【TS】神様のミスで死にましたが、補償内容が羞恥プレイなんですけど   作:もろきゅー

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116話 救いの手

 このまま見ているわけにはいかない。

 俺も少しでも数を減らさなければと魔剣を握り直し、冒険者たちとぶつかり合っている死者の群れへ向かって走り出した。

 

 近づいてみると、改めて酷い有様だ。

 大きさも姿も様々で、人間のように二本脚で歩く魔物もいれば、獣のように四本脚で駆け回る奴もいる。俺の知らない魔物ばかりだったが、共通しているのは、どれもこれも死んでから相当な時間が経っているように見えることだった。

 

 身体のあちこちが腐り、皮膚が崩れて肉が剥き出しになっているものまでいる。

 盾の会で戦ったドラゴンたちも酷かったが、あっちは表面に張り付いていたスライムの方に目が行っていた。

 こっちは腐敗した肉体がそのまま晒されているうえ、数が多い分、臭いも比べものにならない。

 

「うぇ……」

 

 気持ち悪さを堪えながら前へ進んでいると、一人の冒険者の背後へ四足歩行の魔物が迫っているのが見えた。

 

「後ろ!」

「なにっ!?」

 

 男が振り向くより早く地面を蹴り、一気に間へ割り込む。

 横薙ぎに振るった魔剣は腐った胴体をほとんど抵抗なく通り抜け、その身体を真っ二つに切り裂いた。

 上下に分かれた魔物が地面へ転がり、そのまま動かなくなる。

 

 やっぱり、この剣の切れ味はおかしい。

 さっきのドラゴンや四本腕の巨人もそうだったが、相手がどれだけ大きくても、刃を通すことそのものにはほとんど苦労しない。

 見た目については今でも文句しかないけど、こういう時だけは本当に頼りになる。

 

「あ、あぶねぇ! 助かったぜ!」

 

 振り返った冒険者が、息を切らしながら頭を下げた。

 

「お気になさらず! まだ来ますから気をつけてください!」

「あ、ああ!」

 

 俺は笑顔を返すと、すぐ次の魔物へ向かおうとした。

 

「尻すっげえな!」

「おいいいい!?」

 

 思わず振り返る。

 

「いや、悪い! でも目の前にあるとどうしても!」

「前を見て戦ってください!」

「そうだぞ! 尻見て死んだとか笑えねえぞ!」

 

 横で魔物と斬り合っていた別の冒険者が笑う。

 

「お前も見てんじゃねえか!」

「しょうがねえだろ! 勝手に目に入るんだよ!」

「全部聞こえてますってば!」

 

 何なんだこいつら!

 ついさっきまで死にそうな顔してたくせに、何で急に元気になってんだよ!

 

「おい、あの変な格好してる嬢ちゃん強えぞ!」

「うお、すげぇ尻! 俺が死ぬ時は尻に挟んで看取ってほしい!」

「ちゃんと前みて戦って下さい!」

 

 怒鳴り返しながら、横から飛び掛かってきた魔物へ魔剣を振るう。

 胸から腰まで斜めに切り裂かれた魔物が地面へ崩れ落ちた。

 

「うおっ! また一発かよ!」

「嬢ちゃん! 俺らも負けてられねえな!」

「おう! こんな嬢ちゃんが前出てんのに、逃げてられるか!」

 

 どういう理屈だよ。

 とは思ったものの、さっきより周囲の声が明らかに大きくなっている。

 武器を振るう腕にも少しだけ力が戻ったように見えた。

 

「嬢ちゃん! お互い生き残ってたら、酒の酌くらいしてくれや!」

「嫌ですよ!」

「即答かよ!」

「っていうかよぉ、まず生き残れるかが問題だろ! 口説くなら生き残ってからにしろや!」

「よっしゃ! 聞いたか! 生き残れば可能性あるぞ!」

「ねえっつってんだろ!?」

 

 何で勝手に話を変えてんだ!

 それでも、荒くれ者の冒険者たちにはこのくらいの馬鹿騒ぎが合っているのかもしれない。

 僅かではあるが、さっきまで戦場を覆っていた重苦しい空気が薄らいでいる。

 俺をネタにされているのは、まったく納得いかないけど。

 

 魔物の群れはそんなこちらの事情などお構いなしに押し寄せてくる。

 俺は次々と魔剣を振るい、近くへ来る死体を切り伏せていった。

 一体一体は、盾の会で戦ったドラゴンや巨人とは比べものにならないほど弱い。

 動きも単純だ。

 まともな生き物なら致命傷になるような攻撃を受けても怯まず向かってくるのが厄介ではあるものの、俺の剣なら身体そのものを切り分けてしまえる。

 

 切っても動くなら、動けなくなるまで切ればいい。

 そう考えて、最初は胴体や脚を狙っていた。

 だが、何体か斬っているうちに妙なことに気がついた。

 

「……あれ?」

 

 俺のすぐ横で、冒険者が人型の魔物の肩へ剣を叩き込んだ。

 刃はかなり深く入っている。

 それでも魔物は止まらず、冒険者へ腕を伸ばした。

 

「くそっ! 剣が抜けねえ!」

「下がって!」

 

 間へ入り、横から魔物の腕を魔剣で斬る。

 ほんの浅い一撃だった。

 腕を切断したわけでもなければ、身体が動かなくなるほどの傷でもない。

 冒険者を護るために咄嗟に攻撃した、浅い一撃。

 にもかかわらず、魔剣が触れた直後、それまで暴れていた魔物の身体から突然力が抜けた。

 そのまま地面へ崩れ落ち、今度は起き上がろうともしない。

 

「……何だ?」

 

 さっきから俺が斬った奴だけ、妙に大人しくなっている。

 最初は真っ二つにしたから動けないだけだと思っていた。

 でも今のは違う。

 腕を少し斬っただけだ。

 試すように、別の魔物の横腹へ浅く刃を走らせてみる。

 やっぱり同じだった。

 魔剣が触れた途端、糸の切れた人形みたいに地面へ倒れる。

 

 もしかして……《魔喰い》か?

 この魔剣が持つ、魔力を喰らう力。

 こいつらが何か魔法的な力で動いているのなら、その力を刃が喰って消しているのかもしれない。

 けれど、そう考えると別の疑問が浮かぶ。

 盾の会にいた魔物たちは、身体の中にあのスライムが潜んでいた。

 だが、ここにいる魔物たちには、あの骸骨仮面の男の操るスライムは見当たらない。

 何体斬っても、スライムが出てこない。

 

 同じように死体が動いているのに、仕組みが違うのか?

 だが、考え込んでいる余裕はなかった。

 俺の魔剣なら一撃で動きを止められるかもしれないが、それでも俺が一体斬る間に、その向こうから二体、三体と新しい魔物が押し寄せてくる。

 いくら斬っても終わりが見えない。

 

「くそっ、これじゃキリがない……!」

 

 その時、俺のすぐ横を大きな影が凄い勢いで横切った。

 腐った魔物だった。

 地面を何度も跳ねながら吹き飛ばされ、後ろにいた別の魔物まで巻き込んで転がっていく。

 

「まだまだ若いもんには負けないよ!」

 

 聞き覚えのある声に振り向く。

 少し離れたところで、フーバが拳を構えていた。

 額から大量の汗を流し、息もかなり上がっている。それでも、まだ大きな怪我はしていないらしい。

 

「調子乗んな! 右!」

 

 フーバの近くにいたサラの声が飛ぶ。

 ほとんど同時に矢が放たれ、フーバの右側から飛び掛かろうとしていた魔物の目へ突き刺さった。

 

「分かってるよ!」

 

 視界を潰された魔物の懐へフーバが踏み込み、その腹へ拳を叩き込む。

 腐った身体が大きく浮き上がり、そのまま後ろへ吹き飛んだ。

 相変わらず凄い威力だ。

 サラの方も、これだけ人が入り乱れているのに正確に矢を当てている。

 二人とも息の合った動きをしていた。

 ただ、今の相手とはあまりにも相性が悪い。

 

「くそっ!」

 

 サラが放った次の矢が、人型の魔物の額へ深々と突き刺さった。

 普通なら、その場で倒れて終わりだ。

 ところが魔物は仰け反っただけで、そのまま歩き続ける。

 

「何で頭ぶち抜いてんのに止まらねえんだよ!」

「文句言ってもしょうがないよ! こっちだって殴っても殴っても起きてくるんだからね!」

 

 フーバが別の魔物を殴り飛ばしながら叫び返す。

 

「だから一旦引けって言ってんだろ! このままじゃ持たねえぞ!」

「分かってるよ!」

 

 そう答えながらも、フーバは下がろうとしない。

 後ろには負傷者がいるし、ここを空ければ魔物が街の奥へ散ってしまう。

 二人だけじゃない。

 ここにいる連中のほとんどが、同じ理由で無理をして踏みとどまっている。

 だからこそ、このまま一体ずつ倒していたんじゃ駄目だ。

 もっとまとめて数を減らす方法が必要になる。

 周囲を見回すと、少し離れた場所で風の槍が魔物の胸を貫いた。

 

「マルルゥ!」

 

 何体かの魔物を斬りながら、そちらへ向かう。

 

「マルルゥ! こいつら、まとめて何とかできないのか!?」

「出来るなら、とっくにやってるよ!」

 

 マルルゥは周囲へ目を配りながら、狙いを絞って魔法を撃ち続けている。

 

「これだけ人が入り乱れてるのに、大魔法なんて使ったら味方までまとめて吹き飛ばしちゃうでしょ!」

「じゃあ、場所さえ空けばいけるのか!?」

「え?」

「味方と怪我人を退かせて、魔物だけまとめられれば使えるんだろ?」

 

 マルルゥが魔法を放ちながら、戦場全体へ目を走らせる。

 

「……それなりの広さと、詠唱する時間が取れるならね。でも見て分かるでしょ。そこら中に負傷者が倒れてるし、魔物も好き勝手に動いてるんだよ?」

「分かった!」

「ちょっと、分かったって何が!?」

「レオン様に相談してくる!」

 

 返事を待たず、戦場の中央へ向かう。

 途中で襲ってきた魔物を魔剣で斬り、騎士たちへ指示を出していたレオンのところまで辿り着いた。

 

「レオン様!」

「アウラさん! どうした!」

「マルルゥが、大魔法を使える場所さえ作れれば、一気に魔物を減らせるそうです!」

 

 俺の姿を知っているレオンは、一瞬だけこちらを見ると、すぐに周囲へ視線を戻した。

 

「どのくらい空ければいい?」

「通りにいる味方と負傷者を退かせて、魔物だけまとめられればいけるそうです。それと、詠唱する時間も欲しいとのことです!」

「……分かった」

 

 レオンは即座に決断した。

 近くで戦っていた騎士へ二、三の指示を飛ばし、そのままフレイにも声を掛ける。

 二人が短く状況を確認すると、すぐに戦場へ命令が飛び始めた。

 

「中央の負傷者を左右の路地へ運べ! 動ける者は救助を優先しろ!」

 

 レオンが騎士たちに指示を飛ばす。

 

「そこのエルフの魔法使いを守れ! 魔物は中央へ押し戻せ! 倒す必要はねえ! 大盾持ちは左右を塞げ! 中央から逃がすな!」

 

 続いて、フレイの怒鳴り声が戦場へ響いた。

 それまで目の前の敵を相手にするだけで精一杯だった人たちが、目的を持って動き始める。

 負傷者を二人がかりで引きずっていく冒険者。

 盾を並べて魔物の進路を塞ぐ騎士。

 横道へ入り込もうとする魔物を押し返す兵士。

 俺もその中へ加わり、中央から外れようとする死体へ次々と魔剣を叩き込んだ。

 俺が斬った相手は、その場で力を失って倒れていく。

 おかげで少しは楽になったが、それでも数は多い。

 

「急げ! まだ一人いるぞ!」

「こっちは運んだ!」

「右を空けろ! そっちに負傷者を通すぞ!」

 

 怒鳴り声が飛び交う中、少しずつ中央の通りから味方の姿が消えていった。

 代わりに、押し戻された腐った魔物たちが通りの奥へ集まり始める。

 最初は無理に思えたが、全員で同じ目的に向かって動けば、戦場は少しずつ形を変えていった。

 

「……いける!」

 

 思わず声が漏れる。

 これなら本当に、まとめて吹き飛ばせるかもしれない。

 

「いけるぞ!」

 

 レオンの声が響いた。

 通りの後方で、マルルゥが足を止める。

 それまで小さな魔法を連発していた時とは明らかに違った。

 低く詠唱を始めた途端、周囲の空気が震え、目に見えない何かが一気に集まっていくのが分かる。

 髪が風もないのに揺れ、足元の砂埃が円を描くように舞い上がった。

 離れたところにいる俺にまで、肌が粟立つほどの圧力が伝わってくる。

 

「あと少しだ! 絶対に中央から出すな!」

 

 レオンの声に応じ、騎士や冒険者たちが最後の力を振り絞って魔物を押し返す。

 俺も横道へ抜けようとする魔物を次々と斬り伏せ、中央から外へ出ようとする死者を食い止める。

 

 マルルゥの長い詠唱が続く。

 これだけ詠唱に時間を掛けるんだ。それだけでも、相当な威力の魔法だということは分かる。

 これが撃てれば、今度こそ一気に数を減らせる。

 誰もがそう思っていたのだろう。

 さっきまで後退し続けていた戦場に、初めて反撃できるという空気が生まれていた。

 やがてマルルゥの詠唱が終わりに近づくにつれ、その周囲へ膨大な魔力が収束していく。

 

「よし……!」

 

 これなら──。

 

「待てええええっ!!」

 

 突然、通りの反対側から叫び声が上がった。

 何事かと視線を向ける。

 

「魔法を撃つな! 生きてる奴がいるぞ!」

「なに!?」

 

 集められた魔物の少し手前。

 そこに、一人の冒険者が倒れていた。

 さっきまで微動だにしていなかった男が、ゆっくりと上半身を起こしている。

 

「おい! 生きてたのか!」

「こっちにもいるぞ!」

 

 別の場所でも、倒れていた兵士が身体を起こした。

 

「魔法を止めろ!」

「っ!」

 

 レオンの命令が飛ぶ。

 大魔法を放とうとしていたマルルゥの顔が引きつった。

 

「ちょっ……もう詠唱終わるんだけど!」

「人がいる! 撃つな!」

「分かってるよ!」

 

 マルルゥが顔を歪めながら、発動寸前だった魔法を無理やり中断した。

 凝縮されていた魔力がほどけるように散り、強い風となって周囲へ吹き抜けた。

 土埃が巻き上がり、近くにいた人たちが思わず顔を覆った。

 

「早く助けろ!」

「魔物から引き離せ!」

 

 指示を受け、近くにいた冒険者たちが起き上がった男へ駆け寄っていく。

 

「おい、大丈夫か!」

「立てるか!? 肩貸すぞ!」

 

 危なかった。もう少し気がつくのが遅かったら、マルルゥの大魔法で巻き込んでいた。

 

「魔物を近づけるな! 救助を急げ!」

 

 起き上がった冒険者は、差し出された手を取らなかった。

 無言のまま腰の剣を抜くと、目の前まで近づいていた仲間の腹へ深々と突き刺した。

 

「……え?」

 

 刺された男が、腹に深々と突き刺さった剣を呆然と見下ろす。

 

「お、お前……何……」

 

 剣が引き抜かれ、男はその場に崩れ落ちた。

 

「何してんだ!」

「味方だぞ!」

「違う!」

 

 別の場所から悲鳴が上がる。

 

「そいつらから離れろ!」

 

 さっきまで倒れていた人間たちが、次々と身体を起こしている。

 冒険者。

 騎士。

 兵士。

 胸を深く斬られた者もいれば、腹に大きな傷を負っている者もいる。

 今になって息を吹き返したなんてことはあり得ない。

 その姿を見れば、嫌でも分かる。

 

「……死んでる」

 

 死んだ人間が、動いている。

 その事実が戦場へ伝わるまで、ほとんど時間は掛からなかった。

 

「後ろからも来てるぞ!?」

「負傷者を守れ!」

「違う! そいつはもう死んでる!」

 

 せっかく整えた戦線が、一瞬で崩れ始める。

 外から押し寄せる魔物だけでも手一杯だったのに、今度は負傷者だと思って運んだ仲間まで敵になった。

 

「嘘だろ……」

 

 思わず立ち尽くしかけた俺の耳に、少し離れたところからサラの声が聞こえた。

 

「おい!」

 

 振り向く。

 サラのすぐ近くで、一人の冒険者がゆっくりと起き上がろうとしていた。

 今起きたばかりの惨状は、まだサラの位置からは見えていないのかもしれない。

 

「怪我は大丈夫か!?」

 

 サラが弓を下げ、男の方へ近づいていく。

 

「サラ!」

 

 フーバの声が飛んだ。

 切羽詰まった怒鳴り声だった。

 

「そいつから離れろ!」

「え?」

 

 サラが振り返った。

 その瞬間、起き上がった冒険者の手が腰の剣を掴む。

 

「危ない!」

 

 フーバが地面を蹴った。

 剣が突き出されるより早くサラのところまで駆け寄ると、その身体を横から思い切り突き飛ばす。

 

「うわっ!?」

 

 突然押されたサラが地面へ倒れ込む。

 代わりに、フーバが男の正面へ立った。

 次の瞬間。

 突き出された剣が、フーバの喉元へ深々と突き刺さり、身体が大きく揺れる。

 

「フーバ!!」




 混戦状態書くの難しすぎんか
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