【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど 作:もろきゅー
その後もしばらく、俺はサイラスたちと一緒に瓦礫の撤去を手伝った。
幸い、崩れた建物の下から助け出した中には、まだ息のある人も多かった。
動ける盾の会の連中や兵士たちが負傷者を安全な場所へ運び、その場で応急手当を始めている。
もちろん、全員を助けられたわけじゃない。
瓦礫の下から引き出された時には、もう息をしていない人もいた。
さっきまで一緒に戦っていた仲間だったのだろう。遺体の前に膝をつき、拳を握り締めている男もいる。
「……ちくしょう。あの骸骨野郎め」
低い声が聞こえた。
「次に見つけたら、絶対にぶっ殺してやる」
誰も止めなかった。
気持ちは分かる。
俺だって、次にアイツと会ったら大人しく帰すつもりなんてない。
最後の一人を瓦礫の下から引っ張り出し、近くにいた兵士へ引き渡す。
「よし……これで、この辺りは全部か?」
「ああ。見える範囲には、もういないはずだ」
隣で大きな瓦礫を持ち上げていたサイラスが答えた。
周囲を見回す。
まだ負傷者の呻き声は聞こえるものの、ひとまず瓦礫に取り残された人はいなくなったらしい。
「じゃあ、私は冒険者ギルドの方へ向かいます」
「冒険者ギルドへ?」
「はい。マルルゥも先に向かいましたし、あちらもかなり大変なことになってるみたいなので」
「そうか」
サイラスは一度、怪我人たちへ目を向けた。
「俺も、ここの負傷者の手当てと避難が済み次第そちらへ向かう」
「分かりました」
頷いて、その場を離れようとする。
「アウラ」
「はい?」
呼び止められて振り返ると、サイラスがこちらへ歩み寄ってきた。
何だろうと思っていると、大きな黒い身体を屈め、俺の耳元へ顔を近づける。
「先ほど見た、俺の身体のことだが……」
周囲に聞こえないよう、かなり声を落としていた。
「はい……?」
「このことを知っているのは、盾の会でも一部の者だけだ。できれば、あまり口外しないでもらえると助かる」
そういえば、ロイドもサイラスの素顔を知る者はほとんどいないと言っていた。
全身鎧の中身が空っぽで、鎧そのものが身体だなんて、知られれば騒ぎになるのは目に見えているしな。
「分かりました。誰にも言いません」
「すまない」
「いえ。さっき色々話してもらったこともありますし、その辺はちゃんと黙っておきますから」
「助かる」
サイラスが小さく頭を下げた。
「それでは、また後で」
「はい。そちらも気をつけてください」
「ああ。君もな」
短く言葉を交わし、今度こそその場を離れた。
冒険者ギルドへ向かうため、さっき通ってきた道を戻る。
戦いのあった場所から少し離れるだけで、街の様子は随分と変わっていた。
道には壊れた荷車や散乱した荷物が残っているものの、避難は進んでいるらしく、人の姿はほとんどない。
角を曲がろうとしたところで、向こうから誰かが飛び出してきた。
「わっ!」
「うぉっと!」
危うく正面からぶつかりそうになり、慌てて身体を逸らす。
「あ、アウラさん!?」
「シエル?」
俺と同じ栗色の髪をした少女が、驚いた顔でこちらを見上げていた。
危なかった。
もう少し勢いよく走ってたら、完全にぶつかってたぞ。
「大丈夫か?」
「は、はい。私は大丈夫です。アウラさんこそ……」
「俺も平気だ」
周囲を確認する。
幸い、近くには誰もいない。
さっきまではこの辺りにも怪我人がいたはずだが、今は血の跡と、手当てに使ったらしい布が残っているだけだった。
「こっちはもう終わったのか?」
「はい。今ちょうど、怪我をしていた方たちの治療が終わったところです。歩ける方は皆さんで避難してもらいました」
「そっか。なら良かった」
シエルも一息ついたように、小さく頷く。
「アウラさんの方はどうでしたか? マルルゥさんが先ほど、冒険者ギルドへ行くと言って走っていきましたけど……」
「ああ。そのことなんだけど」
少し迷ってから、盾の会の前で起きたことを話す。
腐った魔物の群れ。
ドラゴンや巨人。
そして──あの骸骨仮面の男。
「……お前や俺を襲った、骸骨仮面の男がいた」
「え……?」
シエルの表情が固まった。
「やっぱり、お前を探してるみたいだった。俺のことを相変わらず聖女だと思ってたけど」
そこまで言うと、シエルの顔からさっと血の気が引いた。
「それじゃあ……今回のこの騒ぎは……」
「シエル?」
「私が、ここにいたから……」
俯いたシエルが、胸元で杖をぎゅっと握り締める。
「私がここに身を隠していたから……こんなに沢山の人が怪我を……」
「おい」
俺はシエルの頭へ手を置いた。
「ア、アウラさん?」
「お前のせいじゃない」
「で、でも……!」
「悪いのは襲ってきたアイツらだろ」
少し乱暴に、その栗色の髪を撫でる。
「お前がここにいたからって、何してもいい理由にはならない。だから、そんな顔すんな」
「…………」
「それに、まだ終わったわけじゃない」
シエルがゆっくりと顔を上げる。
「盾の会の前にも、怪我人がかなり残ってる。瓦礫の下からは助け出したけど、応急手当だけじゃ厳しそうな人もいるんだ」
「そんなに怪我人が……」
「ああ。悪いけど、行って治してやってくれないか?」
シエルは一瞬だけ目を見開き、すぐに強く頷いた。
「分かりました。すぐに行きます!」
「頼む」
「治療が終わったら、私も冒険者ギルドへ向かいます」
「え?」
「まだ怪我をしている方が沢山いると思います」
「……それはそうかもしれないけど」
止めても来るだろうな、この顔は。
「分かった。でも無茶すんなよ」
「はい。アウラさんも気をつけてくださいね」
「ああ」
一度、互いに頷く。
「それでは、行ってきます!」
「ああ、頼んだ!」
シエルは俺が来た道を戻っていき、俺はその背中を少しだけ見送る。
そして、反対側にある冒険者ギルドへ向かって再び走り出した。
冒険者ギルドへ近づくにつれ、聞こえてくる音が変わった。
最初に聞こえたのは、何かが崩れるような大きな音だった。
続いて、怒鳴り声や悲鳴。金属同士がぶつかる甲高い音に魔物の唸り声、さらに何かが爆ぜる音まで重なってくる。
まだ戦ってる。
しかも──相当激しそうだ。
走る速度を上げると、今度は鼻をつく臭いまで強くなってきた。
「……くっさ……!」
思わず顔をしかめる。
腐った肉みたいな臭いだ。
盾の会の前でも散々嗅いだが、こっちはもっと酷い。
鼻がひん曲がりそうだ。
やがて冒険者ギルドの建物が見えてくる。
そして最後の角を曲がった瞬間、俺は思わず足を止めた。
「……なんだよ、これ」
冒険者ギルド前の通りは、完全に戦場になっていた。
怒号が飛び交い、剣と爪がぶつかり、魔法が爆ぜる。
砕けた石片や土煙が宙を舞い、倒れた冒険者を仲間が引きずって後方へ運んでいる、そのすぐ横を腐った魔物が駆け抜けていく。
「後ろだ! まだ動いてるぞ!」
「え──」
首を斬られて地面に倒れていた魔物が、突然起き上がった。
近くにいた冒険者の脚へ掴み掛かろうとし、それに気づいた仲間が慌てて剣を振り下ろす。
「くそっ! 首を落としても駄目なのかよ!」
「脚を狙え! とにかく動けなくしろ!」
そんな光景が、一ヶ所じゃない。
「誰か! こいつ、まだ息がある!」
「聖療教会の奴を呼んでこい!」
「馬鹿言え! 教会の聖職者共が、こんな戦場まで来るわけねえだろ! 死なせたくなきゃ教会まで運べ!」
「この状況で、どうやって運ぶんだよ!」
別の場所では、腹を押さえた男の周囲で数人の冒険者が怒鳴り合っている。
さらにその向こうからは、
「もう無理だ! こんなのやってられるか!」
一人の若い冒険者が後方へ駆け出した。
「お、おい、待て!」
「死にたくねえんだよ!」
呼び止める声にも振り返らず、そのまま走り去っていく。
誰かがそれを責める暇すらない。
次の魔物が、もう目の前まで迫っていた。
「前へ出すぎるな! 倒しても止まらないぞ!」
聞き覚えのある声が飛んだ。
見ると、戦場の中央付近でレオンが騎士や冒険者たちへ指示を出している。
「負傷者を後ろへ! 騎士は左右を固めろ! 一人で追うな!」
指示を飛ばした直後、横から腐った獣型の魔物がレオンへ飛び掛かった。
だが、レオンは慌てない。
一歩だけ横へ身体をずらして爪をかわすと、すれ違いざまに剣を振り抜いた。
刃が魔物の前脚をまとめて斬り払い、体勢を崩したところへ続けて後ろ脚を斬る。
魔物が地面へ転がった。
……あいつ、思ってたよりずっと強いな。
そのすぐ近くでは、ロイドがさらに大きな魔物を相手にしている。
迫ってきた腕を受け流し、返す剣で肘から先を落とすと、続けざまに両脚を斬り払った。
「レオン様、右翼が崩れかけています!」
「分かった! 騎士を三人回せ!」
「はっ!」
レオンたちの周囲には何人もの騎士や兵士がいて、冒険者と肩を並べながら必死に戦線を支えている。
それでも、じりじりと前線が後ろへ押されていた。
「右側が押されてる! 動ける奴はそっちへ回れ!」
冒険者ギルドの入口近くでは、フレイが抜き身の剣を手に声を張り上げていた。
「倒そうとするな! 脚を潰せ! まず動けなくしろ!」
別の場所で魔法使いが杖を構えるのを見て、フレイがさらに怒鳴る。
「おい、火の魔法は使うな! 建物に燃え移るぞ!」
指示を飛ばしている最中にも、フレイは横から迫ってきた魔物へ鋭く剣を振り抜く。
膝から下を斬り飛ばされた魔物が、地面へ崩れ落ちた。
だが、それでも止まらない。
両手で地面を掻きながら、フレイの足元へ這ってくる。
「チッ……!」
フレイがその腕まで斬り落とす。
「ギルド長! 左翼も持ちません!」
「分かってる! レオン、そちらから何人か回せるか!」
「行けます! 三人、左翼側へ!」
即座に騎士たちが動く。
冒険者も騎士も兵士も、それぞれ必死に戦っている。
なのに、次から次へと魔物が押し寄せてくる。
「く、来るな……!」
近くで震えた声がした。
若い魔法使いが杖を構え、目の前へ迫る腐った魔物を見て後退している。
「来るな……来るなああああ! 《ファイアーボール》!」
魔法使いが叫んだ。
「馬鹿っ! 火は使うな!」
放たれた火球が魔物の胸へ直撃した。
爆ぜた炎が、その全身を包み込む。
一瞬、魔法使いの顔に安堵が浮かんだ。
「や、やった……」
だが──。
「……え?」
炎の中から、魔物が歩いてきた。
腐った皮膚が焼け、身体から黒い煙を上げながら、それでも足を止めない。
「う、嘘だろ……」
燃え盛る両腕が、魔法使いへ伸びる。
「逃げろ!」
「ひっ──」
別の冒険者が横から体当たりし、魔法使いを突き飛ばした。
代わりにその男へ燃えた魔物が掴み掛かる。
「ぎゃああああっ!」
「引き剥がせ! 早く!」
「だから火を使うなと言ってるだろうが!」
騎士の怒声が響く。
しかも、燃えた魔物が暴れた拍子に、近くへ積まれていた木箱にも火が移った。
「火事だ!」
「水魔法使えるやついねーか!?」
「水を持ってこい!」
「そんな暇あるか! こっちが抜かれるぞ!」
敵を倒すどころか、火まで消さなければならなくなっている。
酷い。普通なら敵を倒すための攻撃が、ここじゃ逆に被害を増やしかねない。
その時だった。
「そりゃあっ!」
戦場には似つかわしくない、可愛らしい少女の声が響く。
同時に、大柄な魔物が横へ吹き飛んだ。
声の主は、戦場の中でも一際目立つ大女だった。
動きやすそうな革鎧を着ていても隠しきれない、丸太みたいに太い腕。
筋肉の塊みたいな身体の上には、三つ編みにした可愛らしい少女の顔がちょこんと乗っている。
見間違えようがない。
タルちゃんだ。
何でタルちゃんがここに?
「ナタルシア! そっちはまだ持つか!」
フレイが叫ぶ。
ナタルシア。確か、金級冒険者だと聞いていた名前だ。
「もう人使い荒いわね~! こっちだって手一杯よ~!」
返事をしたのはタルちゃんだった。
……って、タルちゃんがナタルシアだったのか。
いつもの軽い調子のまま、タルちゃんが二振りの剣を振るう。
一体の魔物が胴から真っ二つになった。
地面へ落ちるより早く、その上半身を蹴り飛ばす。
凄まじい勢いで吹き飛んだ身体が後ろの魔物を巻き込み、まとめて地面へ転がった。
「やだ、きったな~い!」
口調だけ聞けば、いつもと変わらない。
けれど、額からも首筋からも汗が流れていた。
しかも、倒した分だけ空いたはずの場所へ、後ろから新しい魔物が押し寄せてくる。
あれだけ倒してるのに、全然減ってない。
「くそっ! しつけえんだよ!」
タルちゃんの宿で働いている銀級冒険者の男が怒鳴り、武器を振り下ろす。
肩から血を流しているせいか、以前見た時より明らかに動きが鈍い。
「姐さん、もうここを維持するのは無理です! 一度引きましょう!」
今度は、同じ宿で働いている女の銀級冒険者が悲鳴に近い声を上げた。
「ギルド長~! これ以上は戦線を維持できないわ~! 一旦下がって立て直した方が──」
「きゃあっ!」
タルちゃんの声を遮るように悲鳴が上がった。
さっき声を掛けていた女の銀級冒険者が魔物に押し倒され、その上へさらに二体、三体と群がっていく。あっという間に、その姿が魔物の群れに隠れた。
「ちょっと! その子から離れなさいよ!」
タルちゃんが地面を蹴った。
一気に距離を詰めると、女へ群がっていた魔物を二本の剣で次々と斬り払っていく。
あのタルちゃんですら、自分の周りを守るので精一杯だ。
少し離れた場所には、ドーガンたちの姿もあった。
「前出んなっつってんだろうが! 死にてえのか!」
双斧を振るうドーガンの後ろに、ベックとトッドがいる。
二人とも無事とは言い難い。
ベックは片脚を引きずり、槍を杖代わりにして何とか立っている。
トッドも片腕から血を流し、立っているだけでも辛そうだ。
「でもアニキ!」
「でもじゃねえ! 立ってるだけで精一杯のくせに粋がんな! 俺の後ろにいろ!」
怒鳴りながら、ドーガンが近づいてきた魔物の脚を斧で叩き斬る。
普通なら、それで決着がつくはずだ。
だが、地面へ倒れた魔物は両腕だけで這いながら、それでもドーガンへ向かっていく。
「チッ……! ホントにキリがねえ!」
もう片方の斧を振り下ろし、伸ばされた腕を断ち切る。
ドーガン自身も身体のあちこちを汚しているが、少なくとも大きな怪我はしていないようだ。
自分が前へ立ち、傷ついた二人のところへ一体も通さないつもりらしい。
さらに別の場所では、大柄な女がメイスを振り回していた。
ヴェルノだ。
「下がってください! 動ける人は怪我人をお願いします!」
魔物の顔面をメイスで叩き潰し、その隙に倒れていた冒険者を抱え上げる。
別の魔物が迫れば、片腕で冒険者を抱えたままメイスを振るい、強引に押し返していた。
倒すことより、助けることを優先している。
その時、ヴェルノの後ろで別の冒険者が叫んだ。
「こいつ、まだ息がある! 誰か手ぇ貸してくれ!」
「聖療教会まで運べ!」
「無理だ! 道が塞がってる!」
「じゃあここで死なせろってのかよ!」
「そんなこと言ってねえだろ!」
どこを見ても、誰かが叫んでいる。
仲間を呼ぶ声や助けを求める声、怒鳴り声に悲鳴。それら全部が、武器のぶつかる音や魔法の炸裂音に混じり合っていた。
「《ウィンドスピア》!」
風の槍が飛び、倒れた冒険者へ襲い掛かろうとしていた魔物の身体を貫いた。
マルルゥだ。
いつもの人をからかうような笑みはない。
真剣な顔で戦場全体を見渡し、倒れている冒険者や戦っている味方を巻き込まないよう、狙いを絞って魔法を撃ち続けている。
盾の会で見せたような大魔法なんて、こんなに人が入り乱れている場所じゃ使えるはずがない。
マルルゥなら、もっと強い魔法をいくらでも使える。
それでも使えない。
敵だけをまとめて吹き飛ばせる場所なんて、ほとんど残っていないからだ。
その間にも戦線は少しずつ後ろへ下がっている。
誰も弱くない。
むしろ、目に入る奴らは皆よく戦っていた。
レオンは指示を出しながら自分でも剣を振るい、ロイドも迫る魔物を次々と斬っている。
フレイだって自分で戦いながら冒険者をまとめ、金級のタルちゃんも、その仲間たちも必死に踏みとどまっている。
ドーガンもいる。
ヴェルノもいる。
騎士も兵士も、冒険者だって大勢いる。
マルルゥまでいるんだ。
これだけの戦力が集まっている。
それなのに──。
「……押されてるのかよ」
一体倒しても、その後ろから二体来る。
その二体を倒している間に、最初に倒した奴がまた動き出す。
こっちは怪我をする。
疲れる。
恐怖に耐えきれず逃げ出す奴だっている。
でも、向こうにはそれがない。
腐った魔物たちは、何度斬られても、何度地面に叩き伏せられても怯まない。
身体が動く限り何度でも起き上がり、その後ろからは新しい死体が次々と押し寄せてくる。
盾の会を襲った奴らとは違う。
あっちは、強力な魔物を少数でぶつけてきた。
こっちは──とにかく、数が多すぎる。