の件と関係がある可能性も……」

「分かっている」

 

 クラウスが短く答えた。

 

「だが、今は原因より被害を止めるのが先だ」

「はい」

 

 その時、再び門の方が騒がしくなった。

 

「クラウス様!」

 

 今度は別の兵士が駆け込んでくる。

 

「冒険者ギルドから緊急の報告です!」

「言え!」

「ギルド周辺に大量の魔物が出現! 現在、金級冒険者ナタルシア殿を中心に冒険者たちが応戦しております!」

 

 隣にいたレオンの表情が変わった。

 

「ナタルシアさんが戦ってくれているのか?」

「はい! 今朝到着されたばかりですが、すでに前線で戦っておられます! ですが、それでも魔物を抑えきれておりません! 敵の数があまりにも多く、徐々に押されています!」

「金級がいて、それか……」

 

 クラウスが険しい顔で呟く。

 

「ギルドの建物にも攻撃を受け、すでに一部が崩落! 現場からは半壊状態との報告が!」

「半壊……?」

 

 思わず声が漏れた。

 朝まで普通に機能していた冒険者ギルドが?

 

「死傷者は?」

 

 クラウスが尋ねる。

 兵士の表情が曇った。

 

「……多数」

「具体的には?」

「まだ把握できておりません。ですが……すでに死亡が確認された者だけでも、かなりの数になると」

「……っ」

 

 隣でシエルが小さく息を呑む。

 見ると、強く手を握りしめていた。

 

「一般の市民にも被害が広がっています。家屋への被害も大きく、このままでは──」

 

 そこへ、さらに別の声が飛ぶ。

 

「申し上げます!」

 

 今度は騎士が走ってきた。

 

「盾の会から救援要請が届きました!」

「盾の会もか!」

「はい! 建物周辺に多数の魔物が出現しております! 被害は出ておりますが、残った会員たちが防衛線を作り、現在も持ちこたえているとのことです!」

「連絡は取れるのか?」

「断続的にではありますが。ただ、周囲を魔物に囲まれているため、外部との連携がほとんど取れておりません!」

 

 一瞬、周囲が静まり返った。

 冒険者ギルド。

 盾の会。

 その両方が、ほぼ同時に襲われている。

 しかも、それだけではない。

 街のあちこちに魔物が現れ、すでに一般の人たちにも死者が出ている。

 

「……偶然じゃないな」

 

 レオンが呟いた。

 

「ああ。だが、話はあとだ」

 

 クラウスが低い声で答える。

 そして、ほんの数秒だけ考え込んだ。

 

「レオン、お前は冒険者ギルドへ向かえ!」

「分かりました!」

「ナタルシア殿が前線を支えているうちに、残っている冒険者たちをまとめろ! あそこは個々の腕は立っても、今の混乱ではまともに連携できん!」

「はい!」

 

「ロイド!」

「はっ!」

「レオンにつけ!」

「お任せください!」

 

「カルス!」

「ここに」

「俺と来い。騎士団と合流する」

「承知しました」

 

 クラウスが周囲を見回す。

 

「騎士団には市街地の魔物だけでなく、市民の避難や消火までやってもらわなければならん。俺が直接行って指揮を執る」

 

 そう言うと、すぐに次の指示を飛ばす。

 

「屋敷にいる騎士と兵士の一部も連れていく! ただし全員は出すな! 最低限の守りは残せ!」

「はっ!」

 

 周囲にいた騎士たちが一斉に動き始めた。

 

「ゲオルグ!」

「はい」

 

 ゲオルグが静かに一歩前へ出る。

 

「屋敷は任せるぞ」

「かしこまりました」

「残る騎士と兵士をまとめろ。何が起きているか分からん以上、屋敷も警戒しておけ」

「お任せくださいませ」

「ラルフとリリアは本館の奥へ。使用人たちも一ヶ所へ集めろ」

「承知いたしました」

 

 ちょうどそこへ、騒ぎを聞きつけたらしいラルフが本館から姿を現した。

 

「父上! 何があったんですか!」

 

 駆け寄ってきたラルフが、一瞬だけ俺とシエルを見て目を丸くする。

 

「あ……えっと、どちら様でしょうか?」

「アウラとシャロンです」

「えっ!?」

「今はそれよりも──」

「ラルフ」

 

 クラウスが振り返る。

 

「街が魔物に襲われている」

「魔物……?」

「お前はここに残れ」

「ですが!」

「残れ」

 

 有無を言わせない声だった。

 

「リリアを守れ。ゲオルグの指示に従え」

 

 ラルフが一瞬言葉を詰まらせる。

 外へ出て戦いたいのだろう。

 だが、やがて強く頷いた。

 

「……分かりました」

 

 悔しそうに呟く。

 

「それから、ユリウス先生」

「はい」

 

 少し離れた場所で一連のやり取りを見ていたユリウス先生が前へ出た。

 

「お前もここに残ってくれ。ゲオルグを手伝って、使用人たちをまとめてほしい」

「承知しました」

 

 ユリウス先生が静かに頷く。

 屋敷にはリリアやラルフだけじゃなく、大勢の使用人も残っている。

 こういう時に、皆をまとめられる大人は多い方がいいんだろう。

 

「クラウス様」

 

 俺は声を掛けた。

 

「なんだ?」

「私も行きます」

「駄目だ」

 

 即答だった。

 

「街で何が起きているのか分からん。お前たちはここにいろ」

「でも、街の人が襲われてるんですよね?」

「だからこそだ」

「私なら戦えます」

 

 クラウスが黙る。

 

「魔物相手なら、これまでに何度も戦ってます。それに、以前お見せした魔剣と鎧もあります。何より、私は銀級冒険者です」

「それは分かっている。だが──」

「私も行かせてください」

 

 今度は隣のシエルが口を開いた。

 

「シャロンまで?」

「はい」

 

 シエルが真っ直ぐクラウスを見つめる。

 

「私も魔物と戦うことはできます。これだけ被害が出ているのでしたら、少しでもお力になりたいです」

「大丈夫なのか?」

「自分の身は守れます」

 

 シエルは毅然とした態度でクラウスに答えた。

 

「あ」

 

 そこで一人、思い浮かんだ。

 

「それと、マルルゥにもお願いしてみます」

「マルルゥ殿に?」

「はい。今は一人でも戦える人が多い方がいいですし」

 

 俺の言葉を聞いたクラウスが、少し考え込む。

 

「……マルルゥ殿が手を貸してくれるなら、こちらとしても非常に助かる」

「ですよね」

「ああ。以前、魔導国家について話を聞いた時、彼女がミスリル級冒険者だということも聞いている。ミスリル級が同行してくれるなら心強い。こちらから護衛の騎士を割く必要もないだろう」

 

 彼女ではないんだがな……。まあ、今は訂正している場合ではない。

 クラウスは少し考えたあと、俺を見る。

 

「アウラ。マルルゥ殿には、今回の件はブルム家からの正式な依頼として扱うと伝えてくれ」

「正式な依頼ですか?」

「ああ。当然、相応の報酬も出す。それとは別に、働きに応じて褒賞も用意しよう」

「分かりました。伝えておきます」

「頼む」

 

 クラウスが改めて俺たちを見る。

 

「マルルゥ殿が同行してくれるなら、お前たちが外へ出ることを許可する」

「ありがとうございます!」

「ただし、行き先はこちらで決める」

「はい」

「盾の会へ向かえ」

「盾の会、ですか?」

「ああ」

 

 クラウスが頷いた。

 

「冒険者ギルドは、金級のナタルシア殿が戦っていても押されるほどの状況だ。あそこにはレオンを向かわせる」

 

 続いて、盾の会がある方角へ目を向ける。

 

「盾の会も被害は大きいようだが、まだ防衛線を維持できている。それに、あそこは元々集団での防衛や連携に長けた連中だ」

「なるほど……」

「盾の会なら、救援さえ届けば比較的早く態勢を立て直せるはずだ」

 

 だから俺たちをそこへ向かわせるのか。

 戦えるとは言っても、俺たちはあくまでクラウスの客人だ。

 一番危ない場所へ放り込むつもりはないらしい。

 俺はクラウスから盾の会の場所を教えてもらう。

 

「盾の会へ着いたら、まず残っている会員と合流しろ。ブルム家からの救援だと伝えて、現場の者の指示を仰げ」

「分かりました」

「それと、現場の状況が報告と違っていたら無理をするな。危険だと思ったらすぐに戻ってこい」

「はい!」

「シャロンもだぞ」

「はい」

 

 シエルも素直に頷いた。

 そこへ、ティナとカイトも姿を現した。

 ティナはまだ少し髪が濡れている。

 

「な、何があったの!?」

 

 そう言いながら駆け寄ってきたティナが、俺とシエルを見て足を止めた。

 

「……え、ちょっと。なんでアウラが二人?」

「こっちはシャロンだ。説明はあと」

 

 カイトも目を丸くしたが、今はそれどころじゃない。

 

「街が魔物に襲われてるらしい」

「えっ?」

 

 二人の表情が変わった。

 

「僕も行きます!」

 

 クラウスが首を横に振った。

 

「二人はここにいてくれ」

「でも!」

 

 カイトが食い下がろうとする。

 だが、クラウスは穏やかな口調で続けた。

 

「俺もレオンも屋敷を離れる。リリアも不安になるだろう」

「リリア様が……」

「ああ。二人はあの子とも親しくしてくれている。そばにいてやってほしい」

 

 カイトが口を閉じた。

 少し悔しそうではある。

 それでも、しばらく考えたあとに頷いた。

 

「……分かりました」

 

 ティナも同じように頷く。

 

「分かりました。リリア様のそばにいます」

「頼む」

 

 クラウスがそう言うと、周囲にいた使用人の一人を呼び止めた。

 

「地下の保管庫を開けろ。俺とレオンの装備と、上段の三つを持ってこい」

「かしこまりました!」

 

 使用人が慌ただしく本館へ駆け込んでいく。

 

「装備、ですか?」

 

 俺が尋ねると、クラウスが頷いた。

 

「ああ。こんな状況だからな。使える物は何でも使う」

 

 そういえば、クラウスは魔剣や魔道具を集めるのが趣味だった。

 しばらくすると、何人かの使用人が剣や防具、それに三つの小さな箱を抱えて戻ってきた。

 クラウスはその中から一本の剣を取り、自分の腰へ下げる。

 さらに、使用人の手を借りながら手早く胸当てと籠手を身につけていった。

 レオンも使用人が持ってきた防具を手早く身につけていく。

 

「レオン、これはお前が持っていけ」

「父上、これは……」

「今使わずにいつ使う。持っていけ」

「……分かりました」

 

 さらにクラウスは、別の魔道具をカルスとロイドへ渡していく。

 

「カルスはこれだ。ロイド、お前はこっちを持っていけ」

「お借りします」

「ありがとうございます!」

 

 普段は大事に集めている物なんだろうけど、クラウスに惜しむ様子はなかった。

 

「壊しても構わん。生きて戻ってこい」

「はい!」

 

 レオンたちが力強く答える。

 クラウスも自分の剣を確かめると、門の方へ視線を向けた。

 

「レオン、行くぞ!」

「はい!」

 

 レオンはロイドを伴って、冒険者ギルドへ。

 クラウスはカルスと何人かの騎士や兵士を連れ、騎士団との合流へ向かう。

 ゲオルグは残った者たちへ次々と指示を出していた。

 

「リリア様とラルフ様を本館奥へ。使用人たちも移動させなさい。騎士は出入口を、兵士は庭と外周の警戒をお願いします」

 

 声を荒らげているわけではない。

 それなのに、誰もがすぐゲオルグの指示に従って動いていく。

 いつもの穏やかな執事とは、少し雰囲気が違って見えた。

 そういえば、ゲオルグは元騎士だったんだよな。

 

「アウラさん」

 

 出発前、レオンが俺を見る。

 

「気をつけて」

「レオン様も」

「ああ」

 

 それだけ言葉を交わし、レオンたちは門を出ていった。

 俺も急がないと。

 

「まずはマルルゥだな」

「ええ!」

 

 俺とシエルは急いで別館へ戻った。

 マルルゥの部屋の前まで行き、扉を叩く。

 

「マルルゥ」

 

 返事はない。

 

「マルルゥ、いるか?」

 

 しばらくして。

 

「……何?」

 

 中から声が聞こえた。

 

「街で魔物が出たらしいんだ」

「……聞こえてるよ」

 

 やっぱり外の騒ぎはここまで届いていたらしい。

 

「俺とシャロンも手伝いに行きたいんだけど……悪い。マルルゥも一緒に来てくれないか?」

 

 返事はなかった。

 しばらく待っていると──。

 

「……嫌だ」

 

 小さな声が返ってきた。

 昨日、サイラスの名前を聞いてからずっとこんな調子だ。

 何があったのかは分からない。

 けれど、今はどうしても戦力が欲しい。

 それに、街ではすでに大勢の人が傷ついている。

 

「頼むよ、マルルゥ。今は多くの死傷者が出ているらしいんだ! 早く行かないと、もっと犠牲者が出るかもしれない」

「…………」

 

 返事はない。

 けれど、しばらくすると扉の向こうから何かが動く音が聞こえた。

 やがて──扉が開く。

 マルルゥが立っていた。

 俺とシエルを見るなり、一瞬だけ目を丸くする。

 

「……何、その格好」

「変装。説明はあとでな」

「……そう」

 

 それ以上聞く気力もないらしい。

 顔色は、やっぱりあまりよくなかった。

 

「……ちょっと待ってて」

「来てくれるのか?」

「魔物がたくさん出てるんでしょ」

 

 マルルゥは俺と目を合わせようとしなかった。

 

「戦える人間は、多い方がいいから」

「……ありがとな」

「別に」

 

 それだけ言うと、マルルゥは部屋へ戻ろうとする。

 

「あ、そうだ」

「……何?」

「クラウス様から、今回の件はブルム家からの正式な依頼にするって。報酬も出すし、働きに応じて褒賞も出すって言ってたぞ」

「……そう」

 

 マルルゥは僅かに頷く。

 

「分かった」

 

 それだけ答えると、部屋へ戻っていった。

 普段は、ちょっと……いや、だいぶ空気が読めなかったりもするが、なんだかんだでマルルゥは優しいんだよな。

 

 サイラスと何があったのかは分からない。

 でも、今は聞いている場合じゃない。

 

 マルルゥが準備している間に、俺たちも自分の部屋へ戻った。

 俺は普段着を脱ぎ、ハイレグアーマーを身につけた。

 魔剣も忘れず腰へ下げた。

 

 一方で──。

 

 シエルは、変装した顔と栗色のウィッグ、そして俺の魔剣とよく似た剣を腰に下げていることを除けば、いつもと何も変わらない格好をしていた。

 

「……シエルは鎧、着なくていいのか?」

「え?」

「今から魔物がうじゃうじゃいるところに行くんだぞ?」

 

 俺が聞くと、シエルが僅かに視線を逸らした。

 

「……できれば、あの鎧は着たくないので」

「あぁ……まあ……」

 

 気持ちは分かる。

 シエルのハイレグアーマーも、俺の物と同じようにかなり際どい。

 俺だって好き好んで着ているわけじゃないからな。

 

「でも、危なくなれば勝手に装備されますから大丈夫ですよ」

「まあ、それはそうだけど……」

 

 要するに、自分からは着たくないってことなんだろう。

 いざとなれば、勝手に装備されるわけだし。

 

「でも、勝手に装備されるときって服が駄目になるだろ?」

「大丈夫です」

 

 何故かそこだけ自信満々に答える。

 

「予備はアイテムボックスにたくさん入れてありますから」

「そっちの準備は万全なのな……」

「アウラさんより長くこちらにいますからね。……何度か、色々あったんですよ」

「あぁ……何か、すまん」

 

 シエルが遠い目をしている。

 ……これ以上は聞かないでおこう。

 

「じゃあ、行くか」

「はい!」

 

 数分後。

 準備のできた俺、シエル、マルルゥ。

 三人でブルム家の門を出た。

 外へ出た瞬間──。

 

「……っ」

 

 焦げ臭い。

 風に乗って、煙の臭いが流れてくる。

 

 高台から街を見る。

 すでに空はかなり暗くなっていた。

 だが、街の一部だけが赤く染まっている。

 

 火事だ。

 一ヶ所じゃない。

 二つ。

 三つ。

 いや──もっとある。

 いくつもの場所から黒い煙が上がり、赤い炎が薄暗い空を照らしていた。

 遠くから、人の叫び声まで聞こえるような気がする。

 

「……ひどい」

 

 隣でシエルが呟く。

 マルルゥは何も言わなかった。

 

「急ごう」

「はい」

「……うん」

 

 何が起きているのか。

 まだ、俺たちには分からない。

 ただ一つ分かるのは──。

 これは、ただの魔物騒ぎなんかじゃない。

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